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黄輪雑貨本店 新館

緑綺星 第4部

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

    Index ~作品もくじ~

    • 3572
    • 3573
    • 3574
    • 3575
      
    シュウの話、第159話。
    斜陽の王国。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     一方、トラス王国は本格的に斜陽を迎えようとしていた。
     カプリ共和国建国以降も兵士たちのストライキは続いており、そればかりか、いつ本格的にクーデターが勃発してもおかしくない、緊迫した状況が続いていた。
    「……ふー……」
     そんな状況では軍本営にいることもできず、かつて特区への部隊派遣を指揮していたあの狼獣人の将校は自宅にこもり、やつれた顔でスマホに目を通していた。
    (今日も罵詈雑言のバルーンの嵐、か)
     短文投稿サイト「ルーモルーン」のタイムラインをぼんやり眺めていたが、そこに並んでいるのは王室政府と王国軍に対する、猛烈な批難と中傷ばかりだった。
    (こんなものいつまでも見てたら、……正直、何もかも嫌になってくる)
     とうとうスマホをベッドに放り投げ、彼は頭を抱えて机に突っ伏した。
    (正直、ここまで規律がめちゃめちゃになってしまったら、もう元に戻すのは困難だろう。と言うか、どうやって戻せって言うんだ? 現時点で兵士の誰も、上層部からの再三の復隊要請に応じてないって話だし。……そりゃそうだよな。国を守るために頑張ろうって、真面目にそのために働いてた奴が、実はお偉いさんのカネのために働かされてたって聞かされたら、そりゃやってられるかってなる。そこにもう一度『お偉いさんの財布のために頑張ってくれ』なんて言って復隊要請したって、誰だって断るだろう? 俺だってきっと、いや、絶対断る。……あー、正直俺も辞めたい。上からは無能だのグズだのとこき下ろされるし、下からは恥知らずと罵られるし。
     本気で転職考えるか……)
     放り出したスマホを拾い、彼は転職サイトを調べ始めた。と、サイトのトップに表示された文字に目を引かれ、彼は喜びかける。
    (『軍関係者歓迎』? 渡りに船だな)
     が、募集元を確認したところで、一転、彼は憤慨した。
    (『カプリ共和国防衛軍』だと!? ふざけてるのか……!? 人が真面目に職探ししてるのに、こんなたちの悪い冗談なんか……)
     しかし詳細を確認していくうち、本当にその募集元が、今はれっきとした隣国となったカプリ共和国であることが分かった。
    (連絡用の電話番号は、かつて使われていた向こうの局番。面接会場はニューフィールド市内。……マジで特区が、いや、カプリ共和国が募集してるのか? いやしかし、壁の向こうになんてどうやって、……あ、そうか。軍が機能してない以上、国境に兵士はいない。通り放題なわけだ。
     ……ん? 応募倍率が上がっている。……しかも結構上がり方速いぞ!? 人気なのか? あ、いや、そうか。王国軍に見切りを付けた奴が――俺を含めて――どんどん応募していってるんだ。……じゃ、俺も応募しよう。王国軍に義理も未練もないしな)

     翌日、彼は数年ぶりに軍服ではないスーツ姿で、兵士のいない国境をくぐっていた。
    「……マジで素通りできてしまった」
     思わずつぶやいたその言葉に、「ですよね」と声が続く。
    「ん? ……あっ」
     そこにいたのは先日、電話で自分に欺瞞作戦の存在を確認した、あの兵士だった。
    「どうも。……上官どのもこっちの応募に?」
    「そうだ。だから現時点で俺はもう、上官のつもりじゃない。前みたいにボスフォードでいいよ。新兵の頃みたく、ビートさんでもいいぞ」
    「じゃあ俺のこともターナー上等兵じゃなく、ルイスでいいですよ。配属された時みたいに」
    「……ふっ」
    「へへ」
     相好を崩し、互いに肩をすくめて、揃って今通ってきた国境を見上げる。
    「もう戻る気はないんですか?」
    「ないな。俺も欺瞞作戦のことを聞かされて、やってられなくなったクチだ。王国に未練はないし、住めるようならこのままこっちに住むよ」
    「俺は家族がいますから、通えたら通うつもりです」
    「どっちも上手く行くといいな」
    「そうですね」
     二人は肩を並べて、共和国の荒れた道を進んでいった。



     カプリ共和国が新設した防衛軍の人員募集には元王国軍兵士の7割近くが応募し、ほとんどがそのまま採用された。
     一方の王国は内閣総辞職を行うとともに、軍幹部陣のほとんどが罷免・更迭され、体制が完全に一新されたことでようやくストライキが解かれた。既に兵員は3割に減っていたため、こちらも大規模な募集を行ったが、信用を失った王国軍の離職率はその後も長年に渡って高止まりが続いた上に、ストが慣習化。大量離職と大量雇用が繰り返された上、度重なるスト解決のため、いたずらに人件費が防衛費に上乗せされていったことで財政が圧迫され――元々の不景気や震災の影響、赤字国債の際限ない増発、その他諸々の要因も合わさった結果――王国は数年後に財政破綻した。
    緑綺星・建国譚 3
    »»  2023.10.30.
    シュウの話、第160話。
    彼女はドライでアナリストなインフルエンサー。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
    「ほなシュウさん、トラス王国から指名手配されたん!?」
     目を丸くするジャンニに、シュウは「そーですねー」と、あっけらかんとした様子で答えた。
    「なんでも『軍のストライキを扇動した』とかで、内乱罪の容疑かけられちゃいました。戻ったら死刑ですね。死刑ってまだ実施されてるのか分かんないですけども」
    「そんな他人事みたいにかるーく言わんといてえや……。ヤバいやんか」
     心配そうに見つめるジャンニに、シュウはぺらぺらと手を振って返す。
    「戻らなきゃいいんですよ。犯罪者引き渡しの協定とかも、今回は適用されないでしょうし」
    「そうなん?」
    「まず第一に、そもそも今回の件は犯罪としての立証が困難だからです。わたし確かに動画で『国民のためになる行動を』って言いましたけど、『スト起こせ』なんて一言も言ってませんもん。そもそも『スト=国家反逆行為』と言い切るのはこじつけすぎです。軍が骨抜きになったコトは、結局は上に問題があったからですし。大体、国家首脳陣が利己的な理由で軍隊動かしてたんですから、そっちの方が国に対する背信行為でしょ?」
    「うーん……そらまあ……そうなる……かなぁ?」
    「そして第二に、仮に内乱罪が成立するとトラス王国内で判断されたとしても、既に現時点で『新央北』配下国もその他の国も、王国との関係を切ろうと動いてる最中です。王国が引き渡しを要請したところで、要請された側には応じる理由がないんですよ。『犯罪者の隠匿がー』とかなんとか王国が騒いだところで、『そっちの自業自得だ』って返されて終わりでしょーねぇ」
    「でもシュウさんの故郷やろ? 家族も後ろ指差されるんとちゃうん? 会社の信用とかも……」
    「移転してますよー、もう」
     そう言って、シュウは――おそらく天狐か一聖が食べかけて机に置いておいたであろう――MFB製の板チョコレートを裏返し、記載されている本社所在地を見せた。
    「ほらココ。去年の暮れに、こっちの方に。ココから船とバスで、1時間で行けますよ」
    「マジで?」
    「元から王国経済が右肩下がりで法人税と固定資産税がめちゃくちゃ引き上げられたのと、労使交渉の問題ですね。軍みたいにスト起こして給料上げさせるぞって従業員の人たちが内々で計画してたのがバレて、ソレで社長であるわたしの父と、常務取締役の兄がキレたんですよ。『じゃあ勝手にしろ』って。で、資本金と保有資産全部引き上げて、央中に移ってきたんです。近くにわたしがいるからってコトで」
    「え、ほなシュウさんがミッドランドにおること、バレてんの?」
     ぎょっとした顔をしたジャンニに、シュウは「だいじょーぶですよー」と笑って返す。
    「今みたいに情勢が緊迫するずっと前の段階の話ですから、トラス王国に察知されてる可能性はないです。あったとしても国外まで追いかけてこないでしょーし。白猫党が知ってる可能性もないと思います。家族とはTtTでやり取りしてましたから」
    「TtTに信頼置きすぎとちゃう? ハッキングでもされたら……」
    「あれ、知らないんです?」
     シュウは窓の外――天狐屋敷のある丘のふもとに広がるビル街を指差した。
    「本社あそこですよー」
    「あそこなん!? ……うわっ、ホンマや! 良く見たら看板立っとった!」
    「テンコちゃんのゼミの卒業生の人たちが立ち上げたベンチャー企業で、技術力は折り紙付きってヤツです。創設以来、サイバー攻撃されて情報抜き取られたって言うような話は一回もありません。だから世界一人気のアプリなんですよ」
    「うわぁ……マジであそこ本社なんや……知らんかった」
    「あと、公表はされてないですけど、『ビデオクラウド』とか『ルーモルーン』とかも、本社はココにあるってうわさです。テンコちゃんに聞いたら『ああ、アイツのトコな』とか言って、さらっと教えてくれるんじゃないですか?」
    「……テンコちゃんってマジですごくない? 金火狐以上の大物とちゃう?」
    「でしょーねぇ。カプリ共和国設立宣言の会見にもいましたし。建国とか会社設立とかでおカネなくなっちゃったって言ってましたけど、今回の件で多分1兆、2兆単位で稼げるはずですから、確実に投資額の何倍ってレベルのリターンになります。間違いなく世界最大級のフィクサーですよ、テンコちゃんは」
    「はぇ~……」
     ジャンニが感心した声を漏らしたところで――掃除道具を抱えたツナギ姿の小男が、がちゃがちゃと騒がしい音を立てながら部屋に入ってきた。
    「あ、すんませんです」
    緑綺星・建国譚 4
    »»  2023.10.31.
    シュウの話、第161話。
    シェイプシフター;その勇気のために。

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    5.
     小男が部屋に入ってきたのを見て、シュウがきょとんとする。
    「お掃除ですかー?」
    「あ、はい、すんませんです。先日、あの、えっと、テンコちゃんに雇われまして。俺のことは気にしないで下さい。すぐ終わりますんで」
    「はーい」
     軽く返事し、一瞬目線を切りかけたが、シュウはもう一度小男に向き直る。
    「ラックさんでしたっけ?」
    「えっ!?」
     小男はびくんと体を震わせ、シュウと目を合わせた。
    「こないだスチフォスーツに入ってくれた方ですよねー?」
    「あっ、いえ、……あの、そ、そうです、ども」
    「んー……?」
     一方のジャンニは首を傾げながら、ラックの姿を眺めている。
    「そんな顔やったっけ……? もっとなんか、うーん、なんちゅうか……なんかちゃうねんな。しょんぼりしてはるんは一緒やけども」
    「確かに顔、ちょこっと違いますねー。わたしたちとは初対面ですみたいな体でお部屋入ってきましたし。なんで知らん顔したんですー?」
    「いや、その、えっと」
     ラックは口ごもり、シュウから目をそらす。と――。
    「案の定だな、お前さん。普通に挨拶しろっつったろーがよ」
     天狐が呆れ顔で、部屋に入ってきた。
    「そのツナギも何なんだよ? オレは清掃業者雇ったつもりはねーぞ」
    「あ、その、あのー……すんません」
    「すんませんじゃねーよ。なんでだって聞いてんだろーが」
    「まーまー、テンコちゃん」
     シュウが天狐とラックの間にやんわりと割って入り、ラックに笑いかける。
    「とっても恥ずかしがり屋さんなんですねー。でも大丈夫ですよ。わたしもジャンニくんも堅苦しいのも暑苦しいのも苦手なタイプなんで、自己紹介なんてさらっと一言、『どーも』くらいで十分ですから。ってワケでどーも、シュウ・メイスンですー」
    「あ、はい、そんじゃ、ども。ラック・イーブンです」
    「ジャンニ・ゴールドマンです。よろしゅう」
     と、やり取りを見ていた天狐が「ふむ」とうなった。
    「そー言やラック、その名字は自分で考えたのか?」
    「あ、はい、そうです。名前だけだと宿取れないことがあるんで」
    「今までラックのスペル、普通に『Luck(運)』って思ってたが、お前さんの性格でその名字名乗ってるってコトはまさか、『Lack(欠ける)』なのか?」
    「あ、はい、そうです」
    「ってコトはだ、お前さん自分のコトを『半欠け』って名乗ってんのか? だとしたらクッソ縁起悪りいな」
    「すんません、その通りです、はい」
     素直にうなずいたラックに、天狐は口をへの字に曲げて返した。
    「そんなシッケシケのシケ散らかした名前自分で付けっから、人生も性格もツラもシケんだよ。オレが付けてやる」
    「えっ? いえ、そんな、いいです。ずっとこれで通してきたんで」
     戸惑うラックに構わず、天狐はピン、と人差し指を立てた。
    「四の五の言うな。お前さんは今からラック・ポプラだ」
    「な、なんでです?」「あーなるほどぉ」
     困り顔のラックに対し、横で聞いていたシュウがぺち、と両手を合わせ、合点が行った様子を見せた。
    「『勇気の青い花』のお話ですねー? あと、ラックもLuck(幸運)にする、と」
    「ご明察。そーゆーコトだ」
     天狐はイタズラっぽい笑みを浮かべながら、ラックに説明した。
    「LuckにPを付けりゃ、勇気(Pluck)になる。こっちの方が断然イケてんだろ」
    「い、いやー、その、俺に勇気なんて全然似合わないです、全然。何かもう、俺とは対極って言うか、程遠いって言うか……」
    「遠いコトねーだろ。そもそも今までの話の始まりは、お前さんがロロたちの前に立ちはだかってタマ防いだからだろーが。勇気ってのはそーゆーもんだろ。所構わず暴れ回るのは勇気でも何でもねー。ただの無鉄砲だ。出すべき時に絞り出して奮い立ち、未来を切り開くからこそ勇気ってもんだ。お前さんの勇気でロロも、アイツの生徒たちも、特区の人間みんなも助かったんだ。
     お前さんの名前にゃ、勇気こそふさわしいってもんだぜ」
    「……は、は、はい、ども、……ありがとうございます、……ども」
     耳の先まで顔を真っ赤にしたラックの顔は――先程よりどことなく、印象が深くなったように見えた。
    緑綺星・建国譚 5
    »»  2023.11.01.
    シュウの話、第162話。
    白い闇に踏み込む星々。

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    6.
     天狐や「セブンス・マグ」の面々からは「声がかかるまで自由に過ごしていい」「気楽にやっていい」と言われていたものの、ラックが「何か仕事してた方が気楽ですんで」と固辞したため、彼は天狐ゼミが行われている屋敷で用務員を勤めることとなった。
    「真面目さんですねー」
     朝早くから掃除用具を背負い、仕事に出かける彼の姿をすれ違いざまに眺めながらつぶやくシュウに、ジャンニがうなずいて返す。
    「ホンマやな。俺らと大違いや」
     が、シュウは口を尖らせる。
    「わたし仕事してますけど? フリー記者ですよ? 『ビデオクラウド』の動画投稿でもちゃんと稼いでますし」
    「あっ、……せやった」
    「カイトくんもちょこちょこ警備とか用心棒とかテンコちゃんに頼まれてますし」
    「あ、うん」
    「オーノ博士もこっちで研究続けてますし」
    「まあ、うん」
    「エヴァもテンコちゃんの秘書してますし」
    「せ、せやね」
    「テンコちゃんだって普段は遊んでるよーに見えて今回、1兆エル規模のお仕事成功させたんですし。1エルもおカネ稼がずに本気で遊び呆けてるのはジャンニくんだけでしょ」
    「うぐっ」
     小突き回され、ジャンニの耳と尻尾がしおしおと垂れるが、シュウのお小言は止まらない。
    「ちゃんと勉強しましょうよー。そのまま大人になって歳取っておじさん、おじいさんになっても何一つ取り柄も特技も無いぞってなったら、ものっすごーくカッコ悪いでしょ」
    「や、やる時はやるから」
    「やらない時でもやりましょーよ。できる人とできない人はそーゆーところで差が付くんです。とりあえずカズちゃんに相談したらどーです? あの子も昔、先生やってたって話ですから」
    「……う、うん。気が向いたら」
     気のない返事に呆れたシュウは、ジャンニの手を取る。
    「じゃあ行きますよ」
    「む、向いたら言うてるやん」
    「いつ向かせるつもりですか? そんなコト言ってたら今日も明日もゲームして終わりですよー?」
     シュウに引っ張られ、ジャンニは仕方なく一聖のところに向かった。

     前述の通り、真面目に仕事に出てきたラックを、天狐が出迎えた。
    「ありがとよ、ラック」
    「ども。……そんじゃ、あの、早速」
     ラックが小さく会釈し、作業袋から雑巾を取り出すのを眺めながら、天狐はそのまま話し続ける。
    「鈴林だけじゃ手ぇ回らねーみたいでな。と言ってオレは掃除嫌いだし。お前さんがやってくれるっつってくれて、マジで感謝してるよ」
    「ええ、はい」
    「で、だ。ちょいと真面目な話がしたいから、悪いが手ぇ止めてくれるか?」
    「あ、はい」
     取り出そうとしていた雑巾をしまい、しっかり顔を上げたラックに、天狐が小声で話す。
    「オッドのコトを調べた。今はどーやらウラの世界にいるらしいな。お前さんにゃ極めて残念だろーが、ピンピンしてるみたいだぜ」
    「そう……ですか」
    「今は違法薬物の製造やら販売やらに関わってるらしい。いわゆる麻薬関係だな。バックに付いてるのは白猫党って話だ。つまり表沙汰にできねー資金源がまだ、白猫党にはいくつもあるってコトになる。今回の件でオモテに出せる資金源は粗方潰してやったが、ウラからのカネがまだいくらでも入るってなると、まだまだ奴らの息の根を止めるコトはできねーだろう。
     そもそも今回の石油の件も、一旦は手を引かせた形にはなるが、ほとぼりが冷めたらまた、性懲りもなく攻めてこようとするだろう。オレがメディア使って散々こき下ろしたけども、実際の白猫党は相当ヤバい軍事組織だ。EMP兵器についてもいずれ対策されるだろーし、コレからもっと手強くなるだろう。ココからが本当の戦いになると言っていい。
     オッドの件をどーにかしようとすれば、いずれ白猫党全体と戦わなきゃならなくなるが――ソレでもお前さんは、オレに手を貸してくれるか? 『セブンス・マグ』として戦ってくれるか?」
    「もちろんです」
     ラックは作業帽を脱ぎ、天狐に頭を下げた。
    「俺、あなたのためなら、何でもします」
    「……その言葉、信じるぜ」
     天狐はラックの頭をぽんぽんとなでて、その場を後にした。

    緑綺星・建国譚 終
    緑綺星・建国譚 6
    »»  2023.11.02.

    シュウの話、第159話。
    斜陽の王国。

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    3.
     一方、トラス王国は本格的に斜陽を迎えようとしていた。
     カプリ共和国建国以降も兵士たちのストライキは続いており、そればかりか、いつ本格的にクーデターが勃発してもおかしくない、緊迫した状況が続いていた。
    「……ふー……」
     そんな状況では軍本営にいることもできず、かつて特区への部隊派遣を指揮していたあの狼獣人の将校は自宅にこもり、やつれた顔でスマホに目を通していた。
    (今日も罵詈雑言のバルーンの嵐、か)
     短文投稿サイト「ルーモルーン」のタイムラインをぼんやり眺めていたが、そこに並んでいるのは王室政府と王国軍に対する、猛烈な批難と中傷ばかりだった。
    (こんなものいつまでも見てたら、……正直、何もかも嫌になってくる)
     とうとうスマホをベッドに放り投げ、彼は頭を抱えて机に突っ伏した。
    (正直、ここまで規律がめちゃめちゃになってしまったら、もう元に戻すのは困難だろう。と言うか、どうやって戻せって言うんだ? 現時点で兵士の誰も、上層部からの再三の復隊要請に応じてないって話だし。……そりゃそうだよな。国を守るために頑張ろうって、真面目にそのために働いてた奴が、実はお偉いさんのカネのために働かされてたって聞かされたら、そりゃやってられるかってなる。そこにもう一度『お偉いさんの財布のために頑張ってくれ』なんて言って復隊要請したって、誰だって断るだろう? 俺だってきっと、いや、絶対断る。……あー、正直俺も辞めたい。上からは無能だのグズだのとこき下ろされるし、下からは恥知らずと罵られるし。
     本気で転職考えるか……)
     放り出したスマホを拾い、彼は転職サイトを調べ始めた。と、サイトのトップに表示された文字に目を引かれ、彼は喜びかける。
    (『軍関係者歓迎』? 渡りに船だな)
     が、募集元を確認したところで、一転、彼は憤慨した。
    (『カプリ共和国防衛軍』だと!? ふざけてるのか……!? 人が真面目に職探ししてるのに、こんなたちの悪い冗談なんか……)
     しかし詳細を確認していくうち、本当にその募集元が、今はれっきとした隣国となったカプリ共和国であることが分かった。
    (連絡用の電話番号は、かつて使われていた向こうの局番。面接会場はニューフィールド市内。……マジで特区が、いや、カプリ共和国が募集してるのか? いやしかし、壁の向こうになんてどうやって、……あ、そうか。軍が機能してない以上、国境に兵士はいない。通り放題なわけだ。
     ……ん? 応募倍率が上がっている。……しかも結構上がり方速いぞ!? 人気なのか? あ、いや、そうか。王国軍に見切りを付けた奴が――俺を含めて――どんどん応募していってるんだ。……じゃ、俺も応募しよう。王国軍に義理も未練もないしな)

     翌日、彼は数年ぶりに軍服ではないスーツ姿で、兵士のいない国境をくぐっていた。
    「……マジで素通りできてしまった」
     思わずつぶやいたその言葉に、「ですよね」と声が続く。
    「ん? ……あっ」
     そこにいたのは先日、電話で自分に欺瞞作戦の存在を確認した、あの兵士だった。
    「どうも。……上官どのもこっちの応募に?」
    「そうだ。だから現時点で俺はもう、上官のつもりじゃない。前みたいにボスフォードでいいよ。新兵の頃みたく、ビートさんでもいいぞ」
    「じゃあ俺のこともターナー上等兵じゃなく、ルイスでいいですよ。配属された時みたいに」
    「……ふっ」
    「へへ」
     相好を崩し、互いに肩をすくめて、揃って今通ってきた国境を見上げる。
    「もう戻る気はないんですか?」
    「ないな。俺も欺瞞作戦のことを聞かされて、やってられなくなったクチだ。王国に未練はないし、住めるようならこのままこっちに住むよ」
    「俺は家族がいますから、通えたら通うつもりです」
    「どっちも上手く行くといいな」
    「そうですね」
     二人は肩を並べて、共和国の荒れた道を進んでいった。



     カプリ共和国が新設した防衛軍の人員募集には元王国軍兵士の7割近くが応募し、ほとんどがそのまま採用された。
     一方の王国は内閣総辞職を行うとともに、軍幹部陣のほとんどが罷免・更迭され、体制が完全に一新されたことでようやくストライキが解かれた。既に兵員は3割に減っていたため、こちらも大規模な募集を行ったが、信用を失った王国軍の離職率はその後も長年に渡って高止まりが続いた上に、ストが慣習化。大量離職と大量雇用が繰り返された上、度重なるスト解決のため、いたずらに人件費が防衛費に上乗せされていったことで財政が圧迫され――元々の不景気や震災の影響、赤字国債の際限ない増発、その他諸々の要因も合わさった結果――王国は数年後に財政破綻した。

    緑綺星・建国譚 3

    2023.10.30.[Edit]
    シュウの話、第159話。斜陽の王国。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3. 一方、トラス王国は本格的に斜陽を迎えようとしていた。 カプリ共和国建国以降も兵士たちのストライキは続いており、そればかりか、いつ本格的にクーデターが勃発してもおかしくない、緊迫した状況が続いていた。「……ふー……」 そんな状況では軍本営にいることもできず、かつて特区への部隊派遣を指揮していたあの狼獣人の将校は自宅にこもり、や...

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    シュウの話、第160話。
    彼女はドライでアナリストなインフルエンサー。

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    4.
    「ほなシュウさん、トラス王国から指名手配されたん!?」
     目を丸くするジャンニに、シュウは「そーですねー」と、あっけらかんとした様子で答えた。
    「なんでも『軍のストライキを扇動した』とかで、内乱罪の容疑かけられちゃいました。戻ったら死刑ですね。死刑ってまだ実施されてるのか分かんないですけども」
    「そんな他人事みたいにかるーく言わんといてえや……。ヤバいやんか」
     心配そうに見つめるジャンニに、シュウはぺらぺらと手を振って返す。
    「戻らなきゃいいんですよ。犯罪者引き渡しの協定とかも、今回は適用されないでしょうし」
    「そうなん?」
    「まず第一に、そもそも今回の件は犯罪としての立証が困難だからです。わたし確かに動画で『国民のためになる行動を』って言いましたけど、『スト起こせ』なんて一言も言ってませんもん。そもそも『スト=国家反逆行為』と言い切るのはこじつけすぎです。軍が骨抜きになったコトは、結局は上に問題があったからですし。大体、国家首脳陣が利己的な理由で軍隊動かしてたんですから、そっちの方が国に対する背信行為でしょ?」
    「うーん……そらまあ……そうなる……かなぁ?」
    「そして第二に、仮に内乱罪が成立するとトラス王国内で判断されたとしても、既に現時点で『新央北』配下国もその他の国も、王国との関係を切ろうと動いてる最中です。王国が引き渡しを要請したところで、要請された側には応じる理由がないんですよ。『犯罪者の隠匿がー』とかなんとか王国が騒いだところで、『そっちの自業自得だ』って返されて終わりでしょーねぇ」
    「でもシュウさんの故郷やろ? 家族も後ろ指差されるんとちゃうん? 会社の信用とかも……」
    「移転してますよー、もう」
     そう言って、シュウは――おそらく天狐か一聖が食べかけて机に置いておいたであろう――MFB製の板チョコレートを裏返し、記載されている本社所在地を見せた。
    「ほらココ。去年の暮れに、こっちの方に。ココから船とバスで、1時間で行けますよ」
    「マジで?」
    「元から王国経済が右肩下がりで法人税と固定資産税がめちゃくちゃ引き上げられたのと、労使交渉の問題ですね。軍みたいにスト起こして給料上げさせるぞって従業員の人たちが内々で計画してたのがバレて、ソレで社長であるわたしの父と、常務取締役の兄がキレたんですよ。『じゃあ勝手にしろ』って。で、資本金と保有資産全部引き上げて、央中に移ってきたんです。近くにわたしがいるからってコトで」
    「え、ほなシュウさんがミッドランドにおること、バレてんの?」
     ぎょっとした顔をしたジャンニに、シュウは「だいじょーぶですよー」と笑って返す。
    「今みたいに情勢が緊迫するずっと前の段階の話ですから、トラス王国に察知されてる可能性はないです。あったとしても国外まで追いかけてこないでしょーし。白猫党が知ってる可能性もないと思います。家族とはTtTでやり取りしてましたから」
    「TtTに信頼置きすぎとちゃう? ハッキングでもされたら……」
    「あれ、知らないんです?」
     シュウは窓の外――天狐屋敷のある丘のふもとに広がるビル街を指差した。
    「本社あそこですよー」
    「あそこなん!? ……うわっ、ホンマや! 良く見たら看板立っとった!」
    「テンコちゃんのゼミの卒業生の人たちが立ち上げたベンチャー企業で、技術力は折り紙付きってヤツです。創設以来、サイバー攻撃されて情報抜き取られたって言うような話は一回もありません。だから世界一人気のアプリなんですよ」
    「うわぁ……マジであそこ本社なんや……知らんかった」
    「あと、公表はされてないですけど、『ビデオクラウド』とか『ルーモルーン』とかも、本社はココにあるってうわさです。テンコちゃんに聞いたら『ああ、アイツのトコな』とか言って、さらっと教えてくれるんじゃないですか?」
    「……テンコちゃんってマジですごくない? 金火狐以上の大物とちゃう?」
    「でしょーねぇ。カプリ共和国設立宣言の会見にもいましたし。建国とか会社設立とかでおカネなくなっちゃったって言ってましたけど、今回の件で多分1兆、2兆単位で稼げるはずですから、確実に投資額の何倍ってレベルのリターンになります。間違いなく世界最大級のフィクサーですよ、テンコちゃんは」
    「はぇ~……」
     ジャンニが感心した声を漏らしたところで――掃除道具を抱えたツナギ姿の小男が、がちゃがちゃと騒がしい音を立てながら部屋に入ってきた。
    「あ、すんませんです」

    緑綺星・建国譚 4

    2023.10.31.[Edit]
    シュウの話、第160話。彼女はドライでアナリストなインフルエンサー。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -4.「ほなシュウさん、トラス王国から指名手配されたん!?」 目を丸くするジャンニに、シュウは「そーですねー」と、あっけらかんとした様子で答えた。「なんでも『軍のストライキを扇動した』とかで、内乱罪の容疑かけられちゃいました。戻ったら死刑ですね。死刑ってまだ実施されてるのか分かんないですけども」「...

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    シュウの話、第161話。
    シェイプシフター;その勇気のために。

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    5.
     小男が部屋に入ってきたのを見て、シュウがきょとんとする。
    「お掃除ですかー?」
    「あ、はい、すんませんです。先日、あの、えっと、テンコちゃんに雇われまして。俺のことは気にしないで下さい。すぐ終わりますんで」
    「はーい」
     軽く返事し、一瞬目線を切りかけたが、シュウはもう一度小男に向き直る。
    「ラックさんでしたっけ?」
    「えっ!?」
     小男はびくんと体を震わせ、シュウと目を合わせた。
    「こないだスチフォスーツに入ってくれた方ですよねー?」
    「あっ、いえ、……あの、そ、そうです、ども」
    「んー……?」
     一方のジャンニは首を傾げながら、ラックの姿を眺めている。
    「そんな顔やったっけ……? もっとなんか、うーん、なんちゅうか……なんかちゃうねんな。しょんぼりしてはるんは一緒やけども」
    「確かに顔、ちょこっと違いますねー。わたしたちとは初対面ですみたいな体でお部屋入ってきましたし。なんで知らん顔したんですー?」
    「いや、その、えっと」
     ラックは口ごもり、シュウから目をそらす。と――。
    「案の定だな、お前さん。普通に挨拶しろっつったろーがよ」
     天狐が呆れ顔で、部屋に入ってきた。
    「そのツナギも何なんだよ? オレは清掃業者雇ったつもりはねーぞ」
    「あ、その、あのー……すんません」
    「すんませんじゃねーよ。なんでだって聞いてんだろーが」
    「まーまー、テンコちゃん」
     シュウが天狐とラックの間にやんわりと割って入り、ラックに笑いかける。
    「とっても恥ずかしがり屋さんなんですねー。でも大丈夫ですよ。わたしもジャンニくんも堅苦しいのも暑苦しいのも苦手なタイプなんで、自己紹介なんてさらっと一言、『どーも』くらいで十分ですから。ってワケでどーも、シュウ・メイスンですー」
    「あ、はい、そんじゃ、ども。ラック・イーブンです」
    「ジャンニ・ゴールドマンです。よろしゅう」
     と、やり取りを見ていた天狐が「ふむ」とうなった。
    「そー言やラック、その名字は自分で考えたのか?」
    「あ、はい、そうです。名前だけだと宿取れないことがあるんで」
    「今までラックのスペル、普通に『Luck(運)』って思ってたが、お前さんの性格でその名字名乗ってるってコトはまさか、『Lack(欠ける)』なのか?」
    「あ、はい、そうです」
    「ってコトはだ、お前さん自分のコトを『半欠け』って名乗ってんのか? だとしたらクッソ縁起悪りいな」
    「すんません、その通りです、はい」
     素直にうなずいたラックに、天狐は口をへの字に曲げて返した。
    「そんなシッケシケのシケ散らかした名前自分で付けっから、人生も性格もツラもシケんだよ。オレが付けてやる」
    「えっ? いえ、そんな、いいです。ずっとこれで通してきたんで」
     戸惑うラックに構わず、天狐はピン、と人差し指を立てた。
    「四の五の言うな。お前さんは今からラック・ポプラだ」
    「な、なんでです?」「あーなるほどぉ」
     困り顔のラックに対し、横で聞いていたシュウがぺち、と両手を合わせ、合点が行った様子を見せた。
    「『勇気の青い花』のお話ですねー? あと、ラックもLuck(幸運)にする、と」
    「ご明察。そーゆーコトだ」
     天狐はイタズラっぽい笑みを浮かべながら、ラックに説明した。
    「LuckにPを付けりゃ、勇気(Pluck)になる。こっちの方が断然イケてんだろ」
    「い、いやー、その、俺に勇気なんて全然似合わないです、全然。何かもう、俺とは対極って言うか、程遠いって言うか……」
    「遠いコトねーだろ。そもそも今までの話の始まりは、お前さんがロロたちの前に立ちはだかってタマ防いだからだろーが。勇気ってのはそーゆーもんだろ。所構わず暴れ回るのは勇気でも何でもねー。ただの無鉄砲だ。出すべき時に絞り出して奮い立ち、未来を切り開くからこそ勇気ってもんだ。お前さんの勇気でロロも、アイツの生徒たちも、特区の人間みんなも助かったんだ。
     お前さんの名前にゃ、勇気こそふさわしいってもんだぜ」
    「……は、は、はい、ども、……ありがとうございます、……ども」
     耳の先まで顔を真っ赤にしたラックの顔は――先程よりどことなく、印象が深くなったように見えた。

    緑綺星・建国譚 5

    2023.11.01.[Edit]
    シュウの話、第161話。シェイプシフター;その勇気のために。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5. 小男が部屋に入ってきたのを見て、シュウがきょとんとする。「お掃除ですかー?」「あ、はい、すんませんです。先日、あの、えっと、テンコちゃんに雇われまして。俺のことは気にしないで下さい。すぐ終わりますんで」「はーい」 軽く返事し、一瞬目線を切りかけたが、シュウはもう一度小男に向き直る。「ラックさんでし...

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    シュウの話、第162話。
    白い闇に踏み込む星々。

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    6.
     天狐や「セブンス・マグ」の面々からは「声がかかるまで自由に過ごしていい」「気楽にやっていい」と言われていたものの、ラックが「何か仕事してた方が気楽ですんで」と固辞したため、彼は天狐ゼミが行われている屋敷で用務員を勤めることとなった。
    「真面目さんですねー」
     朝早くから掃除用具を背負い、仕事に出かける彼の姿をすれ違いざまに眺めながらつぶやくシュウに、ジャンニがうなずいて返す。
    「ホンマやな。俺らと大違いや」
     が、シュウは口を尖らせる。
    「わたし仕事してますけど? フリー記者ですよ? 『ビデオクラウド』の動画投稿でもちゃんと稼いでますし」
    「あっ、……せやった」
    「カイトくんもちょこちょこ警備とか用心棒とかテンコちゃんに頼まれてますし」
    「あ、うん」
    「オーノ博士もこっちで研究続けてますし」
    「まあ、うん」
    「エヴァもテンコちゃんの秘書してますし」
    「せ、せやね」
    「テンコちゃんだって普段は遊んでるよーに見えて今回、1兆エル規模のお仕事成功させたんですし。1エルもおカネ稼がずに本気で遊び呆けてるのはジャンニくんだけでしょ」
    「うぐっ」
     小突き回され、ジャンニの耳と尻尾がしおしおと垂れるが、シュウのお小言は止まらない。
    「ちゃんと勉強しましょうよー。そのまま大人になって歳取っておじさん、おじいさんになっても何一つ取り柄も特技も無いぞってなったら、ものっすごーくカッコ悪いでしょ」
    「や、やる時はやるから」
    「やらない時でもやりましょーよ。できる人とできない人はそーゆーところで差が付くんです。とりあえずカズちゃんに相談したらどーです? あの子も昔、先生やってたって話ですから」
    「……う、うん。気が向いたら」
     気のない返事に呆れたシュウは、ジャンニの手を取る。
    「じゃあ行きますよ」
    「む、向いたら言うてるやん」
    「いつ向かせるつもりですか? そんなコト言ってたら今日も明日もゲームして終わりですよー?」
     シュウに引っ張られ、ジャンニは仕方なく一聖のところに向かった。

     前述の通り、真面目に仕事に出てきたラックを、天狐が出迎えた。
    「ありがとよ、ラック」
    「ども。……そんじゃ、あの、早速」
     ラックが小さく会釈し、作業袋から雑巾を取り出すのを眺めながら、天狐はそのまま話し続ける。
    「鈴林だけじゃ手ぇ回らねーみたいでな。と言ってオレは掃除嫌いだし。お前さんがやってくれるっつってくれて、マジで感謝してるよ」
    「ええ、はい」
    「で、だ。ちょいと真面目な話がしたいから、悪いが手ぇ止めてくれるか?」
    「あ、はい」
     取り出そうとしていた雑巾をしまい、しっかり顔を上げたラックに、天狐が小声で話す。
    「オッドのコトを調べた。今はどーやらウラの世界にいるらしいな。お前さんにゃ極めて残念だろーが、ピンピンしてるみたいだぜ」
    「そう……ですか」
    「今は違法薬物の製造やら販売やらに関わってるらしい。いわゆる麻薬関係だな。バックに付いてるのは白猫党って話だ。つまり表沙汰にできねー資金源がまだ、白猫党にはいくつもあるってコトになる。今回の件でオモテに出せる資金源は粗方潰してやったが、ウラからのカネがまだいくらでも入るってなると、まだまだ奴らの息の根を止めるコトはできねーだろう。
     そもそも今回の石油の件も、一旦は手を引かせた形にはなるが、ほとぼりが冷めたらまた、性懲りもなく攻めてこようとするだろう。オレがメディア使って散々こき下ろしたけども、実際の白猫党は相当ヤバい軍事組織だ。EMP兵器についてもいずれ対策されるだろーし、コレからもっと手強くなるだろう。ココからが本当の戦いになると言っていい。
     オッドの件をどーにかしようとすれば、いずれ白猫党全体と戦わなきゃならなくなるが――ソレでもお前さんは、オレに手を貸してくれるか? 『セブンス・マグ』として戦ってくれるか?」
    「もちろんです」
     ラックは作業帽を脱ぎ、天狐に頭を下げた。
    「俺、あなたのためなら、何でもします」
    「……その言葉、信じるぜ」
     天狐はラックの頭をぽんぽんとなでて、その場を後にした。

    緑綺星・建国譚 終

    緑綺星・建国譚 6

    2023.11.02.[Edit]
    シュウの話、第162話。白い闇に踏み込む星々。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -6. 天狐や「セブンス・マグ」の面々からは「声がかかるまで自由に過ごしていい」「気楽にやっていい」と言われていたものの、ラックが「何か仕事してた方が気楽ですんで」と固辞したため、彼は天狐ゼミが行われている屋敷で用務員を勤めることとなった。「真面目さんですねー」 朝早くから掃除用具を背負い、仕事に出かける彼の姿をすれ違...

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