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黄輪雑貨本店 新館

火紅狐 第3部

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

    Index ~作品もくじ~

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    • 958
      
    フォコの話、126話目。
    視点の違い。

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    3.
    「なるほど……、貴重な情報、ありがとうございます」
     本軍に知られないよう、密かにイスタス砦を訪れ、砦で行われた会議の様子を伝えたスノッジ将軍に、ランドは深々と頭を下げた。
    「それで、その……、できれば、もう少しばかり……」
    「ええ、情報料と言うことで。ホコウ、いいよね?」
     ランドに尋ねられ、フォコも大きくうなずく。
    「ええ、勿論。結構ご入り用みたいですし、ここはドンと、2000万ほどお渡ししときましょか」
    「そ、そんなに? ……あ、いえ、いただけるならもう、いくらでもありがたいので」
     スノッジ将軍は半ば卑屈なほどに、ぺこぺこと頭を下げた。

     スノッジ将軍が帰った後、ランドはイールたち将軍を呼び寄せた。
    「そろそろ攻め頃だ。準備を整えて、首都を陥落させよう」
    「な、何ぃ!? ソーリン砦じゃなくて、いきなり首都かよ!? 正気かよ、ランド?」
     面食らうレブに対し、ランドはコクリとうなずく。
    「勿論正気さ。理由もある。ソーリン砦に本軍が集まり、結論の出ない会議に終始している今がチャンスなんだ。
     本軍の大部分が離れているから首都の守りは手薄なはずだし、敵が砦防衛組と首都攻略組とで割れたら、相手はどちらを攻めるかでまた一悶着。結論の出ないまま……」
    「……敵軍の大部分が動けないまま、首都陥落ってことね。まったく、悪魔みたいな策をよく考え付くわね、ランド」
     イールの言葉に、ランドは肩をすくめる。
    「悪魔とは人聞きが悪い。イスタス砦の時も、ノルド峠の時も。そして今も、僕は犠牲の出ない方法を採ってるだけさ。
     本当に悪魔的って言うなら、スノッジ将軍を借金漬けにして、彼女の砦内で将軍たちで同士討ちにさせる方が、よっぽど効果的ってもんさ」
     沿岸部での一件を皮肉ったランドに、フォコは苦笑した。
    「はは……。
     でもランドさん、いっこ問題あるんとちゃいます、その作戦?」
    「うん?」
    「ここから首都へ行く道、細いのんも入れたら何本かはありますけど、こっちの兵隊さんが一気に通れるような大きな道って、スノッジ卿のいてはるソーリン砦の裏手にありますよね?
     いくらなんでも、首都には何百、何千かくらいはまだ、兵隊さんいてはると思うんですけど、どうやってそれを突破して、陥落させるんですか?
     まさかまた、タイカさん頼みなんやないですよね……?」
     話を聞いていた大火が、顔をしかめる。
    「無理を言うな。数人程度なら、『テレポート』なり『エアリアル』で運んではいける。
     だが、数千人単位を運ぶとなると、それなりの規模の魔法陣が、ここと、移送先に必要になる。
     まさか敵の目の前で、怪しげな魔法陣をのんきに描いていろと言うのか? とんだ間抜けになるぞ」
    「あ、いやいや。僕たちはあくまでも、平和的解決をしたいからさ。
     君たちだって、わざわざ同郷の人間と戦いたくないだろ?」
    「まあ……」「そりゃ、ねぇ」
     うなずくイールとレブにほんのり得意げな表情を向けつつ、ランドは策を明かした。
    「ソーリン砦の大軍と言う、巨大な壁。それが動けば、後には何にも障害はない」



     数日後に再開された会議は、またも紛糾した。
    「いい加減、どちらかだ! どちらかに、スパッと決めろ! 攻め込むか! それとも尻尾を巻いて逃げるか!」
    「言い方を考えろよ……。逃げる、じゃなくて、態勢を整え直す、だろう?」
    「どちらでも同じだ! 敵前逃亡もいいところだろうが!」
    「もうごねるのやめろよ……」
     と、こんな風に進展のないまま会議が続く中、スノッジ将軍はぼんやり、ジーン王国との取引に思いを巡らせていた。
    (情報提供で2000万……。多少のリスクは伴うけれど、その額は大きいわ。ここでもう少し場を引っ張って、もっと出してもらおうかしら?
     ああ、でもあの眼鏡のエルフ、……そう、ファスタ卿。彼は切れ者だし、嘘をついたり、どうでもいい情報を流したりしたとしても、きっと報酬は寄こさないわね。
     となると有益な情報を、『作る』必要があるわね)
    火紅狐・挟策記 3
    »»  2011.01.12.
    フォコの話、127話目。
    口先の力業。

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    4.
     スノッジ将軍はいまだ結論の出ない会議をまとめるべく、口を開いた。
    「皆様方、ひとまず、現時点での結論をまとめてはいかがでしょうか?」
    「うん?」
    「ともかく、行動が必要です。でなければいつまでも、こんな会議を延々続けなければなりません。
     まずは現時点での、全員の意見を取りましょう。さ、皆様お立ちになって」
     スノッジ将軍は自分の左右を指差し、多数決を取った。
    「ともかく攻めよう、と言う方はわたくしの右に。罠かも知れない、態勢を整え直そうと言う方は左にどうぞ」
    「ふ、む……」
    「まあ、そうだな。このまま言い合っていても仕方がない」
    「よし並ぶか」
     これ以上の揉め合い、罵り合いに飽き飽きしていた将軍たちは、スノッジ将軍の案に従って席を立ち、彼女の左右に並ぶ。
    「……現時点では、攻める方が大多数ですね。
     どうでしょう、皆さん? ここは肚を決めて、攻勢に出てみると言うのは?」
     この意見に、撤退派が反発する。
    「スノッジ卿、あなたは何を言っているのか分かっているのですか!?」
    「罠かも知れないからと言ったのは君だろう!?」
    「ええ、ええ。重々承知しております」
     反発意見に対し、スノッジ将軍はぺこりと頭を下げて弁解した。
    「ですが、例え罠があったとして、その効果はいかほどでしょうか?
     まさか我々全軍を壊滅しうるほど? そんな馬鹿な話はないでしょう! 恐らくは、最悪でも一個中隊が犠牲になる程度。もっと現実的に考えれば、さほどの痛手にもならないはず。
     彼らの戦力は確かに小さなものではないでしょうが、それでも元民間人の反乱軍が半分、残り半分ははぐれ者のギジュン軍閥のもの。『烏合の衆』と言う言葉がこれほど似合う敵もいないでしょう!
     そんな半端者の敵が攻めてきたとして、どれほどの痛手になるでしょうか? 相手も自分が半端者の軍であることを、重々承知しているはず――でなければ、目と鼻の先にいる我々に、何のちょっかいも出してこないと言う説明が付かないでしょう?」
     場を散々混乱させた意見をぬけぬけと翻してみせたが、その理屈には説得力が無いわけでもない。
    「そう言われてみれば……」
    「我々がこちらに出張ってもう何週間も経つが、無反応もいいところだ」
    「本当に卿の言う通り、あまりにも無力で身動きが取れない、……のか?」
     場の意見が、じわじわと攻める方向へ動いていく。それを感じ取ったスノッジ将軍は、一気にたたみかけた。
    「ここはもう、突いてみる他ございませんでしょう! 案外、突いた瞬間にぱぁんと、氷細工の如く、あっけなく砕け散ってしまうかもございませんよ?」
    「……そうだな」
    「まかり間違っても、この大軍が敗走することなど有り得んわけだし」
    「一回、仕掛けてみるか」
     場がまとまり、即座に攻めようと言う空気が流れ始める。
     が――スノッジ将軍は、それを抑えようとする。
    「そうですね、そう致しましょう。……日は、そうですね、3日後の朝から、と言うことでいかがでしょうか?」
    「3日後……?」
    「間を置きすぎでは? 明日でも十分……」
    「情報収集のためです。万一、もし、本当に、相手が罠を仕掛けていた場合、多少ながら、痛手を被るでしょう。
     力のない相手に対して、多少なりともそんなものを負うなど、あまりにも馬鹿馬鹿しい、あまりにも恥ずかしい! そうは思いませんか?」
    「……うー、む」
     余りにも強引で、最早暴論に近い誘導だったが、場の空気を支配するスノッジ将軍に押される形で、侵攻は3日後の朝となった。



    「と、こうなりました。……で、そのー」
     会議がまとまった次の日の未明、今度はフォコがスノッジ将軍に応対した。
    「2000万です。まいど」
    「どうもどうも」
     話を一通り聞き、スノッジ将軍を追い返したところで、フォコは欠伸混じりにつぶやいた。
    「ふあ、ああ……。あのおばはん、頭良く回しとる振りしよるけど、結局アホやな。
     こんなアコギで恥知らずで明け透けなことしとって、それでもまだ、『自分だけが美味しい思いを』とか思うてる顔やで、あれ。
     ……そんなもん、うまく行くわけないやん」
     フォコのこの言葉は2日後、即ちソーリン砦から本軍が侵攻するその日に、現実となった。
    火紅狐・挟策記 4
    »»  2011.01.13.
    フォコの話、128話目。
    三流策士、策に挟まれる。

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    5.
     ノルド王国本軍、侵攻の日。
    「……やはり……」
    「……でしょうね……」
     行軍のあちこちで、各将軍とそれぞれの側近たちが、ひそひそと言葉を交わしている。
    「……じゃあ……」
    「……恐らくは……」
     だが、周囲のそんな素振りに、金に目を眩ませるスノッジ将軍は、まったく気が付く様子はない。
    「ぐふ、ふふ、うふふ……」
     彼女の頭の中には、この行軍を邪魔して1億をぶんどることしかない。
    「……いつ頃……?」
    「……中間くらい……」
    「……いや少し後か……」
     彼女は馬鹿にしていたのだ。
     いつまでも紛糾し、進むことも戻ることもせず、いがみ合うだけの将軍たちを。
    「……では……」
    「……そうしよう……」
     そして自分たちより力がないと軽んじていた、ジーン王国の軍を。

     そのため――彼女は簡単に、罠にはまった。



     ミラーフィールド大塩湖を迂回し、ソーリン砦とイスタス砦の中間から、少し北寄りに進んだほとりで。
    「スノッジ卿……、スノッジ卿!」
     金のことで頭がいっぱいになっていたスノッジ将軍は、何度か声を掛けられて、ようやく顔を挙げた。
    「あ、はい。何でしょうか?」
    「何を考えていらっしゃった、卿? そんなにやけた顔で……」
    「え、……ああ、いえ。……え?」
     いつの間にか、スノッジ将軍の率いる一個小隊の周りを、他の将軍たちが率いる数個小隊が囲んでいる。
    「あの……? 皆さん、どうされたのです?」
    「もうそろそろ、敵の姿が見えるかと言うところで、よくそれほど、笑みを浮かべていらっしゃいますね」
     将軍の一人にそう言われ、スノッジ将軍は思わず、顔に手を当てた。
    「あ、えっと、……いえ、どう攻めようかと、そう考えるうちに、勝利を確信したもので」
    「攻める? 誰をですか?」
    「えっ?」
     囲んでいた小隊が、じわじわと歩を詰めてくる。
    「誰、ですって? 決まっているでしょう、ジーン王国……」「嘘や方便はそこまでにしてもらおうか、卿」「……っ」
     将軍数名が、スノッジ将軍の乗る馬を取り囲んだ。
    「降りていただこう」
    「……何故です? まだ先は長いですよ?」
     まだジーン王国との密約がばれていないと高をくくっている彼女は、それに応じない。
    「二度も言わせるでない、卿。方便はもう、十分だ」
    「……」
    「おかしいと思っていたんです。何故、数日前にご自分で仰ったことを、いきなり引っくり返すようなことをしたのかと。あまりにも不可思議だ」
     将軍たちが、静かに武器を手に取った。
    「そう、そして不可思議なことが、もう一つ。卿は夜中に出歩くのが、どうもお好きらしいな」
    「……!」
    「跡をつけてみれば、これまた不可思議。敵方の陣取る、イスタス砦に入っていくではないですか」
    「そして出た時には、いかにも重たそうな袋が腰に提げられていた、とのこと。
     ……説明していただこうか、スノッジ卿ッ!」
     将軍の一人が、スノッジ将軍の乗る馬の尻を引っぱたいた。
     当然、馬は暴れ出し、前脚を高々と上げる。
    「わ、……わ、わわっ!?」
     ごろんと仰向けに落下するスノッジ将軍を、他の将軍数名が支え、そのまま拘束する。
    「な、何をなさいます!?」
    「白々しい! もういい加減、すべてを吐いたらどうだ、この売国奴め!」
    「う……」
     自分を囲む将軍たちににらまれ、スノッジ将軍はようやく観念した。

    「なるほどなるほど」
    「つまり我々を足止めし、情報提供することで、1000万、2000万の金を得ていたわけか」
    「いやいや、まったくぼろい商売だな」
    「呆れてものも言えませんね!」
    「……」
     洗いざらい白状したスノッジ将軍は、ここで拘束を解かれる。
    「え……?」
     きょとんとしている間に、続いて刃を向けられた。
    「さっさと消えろ、雌豚」
    「これ以上、我々と同行せんでもらおうか」
    「立ち去りなさい! 即刻、我々の前から!」
    「それとも罪を償うつもりか? それならそれで、介錯してやるが」
    「ひぇ……っ」
     スノッジ将軍は顔色を変え、バタバタともがくように、その場から逃げ去って行った。



     結局――スノッジ将軍は自分の弄した策と、それを上回るランドの策とに挟まれ、自滅した形となった。

    火紅狐・挟策記 終
    火紅狐・挟策記 5
    »»  2011.01.14.
    フォコの話、129話目。
    巨壁を動かす。

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    1.
     本軍を散々惑わせていたスノッジ卿が陣から去ったことで、一同の意見は完全に、イスタス砦を攻める方向に収束した。
    「よし、多少のゴタゴタはあったが、とにかくこれで、皆の気持ちは一つになった! もう迷わず、攻めに徹するぞッ!」
    「おうッ!」
     反対意見を言う者もいなくなり、全軍の勢いは加速度的に上がっていく。
     これまでミラーフィールド大塩湖の岸、南半分を一日近くかけて進んでいたのだが、勢いづいた軍は残りの北半分を、たったの数時間で駆け抜けた。
    「よし、見えてきたぞ! あそこがイスタス砦だッ!」
    「全軍、止まるな! 一気に押しつぶせーッ!」
     まるで雪崩のように、本軍は一気に砦の門を破り、飛び込んでいった。



     時間は、フォコがスノッジ将軍を応対し終えた、その直後に戻る。
    「みなさん、起きてください! 作戦開始ですよ!」
     フォコは砦中の人間を起こし、計画が次の段階に進んだことを連絡した。
     と、その途中で眠たげに目をこするランドと顔を合わせる。
    「ふあっ、……ああ、うん。やっぱり予想通りだったね、ホコウ」
    「……ランドさん。それ、僕やなくて置物ですよ」
    「え? ……ああ、失礼。色合いが似てた」
     ランドは苦笑しつつ、ようやく眼鏡をかけてから、改めてフォコに向き直った。
    「やっぱりスノッジ卿、来たんだね。で、内容はもしかして……」
    「ええ、3日……、と、もう日が変わってますから、2日後ですね。2日後に、王国本軍が来るそうです」
    「そっか」
     と、そこへイールたち将軍も駆けつけてきた。
    「もう移動の準備は整ってるわよ」
    「ありがとう。陛下やキルシュ卿も準備できてるかな」
    「ええ。あともうちょっとすれば、国庫の中は全部持ち出せるわ」
     その回答に、フォコとランドはにっこり笑った。
    「ええですね」
    「ああ。じゃ、そろそろ僕らも準備して出ようか」
    「はいー」

     イスタス砦をこっそりと抜けたところで、ランドとフォコはまた、クスクスと笑う。
    「それにしてもランドさん、ホンマにうまいこと考えましたね」
    「はは……」
     ランドの考えた作戦は、こうだった。
     そもそも、ノルド王国打倒には、スノッジ将軍とノルド王国本軍の将軍たち、そして、それらが首都、フェルタイルへ至る道の手前に陣取っていることが、最大のネックとなっていた。
     とは言え、まともにぶつかっては、いかに「猫姫」イールや百戦錬磨のレブがいようと、兵力の上で圧倒的に不利である。どうにか戦わず、かつ、相手を回避する作戦が必要だったのだ。
     そこで目を付けたのが、スノッジ将軍の欲深さと、他の将軍たちの、自分の意見を曲げようとしない我の強さだった。
    「あのおばはんやったら、1億のために適当に話を取り繕って足止めするくらい、簡単にしてくれはるでしょうしね」
    「うん。そして彼女が動くことで、僕らにもう一つ、大きなメリットができる」
    「っちゅうと……、この『2日』の獲得、ですか?」
     そう尋ねるフォコに、ランドは深々とうなずく。
    「そう言うことさ。大軍が駐留すれば、いずれは1000万だろうが2000万だろうが、使い果たすことになる。かと言って、僕らから引き出す額も限度がある。
     財政事情が逼迫すれば、彼女はいずれ、将軍たちの意見を無理矢理にでもまとめて、攻める方に転じるさ。でも、それはすぐに行われない。
     いや、行われては困るわけさ、彼女にとっては」
    「万一僕らがやられてしもたら、1億の話は消えてしまいますもんね」
    「そう。だから彼女は、数日程度の時間稼ぎを企む。それがこの『2日』だ。
     そして話が決まらない限り、ずっといがみ合い、揉めていた将軍たちは、この意見の一致によって、今度は迷わなくなる。言い換えれば攻め一辺倒になり、他の可能性を考慮しなくなる。
     ……と言うよりも、したくなくなる、かな。ここでまた余計なこと――意見を翻して、前のように散々揉めるなんて泥沼は、誰だって避けたいだろうからね。
     だから一旦決まってしまえば、もう僕らを攻めることしか、念頭に置いてこない。こうして僕らが、もぬけの殻になった砦をパスして首都へ向かうなんて、思いもしないだろうさ。
     彼らにしてみれば、自分たちが固めていた陣地に飛び込まれ、さらにその先へ……、なんて、まともに考えれば常識はずれ、荒唐無稽の戦法だからね。
     まあ、この作戦も、時間の猶予が無かったらどうしようも無かった。もしスノッジ将軍がすぐにでも攻めるって通達してきたら、本当に困ったことになったけど……」
     そこでランドは、肩をすくめつつ苦笑した。
    「2日もくれるなんてね。割とのんびり、行軍できそうだ」



     イスタス砦の門を力任せに破った本軍は、バタバタと砦中に散らばる。
    「どうした、雑兵どもッ!? 臆したか!?」
    「無駄な抵抗はやめろ! とっとと出てきて投降するんだ!」
    「出てきなさい! 隠れても無駄よッ!」
     だが、砦の上から下までぐるりと回ってみても、敵の姿は一名も見当たらない。
    「いない……?」
    「……どう言うことなの?」
    火紅狐・地星記 1
    »»  2011.01.16.
    フォコの話、130話目。
    いつのまにやら。

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    2.
     困惑したままの将軍たちは、とりあえずイスタス砦の外に出て、検討を始める。
    「スノッジ卿の言では、ここには10億、20億クラムは金があったと言うことだったが……」
    「あんな守銭奴の意見なんか、……いや、金の話だけに、それは信憑性があるか」
    「国庫には、1グランもありませんでしたね」
    「そしてジーン王以下、砦内にいると思われた人間は、一人もいない、……か」
     そして、結論に至った。
    「逃げられた、……か」
    「それ以外、考えられない。……くそ、3日も猶予を与えるから!」
    「俺たちとしたことが、あんな守銭奴の意見に耳を傾けてしまうとは」
    「済んだことを論じても、仕方あるまい。今後の展開を考えておかなくては」
     将軍たちは消えたジーン王国の首脳と将兵の行方を探ろうと、市街地に住んでいる者たちに話を聞いて回った。
     だがそれも空振りに終わり、将軍たちは次に打つべき一手を見失ってしまった。
    「どうします?」
    「……帰るか。ここにいても意味はない。とりあえず将軍1、2名は駐留するとして……」
     と、とりあえずの対策を立てていたその時だった。
    「お話の途中、失礼いたします……」
     将軍たちの話の輪に割って入ろうとする者が現れた。
    「なんだ、お前は?」
    「ジーン王国からの使いでございます」
    「なんだと?」
     将軍たちに一斉ににらまれつつも、その伝令は用件を伝えてくれた。
    「その……、大変、申し上げにくいのですが」
    「なんだ、と聞いている」
    「昨日を持ちまして、ノルド王国はジーン王国に、その……、併合、されました」
    「……なんだと?」
    「ノルド王国が持つ領地はすべて、ジーン王国領となりました」
     この言葉に、全員の目が点になった。
    「……嘘だ」
    「本当、です。……あの、こちらが併合宣言書です」
     伝令が恐る恐る取り出した書簡をひったくるようにして受け取り、読み進めた将軍たちは、一様に膝を着き、脱力した。
    「……そんな、ばかな……」



     昨日、明け方。
    「制圧、……完了できたね」
     この時点で既に、ジーン王国軍はノルド王国の首都、フェルタイルに攻め入っていた。
     とは言え、敵軍の半数以上はイスタス砦に向かっている最中である。敵の兵力は通常の半分以下であり、さらには指揮する将軍、指示できる人材も、非常に少ない。その上、はるか遠くにいるはずの敵であり、対策など講じているわけがない。
     イールを初めとする精鋭と、ランドの卓越した戦略・戦術の前には、あまりにも想定外の襲撃を受けて困惑していたノルド軍が対抗できる術は、何も無かった。
     ジーン軍は瞬く間に城下町と、軍本部などの主要拠点を制圧し、残るは王族の住む城のみと言う状況になっていた。
    「こうなるのに、何年かかるかって思ってたのになー……」
     制圧した今も、イールは信じられないと言う顔をしている。
    「確かに……、ホコウの資金創出やタイカの魔術が無かったら、10年、20年の長い戦いになってたと思う。……本当に、感謝するよ」
    「へへ、ども」
    「……」
     褒めちぎられたフォコと大火は――片方はヘラヘラと、もう片方はニヤリと――笑って返した。
    「……で、残るは城だけど。どうやって投降してもらおうかな」
     そうつぶやいたランドの背後から、声がかけられた。
    「ファスタ卿。私に、任せてくれないか」
    「……クラウス陛下?」
     背後に立っていたのはキルシュ卿の息子であり、ジーン王国の首長に担ぎ上げられたエルフ、クラウス・ジーンだった。
    「その……、君たちにばかり、重要な仕事をさせるわけには行かないよ。……仮にも、王だから」
    「……そうですね。王への交渉・説得、となると、同じ高さにいる、こちらの王が出てこないと話にならないでしょうし」
    「ああ。それに現国王のバトラー・ノルドとは、若い頃に良く話を交わした間柄なんだ。彼のことは、良く知っているつもりだ。
     この交渉には、君やソレイユ君よりも、私の方がうってつけのはずさ」
    「なるほど。……そう言う事情でしたら、確かにお任せしないわけには行きませんね。
     では、僕とイールが補佐に付きます」
    「いや、しかし……」
    「いえ、あくまでも交渉は陛下お一人にお任せするつもりです。しかし単身、中に飛び込ませるわけには行きませんから」
    「……分かった。では、ノルド王に会うまでは、付いてきてくれ」
    火紅狐・地星記 2
    »»  2011.01.17.
    フォコの話、131話目。
    静かな政権交代。

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    3.
     ノルド側に交渉の意向を伝え、間もなく城門が開かれた。
    「案外すんなり応じてくれたようで、ほっとした」
    「油断はできないわよ」
     安堵した顔をするクラウスに、イールが釘を刺す。
    「護衛はランドとあたしだけなんだし、隙を突いて暗殺される可能性は大きいわ」
    「……そうだな」
     しかし、そんな警戒とは裏腹に、城内に立つ近衛兵たちは疲れ切った顔で出迎えてくる。
    「陛下は奥におわします」
    「ありがとう」
     どの兵士たちも、ほぼ同じことしか言わず、表情もほとんど変わらない。それを眺めていたランドは、ぽつりとこう漏らした。
    「……何だかな。みんな、人形か何かみたいだ」
    「私が昔、この城を訪れた時も、同じような応対を受けた。恐らく彼らは、昔からあれしか仕事が無かったのだろう」
    「だから、……こんな時でも、戦いもせず、挨拶しかできないってことなのかしら」
    「かもね」

     間もなく三人は――近衛兵の言った通り――謁見の間に通された。
    「……久しいな、クラウス。いや、ジーン王と呼んだ方がいいか?」
    「クラウスでいい。私も砕けた雰囲気で話がしたい」
    「そうか。……皆、下がってくれ。余はクラウスと、二人のみで話をする」
     ノルド王、バトラーの言葉に従い、玉座の周囲にいた従者たちは部屋を後にする。
    「ファスタ卿、サンドラ将軍。君たちも……」
    「はい」「分かったわ」
     ランドたちも部屋を去り、謁見の間にはクラウスとバトラーだけになった。
    「……それでクラウス。余、……コホン、俺に何を望むんだ? 命か?」
    「馬鹿な。そんな野蛮なことはしたくない」
    「……ほっとした。見せしめに、さらし首にでもされるかと思って、不安だったんだ」
    「そんなこと、するわけないじゃないか。親友だった、君に」
     クラウスはバトラーのすぐ前の床に、ひょいと座り込む。
    「さっき金髪の、眼鏡の青年がいただろう? 彼が今回の制圧作戦を初めとして、ジーン王国建国の、一連の戦略を立ててくれていたんだ。
     彼は平和に対して、強い思いを抱いてくれていた。できる限り、北方人同士で戦うことなく、平和裏に解決できるよう、尽力してくれたんだ」
    「そうだったのか。……そうだな、俺の方にも、この制圧戦で死んだ兵はいないって聞いてた。せいぜい、頭にコブを作ったくらいらしいし」
    「ああ。無論、僕らの方にも死者はいない。
     ……本当に、難しいことだったと思うよ。死者を出さずに、首都を制圧だなんて。僕にはこんな作戦を推し進めるなんて、とてもできないし、作戦を思いつくことさえできなかっただろう。
     だけど、平和を愛する気持ちは同じだ。こうして無血で、この城内に入れたことを、非常にうれしく思っている」
    「……ああ。俺もほっとしてる。こんな何もできない奴のために誰かが死ぬなんて、……あってほしくなかった」
    「僕も同じだ。実は、僕も特に、何もしてなかったりするんだ。書類にサインするくらいしか。……はは」
     自然に、二人の間に笑いが込み上げてきた。
    「ふふ、ははは……」
    「くっく、くくく……」
     それは周囲の重圧から解放された、さわやかさを感じる笑いだった。
    「……ああ、何だかすっきりした。
     クラウス、これ、受け取ってくれ」
     バトラーは玉座から立ち上がり、自分の頭に載っていた王冠を、クラウスの頭にポンと載せた。
    「いいのか? こんな、簡単に」
    「いいよ。……お前の話を聞いて、これを載せるのは俺じゃないなって分かったんだ。
     俺の周り……、って言うか、俺の国はもう、みんな自分の利益を追いかける奴ばっかりで、立ち直れるような雰囲気じゃなかった。もう、この国はおしまいなんだよ。
     逆にお前の国は、これからどんどん活気づいてくるはずだ。この北方大陸が立ち直るには、お前の国が治めるしかないよ」
    「……」
     バトラーは玉座には座らず、クラウスの前に屈み込んだ。
    「俺がこんなこと、言えた義理じゃないけど。
     頼んだぜ、北方大陸を」
    「……ああ」
    火紅狐・地星記 3
    »»  2011.01.18.
    フォコの話、132話目。
    北方統一の実現。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     併合宣言書を読み終えた将軍たちは、一様に地べたに座り込み、呆然としていた。
    「……どうします?」
     不意に、将軍の一人が、ぽつりと質問を投げかける。
    「……帰ろう」
    「そうじゃな」
     意外にも、年配の将軍たちは冷静に振る舞っている。
    「ま、……もうノルド王国の将軍でなくなったのじゃから、言うてしまうが。
     疲れとったんじゃ、わし。もう、領土だの金だの権力だのメンツだの、やいのやいの言うのも言われるのも、うんざりしとった」
    「ああ、……うむ。私もそうだな。親の、親の、そのまた親の代から、何が何でも成り上がれ、成り上がろう、成り上がってやれと、したくもない争いをしていた。もうやらんでいい、となれば」
    「すっきりするってもんだ。……あーあ、疲れた疲れた」
     それに応えるように、若手の将軍たちも武具を脱ぎ始めた。
    「帰りますか、ね」
    「ああ、そうしよう」



     こうして308年、短い夏が終わるかと言う頃、何十年と続けられた北方の内乱は収められた。
     各地で独断専行を続けていた将軍たちには、ジーン王室政府から正式に領地を認められ、各領地ごとで政治を執り行い、王室政府がそれを統括する連邦制が敷かれることとなった。
     さらに新通貨、ステラが北方全域に流通したことと、フォコとキルシュ卿が適切に各地の取引・税制を指導したことにより、何十年も続いていたインフレと経済崩壊は、ようやく終息に向かった。
     この処遇と処置により、「好き勝手に統治することが認められた上に、金まで融通してくれるとは」と、各地の軍閥や権力者たちは、この新しい国に嬉々として従った。
     北方の権力者たちの人気と信頼を得たジーン王国は、それまでの荒れ果てた北方大陸の様相を一変させた。

     情勢が落ち着き始めた、309年の春。
    「おめでとう!」
    「おめでとうございます!」
     こじれていたレブとイドゥン将軍の関係が修復した後、改めてイリアとの縁談が進められていた。
    「ありがとう、ありがとう……」
     莫大な借金のために、一時は見る影もないほど覇気を落とし、木偶同然に振る舞っていたイドゥン将軍だったが、ノルド峠での衝突以降、かつての威厳と男気を取り戻していた。
     皮肉なことに――借金漬けで半錯乱状態だった時には、まったくイドゥン将軍になびかなかったイリアは、彼が立ち直って以降は積極的に接するようになり、そしてこの日、ようやく結婚へ至ったのだ。
    「みなさん、ありがとうございます!」
     イドゥン将軍に肩を抱かれた彼女は、幸せそうに微笑んでいた。
    「……うぐ、ぐすっ」
     反面、レブはボタボタと涙をこぼしている。
    「ちょっとあんた、泣き過ぎじゃない?」
     呆れるイールに、レブは鼻声で小さく返す。
    「うっせぇ、……ぐす」
    「……ま、これでもう、ホントに、平和になったって実感できるわね。去年、一昨年の情勢のままだったら、絶対こんな結果には、ならなかったんだし」
    「だなぁ、……ぐすっ」
    「……はい」
     イールは見るに見かね、ハンカチを差し出した。

     幸せな雰囲気に包まれた式場の中、フォコはその様子をぼんやりと見つめながら、一人沈んでいた。
    (ティナ……。
     僕がもし、無事に、おやっさんを連れてナラン島に戻って来られてたら、結婚してたはず、……やったんやな、そう言えば)
     昔の記憶にかかっていた霞を拭いながら、フォコは訪れなかった未来を描く。
    (そうやんな……。もしもあの時、僕が帰ってたら、僕は今頃、あの素敵なティナを奥さんにして、幸せな家庭を築いてたかも知れへんのやんな。
     もしかしたら、子供もできてたかも知れへんし。もしかしたら、おやっさんのお子さんたちと、その子とで、仲良う遊んでるとこ、おやっさんとおかみさんと、ティナとで、のんびり眺めとった、かも、……っ)
     不意に、フォコの目からボタボタと涙が流れる。
    「……ぐ、……うう」
     思わず漏れた嗚咽に、フォコは口を抑えた。
    (アカン、アカンて……。こんな日に、こんなとこで泣いとったら、変に思われるわ。しゃっきり、せな)
     と、無理矢理に涙をこらえ、顔を乱暴に拭いて立ち上がった、その時だった。
    「ホコウ、ここにいたんだ」
    「ぅへ? ……ああ、ども、ランドさん」
     フォコはフードを深めにかぶって顔を隠しつつ、ランドの方に向き直った。
    「……?」
     彼の横に、どこかで見た覚えのある、一人の狼獣人が立っていた。
    「あれ?」
     と、その「狼」の女性が驚いた声を上げた。
    「お前、もしかして……」
    「……っ!?」
     次の瞬間、フォコはその場から逃げだした。
    「お、おい!? 待てよ!?」
     背後からかけられた声にも構わず、フォコは逃げ去ってしまった。
    (な、……な、なんで? なんで僕は、……なんで、あの人が、……なんでやねん!?)
     自分がどこに行くのかも分からないまま、フォコは式場から逃げ去った。

    火紅狐・地星記 終
    火紅狐・地星記 4
    »»  2011.01.19.
    フォコの話、133話目。
    再び巡り合う。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     走り去っていった狐獣人を眺めながら、彼女は隣に立つ息子に尋ねた。
    「……なんなんだ、ありゃ」
    「さ、さあ? 一体どうしたんだろうね?」
    「私が聞いてるんだっつの。……なあ、ランド。ちょっと聞くが」
     その狼獣人――世界最大の職人組合(ギルド)を率いる女丈夫、ルピア・ネールは、何の気なしにこう尋ねてみた。
    「あの狐っ子、昔ウチに来た子だよな?」
    「え?」
     ルピアは自分の髪をくしゃ、と撫でながら、腑に落ち無さそうな顔をする。
    「『ホコウ』ってなんだ? まるで中央語がド下手くそな央南人が付けたようなあだ名だな」
    「いや……? 彼がそう名乗ってたんだ。ホコウ・ソレイユって」
    「はぁ? いやいや、私の記憶が確かなら、あいつは……」
     と、そこへ大火がやってくる。
    「どうした? こんなところに突っ立って」
    「おう、カツミ君」
     仏頂面の大火に、ルピアはニコニコしながら手を振る。
    「君じゃないよな、あだ名付けたのって」
    「何のことだ?」
    「……ああ、いや。あいつがそう名乗ったって言ったな。……カツミ君、ホコウ君のところに連れてってもらえるか? どこかへ行ってしまってな」
    「構わん」
    「あ、じゃあ僕も……」
     言いかけたランドに、ルピアは首を振る。
    「いや、二人で話をしてみたい。悪いな」
    「……そっか。じゃあ僕、式場に戻ってるよ。折角のごちそう、食べ逃しちゃいそうだし」
    「おう」



     フォコはいつの間にか、結婚式が行われていた沿岸部の街、グリーンプールの港まで逃げていた。
    「……はぁ、はぁ」
     走り疲れ、桟橋の縁にぺたんと座り込む。
    (……なんか、この匂い嗅ぐと、落ち着くわぁ)
     3年嗅いできた潮の香りが、ようやくフォコを落ち着かせる。
    (ずーっと、山奥でなんやかやとやっとったしなぁ。久々やな、この匂い嗅ぐのんは)
     南海の陽気な海とは違う、静かな、しかし厳しさがあちこちににじむ北海の風景に、フォコは思わず、ぼそ、とつぶやいた。
    「……みんな、どうしてんねやろ」
    「みんなって?」
     遠い昔に聞いた覚えのある、張りと威厳のある、しかし、どこか優しさが見え隠れする女性の声に、フォコの狐耳は逆立った。
    「……っ」
    「よう」
     声をかけてきたのは、ルピアだった。
    「元気してたか?」
    「……」
     ルピアはフォコの隣に座り、親しげに話しかけてくる。
    「何年振りだっけ? 10年ぶりくらいか? 大きくなったなぁ、君」
    「あ……、う……」
     何も言えず、フォコは困った顔を向けることしかできない。
    「何だよ、そんな顔して。ほれ、笑えって」
     ルピアはさわ、とフォコの尻尾をくすぐった。
    「ぅひひゃあ!?」
    「ぷ、……あはははっ」
     妙な声を出したフォコを見て、ルピアは楽しそうに笑った。
    「……と、いじるのはこんくらいにしておいて、だ。
     君、フォコ君だろ? 昔ウチに来てた、ニコル・フォコ・ゴールドマン君」
    「……」
     フォコは首を振り、否定しようとする。
    「ちがいま……」「ちがわない」
     だが、それをルピアが遮る。
    「私の目は確かだよ。何年経とうが、一度会った人間の顔は、忘れたりしない。
     ほれ、もうこんなフード取っちゃえよ」
     そう言って、ルピアはフォコが被っていたフードを無理矢理はぎ取った。
    「わっ、ちょ、ルピアさん」
    「おーや?」
     フォコの発言に、ルピアはニヤッと笑う。
    「私はいつ、自己紹介したっけかなぁ?」
    「……う」
    「やっぱりフォコ君だった、な。
     ……元気そうで、本当に良かったよ」
     そう言うとルピアは、フォコをぎゅっと抱きしめた。
    「え、ちょ……?」
    「嘘、もう付かなくていいからさ。お疲れさん、フォコ君」
    「……ぅ、っ」
    「10年ドコにいて、ナニしてたのか知らないけどさ。
     ……君は何だか、とっても悲しそうな目をするようになっている。とんでもなく嫌な目にばっかり遭ったんだろうな。
     だけどさ、これ以上嘘付いて誤魔化したら、もっと嫌な気分になってしまうぞ。本音を全部吐き出して、楽になった方がいい」
    「……うう、うううー……」
     たまらず、フォコは泣き出してしまった。
    火紅狐・再逅記 1
    »»  2011.01.22.
    フォコの話、134話目。
    10年振りの会話。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     ようやくフォコが落ち着いたところで、ルピアはくしゃくしゃとフォコの頭を撫でてきた。
    「ふふ、あの頼りなさげな狐っ子が、こう成長したか。ま、外見は予想通りだな」
     ルピアはひょい、と立ち上がり、フォコに手を差し伸べる。
    「腹も減ったし、そこら辺の店で飯でも食べよう。ここ、クラム使えるよな?」
    「あ、はい」
     フォコが手をつかんだところで、ルピアはまたニヤッと笑った。
    「ほい」「ふぇ!?」
     ルピアより断然若い、男のフォコが、彼女の片手で簡単に持ち上げられてしまった。
    「軽いなぁ、君。ちゃんと飯食ってるのか?」
    「い、一応は」
     ここでようやくフォコは気付いたのだが、ルピアはかなり身長が高かった。
    (あれぇー……。そら確かに僕、そんな身長高い方やないけど……)
     腕をぐい、と上に掲げられ、フォコは軽く爪先立ちになっている。
    (子供の時も確かに高いなーて思てたけど、……大人になった今でも、負けるとは思わへんかった)
    「ははは」
     フォコの手首をつかんだままのルピアは、しっかりとかかとを地面につけている。
    「る、ルピアさんて」
    「うん?」
    「身長、思ってたより高かったんです、……ね」
    「おう。181だ」
    「でかっ。シロッコさんよりでかいんやないですか?」
    「いやー、まだちょっとダンナの方が、……って君」
     ようやくここで手を放したルピアが、意外そうな目を向けてきた。
    「シロッコに会ったのか?」
    「ええ、まあ」
    「どこで?」
    「南海で。えーと、6、7年くらい前やったと思いますけど」
    「あ、もしかして」
     今度は納得した顔になる。
    「そう、5年前になるかな。あいつ、突然戻ってきたんだよ」
    「ホンマに?」
    「ああ。んでその時、『実は旅先で、君を知っている人に会ってね。絶対帰ってやれ、って諭されてしまって』って言ってたんだ。もしかして君か?」
    「多分そうです」
    「そうかー……」
     ルピアはまた表情を変え、嬉しそうにフォコの頭をクシャクシャとかき混ぜた。
    「ありがとよ、フォコ君。本当に嬉しかった、あの時は。……嬉しすぎて色々あったりしたけどな」
    「色々?」
    「……ランニャに妹ができたり、……な」
    「ぶっ、……あは、はははは」
     恥ずかしそうにはにかむルピアに、フォコもたまらず笑い出した。

    「え、じゃあ」
    「ああ。その後まーた、いなくなってしまった」
     二人は食堂に移り、話を続けていた。
    「また、子供が生まれたところで旅に出るとか……。ホンマにあの人、放浪癖ひどいですねぇ」
    「ま、それもあいつの長所だよ。いつ会っても若いままだ」
    「ルピアさんかて若いですよ。昔会った、そのまんまです」
    「おいおい、こんなおばちゃんをつかまえて何言ってる、ははは……」
     と、和んだ雰囲気の中、またフォコの胸中に寂しさが募る。
    「……はぁ」
    「ん? どうした?」
    「あ、いえ」
     濁そうとしたフォコに、ルピアはデコピンをぶつけてきた。
    「えい」「いてっ」
     額をさするフォコに対し、ルピアは唇を尖らせる。
    「あのな、さっきも言っただろう。全部吐き出せ、フォコ君。溜め込むな溜め込むな、腹に溜めるのは飯だけで十分だよ」
    「……まあ、そのですね。……どうしてるんかなって、ランニャちゃん」
    「会ってみるか?」
    「え」
    「ほら、カツミ君がいるだろ? 彼に頼めば、クラフトランドまでひとっとびだ」
    「あ、……そうですね」
     可能である、と気付き、フォコは考え込んだ。
    (そやな……、会いたいなぁ、ランニャちゃん。僕のいっこ下やったから、今は21になっとるんやんな。
     昔はよー、引っ張られとったなぁ。あっち行き、こっち行きして、……そう、ティナも結構先に進むタイプで……)
     そこまで考えて、フォコの胸にずきんと来るものがあった。
    「……ティナ」
    「ん?」
    「……すんません、ルピアさん。やっぱ、会えません」
    「はぁ?」
     ティナを思った途端、フォコの心の中に、冷たく、黒く、重たいものが流れ込んでくる。
    「僕には会う資格が無いです」「ふざけろ」
     フォコの反応に、ルピアは声を荒げた。
    「何べん言わせるつもりだ、フォコ。何でも話せって、何度も言っただろ。自分の中に何でもかんでも溜め込むなよ。
     もうその溜め込んだもの、溜め過ぎて壁になってるんじゃないか? その壁、越えられる気がしないから、いきなり『やめます』なんて言ってしまったんだろう?
     君、いつまでその壁から逃げるんだ? 壁はいつか越えるものだぞ。逃げてどうする」
    「……」
     ルピアに諭され、フォコは机に視線を落とし、黙り込んだ。
    「……そうですね。ルピアさんの言う通り、ですよね」
    「ティナってのは、君の恋人か?」
    「……恋人、だった子です。5年前に、生き別れになりまして」
    「今どうしてるのか、分かんないってわけか。で、その子に未練があるから、央中には帰れない、と。そう言うことか?」
    「……はい」
    「じゃ、会って来いよ。別にさ、『ランニャと付き合え』なんて、私言ってないぞ。好きな子がいるんなら、その子に会って、改めて交際しな」
    「……はい」
    「で、さ」
     ルピアはデザートの、ブルーベリーのタルトに手を付けつつ、尋ねてきた。
    「そろそろ聞かせてくれよ、フォコ君。この10年、君がドコで、ナニをしてたのかを、さ」
    火紅狐・再逅記 2
    »»  2011.01.23.
    フォコの話、135話目。
    もう一度、因縁の海へ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     デザート片手に話を聞き終えたルピアは、フォークをくわえつつ、小さくうなった。
    「うはぁ……。そうか、エンターゲートの奴、そこまで滅茶苦茶していたのか」
    「ええ……」
    「にしても君、ジョーヌのトコにいたのか。あいつ、うるさかっただろ」
    「まあ、はい」
    「それにしちゃ最近、まったくうわさを聞かなくなったとは思ってたが……、そうか、死んでたのか」
     ルピアはフォークを置き、腕を組んで考えこむ様子を見せる。
    「……おかしいな」
    「何がです?」
    「何故、私はその話を聞いてないのかな、と。
     ジョーヌ海運って言や、一時は西方の急先鋒として、商人たちの話題によく上ってたトコだ。その総裁が亡くなったなんて、話に上らない方がおかしい。
     いや、ジョーヌ総裁が死んだところを見たのは君だけなんだし、公には行方不明だってことになってるだろう。だとしても、それはどこのうわさにも上ってないんだ。
     世界最大のギルドを持ってるウチにさえ、その情報が入って来ないってことは情報源、つまりジョーヌ海運側からその情報を遮断、公表してないってことになる。気になるな、それは」
    「確かに……。キルシュ卿も、経営縮小した話はご存じだったんですけど、行方不明になったとは言ってなかったですし。妙、ですよね」
    「ああ。……いや、公表できない理由は考えられる」
    「なんですか?」
     ルピアは店員に紅茶を頼みつつ、その理由を説明した。
    「君は直にジョーヌ総裁と会ってるから分かると思うが、彼にはカリスマ性があった。極端に言ってしまえば、彼のカリスマ性でジョーヌ海運の経営は成り立ってたんだ。
     そんな彼が、行方不明になったなんて知れ渡ったら……」
    「傾くでしょうね。……おやっさんも自分でそう言ってましたし」
    「とは言え、もう傾いてる。それでも頑なに言わないのは、……何故だろうな?」
     ルピアは運ばれてきた紅茶に口をつけ、考え込む仕草を見せる。
    「……ジョーヌ総裁の、南海での本拠、ドコって言ってたっけ」
    「ナラン島です。南海東部の小島ですね」
    「そうか」
     ルピアは一息に紅茶を飲み干し、続いてこう提案した。
    「行ってみるか」
    「へ?」
    「その、ナラン島さ。5年も経ってるから相当様変わりしてるだろうが、まだ造船所は残ってるだろう。行って、話を聞いてみよう」
    「……」
     フォコも紅茶に手を付けつつ、もう一度思案に暮れる。
    「……そうですね。行ってみようかな」
    「おう」
    「……ん?」
     と、ここでフォコは、ルピアの発言に気が付く。
    「行って、って、ルピアさんも来るんですか?」
    「まずいか?」
    「いや、まずいちゅうことはないですけど、いいんですか? ギルドの方……」
    「ああ、大丈夫さ。
     ……と言うか、まあ、あんまりうまいこと行ってないんだ。ゴールドマン商会との利権争いに負けてしまってな、実を言えばジリ貧なんだ」
    「えぇ? そんな時やのに、いいんですか?」
     ルピアは肩をすくめ、冗談混じりに笑い飛ばす。
    「だからこそ、かな、この提案は。商売相手を開拓するって狙いもある。
     そう言えば言いそびれてたが、こっちへ来たのもただ単に、再就職した息子の顔を見に来ただけじゃない。これも、同じ狙いだったんだ。
     商売の基礎・基本は人づきあいだ。極端な話で例えれば、この世に自分ひとりじゃいくらモノを作っても買ってもらえないし、大掛かりな計画も進められんからな。
     人の出会いは不可思議で、心躍るものだ――こうして別口の商人に会うことや、本拠地から離れたところに出向くことは、決してただの遊び、物見遊山じゃない。新しい発見、新しい商売の糸口につながることは、十分にあるさ。
     現にこうして、10年ぶりに君に会えたんだ。それだけでも私にとっては、大きな収穫になったよ」
    「はは……、ども」



    「ふむ、ふむ」
     フォコから南海に戻る旨を伝えられたキルシュ卿は、にっこりと笑ってそれに応じた。
    「構わんよ。君の自由にすればいい」
    「ありがとうございます」
    「と言うよりも、だ。ネール女史と同意見、と言った方が正しいだろうね。
     これから君は、どんどん頭角を現していくはずだ。北方大陸に収まる器ではない。急成長していくこの時期に、こんな山奥に留まっていては、宝の持ち腐れになってしまう。
     商人として成長期にある今のうちに、色んなコネクション、つながりを築いておくことは、君にとって決して、マイナスになることは無い。
     ましてや、これから会おうとしているのは、西方・南海で一時ながらも権勢を奮った大商会だ。いくら今は落ち目といえども、プラスにならないはずは無いだろう。
     キルシュ流通の大番頭の地位は保たせておくから、どんどん外へ向かって行きなさい」
    「……はい!」
     こうしてフォコは北方を離れ、ルピアと共に南海へ向かうこととなった。
    火紅狐・再逅記 3
    »»  2011.01.24.
    フォコの話、136話目。
    ネール一家の優しさ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     南海へ旅立つことが決まった、その夜。
    「あの……、ランドさん」
     フォコは改めて、自分のたどってきた経歴と本名を、ランドに明かそうとした。
    「やあ、ホコウ。……と、フォコって言った方がいいのかな」
    「あ、……ルピアさんから聞いたんですか?」
    「名前はね。後、経歴も簡単に聞いた。……ごめんね、すっかり君のこと、忘れてたよ」
    「いえ、僕もです」
     互いに照れ笑いしたところで、ランドの方から話を切り出してくれた。
    「それと、もう一つ。北方を離れて、南海へ行くんだってね」
    「ええ、はい」
    「元、中央政府の政務大臣として言わせてもらえば、……死にに行くようなもんだ」
    「……」
     ランドはしかめっ面で、現在の南海事情を語ってくれた。
    「306年までの情報しかないけど、治安情勢は悪化の一途をたどっている。
     特に304年、南海最大の国だったベール王国が本土決戦で敗走し、ベール本島を追われて西へ後退してからは、レヴィア王国がやりたい放題に戦線を拡大している状態だ。
     その時点からもう、3年経ってる。今はもう、どこまで泥沼と化しているか……」
    「それでも、行かなあきませんのんです」
    「……だろうね。……協力したいのはやまやまだけど」
    「あきませんよ、そんなの。……ものっすごい泥沼になりますで」
    「ああ。……直接の関係が無い北方が南海に介入したりしたら、話がおかしくなる。下手すれば中央政府まで巻き込んだ、世界的な戦争に発展しかねない。
     ……協力できないのが、本当に残念だ。友人が戦地の真っ只中に飛び込んでいくと言うのに、何もできないなんて」
    「……大丈夫です。僕は、生きて帰ってきます」
     沈んだ顔のランドに対し、フォコはにっこりと笑って返した。
    「僕、ここ数年でどんどん運が太くなってますもん。せやから今回も、死ぬどころやないですって。もっとすごい儲け話、持って帰ってきますわ」
    「……はは。期待してる」



     2日後――央中、クラフトランド近郊の港、ルーバスポート。
    「よう」
    「ども」
     いくら大火が超一流の魔術師、不可能を可能にする悪魔といえども、「テレポート」は行ったことのある土地へしか飛ぶことができない。
     大火の助けにより央中までは戻れるのだが、そこから先、南海へは、海路で向かうしかなかった。
     そのため一旦、この街へ寄ったのだが――。
    「やあ、フォコくん」
     ルピアの隣には、フォコと同じく成長した、ランニャの姿があった。
    「……ランニャちゃん」
    「久しぶりだね。元気してたかな?」
     ランニャは大きなかばんを背負いながら、フォコに握手を求めてきた。
    「え、と」
    「あたしも行くよ」
    「へ」
    「なんで、って顔してるね。そりゃ、行くよ。
     ずっと気になってた人のカノジョさん、どんな人だったんだろうって、気にならないわけないだろ?」
     成長したランニャは、ルピアのような言葉遣いをしていた。かつてルピアが言っていた通り、これは央中北部の「訛り」なのだろう。
    「いや、でも危険なところ行くんやで?」
    「危険? じゃ、なおさらじゃないか。まさかお母さんと君と、たった二人で行かせる? そうはさせないよ」
    「ランニャは案外やる子だ。昔っから色んなことに興味持ってたからな。武器も割と使えるし、危険勘も利く」
    「えへへっ」
    「ただ、アホだから魔術はてんでダメだけどな。じっくり物を考えられないタイプだ」
    「……まーたそーゆーこと言う」
     むくれるランニャに対し、フォコは唖然とするばかりだった。
     と、その間に母娘はフォコの後ろへ周り、船へと足を向ける。
    「ほら、フォコくん。そろそろ行こう」
    「……はい」
     フォコは反対しようと一瞬考えたが、昔の記憶を思い起こし、それは無理だろうと悟った。
    「まあ、行くしかあらへんな、このメンツで。……はぁ」
     フォコはこの先の旅路に、ほんのりと、不安なものを感じた。



     しかし――この時の彼には、この旅の終わりに、その程度の不安感では到底足りることのない、一つの悲劇が待っていたとは、知る由も無かった。
     彼は改めて、人間の醜さを知ることになる。

    火紅狐・再逅記 終
    火紅狐・再逅記 4
    »»  2011.01.25.

    フォコの話、126話目。
    視点の違い。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
    「なるほど……、貴重な情報、ありがとうございます」
     本軍に知られないよう、密かにイスタス砦を訪れ、砦で行われた会議の様子を伝えたスノッジ将軍に、ランドは深々と頭を下げた。
    「それで、その……、できれば、もう少しばかり……」
    「ええ、情報料と言うことで。ホコウ、いいよね?」
     ランドに尋ねられ、フォコも大きくうなずく。
    「ええ、勿論。結構ご入り用みたいですし、ここはドンと、2000万ほどお渡ししときましょか」
    「そ、そんなに? ……あ、いえ、いただけるならもう、いくらでもありがたいので」
     スノッジ将軍は半ば卑屈なほどに、ぺこぺこと頭を下げた。

     スノッジ将軍が帰った後、ランドはイールたち将軍を呼び寄せた。
    「そろそろ攻め頃だ。準備を整えて、首都を陥落させよう」
    「な、何ぃ!? ソーリン砦じゃなくて、いきなり首都かよ!? 正気かよ、ランド?」
     面食らうレブに対し、ランドはコクリとうなずく。
    「勿論正気さ。理由もある。ソーリン砦に本軍が集まり、結論の出ない会議に終始している今がチャンスなんだ。
     本軍の大部分が離れているから首都の守りは手薄なはずだし、敵が砦防衛組と首都攻略組とで割れたら、相手はどちらを攻めるかでまた一悶着。結論の出ないまま……」
    「……敵軍の大部分が動けないまま、首都陥落ってことね。まったく、悪魔みたいな策をよく考え付くわね、ランド」
     イールの言葉に、ランドは肩をすくめる。
    「悪魔とは人聞きが悪い。イスタス砦の時も、ノルド峠の時も。そして今も、僕は犠牲の出ない方法を採ってるだけさ。
     本当に悪魔的って言うなら、スノッジ将軍を借金漬けにして、彼女の砦内で将軍たちで同士討ちにさせる方が、よっぽど効果的ってもんさ」
     沿岸部での一件を皮肉ったランドに、フォコは苦笑した。
    「はは……。
     でもランドさん、いっこ問題あるんとちゃいます、その作戦?」
    「うん?」
    「ここから首都へ行く道、細いのんも入れたら何本かはありますけど、こっちの兵隊さんが一気に通れるような大きな道って、スノッジ卿のいてはるソーリン砦の裏手にありますよね?
     いくらなんでも、首都には何百、何千かくらいはまだ、兵隊さんいてはると思うんですけど、どうやってそれを突破して、陥落させるんですか?
     まさかまた、タイカさん頼みなんやないですよね……?」
     話を聞いていた大火が、顔をしかめる。
    「無理を言うな。数人程度なら、『テレポート』なり『エアリアル』で運んではいける。
     だが、数千人単位を運ぶとなると、それなりの規模の魔法陣が、ここと、移送先に必要になる。
     まさか敵の目の前で、怪しげな魔法陣をのんきに描いていろと言うのか? とんだ間抜けになるぞ」
    「あ、いやいや。僕たちはあくまでも、平和的解決をしたいからさ。
     君たちだって、わざわざ同郷の人間と戦いたくないだろ?」
    「まあ……」「そりゃ、ねぇ」
     うなずくイールとレブにほんのり得意げな表情を向けつつ、ランドは策を明かした。
    「ソーリン砦の大軍と言う、巨大な壁。それが動けば、後には何にも障害はない」



     数日後に再開された会議は、またも紛糾した。
    「いい加減、どちらかだ! どちらかに、スパッと決めろ! 攻め込むか! それとも尻尾を巻いて逃げるか!」
    「言い方を考えろよ……。逃げる、じゃなくて、態勢を整え直す、だろう?」
    「どちらでも同じだ! 敵前逃亡もいいところだろうが!」
    「もうごねるのやめろよ……」
     と、こんな風に進展のないまま会議が続く中、スノッジ将軍はぼんやり、ジーン王国との取引に思いを巡らせていた。
    (情報提供で2000万……。多少のリスクは伴うけれど、その額は大きいわ。ここでもう少し場を引っ張って、もっと出してもらおうかしら?
     ああ、でもあの眼鏡のエルフ、……そう、ファスタ卿。彼は切れ者だし、嘘をついたり、どうでもいい情報を流したりしたとしても、きっと報酬は寄こさないわね。
     となると有益な情報を、『作る』必要があるわね)

    火紅狐・挟策記 3

    2011.01.12.[Edit]
    フォコの話、126話目。視点の違い。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3.「なるほど……、貴重な情報、ありがとうございます」 本軍に知られないよう、密かにイスタス砦を訪れ、砦で行われた会議の様子を伝えたスノッジ将軍に、ランドは深々と頭を下げた。「それで、その……、できれば、もう少しばかり……」「ええ、情報料と言うことで。ホコウ、いいよね?」 ランドに尋ねられ、フォコも大きくうなずく。「ええ、勿論。結構...

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    フォコの話、127話目。
    口先の力業。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     スノッジ将軍はいまだ結論の出ない会議をまとめるべく、口を開いた。
    「皆様方、ひとまず、現時点での結論をまとめてはいかがでしょうか?」
    「うん?」
    「ともかく、行動が必要です。でなければいつまでも、こんな会議を延々続けなければなりません。
     まずは現時点での、全員の意見を取りましょう。さ、皆様お立ちになって」
     スノッジ将軍は自分の左右を指差し、多数決を取った。
    「ともかく攻めよう、と言う方はわたくしの右に。罠かも知れない、態勢を整え直そうと言う方は左にどうぞ」
    「ふ、む……」
    「まあ、そうだな。このまま言い合っていても仕方がない」
    「よし並ぶか」
     これ以上の揉め合い、罵り合いに飽き飽きしていた将軍たちは、スノッジ将軍の案に従って席を立ち、彼女の左右に並ぶ。
    「……現時点では、攻める方が大多数ですね。
     どうでしょう、皆さん? ここは肚を決めて、攻勢に出てみると言うのは?」
     この意見に、撤退派が反発する。
    「スノッジ卿、あなたは何を言っているのか分かっているのですか!?」
    「罠かも知れないからと言ったのは君だろう!?」
    「ええ、ええ。重々承知しております」
     反発意見に対し、スノッジ将軍はぺこりと頭を下げて弁解した。
    「ですが、例え罠があったとして、その効果はいかほどでしょうか?
     まさか我々全軍を壊滅しうるほど? そんな馬鹿な話はないでしょう! 恐らくは、最悪でも一個中隊が犠牲になる程度。もっと現実的に考えれば、さほどの痛手にもならないはず。
     彼らの戦力は確かに小さなものではないでしょうが、それでも元民間人の反乱軍が半分、残り半分ははぐれ者のギジュン軍閥のもの。『烏合の衆』と言う言葉がこれほど似合う敵もいないでしょう!
     そんな半端者の敵が攻めてきたとして、どれほどの痛手になるでしょうか? 相手も自分が半端者の軍であることを、重々承知しているはず――でなければ、目と鼻の先にいる我々に、何のちょっかいも出してこないと言う説明が付かないでしょう?」
     場を散々混乱させた意見をぬけぬけと翻してみせたが、その理屈には説得力が無いわけでもない。
    「そう言われてみれば……」
    「我々がこちらに出張ってもう何週間も経つが、無反応もいいところだ」
    「本当に卿の言う通り、あまりにも無力で身動きが取れない、……のか?」
     場の意見が、じわじわと攻める方向へ動いていく。それを感じ取ったスノッジ将軍は、一気にたたみかけた。
    「ここはもう、突いてみる他ございませんでしょう! 案外、突いた瞬間にぱぁんと、氷細工の如く、あっけなく砕け散ってしまうかもございませんよ?」
    「……そうだな」
    「まかり間違っても、この大軍が敗走することなど有り得んわけだし」
    「一回、仕掛けてみるか」
     場がまとまり、即座に攻めようと言う空気が流れ始める。
     が――スノッジ将軍は、それを抑えようとする。
    「そうですね、そう致しましょう。……日は、そうですね、3日後の朝から、と言うことでいかがでしょうか?」
    「3日後……?」
    「間を置きすぎでは? 明日でも十分……」
    「情報収集のためです。万一、もし、本当に、相手が罠を仕掛けていた場合、多少ながら、痛手を被るでしょう。
     力のない相手に対して、多少なりともそんなものを負うなど、あまりにも馬鹿馬鹿しい、あまりにも恥ずかしい! そうは思いませんか?」
    「……うー、む」
     余りにも強引で、最早暴論に近い誘導だったが、場の空気を支配するスノッジ将軍に押される形で、侵攻は3日後の朝となった。



    「と、こうなりました。……で、そのー」
     会議がまとまった次の日の未明、今度はフォコがスノッジ将軍に応対した。
    「2000万です。まいど」
    「どうもどうも」
     話を一通り聞き、スノッジ将軍を追い返したところで、フォコは欠伸混じりにつぶやいた。
    「ふあ、ああ……。あのおばはん、頭良く回しとる振りしよるけど、結局アホやな。
     こんなアコギで恥知らずで明け透けなことしとって、それでもまだ、『自分だけが美味しい思いを』とか思うてる顔やで、あれ。
     ……そんなもん、うまく行くわけないやん」
     フォコのこの言葉は2日後、即ちソーリン砦から本軍が侵攻するその日に、現実となった。

    火紅狐・挟策記 4

    2011.01.13.[Edit]
    フォコの話、127話目。口先の力業。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -4. スノッジ将軍はいまだ結論の出ない会議をまとめるべく、口を開いた。「皆様方、ひとまず、現時点での結論をまとめてはいかがでしょうか?」「うん?」「ともかく、行動が必要です。でなければいつまでも、こんな会議を延々続けなければなりません。 まずは現時点での、全員の意見を取りましょう。さ、皆様お立ちになって」 スノッジ将軍は自分の...

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    フォコの話、128話目。
    三流策士、策に挟まれる。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     ノルド王国本軍、侵攻の日。
    「……やはり……」
    「……でしょうね……」
     行軍のあちこちで、各将軍とそれぞれの側近たちが、ひそひそと言葉を交わしている。
    「……じゃあ……」
    「……恐らくは……」
     だが、周囲のそんな素振りに、金に目を眩ませるスノッジ将軍は、まったく気が付く様子はない。
    「ぐふ、ふふ、うふふ……」
     彼女の頭の中には、この行軍を邪魔して1億をぶんどることしかない。
    「……いつ頃……?」
    「……中間くらい……」
    「……いや少し後か……」
     彼女は馬鹿にしていたのだ。
     いつまでも紛糾し、進むことも戻ることもせず、いがみ合うだけの将軍たちを。
    「……では……」
    「……そうしよう……」
     そして自分たちより力がないと軽んじていた、ジーン王国の軍を。

     そのため――彼女は簡単に、罠にはまった。



     ミラーフィールド大塩湖を迂回し、ソーリン砦とイスタス砦の中間から、少し北寄りに進んだほとりで。
    「スノッジ卿……、スノッジ卿!」
     金のことで頭がいっぱいになっていたスノッジ将軍は、何度か声を掛けられて、ようやく顔を挙げた。
    「あ、はい。何でしょうか?」
    「何を考えていらっしゃった、卿? そんなにやけた顔で……」
    「え、……ああ、いえ。……え?」
     いつの間にか、スノッジ将軍の率いる一個小隊の周りを、他の将軍たちが率いる数個小隊が囲んでいる。
    「あの……? 皆さん、どうされたのです?」
    「もうそろそろ、敵の姿が見えるかと言うところで、よくそれほど、笑みを浮かべていらっしゃいますね」
     将軍の一人にそう言われ、スノッジ将軍は思わず、顔に手を当てた。
    「あ、えっと、……いえ、どう攻めようかと、そう考えるうちに、勝利を確信したもので」
    「攻める? 誰をですか?」
    「えっ?」
     囲んでいた小隊が、じわじわと歩を詰めてくる。
    「誰、ですって? 決まっているでしょう、ジーン王国……」「嘘や方便はそこまでにしてもらおうか、卿」「……っ」
     将軍数名が、スノッジ将軍の乗る馬を取り囲んだ。
    「降りていただこう」
    「……何故です? まだ先は長いですよ?」
     まだジーン王国との密約がばれていないと高をくくっている彼女は、それに応じない。
    「二度も言わせるでない、卿。方便はもう、十分だ」
    「……」
    「おかしいと思っていたんです。何故、数日前にご自分で仰ったことを、いきなり引っくり返すようなことをしたのかと。あまりにも不可思議だ」
     将軍たちが、静かに武器を手に取った。
    「そう、そして不可思議なことが、もう一つ。卿は夜中に出歩くのが、どうもお好きらしいな」
    「……!」
    「跡をつけてみれば、これまた不可思議。敵方の陣取る、イスタス砦に入っていくではないですか」
    「そして出た時には、いかにも重たそうな袋が腰に提げられていた、とのこと。
     ……説明していただこうか、スノッジ卿ッ!」
     将軍の一人が、スノッジ将軍の乗る馬の尻を引っぱたいた。
     当然、馬は暴れ出し、前脚を高々と上げる。
    「わ、……わ、わわっ!?」
     ごろんと仰向けに落下するスノッジ将軍を、他の将軍数名が支え、そのまま拘束する。
    「な、何をなさいます!?」
    「白々しい! もういい加減、すべてを吐いたらどうだ、この売国奴め!」
    「う……」
     自分を囲む将軍たちににらまれ、スノッジ将軍はようやく観念した。

    「なるほどなるほど」
    「つまり我々を足止めし、情報提供することで、1000万、2000万の金を得ていたわけか」
    「いやいや、まったくぼろい商売だな」
    「呆れてものも言えませんね!」
    「……」
     洗いざらい白状したスノッジ将軍は、ここで拘束を解かれる。
    「え……?」
     きょとんとしている間に、続いて刃を向けられた。
    「さっさと消えろ、雌豚」
    「これ以上、我々と同行せんでもらおうか」
    「立ち去りなさい! 即刻、我々の前から!」
    「それとも罪を償うつもりか? それならそれで、介錯してやるが」
    「ひぇ……っ」
     スノッジ将軍は顔色を変え、バタバタともがくように、その場から逃げ去って行った。



     結局――スノッジ将軍は自分の弄した策と、それを上回るランドの策とに挟まれ、自滅した形となった。

    火紅狐・挟策記 終

    火紅狐・挟策記 5

    2011.01.14.[Edit]
    フォコの話、128話目。三流策士、策に挟まれる。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5. ノルド王国本軍、侵攻の日。「……やはり……」「……でしょうね……」 行軍のあちこちで、各将軍とそれぞれの側近たちが、ひそひそと言葉を交わしている。「……じゃあ……」「……恐らくは……」 だが、周囲のそんな素振りに、金に目を眩ませるスノッジ将軍は、まったく気が付く様子はない。「ぐふ、ふふ、うふふ……」 彼女の頭の中には、この行軍...

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    フォコの話、129話目。
    巨壁を動かす。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     本軍を散々惑わせていたスノッジ卿が陣から去ったことで、一同の意見は完全に、イスタス砦を攻める方向に収束した。
    「よし、多少のゴタゴタはあったが、とにかくこれで、皆の気持ちは一つになった! もう迷わず、攻めに徹するぞッ!」
    「おうッ!」
     反対意見を言う者もいなくなり、全軍の勢いは加速度的に上がっていく。
     これまでミラーフィールド大塩湖の岸、南半分を一日近くかけて進んでいたのだが、勢いづいた軍は残りの北半分を、たったの数時間で駆け抜けた。
    「よし、見えてきたぞ! あそこがイスタス砦だッ!」
    「全軍、止まるな! 一気に押しつぶせーッ!」
     まるで雪崩のように、本軍は一気に砦の門を破り、飛び込んでいった。



     時間は、フォコがスノッジ将軍を応対し終えた、その直後に戻る。
    「みなさん、起きてください! 作戦開始ですよ!」
     フォコは砦中の人間を起こし、計画が次の段階に進んだことを連絡した。
     と、その途中で眠たげに目をこするランドと顔を合わせる。
    「ふあっ、……ああ、うん。やっぱり予想通りだったね、ホコウ」
    「……ランドさん。それ、僕やなくて置物ですよ」
    「え? ……ああ、失礼。色合いが似てた」
     ランドは苦笑しつつ、ようやく眼鏡をかけてから、改めてフォコに向き直った。
    「やっぱりスノッジ卿、来たんだね。で、内容はもしかして……」
    「ええ、3日……、と、もう日が変わってますから、2日後ですね。2日後に、王国本軍が来るそうです」
    「そっか」
     と、そこへイールたち将軍も駆けつけてきた。
    「もう移動の準備は整ってるわよ」
    「ありがとう。陛下やキルシュ卿も準備できてるかな」
    「ええ。あともうちょっとすれば、国庫の中は全部持ち出せるわ」
     その回答に、フォコとランドはにっこり笑った。
    「ええですね」
    「ああ。じゃ、そろそろ僕らも準備して出ようか」
    「はいー」

     イスタス砦をこっそりと抜けたところで、ランドとフォコはまた、クスクスと笑う。
    「それにしてもランドさん、ホンマにうまいこと考えましたね」
    「はは……」
     ランドの考えた作戦は、こうだった。
     そもそも、ノルド王国打倒には、スノッジ将軍とノルド王国本軍の将軍たち、そして、それらが首都、フェルタイルへ至る道の手前に陣取っていることが、最大のネックとなっていた。
     とは言え、まともにぶつかっては、いかに「猫姫」イールや百戦錬磨のレブがいようと、兵力の上で圧倒的に不利である。どうにか戦わず、かつ、相手を回避する作戦が必要だったのだ。
     そこで目を付けたのが、スノッジ将軍の欲深さと、他の将軍たちの、自分の意見を曲げようとしない我の強さだった。
    「あのおばはんやったら、1億のために適当に話を取り繕って足止めするくらい、簡単にしてくれはるでしょうしね」
    「うん。そして彼女が動くことで、僕らにもう一つ、大きなメリットができる」
    「っちゅうと……、この『2日』の獲得、ですか?」
     そう尋ねるフォコに、ランドは深々とうなずく。
    「そう言うことさ。大軍が駐留すれば、いずれは1000万だろうが2000万だろうが、使い果たすことになる。かと言って、僕らから引き出す額も限度がある。
     財政事情が逼迫すれば、彼女はいずれ、将軍たちの意見を無理矢理にでもまとめて、攻める方に転じるさ。でも、それはすぐに行われない。
     いや、行われては困るわけさ、彼女にとっては」
    「万一僕らがやられてしもたら、1億の話は消えてしまいますもんね」
    「そう。だから彼女は、数日程度の時間稼ぎを企む。それがこの『2日』だ。
     そして話が決まらない限り、ずっといがみ合い、揉めていた将軍たちは、この意見の一致によって、今度は迷わなくなる。言い換えれば攻め一辺倒になり、他の可能性を考慮しなくなる。
     ……と言うよりも、したくなくなる、かな。ここでまた余計なこと――意見を翻して、前のように散々揉めるなんて泥沼は、誰だって避けたいだろうからね。
     だから一旦決まってしまえば、もう僕らを攻めることしか、念頭に置いてこない。こうして僕らが、もぬけの殻になった砦をパスして首都へ向かうなんて、思いもしないだろうさ。
     彼らにしてみれば、自分たちが固めていた陣地に飛び込まれ、さらにその先へ……、なんて、まともに考えれば常識はずれ、荒唐無稽の戦法だからね。
     まあ、この作戦も、時間の猶予が無かったらどうしようも無かった。もしスノッジ将軍がすぐにでも攻めるって通達してきたら、本当に困ったことになったけど……」
     そこでランドは、肩をすくめつつ苦笑した。
    「2日もくれるなんてね。割とのんびり、行軍できそうだ」



     イスタス砦の門を力任せに破った本軍は、バタバタと砦中に散らばる。
    「どうした、雑兵どもッ!? 臆したか!?」
    「無駄な抵抗はやめろ! とっとと出てきて投降するんだ!」
    「出てきなさい! 隠れても無駄よッ!」
     だが、砦の上から下までぐるりと回ってみても、敵の姿は一名も見当たらない。
    「いない……?」
    「……どう言うことなの?」

    火紅狐・地星記 1

    2011.01.16.[Edit]
    フォコの話、129話目。巨壁を動かす。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -1. 本軍を散々惑わせていたスノッジ卿が陣から去ったことで、一同の意見は完全に、イスタス砦を攻める方向に収束した。「よし、多少のゴタゴタはあったが、とにかくこれで、皆の気持ちは一つになった! もう迷わず、攻めに徹するぞッ!」「おうッ!」 反対意見を言う者もいなくなり、全軍の勢いは加速度的に上がっていく。 これまでミラーフィー...

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    フォコの話、130話目。
    いつのまにやら。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     困惑したままの将軍たちは、とりあえずイスタス砦の外に出て、検討を始める。
    「スノッジ卿の言では、ここには10億、20億クラムは金があったと言うことだったが……」
    「あんな守銭奴の意見なんか、……いや、金の話だけに、それは信憑性があるか」
    「国庫には、1グランもありませんでしたね」
    「そしてジーン王以下、砦内にいると思われた人間は、一人もいない、……か」
     そして、結論に至った。
    「逃げられた、……か」
    「それ以外、考えられない。……くそ、3日も猶予を与えるから!」
    「俺たちとしたことが、あんな守銭奴の意見に耳を傾けてしまうとは」
    「済んだことを論じても、仕方あるまい。今後の展開を考えておかなくては」
     将軍たちは消えたジーン王国の首脳と将兵の行方を探ろうと、市街地に住んでいる者たちに話を聞いて回った。
     だがそれも空振りに終わり、将軍たちは次に打つべき一手を見失ってしまった。
    「どうします?」
    「……帰るか。ここにいても意味はない。とりあえず将軍1、2名は駐留するとして……」
     と、とりあえずの対策を立てていたその時だった。
    「お話の途中、失礼いたします……」
     将軍たちの話の輪に割って入ろうとする者が現れた。
    「なんだ、お前は?」
    「ジーン王国からの使いでございます」
    「なんだと?」
     将軍たちに一斉ににらまれつつも、その伝令は用件を伝えてくれた。
    「その……、大変、申し上げにくいのですが」
    「なんだ、と聞いている」
    「昨日を持ちまして、ノルド王国はジーン王国に、その……、併合、されました」
    「……なんだと?」
    「ノルド王国が持つ領地はすべて、ジーン王国領となりました」
     この言葉に、全員の目が点になった。
    「……嘘だ」
    「本当、です。……あの、こちらが併合宣言書です」
     伝令が恐る恐る取り出した書簡をひったくるようにして受け取り、読み進めた将軍たちは、一様に膝を着き、脱力した。
    「……そんな、ばかな……」



     昨日、明け方。
    「制圧、……完了できたね」
     この時点で既に、ジーン王国軍はノルド王国の首都、フェルタイルに攻め入っていた。
     とは言え、敵軍の半数以上はイスタス砦に向かっている最中である。敵の兵力は通常の半分以下であり、さらには指揮する将軍、指示できる人材も、非常に少ない。その上、はるか遠くにいるはずの敵であり、対策など講じているわけがない。
     イールを初めとする精鋭と、ランドの卓越した戦略・戦術の前には、あまりにも想定外の襲撃を受けて困惑していたノルド軍が対抗できる術は、何も無かった。
     ジーン軍は瞬く間に城下町と、軍本部などの主要拠点を制圧し、残るは王族の住む城のみと言う状況になっていた。
    「こうなるのに、何年かかるかって思ってたのになー……」
     制圧した今も、イールは信じられないと言う顔をしている。
    「確かに……、ホコウの資金創出やタイカの魔術が無かったら、10年、20年の長い戦いになってたと思う。……本当に、感謝するよ」
    「へへ、ども」
    「……」
     褒めちぎられたフォコと大火は――片方はヘラヘラと、もう片方はニヤリと――笑って返した。
    「……で、残るは城だけど。どうやって投降してもらおうかな」
     そうつぶやいたランドの背後から、声がかけられた。
    「ファスタ卿。私に、任せてくれないか」
    「……クラウス陛下?」
     背後に立っていたのはキルシュ卿の息子であり、ジーン王国の首長に担ぎ上げられたエルフ、クラウス・ジーンだった。
    「その……、君たちにばかり、重要な仕事をさせるわけには行かないよ。……仮にも、王だから」
    「……そうですね。王への交渉・説得、となると、同じ高さにいる、こちらの王が出てこないと話にならないでしょうし」
    「ああ。それに現国王のバトラー・ノルドとは、若い頃に良く話を交わした間柄なんだ。彼のことは、良く知っているつもりだ。
     この交渉には、君やソレイユ君よりも、私の方がうってつけのはずさ」
    「なるほど。……そう言う事情でしたら、確かにお任せしないわけには行きませんね。
     では、僕とイールが補佐に付きます」
    「いや、しかし……」
    「いえ、あくまでも交渉は陛下お一人にお任せするつもりです。しかし単身、中に飛び込ませるわけには行きませんから」
    「……分かった。では、ノルド王に会うまでは、付いてきてくれ」

    火紅狐・地星記 2

    2011.01.17.[Edit]
    フォコの話、130話目。いつのまにやら。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -2. 困惑したままの将軍たちは、とりあえずイスタス砦の外に出て、検討を始める。「スノッジ卿の言では、ここには10億、20億クラムは金があったと言うことだったが……」「あんな守銭奴の意見なんか、……いや、金の話だけに、それは信憑性があるか」「国庫には、1グランもありませんでしたね」「そしてジーン王以下、砦内にいると思われた人間は...

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    フォコの話、131話目。
    静かな政権交代。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     ノルド側に交渉の意向を伝え、間もなく城門が開かれた。
    「案外すんなり応じてくれたようで、ほっとした」
    「油断はできないわよ」
     安堵した顔をするクラウスに、イールが釘を刺す。
    「護衛はランドとあたしだけなんだし、隙を突いて暗殺される可能性は大きいわ」
    「……そうだな」
     しかし、そんな警戒とは裏腹に、城内に立つ近衛兵たちは疲れ切った顔で出迎えてくる。
    「陛下は奥におわします」
    「ありがとう」
     どの兵士たちも、ほぼ同じことしか言わず、表情もほとんど変わらない。それを眺めていたランドは、ぽつりとこう漏らした。
    「……何だかな。みんな、人形か何かみたいだ」
    「私が昔、この城を訪れた時も、同じような応対を受けた。恐らく彼らは、昔からあれしか仕事が無かったのだろう」
    「だから、……こんな時でも、戦いもせず、挨拶しかできないってことなのかしら」
    「かもね」

     間もなく三人は――近衛兵の言った通り――謁見の間に通された。
    「……久しいな、クラウス。いや、ジーン王と呼んだ方がいいか?」
    「クラウスでいい。私も砕けた雰囲気で話がしたい」
    「そうか。……皆、下がってくれ。余はクラウスと、二人のみで話をする」
     ノルド王、バトラーの言葉に従い、玉座の周囲にいた従者たちは部屋を後にする。
    「ファスタ卿、サンドラ将軍。君たちも……」
    「はい」「分かったわ」
     ランドたちも部屋を去り、謁見の間にはクラウスとバトラーだけになった。
    「……それでクラウス。余、……コホン、俺に何を望むんだ? 命か?」
    「馬鹿な。そんな野蛮なことはしたくない」
    「……ほっとした。見せしめに、さらし首にでもされるかと思って、不安だったんだ」
    「そんなこと、するわけないじゃないか。親友だった、君に」
     クラウスはバトラーのすぐ前の床に、ひょいと座り込む。
    「さっき金髪の、眼鏡の青年がいただろう? 彼が今回の制圧作戦を初めとして、ジーン王国建国の、一連の戦略を立ててくれていたんだ。
     彼は平和に対して、強い思いを抱いてくれていた。できる限り、北方人同士で戦うことなく、平和裏に解決できるよう、尽力してくれたんだ」
    「そうだったのか。……そうだな、俺の方にも、この制圧戦で死んだ兵はいないって聞いてた。せいぜい、頭にコブを作ったくらいらしいし」
    「ああ。無論、僕らの方にも死者はいない。
     ……本当に、難しいことだったと思うよ。死者を出さずに、首都を制圧だなんて。僕にはこんな作戦を推し進めるなんて、とてもできないし、作戦を思いつくことさえできなかっただろう。
     だけど、平和を愛する気持ちは同じだ。こうして無血で、この城内に入れたことを、非常にうれしく思っている」
    「……ああ。俺もほっとしてる。こんな何もできない奴のために誰かが死ぬなんて、……あってほしくなかった」
    「僕も同じだ。実は、僕も特に、何もしてなかったりするんだ。書類にサインするくらいしか。……はは」
     自然に、二人の間に笑いが込み上げてきた。
    「ふふ、ははは……」
    「くっく、くくく……」
     それは周囲の重圧から解放された、さわやかさを感じる笑いだった。
    「……ああ、何だかすっきりした。
     クラウス、これ、受け取ってくれ」
     バトラーは玉座から立ち上がり、自分の頭に載っていた王冠を、クラウスの頭にポンと載せた。
    「いいのか? こんな、簡単に」
    「いいよ。……お前の話を聞いて、これを載せるのは俺じゃないなって分かったんだ。
     俺の周り……、って言うか、俺の国はもう、みんな自分の利益を追いかける奴ばっかりで、立ち直れるような雰囲気じゃなかった。もう、この国はおしまいなんだよ。
     逆にお前の国は、これからどんどん活気づいてくるはずだ。この北方大陸が立ち直るには、お前の国が治めるしかないよ」
    「……」
     バトラーは玉座には座らず、クラウスの前に屈み込んだ。
    「俺がこんなこと、言えた義理じゃないけど。
     頼んだぜ、北方大陸を」
    「……ああ」

    火紅狐・地星記 3

    2011.01.18.[Edit]
    フォコの話、131話目。静かな政権交代。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3. ノルド側に交渉の意向を伝え、間もなく城門が開かれた。「案外すんなり応じてくれたようで、ほっとした」「油断はできないわよ」 安堵した顔をするクラウスに、イールが釘を刺す。「護衛はランドとあたしだけなんだし、隙を突いて暗殺される可能性は大きいわ」「……そうだな」 しかし、そんな警戒とは裏腹に、城内に立つ近衛兵たちは疲れ切っ...

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    フォコの話、132話目。
    北方統一の実現。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     併合宣言書を読み終えた将軍たちは、一様に地べたに座り込み、呆然としていた。
    「……どうします?」
     不意に、将軍の一人が、ぽつりと質問を投げかける。
    「……帰ろう」
    「そうじゃな」
     意外にも、年配の将軍たちは冷静に振る舞っている。
    「ま、……もうノルド王国の将軍でなくなったのじゃから、言うてしまうが。
     疲れとったんじゃ、わし。もう、領土だの金だの権力だのメンツだの、やいのやいの言うのも言われるのも、うんざりしとった」
    「ああ、……うむ。私もそうだな。親の、親の、そのまた親の代から、何が何でも成り上がれ、成り上がろう、成り上がってやれと、したくもない争いをしていた。もうやらんでいい、となれば」
    「すっきりするってもんだ。……あーあ、疲れた疲れた」
     それに応えるように、若手の将軍たちも武具を脱ぎ始めた。
    「帰りますか、ね」
    「ああ、そうしよう」



     こうして308年、短い夏が終わるかと言う頃、何十年と続けられた北方の内乱は収められた。
     各地で独断専行を続けていた将軍たちには、ジーン王室政府から正式に領地を認められ、各領地ごとで政治を執り行い、王室政府がそれを統括する連邦制が敷かれることとなった。
     さらに新通貨、ステラが北方全域に流通したことと、フォコとキルシュ卿が適切に各地の取引・税制を指導したことにより、何十年も続いていたインフレと経済崩壊は、ようやく終息に向かった。
     この処遇と処置により、「好き勝手に統治することが認められた上に、金まで融通してくれるとは」と、各地の軍閥や権力者たちは、この新しい国に嬉々として従った。
     北方の権力者たちの人気と信頼を得たジーン王国は、それまでの荒れ果てた北方大陸の様相を一変させた。

     情勢が落ち着き始めた、309年の春。
    「おめでとう!」
    「おめでとうございます!」
     こじれていたレブとイドゥン将軍の関係が修復した後、改めてイリアとの縁談が進められていた。
    「ありがとう、ありがとう……」
     莫大な借金のために、一時は見る影もないほど覇気を落とし、木偶同然に振る舞っていたイドゥン将軍だったが、ノルド峠での衝突以降、かつての威厳と男気を取り戻していた。
     皮肉なことに――借金漬けで半錯乱状態だった時には、まったくイドゥン将軍になびかなかったイリアは、彼が立ち直って以降は積極的に接するようになり、そしてこの日、ようやく結婚へ至ったのだ。
    「みなさん、ありがとうございます!」
     イドゥン将軍に肩を抱かれた彼女は、幸せそうに微笑んでいた。
    「……うぐ、ぐすっ」
     反面、レブはボタボタと涙をこぼしている。
    「ちょっとあんた、泣き過ぎじゃない?」
     呆れるイールに、レブは鼻声で小さく返す。
    「うっせぇ、……ぐす」
    「……ま、これでもう、ホントに、平和になったって実感できるわね。去年、一昨年の情勢のままだったら、絶対こんな結果には、ならなかったんだし」
    「だなぁ、……ぐすっ」
    「……はい」
     イールは見るに見かね、ハンカチを差し出した。

     幸せな雰囲気に包まれた式場の中、フォコはその様子をぼんやりと見つめながら、一人沈んでいた。
    (ティナ……。
     僕がもし、無事に、おやっさんを連れてナラン島に戻って来られてたら、結婚してたはず、……やったんやな、そう言えば)
     昔の記憶にかかっていた霞を拭いながら、フォコは訪れなかった未来を描く。
    (そうやんな……。もしもあの時、僕が帰ってたら、僕は今頃、あの素敵なティナを奥さんにして、幸せな家庭を築いてたかも知れへんのやんな。
     もしかしたら、子供もできてたかも知れへんし。もしかしたら、おやっさんのお子さんたちと、その子とで、仲良う遊んでるとこ、おやっさんとおかみさんと、ティナとで、のんびり眺めとった、かも、……っ)
     不意に、フォコの目からボタボタと涙が流れる。
    「……ぐ、……うう」
     思わず漏れた嗚咽に、フォコは口を抑えた。
    (アカン、アカンて……。こんな日に、こんなとこで泣いとったら、変に思われるわ。しゃっきり、せな)
     と、無理矢理に涙をこらえ、顔を乱暴に拭いて立ち上がった、その時だった。
    「ホコウ、ここにいたんだ」
    「ぅへ? ……ああ、ども、ランドさん」
     フォコはフードを深めにかぶって顔を隠しつつ、ランドの方に向き直った。
    「……?」
     彼の横に、どこかで見た覚えのある、一人の狼獣人が立っていた。
    「あれ?」
     と、その「狼」の女性が驚いた声を上げた。
    「お前、もしかして……」
    「……っ!?」
     次の瞬間、フォコはその場から逃げだした。
    「お、おい!? 待てよ!?」
     背後からかけられた声にも構わず、フォコは逃げ去ってしまった。
    (な、……な、なんで? なんで僕は、……なんで、あの人が、……なんでやねん!?)
     自分がどこに行くのかも分からないまま、フォコは式場から逃げ去った。

    火紅狐・地星記 終

    火紅狐・地星記 4

    2011.01.19.[Edit]
    フォコの話、132話目。北方統一の実現。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -4. 併合宣言書を読み終えた将軍たちは、一様に地べたに座り込み、呆然としていた。「……どうします?」 不意に、将軍の一人が、ぽつりと質問を投げかける。「……帰ろう」「そうじゃな」 意外にも、年配の将軍たちは冷静に振る舞っている。「ま、……もうノルド王国の将軍でなくなったのじゃから、言うてしまうが。 疲れとったんじゃ、わし。もう、...

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    フォコの話、133話目。
    再び巡り合う。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     走り去っていった狐獣人を眺めながら、彼女は隣に立つ息子に尋ねた。
    「……なんなんだ、ありゃ」
    「さ、さあ? 一体どうしたんだろうね?」
    「私が聞いてるんだっつの。……なあ、ランド。ちょっと聞くが」
     その狼獣人――世界最大の職人組合(ギルド)を率いる女丈夫、ルピア・ネールは、何の気なしにこう尋ねてみた。
    「あの狐っ子、昔ウチに来た子だよな?」
    「え?」
     ルピアは自分の髪をくしゃ、と撫でながら、腑に落ち無さそうな顔をする。
    「『ホコウ』ってなんだ? まるで中央語がド下手くそな央南人が付けたようなあだ名だな」
    「いや……? 彼がそう名乗ってたんだ。ホコウ・ソレイユって」
    「はぁ? いやいや、私の記憶が確かなら、あいつは……」
     と、そこへ大火がやってくる。
    「どうした? こんなところに突っ立って」
    「おう、カツミ君」
     仏頂面の大火に、ルピアはニコニコしながら手を振る。
    「君じゃないよな、あだ名付けたのって」
    「何のことだ?」
    「……ああ、いや。あいつがそう名乗ったって言ったな。……カツミ君、ホコウ君のところに連れてってもらえるか? どこかへ行ってしまってな」
    「構わん」
    「あ、じゃあ僕も……」
     言いかけたランドに、ルピアは首を振る。
    「いや、二人で話をしてみたい。悪いな」
    「……そっか。じゃあ僕、式場に戻ってるよ。折角のごちそう、食べ逃しちゃいそうだし」
    「おう」



     フォコはいつの間にか、結婚式が行われていた沿岸部の街、グリーンプールの港まで逃げていた。
    「……はぁ、はぁ」
     走り疲れ、桟橋の縁にぺたんと座り込む。
    (……なんか、この匂い嗅ぐと、落ち着くわぁ)
     3年嗅いできた潮の香りが、ようやくフォコを落ち着かせる。
    (ずーっと、山奥でなんやかやとやっとったしなぁ。久々やな、この匂い嗅ぐのんは)
     南海の陽気な海とは違う、静かな、しかし厳しさがあちこちににじむ北海の風景に、フォコは思わず、ぼそ、とつぶやいた。
    「……みんな、どうしてんねやろ」
    「みんなって?」
     遠い昔に聞いた覚えのある、張りと威厳のある、しかし、どこか優しさが見え隠れする女性の声に、フォコの狐耳は逆立った。
    「……っ」
    「よう」
     声をかけてきたのは、ルピアだった。
    「元気してたか?」
    「……」
     ルピアはフォコの隣に座り、親しげに話しかけてくる。
    「何年振りだっけ? 10年ぶりくらいか? 大きくなったなぁ、君」
    「あ……、う……」
     何も言えず、フォコは困った顔を向けることしかできない。
    「何だよ、そんな顔して。ほれ、笑えって」
     ルピアはさわ、とフォコの尻尾をくすぐった。
    「ぅひひゃあ!?」
    「ぷ、……あはははっ」
     妙な声を出したフォコを見て、ルピアは楽しそうに笑った。
    「……と、いじるのはこんくらいにしておいて、だ。
     君、フォコ君だろ? 昔ウチに来てた、ニコル・フォコ・ゴールドマン君」
    「……」
     フォコは首を振り、否定しようとする。
    「ちがいま……」「ちがわない」
     だが、それをルピアが遮る。
    「私の目は確かだよ。何年経とうが、一度会った人間の顔は、忘れたりしない。
     ほれ、もうこんなフード取っちゃえよ」
     そう言って、ルピアはフォコが被っていたフードを無理矢理はぎ取った。
    「わっ、ちょ、ルピアさん」
    「おーや?」
     フォコの発言に、ルピアはニヤッと笑う。
    「私はいつ、自己紹介したっけかなぁ?」
    「……う」
    「やっぱりフォコ君だった、な。
     ……元気そうで、本当に良かったよ」
     そう言うとルピアは、フォコをぎゅっと抱きしめた。
    「え、ちょ……?」
    「嘘、もう付かなくていいからさ。お疲れさん、フォコ君」
    「……ぅ、っ」
    「10年ドコにいて、ナニしてたのか知らないけどさ。
     ……君は何だか、とっても悲しそうな目をするようになっている。とんでもなく嫌な目にばっかり遭ったんだろうな。
     だけどさ、これ以上嘘付いて誤魔化したら、もっと嫌な気分になってしまうぞ。本音を全部吐き出して、楽になった方がいい」
    「……うう、うううー……」
     たまらず、フォコは泣き出してしまった。

    火紅狐・再逅記 1

    2011.01.22.[Edit]
    フォコの話、133話目。再び巡り合う。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -1. 走り去っていった狐獣人を眺めながら、彼女は隣に立つ息子に尋ねた。「……なんなんだ、ありゃ」「さ、さあ? 一体どうしたんだろうね?」「私が聞いてるんだっつの。……なあ、ランド。ちょっと聞くが」 その狼獣人――世界最大の職人組合(ギルド)を率いる女丈夫、ルピア・ネールは、何の気なしにこう尋ねてみた。「あの狐っ子、昔ウチに来た子だ...

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    フォコの話、134話目。
    10年振りの会話。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     ようやくフォコが落ち着いたところで、ルピアはくしゃくしゃとフォコの頭を撫でてきた。
    「ふふ、あの頼りなさげな狐っ子が、こう成長したか。ま、外見は予想通りだな」
     ルピアはひょい、と立ち上がり、フォコに手を差し伸べる。
    「腹も減ったし、そこら辺の店で飯でも食べよう。ここ、クラム使えるよな?」
    「あ、はい」
     フォコが手をつかんだところで、ルピアはまたニヤッと笑った。
    「ほい」「ふぇ!?」
     ルピアより断然若い、男のフォコが、彼女の片手で簡単に持ち上げられてしまった。
    「軽いなぁ、君。ちゃんと飯食ってるのか?」
    「い、一応は」
     ここでようやくフォコは気付いたのだが、ルピアはかなり身長が高かった。
    (あれぇー……。そら確かに僕、そんな身長高い方やないけど……)
     腕をぐい、と上に掲げられ、フォコは軽く爪先立ちになっている。
    (子供の時も確かに高いなーて思てたけど、……大人になった今でも、負けるとは思わへんかった)
    「ははは」
     フォコの手首をつかんだままのルピアは、しっかりとかかとを地面につけている。
    「る、ルピアさんて」
    「うん?」
    「身長、思ってたより高かったんです、……ね」
    「おう。181だ」
    「でかっ。シロッコさんよりでかいんやないですか?」
    「いやー、まだちょっとダンナの方が、……って君」
     ようやくここで手を放したルピアが、意外そうな目を向けてきた。
    「シロッコに会ったのか?」
    「ええ、まあ」
    「どこで?」
    「南海で。えーと、6、7年くらい前やったと思いますけど」
    「あ、もしかして」
     今度は納得した顔になる。
    「そう、5年前になるかな。あいつ、突然戻ってきたんだよ」
    「ホンマに?」
    「ああ。んでその時、『実は旅先で、君を知っている人に会ってね。絶対帰ってやれ、って諭されてしまって』って言ってたんだ。もしかして君か?」
    「多分そうです」
    「そうかー……」
     ルピアはまた表情を変え、嬉しそうにフォコの頭をクシャクシャとかき混ぜた。
    「ありがとよ、フォコ君。本当に嬉しかった、あの時は。……嬉しすぎて色々あったりしたけどな」
    「色々?」
    「……ランニャに妹ができたり、……な」
    「ぶっ、……あは、はははは」
     恥ずかしそうにはにかむルピアに、フォコもたまらず笑い出した。

    「え、じゃあ」
    「ああ。その後まーた、いなくなってしまった」
     二人は食堂に移り、話を続けていた。
    「また、子供が生まれたところで旅に出るとか……。ホンマにあの人、放浪癖ひどいですねぇ」
    「ま、それもあいつの長所だよ。いつ会っても若いままだ」
    「ルピアさんかて若いですよ。昔会った、そのまんまです」
    「おいおい、こんなおばちゃんをつかまえて何言ってる、ははは……」
     と、和んだ雰囲気の中、またフォコの胸中に寂しさが募る。
    「……はぁ」
    「ん? どうした?」
    「あ、いえ」
     濁そうとしたフォコに、ルピアはデコピンをぶつけてきた。
    「えい」「いてっ」
     額をさするフォコに対し、ルピアは唇を尖らせる。
    「あのな、さっきも言っただろう。全部吐き出せ、フォコ君。溜め込むな溜め込むな、腹に溜めるのは飯だけで十分だよ」
    「……まあ、そのですね。……どうしてるんかなって、ランニャちゃん」
    「会ってみるか?」
    「え」
    「ほら、カツミ君がいるだろ? 彼に頼めば、クラフトランドまでひとっとびだ」
    「あ、……そうですね」
     可能である、と気付き、フォコは考え込んだ。
    (そやな……、会いたいなぁ、ランニャちゃん。僕のいっこ下やったから、今は21になっとるんやんな。
     昔はよー、引っ張られとったなぁ。あっち行き、こっち行きして、……そう、ティナも結構先に進むタイプで……)
     そこまで考えて、フォコの胸にずきんと来るものがあった。
    「……ティナ」
    「ん?」
    「……すんません、ルピアさん。やっぱ、会えません」
    「はぁ?」
     ティナを思った途端、フォコの心の中に、冷たく、黒く、重たいものが流れ込んでくる。
    「僕には会う資格が無いです」「ふざけろ」
     フォコの反応に、ルピアは声を荒げた。
    「何べん言わせるつもりだ、フォコ。何でも話せって、何度も言っただろ。自分の中に何でもかんでも溜め込むなよ。
     もうその溜め込んだもの、溜め過ぎて壁になってるんじゃないか? その壁、越えられる気がしないから、いきなり『やめます』なんて言ってしまったんだろう?
     君、いつまでその壁から逃げるんだ? 壁はいつか越えるものだぞ。逃げてどうする」
    「……」
     ルピアに諭され、フォコは机に視線を落とし、黙り込んだ。
    「……そうですね。ルピアさんの言う通り、ですよね」
    「ティナってのは、君の恋人か?」
    「……恋人、だった子です。5年前に、生き別れになりまして」
    「今どうしてるのか、分かんないってわけか。で、その子に未練があるから、央中には帰れない、と。そう言うことか?」
    「……はい」
    「じゃ、会って来いよ。別にさ、『ランニャと付き合え』なんて、私言ってないぞ。好きな子がいるんなら、その子に会って、改めて交際しな」
    「……はい」
    「で、さ」
     ルピアはデザートの、ブルーベリーのタルトに手を付けつつ、尋ねてきた。
    「そろそろ聞かせてくれよ、フォコ君。この10年、君がドコで、ナニをしてたのかを、さ」

    火紅狐・再逅記 2

    2011.01.23.[Edit]
    フォコの話、134話目。10年振りの会話。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -2. ようやくフォコが落ち着いたところで、ルピアはくしゃくしゃとフォコの頭を撫でてきた。「ふふ、あの頼りなさげな狐っ子が、こう成長したか。ま、外見は予想通りだな」 ルピアはひょい、と立ち上がり、フォコに手を差し伸べる。「腹も減ったし、そこら辺の店で飯でも食べよう。ここ、クラム使えるよな?」「あ、はい」 フォコが手をつかんだ...

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    フォコの話、135話目。
    もう一度、因縁の海へ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     デザート片手に話を聞き終えたルピアは、フォークをくわえつつ、小さくうなった。
    「うはぁ……。そうか、エンターゲートの奴、そこまで滅茶苦茶していたのか」
    「ええ……」
    「にしても君、ジョーヌのトコにいたのか。あいつ、うるさかっただろ」
    「まあ、はい」
    「それにしちゃ最近、まったくうわさを聞かなくなったとは思ってたが……、そうか、死んでたのか」
     ルピアはフォークを置き、腕を組んで考えこむ様子を見せる。
    「……おかしいな」
    「何がです?」
    「何故、私はその話を聞いてないのかな、と。
     ジョーヌ海運って言や、一時は西方の急先鋒として、商人たちの話題によく上ってたトコだ。その総裁が亡くなったなんて、話に上らない方がおかしい。
     いや、ジョーヌ総裁が死んだところを見たのは君だけなんだし、公には行方不明だってことになってるだろう。だとしても、それはどこのうわさにも上ってないんだ。
     世界最大のギルドを持ってるウチにさえ、その情報が入って来ないってことは情報源、つまりジョーヌ海運側からその情報を遮断、公表してないってことになる。気になるな、それは」
    「確かに……。キルシュ卿も、経営縮小した話はご存じだったんですけど、行方不明になったとは言ってなかったですし。妙、ですよね」
    「ああ。……いや、公表できない理由は考えられる」
    「なんですか?」
     ルピアは店員に紅茶を頼みつつ、その理由を説明した。
    「君は直にジョーヌ総裁と会ってるから分かると思うが、彼にはカリスマ性があった。極端に言ってしまえば、彼のカリスマ性でジョーヌ海運の経営は成り立ってたんだ。
     そんな彼が、行方不明になったなんて知れ渡ったら……」
    「傾くでしょうね。……おやっさんも自分でそう言ってましたし」
    「とは言え、もう傾いてる。それでも頑なに言わないのは、……何故だろうな?」
     ルピアは運ばれてきた紅茶に口をつけ、考え込む仕草を見せる。
    「……ジョーヌ総裁の、南海での本拠、ドコって言ってたっけ」
    「ナラン島です。南海東部の小島ですね」
    「そうか」
     ルピアは一息に紅茶を飲み干し、続いてこう提案した。
    「行ってみるか」
    「へ?」
    「その、ナラン島さ。5年も経ってるから相当様変わりしてるだろうが、まだ造船所は残ってるだろう。行って、話を聞いてみよう」
    「……」
     フォコも紅茶に手を付けつつ、もう一度思案に暮れる。
    「……そうですね。行ってみようかな」
    「おう」
    「……ん?」
     と、ここでフォコは、ルピアの発言に気が付く。
    「行って、って、ルピアさんも来るんですか?」
    「まずいか?」
    「いや、まずいちゅうことはないですけど、いいんですか? ギルドの方……」
    「ああ、大丈夫さ。
     ……と言うか、まあ、あんまりうまいこと行ってないんだ。ゴールドマン商会との利権争いに負けてしまってな、実を言えばジリ貧なんだ」
    「えぇ? そんな時やのに、いいんですか?」
     ルピアは肩をすくめ、冗談混じりに笑い飛ばす。
    「だからこそ、かな、この提案は。商売相手を開拓するって狙いもある。
     そう言えば言いそびれてたが、こっちへ来たのもただ単に、再就職した息子の顔を見に来ただけじゃない。これも、同じ狙いだったんだ。
     商売の基礎・基本は人づきあいだ。極端な話で例えれば、この世に自分ひとりじゃいくらモノを作っても買ってもらえないし、大掛かりな計画も進められんからな。
     人の出会いは不可思議で、心躍るものだ――こうして別口の商人に会うことや、本拠地から離れたところに出向くことは、決してただの遊び、物見遊山じゃない。新しい発見、新しい商売の糸口につながることは、十分にあるさ。
     現にこうして、10年ぶりに君に会えたんだ。それだけでも私にとっては、大きな収穫になったよ」
    「はは……、ども」



    「ふむ、ふむ」
     フォコから南海に戻る旨を伝えられたキルシュ卿は、にっこりと笑ってそれに応じた。
    「構わんよ。君の自由にすればいい」
    「ありがとうございます」
    「と言うよりも、だ。ネール女史と同意見、と言った方が正しいだろうね。
     これから君は、どんどん頭角を現していくはずだ。北方大陸に収まる器ではない。急成長していくこの時期に、こんな山奥に留まっていては、宝の持ち腐れになってしまう。
     商人として成長期にある今のうちに、色んなコネクション、つながりを築いておくことは、君にとって決して、マイナスになることは無い。
     ましてや、これから会おうとしているのは、西方・南海で一時ながらも権勢を奮った大商会だ。いくら今は落ち目といえども、プラスにならないはずは無いだろう。
     キルシュ流通の大番頭の地位は保たせておくから、どんどん外へ向かって行きなさい」
    「……はい!」
     こうしてフォコは北方を離れ、ルピアと共に南海へ向かうこととなった。

    火紅狐・再逅記 3

    2011.01.24.[Edit]
    フォコの話、135話目。もう一度、因縁の海へ。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3. デザート片手に話を聞き終えたルピアは、フォークをくわえつつ、小さくうなった。「うはぁ……。そうか、エンターゲートの奴、そこまで滅茶苦茶していたのか」「ええ……」「にしても君、ジョーヌのトコにいたのか。あいつ、うるさかっただろ」「まあ、はい」「それにしちゃ最近、まったくうわさを聞かなくなったとは思ってたが……、そうか、...

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    フォコの話、136話目。
    ネール一家の優しさ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     南海へ旅立つことが決まった、その夜。
    「あの……、ランドさん」
     フォコは改めて、自分のたどってきた経歴と本名を、ランドに明かそうとした。
    「やあ、ホコウ。……と、フォコって言った方がいいのかな」
    「あ、……ルピアさんから聞いたんですか?」
    「名前はね。後、経歴も簡単に聞いた。……ごめんね、すっかり君のこと、忘れてたよ」
    「いえ、僕もです」
     互いに照れ笑いしたところで、ランドの方から話を切り出してくれた。
    「それと、もう一つ。北方を離れて、南海へ行くんだってね」
    「ええ、はい」
    「元、中央政府の政務大臣として言わせてもらえば、……死にに行くようなもんだ」
    「……」
     ランドはしかめっ面で、現在の南海事情を語ってくれた。
    「306年までの情報しかないけど、治安情勢は悪化の一途をたどっている。
     特に304年、南海最大の国だったベール王国が本土決戦で敗走し、ベール本島を追われて西へ後退してからは、レヴィア王国がやりたい放題に戦線を拡大している状態だ。
     その時点からもう、3年経ってる。今はもう、どこまで泥沼と化しているか……」
    「それでも、行かなあきませんのんです」
    「……だろうね。……協力したいのはやまやまだけど」
    「あきませんよ、そんなの。……ものっすごい泥沼になりますで」
    「ああ。……直接の関係が無い北方が南海に介入したりしたら、話がおかしくなる。下手すれば中央政府まで巻き込んだ、世界的な戦争に発展しかねない。
     ……協力できないのが、本当に残念だ。友人が戦地の真っ只中に飛び込んでいくと言うのに、何もできないなんて」
    「……大丈夫です。僕は、生きて帰ってきます」
     沈んだ顔のランドに対し、フォコはにっこりと笑って返した。
    「僕、ここ数年でどんどん運が太くなってますもん。せやから今回も、死ぬどころやないですって。もっとすごい儲け話、持って帰ってきますわ」
    「……はは。期待してる」



     2日後――央中、クラフトランド近郊の港、ルーバスポート。
    「よう」
    「ども」
     いくら大火が超一流の魔術師、不可能を可能にする悪魔といえども、「テレポート」は行ったことのある土地へしか飛ぶことができない。
     大火の助けにより央中までは戻れるのだが、そこから先、南海へは、海路で向かうしかなかった。
     そのため一旦、この街へ寄ったのだが――。
    「やあ、フォコくん」
     ルピアの隣には、フォコと同じく成長した、ランニャの姿があった。
    「……ランニャちゃん」
    「久しぶりだね。元気してたかな?」
     ランニャは大きなかばんを背負いながら、フォコに握手を求めてきた。
    「え、と」
    「あたしも行くよ」
    「へ」
    「なんで、って顔してるね。そりゃ、行くよ。
     ずっと気になってた人のカノジョさん、どんな人だったんだろうって、気にならないわけないだろ?」
     成長したランニャは、ルピアのような言葉遣いをしていた。かつてルピアが言っていた通り、これは央中北部の「訛り」なのだろう。
    「いや、でも危険なところ行くんやで?」
    「危険? じゃ、なおさらじゃないか。まさかお母さんと君と、たった二人で行かせる? そうはさせないよ」
    「ランニャは案外やる子だ。昔っから色んなことに興味持ってたからな。武器も割と使えるし、危険勘も利く」
    「えへへっ」
    「ただ、アホだから魔術はてんでダメだけどな。じっくり物を考えられないタイプだ」
    「……まーたそーゆーこと言う」
     むくれるランニャに対し、フォコは唖然とするばかりだった。
     と、その間に母娘はフォコの後ろへ周り、船へと足を向ける。
    「ほら、フォコくん。そろそろ行こう」
    「……はい」
     フォコは反対しようと一瞬考えたが、昔の記憶を思い起こし、それは無理だろうと悟った。
    「まあ、行くしかあらへんな、このメンツで。……はぁ」
     フォコはこの先の旅路に、ほんのりと、不安なものを感じた。



     しかし――この時の彼には、この旅の終わりに、その程度の不安感では到底足りることのない、一つの悲劇が待っていたとは、知る由も無かった。
     彼は改めて、人間の醜さを知ることになる。

    火紅狐・再逅記 終

    火紅狐・再逅記 4

    2011.01.25.[Edit]
    フォコの話、136話目。ネール一家の優しさ。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -4. 南海へ旅立つことが決まった、その夜。「あの……、ランドさん」 フォコは改めて、自分のたどってきた経歴と本名を、ランドに明かそうとした。「やあ、ホコウ。……と、フォコって言った方がいいのかな」「あ、……ルピアさんから聞いたんですか?」「名前はね。後、経歴も簡単に聞いた。……ごめんね、すっかり君のこと、忘れてたよ」「いえ、僕...

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