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黄輪雑貨本店 新館

白猫夢 第1部

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

    Index ~作品もくじ~

    • 1417
      
    麒麟を巡る話、第50話。
    そしてまた旅に出る。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
    「……秋也兄さん」
    「久しぶり、月乃」
     秋也が声をかけるが、月乃は答えない。
     ぷいと顔を背け、月乃は晴奈の側に寄った。
    「月謝、あとで渡すね」
    「月乃」
     と、晴奈は顔をしかめ、月乃を見据える。
    「はい」
    「挨拶されて顔を背けるのが、お前の礼儀か?」
     そうたしなめられ、月乃は渋々とした仕草で、嫌そうな顔を秋也に向ける。
    「おかえり、秋也兄さん」
    「ああ、うん、ただいま」
     そのまま背を向け、月乃は客間を出て行ってしまった。
    「……私には挨拶すら無し?」
     憮然とする渾沌に、晴奈が頭を下げる。
    「失礼仕った。後で叱っておく」
    「まあ、いいわよ別に。……それよりも、私はともかくとして、なんで秋也にまであんな態度向けてたのかしら」
    「……あまり、私の口から告げたくはないことではあったのだが」
     晴奈が苦い顔で、こう説明する。
    「月乃も修行の一環と言うことで、つい二ヶ月ほど前まで紅蓮塞にいたのだ。秋也が一度目に試験を受けた際には、……会わないようにしていた、と言っていたが」
    「そうだったのか……」
    「恐らくはそこで小雪より、秋也の話を伝え聞いたのだろう。甚だ憮然とするばかりであるが、紅蓮塞での秋也の評判は、よほど悪いと見える」
    「……オレは気にしてない」
    「私が気にする。いくら大恩ある古巣の修行場とは言え、見事に免許皆伝を果たして見せた剣士であり、大事な息子を蔑ろにされたとあれば到底、心中穏やかではいられぬよ。
     いや、もっと根本的なことを言うとすれば、私の立ち上げた分家、黄派焔流を殊更に敵視しているきらいもあるようだからな。
     月乃は戻って以降、私の道場で修行をしていない。それどころか私の道場に対する批判を、私に隠れて、方々でやっているとも聞く。
     本家で学べるものは多いだろうと思って行かせたが、……あまり良い結果とはならなかったようだ」
     苦い顔をする母に、秋也は申し訳ない気になった。
    「……なんか、オレ、いない方がいいのかな」
    「何?」
    「紅蓮塞じゃ鼻つまみだし、こっちでもオレのせいで道場の評判、落としてるみたいだし。ほとぼりが冷めるまで、しばらくこの街を離れた方がマジでいいかも知れないよな、って」
    「そんなことは無い」
     晴奈はそうなだめたが、渾沌は肯定してきた。
    「一理あると言えばあるんじゃない? どこかで一旗揚げて戻ってくるくらいの仕事してみせたら、きっとそいつらの評価も変わるわよ。
     さっきも言ったけど、旅をもう一回してみるのも、今ならいいんじゃないかしらね」
    「……むう」
     晴奈は窓の外に目を向け、それから秋也たちに顔を向け直す。
    「座して嵐の過ぎ去るを待つよりも、雲無き蒼天に駆けるを良しとする、……か。
     確かに、それも一理あるように思える。……幸いにして今現在、世界は概ね平和と言える。もう一度くらい、旅に出てもいいかも知れぬな」
     晴奈はすっと立ち上がり、客間を離れる。
    「しばし待っていろ。路銀と旅装を持ってきてやる」
    「いや、そんな、いいよ」
     秋也は断るが、晴奈は肩をすくめてこう返す。
    「可愛い子には旅をさせよ、と言うではないか。然るに、させると言うなら精々、可愛がってやらねば」
    「あははは……、敵わないわねぇ、秋也」
     母子のやり取りを聞いていた渾沌が、また笑い出した。

     結局、秋也は晴奈の厚意を受け取って、再び旅に出ることにした。
    「それじゃ、また、行ってきます」
    「ああ。寂しくなったら、すぐ帰ってくるんだぞ」
    「ああ。……それじゃ」
     とりあえずと言うことで、秋也は西方行きの船に乗り込んだ。
    「西方かー……。『兎』だらけって聞いたけど、どんなところなんだろうな」
     そんなことをつぶやきながら、秋也は港で手を振る晴奈と渾沌に、手を振りかえす。
    「行ってきまーす!」
    「気を付けるんだぞー!」
     そうこうするうちに、船は港を離れる。
    「……行ってきます。……行ってきます、母さん」
     再びの別れに、秋也はまた、鼻につんとくるものを感じていた。
    「……へへ」
     それを無理やりにごまかそうと、秋也は笑って見せる。
    「……ふあ……」
     と、それが欠伸に変わる。
    (……そう言や、屋敷に着いてすぐ出て行ったから、休んでないんだよなぁ)
     急に眠気を感じ、秋也は船室に向かう。
    「……ま、……寝るかぁ」
     ぽふっとベッドに飛び込むとほぼ同時に、秋也の意識は夢の中へと沈んでいった。



    《シュウヤ》
    「……んあ……」
    《シュウヤってば》
    「……んにゅ……」
    《シュ、ウ、ヤっ! 起きろってば!》
     三度も名前を呼ばれ、トントンと頭を叩かれたところで、秋也は飛び起きた。
    「ふあっ!? ……な、なんだ?」
     辺りを見回すが、そこは船室でも、自分の部屋でもない、異質な空間だった。
    「ど、どこだ、ココ!?」
    《おはよう、シュウヤ》
     と、もう一度名前を呼ばれる。
    「……!?」
     秋也の目の前には、白い毛並みの耳と尻尾を持った、銀髪の猫獣人が立っていた。



     秋也の、本当の冒険は――ここから始まる。

    白猫夢・立秋抄 終
    白猫夢・立秋抄 6
    »»  2012.06.27.

    麒麟を巡る話、第50話。
    そしてまた旅に出る。

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    6.
    「……秋也兄さん」
    「久しぶり、月乃」
     秋也が声をかけるが、月乃は答えない。
     ぷいと顔を背け、月乃は晴奈の側に寄った。
    「月謝、あとで渡すね」
    「月乃」
     と、晴奈は顔をしかめ、月乃を見据える。
    「はい」
    「挨拶されて顔を背けるのが、お前の礼儀か?」
     そうたしなめられ、月乃は渋々とした仕草で、嫌そうな顔を秋也に向ける。
    「おかえり、秋也兄さん」
    「ああ、うん、ただいま」
     そのまま背を向け、月乃は客間を出て行ってしまった。
    「……私には挨拶すら無し?」
     憮然とする渾沌に、晴奈が頭を下げる。
    「失礼仕った。後で叱っておく」
    「まあ、いいわよ別に。……それよりも、私はともかくとして、なんで秋也にまであんな態度向けてたのかしら」
    「……あまり、私の口から告げたくはないことではあったのだが」
     晴奈が苦い顔で、こう説明する。
    「月乃も修行の一環と言うことで、つい二ヶ月ほど前まで紅蓮塞にいたのだ。秋也が一度目に試験を受けた際には、……会わないようにしていた、と言っていたが」
    「そうだったのか……」
    「恐らくはそこで小雪より、秋也の話を伝え聞いたのだろう。甚だ憮然とするばかりであるが、紅蓮塞での秋也の評判は、よほど悪いと見える」
    「……オレは気にしてない」
    「私が気にする。いくら大恩ある古巣の修行場とは言え、見事に免許皆伝を果たして見せた剣士であり、大事な息子を蔑ろにされたとあれば到底、心中穏やかではいられぬよ。
     いや、もっと根本的なことを言うとすれば、私の立ち上げた分家、黄派焔流を殊更に敵視しているきらいもあるようだからな。
     月乃は戻って以降、私の道場で修行をしていない。それどころか私の道場に対する批判を、私に隠れて、方々でやっているとも聞く。
     本家で学べるものは多いだろうと思って行かせたが、……あまり良い結果とはならなかったようだ」
     苦い顔をする母に、秋也は申し訳ない気になった。
    「……なんか、オレ、いない方がいいのかな」
    「何?」
    「紅蓮塞じゃ鼻つまみだし、こっちでもオレのせいで道場の評判、落としてるみたいだし。ほとぼりが冷めるまで、しばらくこの街を離れた方がマジでいいかも知れないよな、って」
    「そんなことは無い」
     晴奈はそうなだめたが、渾沌は肯定してきた。
    「一理あると言えばあるんじゃない? どこかで一旗揚げて戻ってくるくらいの仕事してみせたら、きっとそいつらの評価も変わるわよ。
     さっきも言ったけど、旅をもう一回してみるのも、今ならいいんじゃないかしらね」
    「……むう」
     晴奈は窓の外に目を向け、それから秋也たちに顔を向け直す。
    「座して嵐の過ぎ去るを待つよりも、雲無き蒼天に駆けるを良しとする、……か。
     確かに、それも一理あるように思える。……幸いにして今現在、世界は概ね平和と言える。もう一度くらい、旅に出てもいいかも知れぬな」
     晴奈はすっと立ち上がり、客間を離れる。
    「しばし待っていろ。路銀と旅装を持ってきてやる」
    「いや、そんな、いいよ」
     秋也は断るが、晴奈は肩をすくめてこう返す。
    「可愛い子には旅をさせよ、と言うではないか。然るに、させると言うなら精々、可愛がってやらねば」
    「あははは……、敵わないわねぇ、秋也」
     母子のやり取りを聞いていた渾沌が、また笑い出した。

     結局、秋也は晴奈の厚意を受け取って、再び旅に出ることにした。
    「それじゃ、また、行ってきます」
    「ああ。寂しくなったら、すぐ帰ってくるんだぞ」
    「ああ。……それじゃ」
     とりあえずと言うことで、秋也は西方行きの船に乗り込んだ。
    「西方かー……。『兎』だらけって聞いたけど、どんなところなんだろうな」
     そんなことをつぶやきながら、秋也は港で手を振る晴奈と渾沌に、手を振りかえす。
    「行ってきまーす!」
    「気を付けるんだぞー!」
     そうこうするうちに、船は港を離れる。
    「……行ってきます。……行ってきます、母さん」
     再びの別れに、秋也はまた、鼻につんとくるものを感じていた。
    「……へへ」
     それを無理やりにごまかそうと、秋也は笑って見せる。
    「……ふあ……」
     と、それが欠伸に変わる。
    (……そう言や、屋敷に着いてすぐ出て行ったから、休んでないんだよなぁ)
     急に眠気を感じ、秋也は船室に向かう。
    「……ま、……寝るかぁ」
     ぽふっとベッドに飛び込むとほぼ同時に、秋也の意識は夢の中へと沈んでいった。



    《シュウヤ》
    「……んあ……」
    《シュウヤってば》
    「……んにゅ……」
    《シュ、ウ、ヤっ! 起きろってば!》
     三度も名前を呼ばれ、トントンと頭を叩かれたところで、秋也は飛び起きた。
    「ふあっ!? ……な、なんだ?」
     辺りを見回すが、そこは船室でも、自分の部屋でもない、異質な空間だった。
    「ど、どこだ、ココ!?」
    《おはよう、シュウヤ》
     と、もう一度名前を呼ばれる。
    「……!?」
     秋也の目の前には、白い毛並みの耳と尻尾を持った、銀髪の猫獣人が立っていた。



     秋也の、本当の冒険は――ここから始まる。

    白猫夢・立秋抄 終

    白猫夢・立秋抄 6

    2012.06.27.[Edit]
    麒麟を巡る話、第50話。そしてまた旅に出る。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -6.「……秋也兄さん」「久しぶり、月乃」 秋也が声をかけるが、月乃は答えない。 ぷいと顔を背け、月乃は晴奈の側に寄った。「月謝、あとで渡すね」「月乃」 と、晴奈は顔をしかめ、月乃を見据える。「はい」「挨拶されて顔を背けるのが、お前の礼儀か?」 そうたしなめられ、月乃は渋々とした仕草で、嫌そうな顔を秋也に向ける。「おかえ...

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