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黄輪雑貨本店 新館

琥珀暁 第4部

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

    Index ~作品もくじ~

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    神様たちの話、第196話。
    狂言と風説。

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    5.
     強襲騒ぎから半月も経とうかと言う頃になり、ハンに関する悪いうわさも、ノルド王国に届き始めていた。
    「(なんと、あの隊長殿が……?)」
    「(隣国はそのうわさで持ち切りのようです。既に巷では、反シモンの声も上がってきているとか)」
     家臣の報告に、ノルド王は腕を組んでうなる。
    「(ううむ……。祭りや会議の時には廉潔な男と思っておったが、もしうわさが事実だとすれば、手放しで信用できるような相手では無いな。
     いや、とは言え友好条約に関しては、結んで間違いは無かったであろう。仮に隊長殿が悪漢であったとしても、エリザ女史は到底、そうは思えぬからな。万が一隊長殿が暴走したとて、きっとエリザ女史が収めるであろう)」
    「(であればよいのですが)」
     と――そこへ突然、ミェーチ将軍がずかずかと、荒い靴音を立てて現れた。
    「(殿! お尋ね申したい件がございます!)」
    「(なんだ、エリコ? 唐突に……)」
     いぶかしげな顔をするノルド王に、ミェーチ将軍は大声で、こんなことを言い出した。
    「(先の帝国兵強襲の一件、殿のご指示であったと言うのは本当ですか!?)」
    「(……は?)」
     ノルド王も、周りの家臣たちも、一様にきょとんとしているが、ミェーチ将軍は構う様子も無くまくし立てる。
    「(なんでも、『殿は友好条約の内容に不満を感じ、帝国との復縁を図ろうとしている』と言うではございませぬか! 既に市井では騒ぎになっておりますぞ! 曰く、殿は『卑劣にも両方と手を組まんとする日和見者』と評されておりまする!
     ここではっきりお答えいただきたい! 一体、殿はどちらの味方に付くおつもりですか!?)」
    「(な……、え……? いや、わし、そんなこと、知りもせんぞ?)」
     目を白黒させているノルド王に、ミェーチ将軍はなおも詰め寄る。
    「(ごまかすおつもりか!? ここで殿が事実を詳(つまび)らかにできぬとあらば、吾輩は世にその信を問いますぞ!)」
    「(そ、それは、……どう言う意味だ?)」
    「(市井に呼びかけ、殿に付き従う者がいるか広く問うのです! 此度の一件に正義があるのならば、人民は殿を選ぶでしょう! しかし万一、従えぬと言う者が多数現れるのならば……)」
     そこまで畳み掛けたところで、武装した兵士たちがわらわらと、ミェーチ将軍の後に続く形で現れる。
     場の空気が物々しいものになり、家臣団が一様に戦慄した表情を浮かべたところで、ミェーチ将軍はこう言い捨てた。
    「(吾輩は必ずや、真の正義を世に、そして殿ご自身に知らしめて見せますぞ!)」
    「(まっ、待て、エリコ! お主まさか、わしに楯突くと言うのか!?)」
     ノルド王は顔を真っ赤にして立ち上がり、怒鳴りつけるが――瞬時に兵士たちが武器を構え、牽制する。
    「(う……ぐ)」
     ノルド王は今の今まで安穏と玉座に座っており、武装などしていない。また、王の御前であるため、家臣たちもまともな武器を携帯していない。対抗できる者が数名の近衛兵しかおらず、王も家臣たちも、ミェーチ将軍の振る舞いを黙って見ていることしかできないでいた。
    「(吾輩が必ずや、正義がどこにあるのかを明らかにしてみせますぞ! では失敬いたす!)」
     硬直したままの王と家臣に背を向け、ミェーチ将軍と兵士たちは悠々と、その場から立ち去った。

     宣言した通り、ミェーチ将軍は街中で同様のことを声高に語り、王を非難した。「帝国と決別したはずの王が密かに通じていた」と言うこの怪情報を聞くなり、人々は騒然となる。
    「(……であるからして、吾輩は正義を糺すべく、行動を起こすものである! 来たれ、人民! 吾輩の軍門に集うのだ!)」
     ざわめく民衆にくるっと背を向け、ミェーチ将軍とその部下たちはぞろぞろと、彼の屋敷へと戻って行く。
     と、その途中で、ミェーチ将軍の側にそっと、シェロがやって来た。
    「(名演説でしたよ、閣下)」
    「(うむ)」
     他の者に聞かれないよう、二人は小声で話す。
    「(しかしシェロ、本当にこれで良かったものか。吾輩は主君と民衆をだましているような気になってしまうのだが)」
    「(結果的には本当のコトになります。うわさになれば、嘘が真実を駆逐するものですから)」
    「(確かにそうだ。今や、あの隊長殿は唾棄すべき悪漢と化したわけだからな。
     であればいずれ、王も民衆の非難を受けることになるのだろうな。いわれなき非難を)」
    「(そのコトは、公言なさらぬよう。バレれば悪者が我々になってしまいますから)」
    「(承知しておる)」
    琥珀暁・信揺伝 5
    »»  2018.12.19.
    神様たちの話、第197話。
    シェロの陰謀。

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    6.
    「帝国との関係を解消したはずのノルド王が密かに彼らと結託している」と言う、シェロが撒いたこの嘘は、瞬く間に「本当らしいうわさ」として、沿岸部全域に広まった。
     そして「どっち付かずの態度を取る恥知らずの王に反逆した」ミェーチ将軍のうわさも同じくらいの速度で伝播し、彼の元には大勢の者が集まってきていた。
    「(兵士だけでも、優に200名は集まった。と言っても、半分が元々吾輩の率いていた部下であるが)」
    「(では残り半分は、純粋に閣下を慕って集まった者と言うワケですね)」
     シェロはニヤッと笑い、ミェーチ将軍をおだてる。
    「(流石は閣下。もし俺の工作が無かったとしても、この結果から考えれば、単に挙兵したとしても、十分な人数が集まっていたコトでしょう)」
    「(う、うむ。そうであるか)」
     まんざらでも無さそうな表情を浮かべたミェーチ将軍にニコニコと笑顔を浮かべて見せつつ、シェロはこう続けた。
    「(では閣下、計画を次に進めましょう)」
    「(うむ。次は、……えーと)」
    「(クラム王国へ赴き、今度はシモンを非難して兵を集めるんです)」
    「(おう、そうであったな)」
    「(友好条約を結んだ王の『不実』が明らかになったコトで、シモンもさらに評判を落としているはずです。ソコへ『英雄』である閣下が現れ、『腐敗した現状を糺すべく人民を集める』とでも吹聴すれば、多くの者がやって来るでしょう。コレは俺の予想ですが、恐らく兵士100人、いや、200人は堅いでしょう。
     400人も集まれば、ノルド王国の軍勢400名と同等、……いや、今回の件で抜けた人数を引いて300名ですから、こちらが優勢になります。後は王宮を攻め、王を討つばかりです。
     そしてノルド王国を落とし次第、今度はクラム王国を……)」
     そこまで語ったところで、ミェーチ将軍が浮かない顔になる。
    「(本当に良いのか? お主の本隊であろう)」
    「(構いやしませんよ)」
     にべもなくそう返し、シェロは悪辣に笑う。
    「(隊のヤツらだって、いずれ俺に感謝するでしょう)」
    「(どう言う意味だ?)」
    「(クラム王国を陥落させれば、シモンは間違い無く更迭されます。本国へ強制送還されるのは確実でしょう。クラム殿下だって、陥落した国に残されるなんてコトは有り得ません。彼女のお父上から呼び戻されるコトは、想像に難くありません。
     となると、彼らを本国まで護送する人間が必要でしょう? もう半年近く故郷を離れて仕事してるヤツらにとったら、帰郷する絶好のチャンスってワケです。ソコら辺も織り交ぜて説得したら、みんなコロっと乗っかってきますよ)」
    「(うーむ……。何とも悪知恵の働く奴め)」
    「(おほめに預かり、光栄です)」

     こうしてミェーチ将軍とシェロは意気揚々とクラム王国を訪れ、ノルド王国で仕掛けたように、グリーンプールで喧伝を行った。
    「(……であるように、正義を思う心に邦の違いは無いはずである! 憂える者よ、吾輩の元に集え!)」
     ミェーチ将軍はノルド王国でやったのと同じようにとうとうと語り、民衆を煽(あお)る。さらにはシェロも、ハンを悪し様に罵りつつ、自分たちに協力すれば帰郷の機会がある可能性も提示し、しきりに勧誘する。
     ところが――ノルド王国の時とは打って変わって、どう言うわけか皆、二人を冷ややかな目で眺めている。いや、正確にはシェロ一人に、その視線が向けられていた。
    「……え?」
     その視線に気付き、シェロはたじろぐ。
    「ナイトマン。何でお前がここにいるんだ?」
     と、遠征隊の一人が声を掛けられ、シェロは薄ら笑いを浮かべつつ、ぺらぺらと話し始めた。
    「ソレはほら、ミェーチ将軍の男気に感動してって言うかさ。いやさ、前のアレあっただろ? 隊長が俺をボコボコにした件。あんなひどいコト許しておけるかって相談に乗ってもらってたらさ、将軍から『一緒に戦わないか』って誘われたんだよ。お前らもさ、いつまでもあんなクズのトコにいないで……」「クズはてめーのことだろうが」「……えっ?」
     元同僚から冷淡に罵られ、シェロは絶句した。
    琥珀暁・信揺伝 6
    »»  2018.12.20.
    神様たちの話、第198話。
    沿岸部の情報戦。

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    7.
     戸惑うシェロを、遠征隊の者たちが口々に糾弾する。
    「俺たち、エリザ先生から聞いてんだよ」
    「『強襲騒ぎん時おらへんかったシェロくんが、隊長帰ってきた途端にいきなり騒ぎ出したん、なんぼなんでもタイミング良すぎやん』ってな」
    「あと、『もしこの流れでシェロくんがシモン隊長倒そうとか言い出したら、強襲騒ぎは絶対シェロくんの狂言やで』とも仰ってたし」
    「ミェーチ将軍はこっちの名士だからな。協力してもらえば大抵のことはできるよな」
    「それにお前、ミェーチ将軍の娘さんと付き合ってんだって?」
    「隊長を悪者に仕立てて退治して、『お義父さん』にいいトコ見せてやるぜってか? よくやるな、全く」
    「しかもどさくさに紛れてノルド王国まで襲う気なのか?」
    「強欲っつーかさー、ゲスだよな、お前」
     彼らの冷たい視線に気付いたのか、街の者もひそひそと内輪で話し始める。
    「(なんか変だよね……)」
    「(女将さんが言ってた通りに将軍やって来たし)」
    「(じゃ、女将さんが『強襲騒ぎもノルド王のうわさも全部、ミェーチ将軍の自作自演』って言ってたのって、やっぱり本当なのかな?)」
    「(っぽいよねー)」
     その空気を感じ、シェロとミェーチ将軍は顔を見合わせる。
    「(しぇ、シェロよ。何かまずいな?)」
    「(……退散しましょう。ヤバいです)」
     人集めもそこそこに、二人はその場から逃げ出した。



     エリザはシェロの基本戦略が「風説の流布」と「扇動」にあるとにらみ、対抗策を講じていた。
     彼女も自分の人脈を使い、シェロに関する否定的なうわさを、クラム王国に撒いていたのである。
    「ちゅうワケで事実上、追い返した感じやね」
    「助かりました」
     素直に頭を下げるハンに、エリザは「気にせんでええよ」とにこやかに笑って返す。
    「コレでとりあえず、クラム王国は影響されにくくなるやろ。ちゅうてもシェロくんの誘惑には一理あるから、なびいてまう子は多少おるやろけども」
    「と言うと?」
    「あの子の主張しとった通り、アンタの更迭やクーちゃんの逐電やらがあったら、確かに帰郷のチャンスやからな。もし本気で帰りたいと思とる子がおったら、ついフラッと口車に乗せられてまうかも分からん。
     ちゅうてもや、ソレは追ったり、責めたりしんときや。『ついフラッと』っちゅう子は迷いやすい子やからな、『一時の気の迷いやった』と思い返して戻ってくるかも分からん。ソレをこっちが責め立てて退路断ってしもたら、絶対戻って来おへん。いや、戻って来られへんからな」
    「しかし、そんな不実な人間を置いておくのは規律に……」
     反論しかけたハンに、エリザが首を振る。
    「寛容やで、ハンくん。
     何でもかんでも厳しくしとったらええ組織になるっちゅうもんや無い。ドコかに逃げ道作ったらな、誰も残らへんで。人間、『楽したい』『嫌な思いしたない』が基本姿勢やん? ソレを真っ向から否定するようなルール作ったところで、誰も従わへんし、反発も大きい。ソレは良く身に染みとるやろ?」
    「ええ……まあ」
    「人間の本質を否定するルール作るようなヤツは、人間を、他人を見とらん。自分のコトしか見てへんねん。自分のコトしか考えへんヤツに手ぇ貸したないし、言うコトなんか聞く気にならへんやろ? ソレが今回の失敗の原因や。
     せやからな、ちょっとした気の迷いくらい、大らかな心で許したり。戻って来たいっちゅう子は何も責めたらんと、温かく迎えてやるんやで」
    「銘肝しておきます」
    「ん」
     エリザはにこっと微笑みつつ、「あ、そうそう」と話題を切り替えた。
    「ちょとお願いしたいコトあるねんけどええかな? もうボチボチみんな、ハンくんの言うコト聞いてくれるやろし」
    「なんです?」
    「言うたら、今まで『防戦』やったやん? 今から『攻撃』しよかっちゅう話やねん」
    「攻撃? 一体何をすると?」
     尋ねたハンに、エリザはニヤニヤ笑いながら、ある驚くべき「予測」を伝えた。
    「……ちゅうワケで狙いは、ミェーチ将軍とシェロくんらの方になるやろな」
    「本当に……?」
    「アタシの見通しが信じられへんか?」
     いたずらっぽい目つきでそう尋ね返すエリザに、ハンは苦笑する。
    「無論、信じますよ。それで俺たちは、何をすれば?」
    「1個目は南側からやな。ノルド王国からも出せるだけ出してもろて、両側から潰すんや。ほんで2個目は本陣に向かわし。お留守のうちに叩いてしまうんや。
     コレで沿岸部のゴタゴタ、全部解決や」

    琥珀暁・信揺伝 終
    琥珀暁・信揺伝 7
    »»  2018.12.21.
    神様たちの話、第199話。
    ミェーチ軍団。

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    1.
     グリーンプールでは冷たい扱いを受けたものの、ミェーチ将軍とシェロは、それ以外の沿岸部各地で着々と兵と装備、そして資金を集めることに成功し、巷では既に「ミェーチ軍団」と称されるほどの勢力となっており、両国のほぼ中間に位置するなだらかな湾岸地に、それなりの規模の砦を築くまでに、沿岸部におけるその存在感を強めていた。
    「(それでシェロよ、これからどうする?)」
    「(兵法に曰く、『攻め易きを攻めよ』です)」
    「(ひょうほう、……とは?)」
    「(簡単に言えば、戦い方の指南です)」
     シェロは本を片手に、とうとうと語る。
    「(まず自分たちで倒せる程度の弱い相手から消していき、強者に対しては真っ向から戦わず、分散させて別個に叩くか、あるいは多方向から引っ張り回して疲労させる。ソレを繰り返せば、いずれ我々が勝ち残る。……と言うワケです)」
    「(ふーむ、なるほど……。ところでシェロ、それは何だ?)」
     本を指差され、シェロはきょとんとする。
    「(ソレ? ……本のコトですか?)」
    「(ほん?)」
    「(人の話を紙に写してまとめたものです。まさかと思いますが、こちらには書物の類が無いんですか?)」
    「(初めて見る。かみと言うのが何なのかも分からん。それは何かの革なのか?)」
     しげしげと本を眺めるミェーチ将軍に、シェロは説明する。
    「(木や草で作られてます。細かい製法は俺も知りませんが)」
    「(人の話と言っていたが、それを開ければ話が聞こえると言うことか?)」
    「(文字に起こしてあるので、それを自分で読むんです)」
    「(これは随分ボロボロであるが、貴重な品では無いのか?)」
    「(俺たちの邦じゃ、ソコらの店先で売ってます。まあ、安いものでは無いですけど)」
    「(ふむ)」
     ミェーチ将軍は本を手に取り、目を細めて表紙を眺める。
    「(……さっぱり読めん)」
    「(こっちの言葉じゃないですからね)」
    「(何と書いてあるのだ?)」
    「(『戦闘対策論基礎編 ゼロ・タイムズ』です)」
    「(ゼロ・タイムズと言うのは確か、シェロの邦の王であったな。……ふむ)」
     神妙な顔をするミェーチ将軍に、シェロは首をかしげる。
    「(何か?)」
    「(いや、そちらの邦の王は変わっておるなと思うてな)」
    「(変わってる? ドコがですか?)」
    「(王と言うものは、自分の絶対的優位を保たねばならぬものだ。それは富によってであったり、力によってであったりするのだが、知識、知恵と言うものもそれに並ぶものであろう。他人が知り得ぬ知識を持っていれば、いかなる時でも優位に立てるのだからな。しからば知識を秘匿し、己のみのものとしておくのが常道であろう。
     しかるにタイムズ王がやっていることは、まるで己の金庫から巨万の富をバラ撒いているようだと思ってな)」
    「(はあ……? そんなもんですかね)」
     と、そこへリディアが、スープの入ったカップを3つ、盆に乗せて持って来た。
    「(二人とも、お話は一旦休憩にしませんか?)」
    「(うん? ……そうだな、ちと休むか)」
     ミェーチ将軍はカップを取り、ぐび、と飲む。シェロも同じように飲もうと口を付けるが――。
    「……っぢゃ、あぢちちっ!?」
    「(あっ、……あの、熱いので気を付けて、……って、言おうとしたんですが)」
    「(ちと遅かったな。我らは慣れておるが、お主にはちと熱かろう)」
    「あちち、……はは、へへへ」
     何故か気恥ずかしくなり、シェロは笑ってごまかした。

     シェロの進言に沿う形で、ミェーチ将軍は軍団をノルド王の住まう王国首都、ネザメルレスへと向けることにした。
    「(吾輩を信じ集まってきてくれた諸君らよ、いよいよ戦いの時は来た! かつて我が君であったノルド王を討ち、我らが正義を示す覇業の第一歩とするのだ!)
     大仰な壮行演説に扇動された兵士たちは、一斉に鬨の声を挙げる。
    「(では……、全軍、進めッ!)」
    「(おうッ!)」
     ミェーチ将軍に指揮され、兵士たちは荒々しい靴音を響かせ、進行を開始し――ようとした。
     が、そこへ数名、ミェーチ軍団の者より明らかに上等な戦闘服を着た者たちが正面から現れ、先導していたミェーチ将軍の前で立ち止まった。
    琥珀暁・奸智伝 1
    »»  2018.12.23.
    神様たちの話、第200話。
    最悪の事態。

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    2.
     彼らと出会った瞬間、ミェーチ将軍は青ざめた。
    「(う……うっ)」
    「(どうしたんです? 彼らは一体……?)」
     シェロが尋ねるが、ミェーチ将軍は何も答えず、困り果てた表情でシェロと、相手とを交互に見ているばかりである。
    「(エリコ・ミェーチ将軍だな?)」
     と、相手が威圧的な態度で声を掛けてくる。その瞬間、シェロも今、自分たちが非常にまずい状況に置かれたことを察知した。
    (やべっ、帝国兵かコイツら!?)
     シェロの予想を裏付けるように、彼らはミェーチ将軍を詰問し始めた。
    「(現在、ノルド王国で取り沙汰されている諸問題に貴様が関わっていると聞き、こうして足を運んでやったのだ。
     いつまでも間抜けな面を浮かべていないで、何か言ったらどうだ?)」
    「(う、……そ、その、それはだな、何から話せば良いか、その)」
     しどろもどろに答えつつ、ミェーチ将軍はシェロをチラチラと横目で見てくる。
    (え、……助けろって? 今? 俺が? ……勘弁してくれよぉ)
     辟易するが、ここで適当にやり過ごさなければ、自分にも面倒が降り掛かってくるのは明白である。
    (コイツらに下手なコト言わせて、あの強襲事件が俺たちの嘘だったってバレたら、とんでもないコトになっちまうぜ。何しろアレを『ノルド王が帝国に日和って仕掛けた狂言』って言いふらして正義を騙って、こんだけ仲間集めしたんだからな。
     もしバレたりなんかしたら、俺たちがその仲間に殺されちまう)
     シェロは仕方無く、口を開く。
    「(その諸問題と言うのは、何のことでしょうか)」
    「(貴様には聞いていない。下がれ)」
     突っぱねられるが、シェロは食い下がる。
    「(答えて下さい)」
    「(下がれと言っただろう! 貴様の如き僻地の一兵卒が、我々に口を利けると思うのか!?)」
     相手が高圧的な態度に出たところで、シェロは打開策を閃く。
    「(……みんな!)」
     シェロはくるっと振り返り、背後にいた兵士たちに号令をかける。
    「(帝国が事実の隠蔽に乗り出したぞ! 今回の件に関わってる証拠だ! 袋叩きにしろ!)」
    「(お、……おうッ!)」
     シェロに従い、軍団の兵士たちが一斉に、帝国兵に向かって駆け出す。
    「(な、……なんだ!? な、何をする貴様ら……)」
     反撃する機も与えず、軍団兵たちは帝国兵を囲む。
    「(オラぁ!)」
    「(なめんなよ!)」
    「(死ね、死ねっ、死ねえッ!)」
     殺気立ち、帝国兵らに得物を振り下ろす軍団兵を見て、シェロは慌てて止めようとする。
    「あっ、ま、待て! 殺すな……」
     だが止める間も無く、軍団兵は寄ってたかって、帝国兵たちを嬲り殺しにしてしまった。
    「あ、ああ……、なんてコトすんだ……」
    「(よ、……よし! こ、これで、……これで、万事、問題無く、……なったので、……あるな、シェロ?)」
    「……」
     恐る恐る尋ねたミェーチ将軍に、シェロは答えることができなかった。
    (問題、大有り、……だ)



     この事件を受け、ミェーチ軍団はノルド王国への侵攻を中止し、帝国軍への対策を講じることとなった。
     いや、「対策を講じる」とはほとんど言い訳、口実に過ぎず――。
    「(どうする、シェロ?)」
    「(どうするったって……)」
     やってきた帝国兵は――態度こそ高圧的であったとは言え――あくまで調査に来た者たちである。それをろくに応対もせず、一方的に囲んで殺してしまったとあっては、ただでさえ冷酷な帝国軍が許すはずも、ましてやシェロたちの弁解に応じるはずも無い。
     このまま放っておけば、やがて帝国軍は事実を把握し、ミェーチ軍団に向けて大量の兵を放ってくるのは明白である。かと言って、辛うじてノルド王国に対抗可能な程度の軍勢しか集まっていない上、参謀役がシェロ一人しかいないようなミェーチ軍団が、帝国軍が動く前に機先を制して襲撃するなどと言う離れ業を成功させられるわけも無い。
     稚拙な判断により早々に打つ手が無くなり、シェロも、ミェーチ将軍も、互いに互いを困った目で見つめながら、固まっていることしかできないでいた。

     と――二人のところに、リディアが慌てた顔で飛び込んできた。
    「(あ、あのっ)」
    「(どうした!? もう帝国が……!?)」
     強張った顔で尋ねたミェーチ将軍に、リディアはぷるぷると首を横に振り、こう返す。
    「(あ、いえ、そうじゃなくて、……えっと、シェロ。あなたに会いたいと言う人が来てます)」
    「(俺に?)」
     思いもよらない話に、シェロは面食らった。
    琥珀暁・奸智伝 2
    »»  2018.12.24.
    神様たちの話、第201話。
    「狐」につままれるシェロ。

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    3.
     リディアに手を引かれるまま、急ごしらえの応接室にやって来たシェロに、彼女が「元気そやな」と声をかけてきた。
    「……エリザ先生!?」
     驚くシェロを見て、エリザはニヤニヤ笑っている。
    「何や、えらい仲良しさんやないの。もしかしてもう結婚したんか?」
     そう言われて、シェロは慌ててリディアから手を離す。
    「い、いや、まだそんなんじゃ」
    「『まだ』かー。ほんなら近いうちやな。……いや、そんな話は今するコトとちゃうな。急ぎの話をせなアカンねん」
     エリザは立ち上がり、シェロのすぐ側に寄って耳打ちする。
    「アンタ、今めちゃめちゃ困っとるやろ」
    「うっ、……な、何でそう思うんスか?」
    「そら分かるで、アタシの予想通りってヤツやからな。せやからロウくんとマリアちゃんお供に付けて、こっちまでわざわざ足運んだったんやからな」
     ここでようやく、シェロはエリザの後ろに立っていたマリアが、自分をにらみつけていたことに気付く。
    「あ……ども」
    「ども、じゃないでしょ」
     会釈するも、マリアは依然として冷たく当たってくる。
    「尉官やあたしたちにあんだけ迷惑かけといて、よくもあんた、そんな風に女の子とイチャついてられるね?」
    「あ、……その、ソレは」
     弁解しかけたところで、エリザがぐに、とシェロの鼻をつまむ。
    「ふぎゃ!?」
    「せやから今はそんな話しとる場合とちゃうやろ? 先にアタシの話聞きよし」
    「は、はひ」
    「確認するで。アンタら、ノルド王国に攻め込む直前やったか? もう誰か、けしかけた後か? あーっと、『やるつもり無い』とか『そんな気ありまへん』とか、しょうもないごまかしはいらんで。やろうとしとるコトはよお把握しとるからな」
    「ひょ、ひょふへんへふ」
    「あ、ゴメンな」
     エリザがそこでようやく、シェロの鼻から手を離す。
    「あいててて……」
    「やった後か?」
    「まだっス」
    「ほんならええ。第二、アンタら帝国軍と接触したか?」
    「し、……しました」
    「どう言う対応した? 協力する感じか? 敵対するて言うてしもたか?」
    「言ってはいないんスけど、その……」
    「ボッコボコにしたか? 殺したとかか?」
    「……は、はい」
    「はっきり答え」
    「こっ、……殺しました。いや、殺すつもり無かったんスけど、その、部下って言うか、仲間って言うか、ソイツらが勝手に……」
    「アホやなアンタ。まあええわ、やってしもたもんはしゃあない。ほんなら授ける策はこうなるな」
     そう前置きし、エリザはテーブルの上に地図を置く。
    「まだノルド王国とやり合う前で良かったな。もしソコまでしてしもてたら、見捨てるしか無かったしな。なんぼなんでも、友好国を攻撃するようなヤツらは助けられへんし」
    「えっ……」
    「まだ多少は助けてやれへんコトも無い、っちゅうコトや」
     エリザは地図上の、砦のある位置を右人差し指で示しつつ、左手を東から西方向へ動かす。
    「ええか、アンタらはこのままこの砦で待機し、西進してくる帝国兵を迎え撃つ態勢でいとき。ソレからな、この作戦行動時だけでも、ノルド王国とクラム王国は友軍っちゅうコトにするんや」
    「ゆ、友軍ですって?」
    「そう言う約束やないと、助けようが無いからな。ソレともアンタ、あくまでアタシらと事を構えようっちゅうつもりか? どんだけアタシらが救いの手を伸べても全部いらんっちゅうて跳ね除けるつもりか?」
    「い、いや、そんなコトは」
    「せ・や・ろ?」
     エリザが一瞬語気を荒げたが、すぐにいつものやんわりした口調に戻り、続いて砦の周囲をちょん、ちょんと指し示す。
    「ほんならこの後、アンタらを助けに両国から『友軍』が来るさかいな、皆で協力して帝国軍を迎撃するんやで。そん時やけど、絶対、ノルド王国軍にも、クラム王国軍にも、勿論遠征隊にも、一切攻撃なんかしたらアカンで」
    「は、はいっ」
    「絶対やで? 絶対に、沿岸部両国のどっちに対しても、攻撃さすなよ。ソレだけはアンタが体張ってでも、絶対止めるんやで。もしうっかりでもついでも魔が差してでも個人的な恨みがうんぬんかんぬんとかやれそれとかなんやかんやとかアレやコレやとかどんな理由があったとしても、絶対、攻撃すなよ? 絶対の絶対に絶対やからな?」
    「りょ、了解っス!」
    「もし破ったら、その時はホンマに命が無いもんと思うときや。アンタとミェーチ将軍の命もやし、ソコにおるリディアちゃんの命もやで」
     再びエリザに凄まれ、シェロは思わず、自分を心配そうに見つめるリディアに顔を向ける。
    「シェロ……」
    「……だ、大丈夫。マジで、お前の命は守る。俺の命に代えても。約束する。
     分かりました、エリザ先生。今から厳命して、徹底させます」
    「任したで。ほなな」
     そう返し、エリザはロウとマリアを伴って、そそくさとその場を出て行った。
    琥珀暁・奸智伝 3
    »»  2018.12.26.
    神様たちの話、第202話。
    ころころ号令。

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    4.
     エリザに徹底的に念を押されたシェロは、大急ぎで軍団の全兵士を集め、周知した。
    「(みっ、……皆を混乱させるコトになるが、……現状、その、ノルド王国およびクラム王国は、俺たちと友好関係を結ぶコトになった)」
     つい1時間前に、ミェーチ将軍からノルド王国を攻略すると命じられたばかりであり、当然皆は困惑する。
    「(……は?)」
    「(いや、待てって。なんだそれ?)」
    「(さっきと言ってることが違うだろ!?)」
     それをどうにかなだめようと、シェロは口から出任せとばかり、言葉をあれこれと並べる。
    「(そ、その、えーと、……あっ、そうだ、真犯人! 真犯人が分かった! 先程、クラム王国からエリザ・ゴールドマン女史が我々の元を訪ねられて、えーと、ノルド王国に不信を抱く端緒となったあの事件の、アレだ、詳細が分かったと伝えられた! ソレによれば、やはり事件は帝国の仕業であり、かつ、沿岸部の人間同士に不信感を抱かせて結託しないよう、あの、ノルド王が主犯であると言う偽のうわさを流した、との、コトだ! で、えーと、先生の入念な調査によりその事実が判明したため、だからその、……あ、我々の攻撃目標は、帝国軍! 帝国軍となった! いいか、帝国軍だぞ!)」
     まくし立てたシェロに、軍団兵の半分がぽかんとした顔をし、残り半分が胡散臭そうな目を向ける。
    「(本当かよ……?)」
    「(言うことコロコロ変わるよな、アイツ)」
    「(本当にそれ、本当?)」
     シェロは冷や汗をダラダラと垂らしながらも、周知を続ける。
    「(そう言うワケだから、コレから帝国軍が俺たちのところに攻め込んでくる! あの、ほら、俺たち結託してるからな! そ、ソレにアレだ、さっき帝国兵を殺っちまったし! だからこっちに攻めてくるんだ! だが、さっきエリザ先生と約束して、その、ノルド王国とクラム王国から援軍が来るコトになった! だから彼らを攻撃したりせず、帝国軍のみを相手にするように! 絶対友軍を攻撃するなよ! 絶対だぞ! 分かったか!? 絶対の絶対に絶対だからな!? 以上だッ!)」
     言うだけ言って、シェロは皆の前からそそくさと去ってしまった。
    「(あいつ、なんかうろたえて無かったか……?)」
    「(うんうん、ビクビクしてたねー)」
    「(いつものペラペラした薄っぺらいしゃべりじゃなかったな。……マジっぽかった)」
     残された皆は口々に、シェロがもたらした情報の真偽を探り合う。
    「(だけど変だよなぁ。仮にあいつの話が本当だとしてもさ、なんで今更向こうと仲良くするんだ?)」
    「(だよねぇ。アレだけ敵だ敵だって言ってたクセしてさ)」
    「(……でも俺、エリザ先生? だっけ、それっぽい人が砦に来たの見たぜ)」
    「(エリザ先生って、あの金髪でちょっと赤毛入った、耳がでっかくて尖っててさらさらっとした毛並みの、すんげえ美人だろ?)」
    「(あ、僕も見た。狐の女将さん!)」
     が、エリザの話が出てきた途端、場の空気が変わる。
    「(正直、ナイトマンは信用できないけど、あの女将さんは信用しちゃうなー、俺)」
    「(うんうん、分かる分かる)」
    「(あの人来た途端にアイツの態度がコロっと変わったし、マジでマジなんじゃないか?)」
    「(……かも)」

     結局、シェロの話――と言うよりもエリザからの伝言だと言うこと――を信用した軍団兵は、帝国への迎撃態勢を採ることとなった。
    「後は先生が言っていた通りに、皆さんに動いてもらえれば、ですね」
     砦の守りを固める軍団兵を眼下に見ながら、リディアが心配そうにつぶやく。その隣りにいたシェロも、同じようにうなずく。
    「ああ、そうだな。……ってかさ」
     一転、シェロは頭を抱え、ため息をつく。
    「なんか俺、すげえマヌケなヤツって気がしてきた」
    「と言うと?」
    「エリザ先生に言われるままって感じがさ、何て言うか、ガキの使いみたいだなって言うか、母親に叱られてる子供って言うか」
    「そうかも知れませんね、……クス」
    琥珀暁・奸智伝 4
    »»  2018.12.27.
    神様たちの話、第203話。
    軍団の開戦。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     エリザとの密約から2日が経ち、完全な迎撃態勢が整ったところで、ミェーチ将軍の元に連絡が入った。
    「(帝国軍が接近しております! どうやら先刻の件が伝わっているらしく、大軍が向かっております!)」
     伝令の言葉に、ミェーチ将軍は「(うむ)」と大仰にうなずき、命令を伝えた。
    「(全軍に伝えろ! 全軍前進し、敵軍と接触次第、攻撃するのだ!)」
    「(了解!)」
     伝令が散ったところで、シェロがミェーチ将軍に声を掛ける。
    「(あの、一つよろしいですか?)」
    「(どうした?)」
    「(その……、早すぎると思いませんか?)」
    「(何を言うのだ? 相手が攻めて来ようと言うのだ、対応は早ければ早い方が……)」
    「(いえ、こちらの対応ではなく、相手の方がです)」
    「(と言うと?)」
     首をかしげるミェーチ将軍に、シェロが続ける。
    「(帝国軍の沿岸方面監視基地は、ココから2日くらいかかる距離でしょう? 俺たちが使いの人間を殺してまだ、2日です。もしあの出来事を目撃したヤツが都合良く居合わせて、ソコから逃げ出して報告に向かったとしても、ソイツが基地に着くまでに2日です。ソコから帝国軍が攻めてくるのなら、さらに2日かかるはずですが……)」
    「(う……うん? ここから2日、向こうから2日、……うむむむむ?)」
     指折り数えるうちに顔を真っ赤にするミェーチ将軍を見て、シェロは話を諦める。
    「(……いえ、もういいです)」
     が、娘のリディアの方は父親と違って聡明らしく、まともに回答した。
    「(シェロは、本来ならどんなに急いでも4日かかるのに、2日で攻めて来るのは時間的におかしい、と言ってるんです)」
    「(ふ、ふむ? ……ふーむ、細かいことは吾輩にはピンと来ないが、シェロもお前もおかしいと言うのであれば、やはりおかしいのだろう。だが今、その思索はあまり役立ちはしないのではないか?)」
    「(……ええ、そうですね。いくら理屈が合わないって言っても、現実に帝国軍が来てるワケですからね)」
     と、リディアが恐る恐ると言った口ぶりでつぶやく。
    「(まさかシェロとお父様が謀ったように、これも偽装だったりするのでは?)」
    「(……ま、まさかぁ)」

     不安をよそに――実際に、帝国軍はミェーチ軍団のすぐ近くまで迫っていることが確認され、それを受けてシェロとミェーチ将軍も本営に臨場した。
    「(状況はどうなっておる?)」
     尋ねたミェーチ将軍に、部下たちが異口同音に答える。
    「(既に会敵し、戦闘が始まっております)」
    「(現状では帝国軍側が優勢の模様です)」
    「(帝国との衝突など当初から想定していたものではなく、兵士たちは明らかに混乱しております)」
    「(それに加え、帝国に直接反旗を翻すような行為をしていることもあり、怯えている者が多数見られます)」
    「(全面的に押される形勢となっており、前線は既に壊滅寸前です! 早急に立て直す策をご提示下さい!)」
     詰め寄られ、ミェーチ将軍はシェロに目を向ける。
    「(何か策はあるのか?)」
    「(え、……えーと)」
     シェロも口ごもるばかりで指示が出せず、互いに困った目を向け合うばかりである。
     と――伝令が2名、慌てて本営に飛び込んで来る。
    「(南よりクラム王国からの友軍が合流しました! 現在、帝国軍の左翼方向から攻撃を加えており、帝国側は退却を始めています!)」
    「(な、なんと!?)」
    「(北からもノルド王国からの友軍が到着! こちらは右翼方向から攻撃中です!)」
    「(シェロ、これは一体……!?)」
     目を白黒させつつ尋ねてきたミェーチ将軍に、シェロはどうにか声色を作って答える。
    「(こ、……これはですね、俺とエリザ先生が2日前に相談を行い、こうするようにと言う作戦だったんです、多分、……いえ、間違い無くそう言う作戦です)」
    「(おお、そうであったか! いや、やはりお前は素晴らしい策士であるな!)」
     ミェーチ将軍が笑いながら、バンバンとシェロの肩を叩く。
    「(まっ、まあ、……こ、こんなもんですよ、あは、あははは、……はは)」
     自分でも今、何が起こっているのか全く把握できないでいたが――ともかくシェロは、自信有りげな風を装い、うそぶいておいた。



     ミェーチ軍団と帝国軍との戦闘は、軍団を狙って西へ直進していた帝国軍が、その両翼からクラム王国軍とノルド王国軍による挟撃を受けた結果、呆気無く壊滅した。
     その後、散り散りに逃げた帝国軍の残党もほとんどが各個撃破され、日が暮れる頃には、この戦いは軍団・両王国による連合軍の完全勝利と言う形で決着した。
    琥珀暁・奸智伝 5
    »»  2018.12.28.
    神様たちの話、第204話。
    エリザの予測。

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    6.
     戦闘後、赤い満月が真上に昇る頃になって、エリザとロウ、そしてマリアの3人が、砦を訪ねてきた。
    「ちゃんとアタシの言い付け守ったみたいやな。おつかれさん」
    「ど、ども」
     シェロはエリザに深々と頭を下げ、それから恐る恐る尋ねた。
    「先生も戦いに参加されてたんですか?」
    「せえへん、せえへん。安全なトコで状況報告聞いとったんや。今回、こっちの戦いで指揮官やっとったからな。
     実際に戦っとったんは後ろのロウくんとマリアちゃんや。いや、ごっつ戦果挙げてくれたんよ。なー?」
    「えへへ……」「へへっ」
     揃って笑顔を見せるロウとマリアを眺めながら、シェロは相槌を打つ。
    「あ、そうなんスか。……ん?」
     と、エリザの言葉が引っかかり、聞き返す。
    「指揮官って? 尉官はこっちにいないんですか?」
    「別の作戦を担当してもろてるからな。もうじき、そっちからの報告が来るやろ」
    「ど、どう言うコトっスか? 別の作戦って……!?」
     初めて聞かされた情報に、シェロは当惑する。
    「簡単なこっちゃ」
     そう言って、エリザはにやあっと、悪辣な笑みを浮かべてきた。
    「アンタを利用した。ソレだけのコトや」



     半月前、どうにかハンに降って湧いた悪評を払拭し、体制の立て直しが進みつつあった頃――。
    「ちょとお願いしたいコトあるねんけどええかな? もうボチボチみんな、ハンくんの言うコト聞いてくれるやろし」
    「なんです?」
    「言うたら、今まで『防戦』やったやん? 今から『攻撃』しよかっちゅう話やねん」
    「攻撃? 一体何をすると?」
     尋ねたハンに、エリザはニヤニヤ笑いながら説明し始めた。
    「ま、結論言う前にな、いっぺんコレまでに起こったコト、整理しとこか。
     まず第一にな、帝国兵さんらがウチらの方に攻め込もうとしてはったトコからや。ま、この出来事自体は今更、特に語るコトもあらへんのやけど、問題になるんは『数』や」
    「数と言うと?」
     何を指すのか分からず、ハンは首をかしげる。
    「兵力や。あん時、相手さんは何人くらいやった?」
    「150名程度だったとの報告がありましたね」
    「せやね。で、コレが敵さん……、こっちに駐屯してはる帝国軍の全軍やと思うか?」
    「それは有り得ないでしょう。仮に全軍を突撃させておいて、それを俺たちが撃破してしまったら、帝国の打つ手が無くなりますからね。大多数を温存させるでしょう」
     ハンの回答にうんうんとうなずきつつ、エリザは話を続ける。
    「そう、駐屯してはる基地の方にはまだ兵隊さんがおるはずや。で、ハンくん。この基地には何人くらいおると思う?」
     エリザの問いに、ハンは思案しつつ答える。
    「そうですね……、こちらに向かわせた数の3倍か、4倍と言うところでしょうか」
    「大体そんなトコやろけど、もいっこ、判断材料があるんよ」
    「判断材料?」
    「ハンくんらが勝ってからずっと、向こうさん何もせえへんかったやろ? 何でやと思う?」
    「戦意を喪失したか、あるいは勝ち目がかなり低いと踏み、警戒したんでしょう」
    「多分後者やね。前者としたら、アレからもう何ヶ月も経っとんのに未だにヘコんどんのかいっちゅう話になるし、兵士やっちゅう人間が、ソコまで臆病者だらけのワケが無いからな。
     後者の可能性が高いとしたら、何を警戒しとんのやろな」
    「俺たちの魔術、いや、相手にとっては『良く分からない戦闘技術』にでしょう」
    「ソレもあるやろな。でももっと目に見えるもんがあるやないの。つまりコレも『数』の問題や」
    「兵力、……そうか、遠征隊600名とクラム王国軍400名、この兵力の合計が、帝国軍よりはるかに多い、と言うことですね?」
     答えたハンに、エリザは満足げにうなずく。
    「そう言うコトや。ソレもうかつに手出しでけへんくらいの差、多分2倍くらいになっとったんやろ」
    「2倍となると……」
    「相手さん、おおよそ500っちゅうトコやろな。このくらいやったらクラム王国の前身、ユーグ王国におった兵力よりも、ミェーチ将軍が引き抜く前のノルド王国の兵力よりも多いし、帝国が圧力かけたろと思えば十分な数や。万が一反乱が起こって全面対決せなアカンとなったとしても、500対400で帝国が全滅する危険は少ないやろしな。
     ところがアタシらがブイブイ言わしてからは500対1000や。こらまともに当たったら全滅も有り得る。その上ノルド王国と友好条約まで結んでしもて、もし両方相手する羽目になったら、ノルド王国の400とも戦わなアカンくなる。500対1400なんてもう、負け戦が目に見えとるからな。
     せやから、今の今まで動くに動けへんかったんや」
    琥珀暁・奸智伝 6
    »»  2018.12.29.
    神様たちの話、第205話。
    "Knight" fall into "Night"。

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    7.
    「今の今まで、……と言うことは、帝国軍がここで行動に出ると?」
     ハンの問いに、エリザは「ソレや」とうなずく。
    「丁度今、向こうにとったら都合良く混乱しとるトコやないか。クラム王国を牛耳っとる強敵の遠征隊は内輪揉めの真っ最中やし、一方のノルド王国では、有力者のミェーチ将軍が離反して兵隊集めしとるし、や。加えて、さっきの『数』の予測通りに判断・行動しとるとするなら、帝国さんは――沿岸部のみんなと違て――ソレなりに情報の収集・分析能力があると見てええやろう。こっちの揉め事も十分把握しとるやろし、各勢力の兵力も割り出しとるはずや。
     ただ、クラム王国を叩くにも、ノルド王国を叩くにも、まだ予断の許さへん状況ではある。クラム王国はまだ1000引くいくらか残っとると見るやろし、ノルド王国かて、攻めとる最中にアタシらが、友好条約を口実にして助けに来たら、一巻の終わりや。
     ま、何やかや言うても、こう言う時は一番ちっこい敵から叩いていくんが常道や。しかもその敵は、クラム王国からもノルド王国からも白い目で見られとるヤツや。助けや援護なんか、絶対来るわけ無いっちゅうようなヤツなら、こっちが好き勝手に追い込んで叩きのめせるやろ、……と考えはるやろな。
     ちゅうワケで狙いは、ミェーチ将軍とシェロくんらの方になるやろな」
    「本当に……?」
    「アタシの見通しが信じられへんか?」
     いたずらっぽい目つきでそう尋ね返すエリザに、ハンは苦笑した。
    「信じますよ」



    「ちゅうワケでな、アンタらを『囮』、エサに使わせてもろたんよ。帝国軍が尻尾振って飛び付いてくるような、アタシらにとってめっちゃ都合ええエサにな」
    「な……」
     共通の敵である帝国をも手玉に取り、さらには間接的に、自分たちに危害を加えたことを仄めかすエリザの冷徹非道な言葉に、シェロは凍り付く。が、そんなシェロに構う様子も無く、エリザはこう続ける。
    「おかげで帝国さん、基地の防衛はスッカスカや。アンタらの軍勢200か300かを叩くために送った兵は、確実にソレを超える。基地内の半分以上の数や。となれば基地に残っとるヤツは半分以下っちゅう計算になる。
     その200いくらかを殲滅するために送ったんは、遠征隊のほぼ全員、600。今頃はもう、基地なんか影も形もあらへんやろな」
    「じゃ、……じゃあ、まさか、もしかして」
     シェロは額に汗を浮かべながら、恐る恐る尋ねる。
    「こっちに、異様に早く、帝国軍が来たのは……」
    「お、気付いとったか? せや、アタシらがうわさ流して仕掛けさせたんや。『軍団が使いの人間ボコボコにして監禁しよったで』ってな。ま、殺しとったんはちょと予想外やったけど」
    「なんてコトを……! 俺たちを、嵌(は)めたんですか!?」
     嘆くシェロに、エリザが「はっ」と笑い飛ばす。
    「アンタもアタシらを、いや、ハンくんを嵌めたやないの。お返しやん」
    「う……」
     と、そこでエリザが「ちょい待ってな」と断り、魔術頭巾を被る。
    「『リプライ』、……あーはいはい、ビートくんやね。聞こえとるよ。どないや? ……うん、……うん、……おぉ、よー頑張ったな。おつかれさん。ほな気ぃ付けて帰りや」
    「沿岸基地から、ですか」
     尋ねたシェロに、エリザは「せや」とうなずく。
    「作戦終了した言うてたわ。完全勝利やて」
    「そ、そうです、か」
     完全に手玉に取られていたことを悟り、シェロはもう、エリザを直視することができなくなっていた。
     と、エリザが立ち上がり、シェロのあごに手をやって、半ば無理矢理に顔を上げさせる。
    「コレでよお分かったやろ」
    「な……なにが、ですか?」
    「アタシを敵に回したらどうなるかが、や。
     今度また、アタシやハンくん、遠征隊の皆を傷付けるようなコトしてみいや。そん時は本気でオシオキしたるからな?」
    「あ……う……」
     底知れぬ恐怖を感じ、シェロはごくりと固唾を呑む。
    「あ、ソレからな」
     シェロのあごをつかんだまま、エリザは話を続ける。
    「アンタ、除隊な」
    「えっ、あ……え?」
    「アンタが自分の意志で勝手に抜けたのどうの言うても、ゼロさんトコでそんな言い訳、一切通用せえへんからな。アンタの扱いは『不名誉除隊』、はっきり言うたらクビ、懲戒免職や。
     よって今後一生、ゼロさんの管轄する土地には一歩たりとも足を踏み入れるコトは禁止や。ソレから遠征隊の管轄、つまりクラム王国も全域やし、ノルド王国との友好条約ん中にも犯罪者引き渡しの協定入れとるから、そっちも入れへんで。もしどっちかに踏み入っったら、問答無用で敵か賊やと見なす。アンタもう、首をはねられてもしゃあない前科者やでっちゅうコトや。
     せやからな」
     エリザはようやくシェロから手を放し、ニコニコと微笑みつつ、こう言い捨てて出て行った。
    「二度とアタシらの前に顔見せるんやないで。ええな?」
     後を追う形で、ロウも、マリアも出て行き、部屋にはシェロ一人が残された。
    「……は……はは……不名誉除隊か……俺がかよ……」
     シェロはそのばにうずくまり、頭を抱え、ついには慟哭した。
    「うぐ……ぐっ……くそ……くそっ……くそおっ……!」



     この日以降――シェロ・ナイトマンは、「ゼロの世界」における一切の名誉を失った。

    琥珀暁・奸智伝 終
    琥珀暁・奸智伝 7
    »»  2018.12.30.
    神様たちの話、第206話。
    シェロの措置。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     帝国の沿岸方面軍が壊滅したことで、事実上、沿岸部全域が帝国から解放され、クラム王国とノルド王国の実効支配地域となった。
    「以上のことから、沿岸部における帝国の影響および脅威は無くなったと見ていいでしょう。今後はノルド王国以北、西山間部との交流を標榜に入れ、活動を行う予定です」
     ハンとエリザはその経緯を、「頭巾」でゼロに報告していた。
    《ありがとう。状況は分かった。でも非常に残念だね》
     対するゼロの声には、少なからず落胆した色が混じっている。
    《セザの息子が、まさか反乱を企てるだなんて。正直、信じられないと言う気持ちで一杯だよ》
    「申し訳ありません。私の監督不行き届きです」
     謝るハンに、ゼロは《いや》と返す。
    《私にしても、父親の犠牲と貢献を、必要以上にシェロに重大視させてしまったんだろう。それがきっと、彼にとっては重荷だったはずだ。
     彼の反乱は、私にも責任がある。不名誉除隊にしたと言ったが、彼がもし管轄内に踏み込んだとしても、処分しないようにしてくれないだろうか。そこまでしてしまっては、いくら何でも彼が不憫すぎる》
    「しかし陛下、原則として不名誉除隊処分となった者は、厳罰に処すべきであると……」
    《いいんだ。彼に関しては、セザが私に貢献してくれた分だけ処罰を軽くする、としておいてくれ。これは――あまりこう言う言い方は好きじゃないけど――私の命令だ》
    「承知しました。シェロ・ナイトマンに関しては、そのように処置いたします」
    《うん、よろしく。……しかし》
     一瞬間を置いて、ゼロの憂鬱そうな声が続く。
    《最初は出来る限り友好的に、と思っていたんだけど、帝国軍を撃破しちゃったかー……》
    「しゃあないですな」
     その憂う声に、エリザが答える。
    「アタシらとしては最大限、親しくしようと努めとりますし、実際、アタシの管轄――商売関係は良好な関係をあっちこっちで築いとります。その方面においては、十二分に友好関係を結べていると言うてええでしょう。
     国家間の友好関係っちゅう話でも、国民全員の支持を得た上でクラム王国が建ち、ノルド王国とも友好条約を締結したワケですから、こちらの面でも、非友好的やっちゅうような評価をされる謂れはありまへんわ」
    《うん……うん、まあ、そうだね。それは確かだろう。どことの関係が悪くなったかと言えば、最初から強い敵対姿勢を見せていた帝国だけだものね。確かに君たちは、十分によくやってくれている。ありがとう。本当に、ありがたく思っている。今後も引き続き、現地での活動を行ってくれ。
     ……っと、それで、ハン、エリザ。確認したいことがあるんだけど》
    「何でしょうか?」
    《現時点で、一度故郷に帰りたいと言うような人間はいるかな》
    「いえ、特には……」「チラホラいてますな」
     否定しかけたハンをさえぎり、エリザが答える。
    「そらまあ、そう言う話は隊長や副隊長には、面と向かってよお言えんっちゅうところはありますからな。その点、アタシは直接聞かんでも、間接的に聞く方法はいくらでもありますさかい」
    《う、うん。そう言う点、とても良く助かるよ。……えっと、そうか、うん、やっぱりいるよね、半年以上も滞在してると。じゃあ、希望する人たちに順次、長期休暇を与えてやって欲しい。無論、一時帰還の許可も与える。
     あと、ハン。君も多少は休むようにね。クーから聞いたけど、半年以上、一度も休み無しって言うのは、ちょっと、どうかと思うんだ》
    「色々と忙しいものですから」
    《忙しいからこそ、定期的に休みは取るようにね。君が倒れたら、遠征隊全員が困るんだから》
    「留意しておきます」
    《……エリザ。ハンの休日に関しては、君に裁量を任せるよ。君の方から、いついつが休みと決めておいてくれ。多分、現地にいる君から命令しないと、彼、休みそうに無いし》
    「そうしますわ」
    琥珀暁・平岸伝 1
    »»  2019.01.03.
    神様たちの話、第207話。
    ワーカホリックの休日。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
    「と言うわけで今日は休みだ」
    「あら、珍しい」
     ゼロへの報告の直後、エリザから「ほな明日休みな」と命じられ、ハンは半年ぶりの休日を取った。
     とは言え、いつも仕事漬けのハンである。
    「それで何故、わたくしのところに?」
     尋ねたクーに、ハンは肩をすくめて返す。
    「特にやることも無いし、誰かに会う用事も無い。とりあえず思い付いたのが、君だっただけだ」
    「まあ、嬉しい。……とは申しましても、そのご回答は悲しすぎますわ。21歳の若い男性が、『やることが無い』だなんて。これがマリアなら、『ご飯食べに行きましょーよ☆』などと仰られるでしょうに」
    「ホンマやわ」
     と、クーの部屋の扉の、その向こうから声が飛んで来る。
    「エリザさん?」
    「アタシも自分の予想が当たって、こんな悲しいとは思わへんかったわ」
     そうこぼしつつ、エリザも部屋の中に入って来た。
    「アンタのコトやから、ヒマ持て余してあっちこっちウロウロしつつ部下の子らとか兵士さんとからに『何か手伝うことは無いか?』って尋ねて回って『あ、いえ、特には』とか『大丈夫です』とか断られて手持ち無沙汰になって鍛錬でもしとこかなーて修練場行ったら人いっぱいいててよっしゃ一緒に素振りでもしよか思て近付いたら『今日もこちらに?』やの『休日にもですか』やの遠回しに邪魔者扱いされてちょとヘコんでそのまま王宮までとんぼ帰りしてソレやったらマリアちゃんとかビートくんとかイサコくんとかと話しよかて探したけど三人とも外に出とるん思い出していよいよ何もやるコト無くなって途方に暮れかけたトコでよーやくクーちゃんも今日お休みやったっちゅうコト思い出してそんなら声でもかけとこか、……っちゅうトコやろ?」
    「もしかして、ずっと見てたんですか?」
     苦い顔をするハンに、エリザは「そんなヒマなコトするかいな」と返す。
    「アンタのやるコトなんて、リンダやジニーちゃんらと遊ぶ時より予想付くっちゅうねん。ま、午前中はソレで潰れるやろなと思て、時間見計らってこの辺りで待ち伏せしとったんよ」
    「結局暇人じゃないですか。エリザさん、今日は休日じゃないでしょう?」
     呆れた目を向けながら、ハンは首をかしげる。
    「俺に何か用が? それともクーに?」
    「特には無いで。お話しよう思て来ただけや」
     そう返して、エリザは手に提げていた籠を、テーブルの上に置く。
    「はい、コレお茶とお菓子な」
    「お茶?」
     クーがきょとんとした顔で、ポットの中を覗き見る。
    「こちらの邦でお茶をいただいた記憶が、と言うよりも茶葉自体を拝見した記憶がございませんけれど、茶葉をお持ちでしたの?」
    「こっちで作った新商品や。ちょと離れた村でキレイな花畑見つけてな、近くの村の人らに聞いたら食用やて聞いたから、乾燥させたり煎ってみたり色々やってみたら、ええ感じのお茶が出せたんよ。村の人も『その発想は無かった』言うて喜んではったわ」
    「まあ、素敵ですわね」
     二人が楽しそうに茶器や皿をテーブルに並べている間、ハンはぼんやり突っ立っていた。それを見たエリザが、声を掛ける。
    「ボーッとしてんと、こっち手伝い。ほら、お菓子出し」
    「あ、はい」
     席の用意が整い、エリザが座る。
    「ほな、何話そかな」
    「ではわたくしから、質問したいことが一つ」
     クーも座り、こう続ける。
    「この前お父様と話した際に、シェロの暴走は『セザの遺恨』に一因があると仰っていたのですが、わたくしが尋ねても、『昔の話だから』と仰るばかりで」
    「あー、まあ、シェロくんのコトはついこないだやし、セザさんのコトも、ゼロさんにはあんまり思い出したない話やからな」
    「と申しますと?」
    「ゼロさんにとったら、その話は『自分のせいで友達が犠牲になった話』やからな」
    「まあ」
     クーは口元を押さえ、申し訳無さそうな顔をする。
    「聞いてはいけない話でしたのね」
    「ゼロさんにとったらな。ちゅうても、アンタが聞きたかったら教えるけど。どないする?」
     そう問われ、クーは困った顔をしたが――結局、好奇心が勝ったらしく――おずおずとした様子で応じた。
    「では、その、……お伺いします」
    琥珀暁・平岸伝 2
    »»  2019.01.04.
    神様たちの話、第208話。
    第5次サウスフィールド戦。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     双月暦3年9月6日、午前2時頃――クロスセントラル南の村、サウスフィールド郊外にて。

    「ゼロだ。全隊、報告を頼む」
     まだもうもうと土煙が上がっている中、ゼロが頭巾を巻いて、討伐隊全員に状況を尋ねる。
    《アンドレス班、周囲に異常は確認できず! とりあえずバケモノは、全部吹っ飛ばしたぜ!》
    《シモン班、こっちも終わった。負傷者無し、待機中》
    《ヤク班、軽傷2名。戦線より離脱中》
    《ハロン班……》
     各班から報告を受け、順次ゼロが応答する。
    「ゼロだ。各班状況、把握した。死亡者がいないようでほっとしたよ。じゃ、とりあえず皆、僕のところに集合して」
    《了解》
     各班班長から口々に応答を受け、ゼロはふう、とため息をついた。
    「どうしたんですか、陛下?」
    「安心したからね。今回もみんな生きて帰れそうだって。それよりセザ」
     ゼロは苦い顔をして、隣りにいた自分の班員、セザに釘を刺す。
    「『陛下』は勘弁して欲しいんだってば。そりゃ王様のことはそう呼ぶんだって教えたのは僕なんだけども、自分がそんな風に呼ばれるのは、どうもね」
    「そう仰られても」
     セザも同じように、苦い顔を返してくる。
    「私の陛下への敬愛を示すものですから」
    「皆と同じように話しかけて欲しいんだけどなぁ」
     他愛もない話をしているうちに、他の班の者たちがぞろぞろと戻って来る。
    「おつかれさん、ゼロ」
     その先頭に立つゲートが、手を振りつつ近付いて来る。
    「おつかれ、ゲート。今回もどうにかなって良かった」
    「そうだな。しかしさ」
     一転、ゲートは神妙な顔をする。
    「もういい加減、お前が現場に来るのはやめにした方がいいんじゃないか? お前に何かあったらどうすんだって、いっつも言ってるよな?」
    「その話は何度もしたじゃないか」
     ゼロは肩をすくめ、ゲートの提案を断った。
    「誰かに危険な仕事を丸投げして、自分は遠い安全なところでふんぞり返ってるなんて、僕の気が気じゃないんだよ。
     それにさ、みんなもうノウハウと言うか、ある程度慣れてきた感じもあるから、そうそう危険な目に遭うなんてことも無いだろうし」
    「まーたお前は呑気なことを」
     ゲートはふう、と不満げな息を吐きつつ、辺りを見回す。
    「みんなボチボチ戻ってきてるな。この後は?」
    「見張りを付かせて、この辺りで日の出まで休もう」
    「おう」
     やがて隊の全員が無事な姿で戻り、ゼロが呼びかける。
    「みんな、おつかれさま。今晩はとりあえず、ここで休もう。先にアンドレス班とスレイ班、それからムース班とエリア班、後は僕の班とシモン班の順で見張りを行い、残りの者はここで……」
     と――その時だった。
    「ゼロ! 待て!」
     フレンが顔をこわばらせ、ゼロの側に寄る。
    「な、なに? どうしたの?」
    「何か……妙だ。異様な視線を感じる。空気もさえぎられたような感じだ。まるで、周りがいきなり壁で囲まれたような……」
     そう答えたフレンに、ゼロももう一度、周囲を見渡す。
    「……確かに。変な雰囲気だ。みんな、周囲に投光!」
     命じられ、全員が魔術で周囲を照らす。
     次の瞬間――ゼロを含め、討伐隊の全員が戦慄した。
    「な、……なんだ、あの数!?」
    「周り中……埋まってる」
    「何で今更、こんな数が……!?」
    「全部倒したはずじゃ……」

     これはまだ、ゼロが「三つのプロトコル」をはっきり見定める以前の話である。
     バケモノを退治した後に、さらに大挙して押し寄せてくると言うような状況は想定しておらず――と言うよりも、既にこの地に現れた分を、襲撃した勢力のすべてであると誤認していたため、その算定でしか軍事物資を用意しておらず、さらにそれも、この時点でほぼ使い切ってしまっていた。
     結果、ゼロたちは満足に魔杖も盾も無い状況で、おびただしい数のバケモノを相手に、夜戦を強いられることとなった。
    琥珀暁・平岸伝 3
    »»  2019.01.05.
    神様たちの話、第209話。
    多大な犠牲の、教訓と報恩。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
    「はあ……はあ……」
     長い夜を過ごし、ようやく東の崖の向こう、水平線からうっすらと光が差した頃になって、状況は沈静化した。
    「ゼロだ。全隊、状況報告を」
     どうにか息を整えながら、血まみれになったゼロが、状況を確認する。
    《アンドレス班、2名死亡。残ったのは俺とギルだけだ。どっちもケガしてる》
    《エリア班、1名死亡。班長死亡につき、ウーゴが伝えています》
    《シモン班だ。何とか生き残ったが、マウロが腕を食い千切られて重体。止血はしたが、クロスセントラルまで持つかどうか……》
     各班から状況が伝えられるが、どこからも全員無事だと言う報告は無い。
    「分かった。ありがとう。全員、僕のところに集合。今から光球を飛ばすから、そこに集まってくれ」
     空に向かって光の球を打ち上げたところで、ゼロはその場にうずくまった。
    「……ひどいな」
     血が固まり、赤茶けた色に染まったひげを撫でながら、ゼロは周囲を見渡す。
    「ダニー、ヘス、……それから、セザも。僕のところは、全滅か……」
     ゼロの周囲には、その3人の無残な死体が散らばっていた。

     この戦いから奇跡的に生還したゼロは、周囲の強い説得を受け、以後の臨場を行わないと宣言した。また、戦死した者たちの家族については、ゼロが生涯厚遇することを約束した。
     勿論、この戦いにより死亡したセザについても、死の直前までゼロを守り抜いたその忠義に敬意を評し、ゼロ直々に「ナイトマン(Knightman)」の姓を贈ると共に、その息子であるシェロについても、後に創設される軍において比較的優先・優遇されるように取り図られた。



    「ま、そんなトコやね。言うたらハンくんの班に入れられたんも、将来の出世を約束するって言うたようなもんやし。……何やな?」
     ハンが渋い顔をしているのに気付き、エリザがいぶかしげな目を向ける。
    「俺自身は特に優遇したとか、ひいきしたと言う認識はありませんよ」
    「ソレ、本気で言うてる?」
     ハンの言葉を聞くなり、エリザは一転してニヤリと笑みを返し、皮肉を添える。
    「しょっちゅうゼロさんやらゲートとかの将軍やらと親密にオハナシする機会あって、『自分らは優遇なんかされてまへんで』て? 他の子らが聞いたらどんな顔しはるやろな」
    「む……」
     ばつの悪そうな顔をするハンを見据えたまま、エリザは話を続ける。
    「アタシな、今回のコトも、ソコにいっこ原因あるんちゃうか思とるんよ」
    「と言うと?」
    「言うたら、ちっちゃい頃から人生決まってしもてたようなもんやん? ゼロさんに目ぇかけられとって、軍の偉いさんと話そう思たらいつでも話せる立ち位置で。その上遠征っちゅう特殊任務にも、アンタと並んで一番に声掛けられたワケやし。
     こら『自分で人生切り開いたる』って意気込んどる若い子にとったら、一から十までうっとうしくてたまらんやろ?」
    「確かに……そう言えるかも知れませんね」
    「しかもちょっとでも自分のやりたいコトしようもんなら、やいやい文句言われて殴られるしな。アンタやったらどうやねんな? 自分のやりたいコトちっともやらしてもらえず、『俺の命令聞け』て殴られて懲罰房やで? どう思う?」
    「本当に、その件は、反省してますから」
     顔をしかめさせたハンからクーへと視線を移し、エリザはニヤニヤと笑みを向ける。
    「ま、この子がそう言うアホやらかしそうになった時は、ちゃんと止めたり、じっくりお話したりしいや」
    「ええ、承知しておりますわ」
    「なんでクーに……」
     つぶやくハンに、エリザがもう一度目を向ける。
    「ソレも分からんか?」
    「どうせ彼女が将来的に、俺の側に付くものと思ってるんでしょう?」
    「ならへん未来は無いやろ。なー、クーちゃん?」
    「ええ、それ以外の未来はございませんわね」
     笑い合う二人に、ハンは殊更苦い顔をする。
    「たった今、人生観を云々したばかりでしょう。俺は俺の相手くらい、自分で探しますよ」
    「さがす?」
     エリザとクーが同時にそう返し、また揃って笑い出した。
    「休みの日に訪ねて来たんはドコやねんな」
    「この未来は変更不可能ですわよ」
    「くっ……」
     ハンはそれ以上、何も言わなくなった。
    琥珀暁・平岸伝 4
    »»  2019.01.06.
    神様たちの話、第210話。
    沿岸部平定。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     沿岸部における帝国の勢力が一掃され、この地を分割統治しているクラム王国とノルド王国の両国は、互いの立場と協力関係を改めて確認すべく、協議を行うこととなった。
    「(帝国との関係は事実上、解消された。向こうの了承を得ない形でな。故に今後、帝国からの報復が懸念されるが……)」
     そう切り出したノルド王に、エリザが応じる。
    「(襲って来た際には協力してくれるか、っちゅうコトですな?)」
    「(うむ)」
    「(勿論、放っておくようなコトはしませんわ。仮にそうしてノルド王国さんらが滅亡したら、その後に重大な悪影響が及ぶやろうコトを想像に難くありませんからな。
     とは言えタダで、無条件で、とは言えませんけども)」
    「(承知しておる。ある程度は補償・補填できるよう、取り図ろう。とは言え我が国は豊かでは無い故、満額の補償はしかねるが)」
    「(帝国さんとの関係解消したっちゅうコトは、そっちへ貢いどったカネも今後、払わんでええっちゅうコトになりますな。となれば減税もでけますやろ)」
    「(ふむ、確かに)」
    「(税金安うすれば商売も活発になりますし、王様も皆から好かれるでしょうから、ソレなりに豊かになると思いますで。アタシの方でも商売の方、指導したりますさかい)」
    「(誠に痛み入る)」
     その他、色々と話し合いを重ね、両国の関係が明確化・明文化された。
    「(ああ、そうだ。これも伝えておかねばな)」
     と、ノルド王が話題を切り替える。
    「(ミェーチ軍団の一件であるが、こちらでの処分が決定した)」
    「(あら)」
    「(慰留はしたのだが、『此度の混乱で殿には尋常ならざる恥と迷惑をお掛けいたした。これ以上吾輩が城に留まっておっては、さらなる大禍を招きかねぬ』と言うて、結局我が元を去った。
     うわさに聞くところによれば、彼らはここよりさらに北、西山間部へ向かったそうだ)」
    「(山間部……西ですか?)」
     尋ねたクーに、ノルド王の側近らが説明してくれた。
    「(我が邦が沿岸部と山間部に二分されていることは、殿下はご承知のことと存じますが、山間部はさらに、東西に分かれておるのです)」
    「(山間部の中央にゼルカノゼロと言う土地があり、そこから東西に二分されております)」
    「(ゼルカノゼロには巨大な塩湖があり、この周辺はイスタス王国の領土です)」
    「(そこと我がノルド王国との間にも小国がいくつかあり、恐らくミェーチ元将軍はそのどこかに食客、あるいは新たな将として落ち延びるものではないかと)」
    「(さようですか)」

     そのミェーチ軍団は、沿岸部の北にある峠を上っていた。
    「(詳しく聞いてませんでしたが、これからドコに?)」
     尋ねたシェロに、ミェーチ将軍が説明する。
    「(うむ……、西山間部のレイス王国に知り合いがおる。まずはそこを訪ね、新たな拠点を築く足がかりにしようと考えておる)」
    「(新たな拠点?)」
    「(吾輩を慕って集まってくれた者たちを、吾輩の都合で放逐などできるはずも無い。どこかで態勢を整え、確かな戦力として地位を確立すれば、養うこともできよう)」
    「(しかし、沿岸部における我々の醜聞は、西山間部にも既に届いているのではないでしょうか? 我々のコトをまともな軍事勢力と考えて接してくれるかどうか……)」
     消極的な言葉を漏らすシェロを、ミェーチ将軍が叱咤する。
    「(やってみなければ分かるまい? 実情はどうあれ、我々も帝国に反旗を翻し、そして――助力があったとは言え――その軍勢を退けた実績もあるのだ。醜聞より実績を重視する者があれば、きっと我々もまた、返り咲くこともできよう)」
    「(そうでしょうか……)」
     暗い表情を見せるシェロの肩を、ミェーチ将軍はばしっと叩く。
    「(自信を持て、シェロ。お前は一人で沿岸部に旋風を巻き起こした男ではないか。きっと山間部でも、巷間を騒がすような活躍ができよう。吾輩はお前に、並々ならぬ期待を抱いておるのだ。
     よろしく頼んだぞ、婿殿)」
    「(ええ、……む、婿? って?)」
     目を丸くするシェロに、リディアが背後から抱きついて来た。
    「(山間部で落ち着いたら、是非わたしと結婚しましょう。それとも、わたしとはお嫌ですか?)」
    「(い、嫌じゃないけど、でも、何で俺なんかと?)」
     そう尋ねたシェロに、リディアははっきりと、シェロの故郷の言葉で答えた。
    「あなただからいいんです」
    「……そ、そう、っスか」



     こうして半年間に渡る、沿岸部一帯をめぐる一連の戦いは終息した。
     戦いの舞台はさらに北、山間部へと移って行く。

    琥珀暁・平岸伝 終
    琥珀暁・平岸伝 5
    »»  2019.01.07.

    神様たちの話、第196話。
    狂言と風説。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     強襲騒ぎから半月も経とうかと言う頃になり、ハンに関する悪いうわさも、ノルド王国に届き始めていた。
    「(なんと、あの隊長殿が……?)」
    「(隣国はそのうわさで持ち切りのようです。既に巷では、反シモンの声も上がってきているとか)」
     家臣の報告に、ノルド王は腕を組んでうなる。
    「(ううむ……。祭りや会議の時には廉潔な男と思っておったが、もしうわさが事実だとすれば、手放しで信用できるような相手では無いな。
     いや、とは言え友好条約に関しては、結んで間違いは無かったであろう。仮に隊長殿が悪漢であったとしても、エリザ女史は到底、そうは思えぬからな。万が一隊長殿が暴走したとて、きっとエリザ女史が収めるであろう)」
    「(であればよいのですが)」
     と――そこへ突然、ミェーチ将軍がずかずかと、荒い靴音を立てて現れた。
    「(殿! お尋ね申したい件がございます!)」
    「(なんだ、エリコ? 唐突に……)」
     いぶかしげな顔をするノルド王に、ミェーチ将軍は大声で、こんなことを言い出した。
    「(先の帝国兵強襲の一件、殿のご指示であったと言うのは本当ですか!?)」
    「(……は?)」
     ノルド王も、周りの家臣たちも、一様にきょとんとしているが、ミェーチ将軍は構う様子も無くまくし立てる。
    「(なんでも、『殿は友好条約の内容に不満を感じ、帝国との復縁を図ろうとしている』と言うではございませぬか! 既に市井では騒ぎになっておりますぞ! 曰く、殿は『卑劣にも両方と手を組まんとする日和見者』と評されておりまする!
     ここではっきりお答えいただきたい! 一体、殿はどちらの味方に付くおつもりですか!?)」
    「(な……、え……? いや、わし、そんなこと、知りもせんぞ?)」
     目を白黒させているノルド王に、ミェーチ将軍はなおも詰め寄る。
    「(ごまかすおつもりか!? ここで殿が事実を詳(つまび)らかにできぬとあらば、吾輩は世にその信を問いますぞ!)」
    「(そ、それは、……どう言う意味だ?)」
    「(市井に呼びかけ、殿に付き従う者がいるか広く問うのです! 此度の一件に正義があるのならば、人民は殿を選ぶでしょう! しかし万一、従えぬと言う者が多数現れるのならば……)」
     そこまで畳み掛けたところで、武装した兵士たちがわらわらと、ミェーチ将軍の後に続く形で現れる。
     場の空気が物々しいものになり、家臣団が一様に戦慄した表情を浮かべたところで、ミェーチ将軍はこう言い捨てた。
    「(吾輩は必ずや、真の正義を世に、そして殿ご自身に知らしめて見せますぞ!)」
    「(まっ、待て、エリコ! お主まさか、わしに楯突くと言うのか!?)」
     ノルド王は顔を真っ赤にして立ち上がり、怒鳴りつけるが――瞬時に兵士たちが武器を構え、牽制する。
    「(う……ぐ)」
     ノルド王は今の今まで安穏と玉座に座っており、武装などしていない。また、王の御前であるため、家臣たちもまともな武器を携帯していない。対抗できる者が数名の近衛兵しかおらず、王も家臣たちも、ミェーチ将軍の振る舞いを黙って見ていることしかできないでいた。
    「(吾輩が必ずや、正義がどこにあるのかを明らかにしてみせますぞ! では失敬いたす!)」
     硬直したままの王と家臣に背を向け、ミェーチ将軍と兵士たちは悠々と、その場から立ち去った。

     宣言した通り、ミェーチ将軍は街中で同様のことを声高に語り、王を非難した。「帝国と決別したはずの王が密かに通じていた」と言うこの怪情報を聞くなり、人々は騒然となる。
    「(……であるからして、吾輩は正義を糺すべく、行動を起こすものである! 来たれ、人民! 吾輩の軍門に集うのだ!)」
     ざわめく民衆にくるっと背を向け、ミェーチ将軍とその部下たちはぞろぞろと、彼の屋敷へと戻って行く。
     と、その途中で、ミェーチ将軍の側にそっと、シェロがやって来た。
    「(名演説でしたよ、閣下)」
    「(うむ)」
     他の者に聞かれないよう、二人は小声で話す。
    「(しかしシェロ、本当にこれで良かったものか。吾輩は主君と民衆をだましているような気になってしまうのだが)」
    「(結果的には本当のコトになります。うわさになれば、嘘が真実を駆逐するものですから)」
    「(確かにそうだ。今や、あの隊長殿は唾棄すべき悪漢と化したわけだからな。
     であればいずれ、王も民衆の非難を受けることになるのだろうな。いわれなき非難を)」
    「(そのコトは、公言なさらぬよう。バレれば悪者が我々になってしまいますから)」
    「(承知しておる)」

    琥珀暁・信揺伝 5

    2018.12.19.[Edit]
    神様たちの話、第196話。狂言と風説。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5. 強襲騒ぎから半月も経とうかと言う頃になり、ハンに関する悪いうわさも、ノルド王国に届き始めていた。「(なんと、あの隊長殿が……?)」「(隣国はそのうわさで持ち切りのようです。既に巷では、反シモンの声も上がってきているとか)」 家臣の報告に、ノルド王は腕を組んでうなる。「(ううむ……。祭りや会議の時には廉潔な男と思っておったが...

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    神様たちの話、第197話。
    シェロの陰謀。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
    「帝国との関係を解消したはずのノルド王が密かに彼らと結託している」と言う、シェロが撒いたこの嘘は、瞬く間に「本当らしいうわさ」として、沿岸部全域に広まった。
     そして「どっち付かずの態度を取る恥知らずの王に反逆した」ミェーチ将軍のうわさも同じくらいの速度で伝播し、彼の元には大勢の者が集まってきていた。
    「(兵士だけでも、優に200名は集まった。と言っても、半分が元々吾輩の率いていた部下であるが)」
    「(では残り半分は、純粋に閣下を慕って集まった者と言うワケですね)」
     シェロはニヤッと笑い、ミェーチ将軍をおだてる。
    「(流石は閣下。もし俺の工作が無かったとしても、この結果から考えれば、単に挙兵したとしても、十分な人数が集まっていたコトでしょう)」
    「(う、うむ。そうであるか)」
     まんざらでも無さそうな表情を浮かべたミェーチ将軍にニコニコと笑顔を浮かべて見せつつ、シェロはこう続けた。
    「(では閣下、計画を次に進めましょう)」
    「(うむ。次は、……えーと)」
    「(クラム王国へ赴き、今度はシモンを非難して兵を集めるんです)」
    「(おう、そうであったな)」
    「(友好条約を結んだ王の『不実』が明らかになったコトで、シモンもさらに評判を落としているはずです。ソコへ『英雄』である閣下が現れ、『腐敗した現状を糺すべく人民を集める』とでも吹聴すれば、多くの者がやって来るでしょう。コレは俺の予想ですが、恐らく兵士100人、いや、200人は堅いでしょう。
     400人も集まれば、ノルド王国の軍勢400名と同等、……いや、今回の件で抜けた人数を引いて300名ですから、こちらが優勢になります。後は王宮を攻め、王を討つばかりです。
     そしてノルド王国を落とし次第、今度はクラム王国を……)」
     そこまで語ったところで、ミェーチ将軍が浮かない顔になる。
    「(本当に良いのか? お主の本隊であろう)」
    「(構いやしませんよ)」
     にべもなくそう返し、シェロは悪辣に笑う。
    「(隊のヤツらだって、いずれ俺に感謝するでしょう)」
    「(どう言う意味だ?)」
    「(クラム王国を陥落させれば、シモンは間違い無く更迭されます。本国へ強制送還されるのは確実でしょう。クラム殿下だって、陥落した国に残されるなんてコトは有り得ません。彼女のお父上から呼び戻されるコトは、想像に難くありません。
     となると、彼らを本国まで護送する人間が必要でしょう? もう半年近く故郷を離れて仕事してるヤツらにとったら、帰郷する絶好のチャンスってワケです。ソコら辺も織り交ぜて説得したら、みんなコロっと乗っかってきますよ)」
    「(うーむ……。何とも悪知恵の働く奴め)」
    「(おほめに預かり、光栄です)」

     こうしてミェーチ将軍とシェロは意気揚々とクラム王国を訪れ、ノルド王国で仕掛けたように、グリーンプールで喧伝を行った。
    「(……であるように、正義を思う心に邦の違いは無いはずである! 憂える者よ、吾輩の元に集え!)」
     ミェーチ将軍はノルド王国でやったのと同じようにとうとうと語り、民衆を煽(あお)る。さらにはシェロも、ハンを悪し様に罵りつつ、自分たちに協力すれば帰郷の機会がある可能性も提示し、しきりに勧誘する。
     ところが――ノルド王国の時とは打って変わって、どう言うわけか皆、二人を冷ややかな目で眺めている。いや、正確にはシェロ一人に、その視線が向けられていた。
    「……え?」
     その視線に気付き、シェロはたじろぐ。
    「ナイトマン。何でお前がここにいるんだ?」
     と、遠征隊の一人が声を掛けられ、シェロは薄ら笑いを浮かべつつ、ぺらぺらと話し始めた。
    「ソレはほら、ミェーチ将軍の男気に感動してって言うかさ。いやさ、前のアレあっただろ? 隊長が俺をボコボコにした件。あんなひどいコト許しておけるかって相談に乗ってもらってたらさ、将軍から『一緒に戦わないか』って誘われたんだよ。お前らもさ、いつまでもあんなクズのトコにいないで……」「クズはてめーのことだろうが」「……えっ?」
     元同僚から冷淡に罵られ、シェロは絶句した。

    琥珀暁・信揺伝 6

    2018.12.20.[Edit]
    神様たちの話、第197話。シェロの陰謀。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -6.「帝国との関係を解消したはずのノルド王が密かに彼らと結託している」と言う、シェロが撒いたこの嘘は、瞬く間に「本当らしいうわさ」として、沿岸部全域に広まった。 そして「どっち付かずの態度を取る恥知らずの王に反逆した」ミェーチ将軍のうわさも同じくらいの速度で伝播し、彼の元には大勢の者が集まってきていた。「(兵士だけでも、優...

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    神様たちの話、第198話。
    沿岸部の情報戦。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
     戸惑うシェロを、遠征隊の者たちが口々に糾弾する。
    「俺たち、エリザ先生から聞いてんだよ」
    「『強襲騒ぎん時おらへんかったシェロくんが、隊長帰ってきた途端にいきなり騒ぎ出したん、なんぼなんでもタイミング良すぎやん』ってな」
    「あと、『もしこの流れでシェロくんがシモン隊長倒そうとか言い出したら、強襲騒ぎは絶対シェロくんの狂言やで』とも仰ってたし」
    「ミェーチ将軍はこっちの名士だからな。協力してもらえば大抵のことはできるよな」
    「それにお前、ミェーチ将軍の娘さんと付き合ってんだって?」
    「隊長を悪者に仕立てて退治して、『お義父さん』にいいトコ見せてやるぜってか? よくやるな、全く」
    「しかもどさくさに紛れてノルド王国まで襲う気なのか?」
    「強欲っつーかさー、ゲスだよな、お前」
     彼らの冷たい視線に気付いたのか、街の者もひそひそと内輪で話し始める。
    「(なんか変だよね……)」
    「(女将さんが言ってた通りに将軍やって来たし)」
    「(じゃ、女将さんが『強襲騒ぎもノルド王のうわさも全部、ミェーチ将軍の自作自演』って言ってたのって、やっぱり本当なのかな?)」
    「(っぽいよねー)」
     その空気を感じ、シェロとミェーチ将軍は顔を見合わせる。
    「(しぇ、シェロよ。何かまずいな?)」
    「(……退散しましょう。ヤバいです)」
     人集めもそこそこに、二人はその場から逃げ出した。



     エリザはシェロの基本戦略が「風説の流布」と「扇動」にあるとにらみ、対抗策を講じていた。
     彼女も自分の人脈を使い、シェロに関する否定的なうわさを、クラム王国に撒いていたのである。
    「ちゅうワケで事実上、追い返した感じやね」
    「助かりました」
     素直に頭を下げるハンに、エリザは「気にせんでええよ」とにこやかに笑って返す。
    「コレでとりあえず、クラム王国は影響されにくくなるやろ。ちゅうてもシェロくんの誘惑には一理あるから、なびいてまう子は多少おるやろけども」
    「と言うと?」
    「あの子の主張しとった通り、アンタの更迭やクーちゃんの逐電やらがあったら、確かに帰郷のチャンスやからな。もし本気で帰りたいと思とる子がおったら、ついフラッと口車に乗せられてまうかも分からん。
     ちゅうてもや、ソレは追ったり、責めたりしんときや。『ついフラッと』っちゅう子は迷いやすい子やからな、『一時の気の迷いやった』と思い返して戻ってくるかも分からん。ソレをこっちが責め立てて退路断ってしもたら、絶対戻って来おへん。いや、戻って来られへんからな」
    「しかし、そんな不実な人間を置いておくのは規律に……」
     反論しかけたハンに、エリザが首を振る。
    「寛容やで、ハンくん。
     何でもかんでも厳しくしとったらええ組織になるっちゅうもんや無い。ドコかに逃げ道作ったらな、誰も残らへんで。人間、『楽したい』『嫌な思いしたない』が基本姿勢やん? ソレを真っ向から否定するようなルール作ったところで、誰も従わへんし、反発も大きい。ソレは良く身に染みとるやろ?」
    「ええ……まあ」
    「人間の本質を否定するルール作るようなヤツは、人間を、他人を見とらん。自分のコトしか見てへんねん。自分のコトしか考えへんヤツに手ぇ貸したないし、言うコトなんか聞く気にならへんやろ? ソレが今回の失敗の原因や。
     せやからな、ちょっとした気の迷いくらい、大らかな心で許したり。戻って来たいっちゅう子は何も責めたらんと、温かく迎えてやるんやで」
    「銘肝しておきます」
    「ん」
     エリザはにこっと微笑みつつ、「あ、そうそう」と話題を切り替えた。
    「ちょとお願いしたいコトあるねんけどええかな? もうボチボチみんな、ハンくんの言うコト聞いてくれるやろし」
    「なんです?」
    「言うたら、今まで『防戦』やったやん? 今から『攻撃』しよかっちゅう話やねん」
    「攻撃? 一体何をすると?」
     尋ねたハンに、エリザはニヤニヤ笑いながら、ある驚くべき「予測」を伝えた。
    「……ちゅうワケで狙いは、ミェーチ将軍とシェロくんらの方になるやろな」
    「本当に……?」
    「アタシの見通しが信じられへんか?」
     いたずらっぽい目つきでそう尋ね返すエリザに、ハンは苦笑する。
    「無論、信じますよ。それで俺たちは、何をすれば?」
    「1個目は南側からやな。ノルド王国からも出せるだけ出してもろて、両側から潰すんや。ほんで2個目は本陣に向かわし。お留守のうちに叩いてしまうんや。
     コレで沿岸部のゴタゴタ、全部解決や」

    琥珀暁・信揺伝 終

    琥珀暁・信揺伝 7

    2018.12.21.[Edit]
    神様たちの話、第198話。沿岸部の情報戦。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -7. 戸惑うシェロを、遠征隊の者たちが口々に糾弾する。「俺たち、エリザ先生から聞いてんだよ」「『強襲騒ぎん時おらへんかったシェロくんが、隊長帰ってきた途端にいきなり騒ぎ出したん、なんぼなんでもタイミング良すぎやん』ってな」「あと、『もしこの流れでシェロくんがシモン隊長倒そうとか言い出したら、強襲騒ぎは絶対シェロくんの狂言...

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    神様たちの話、第199話。
    ミェーチ軍団。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     グリーンプールでは冷たい扱いを受けたものの、ミェーチ将軍とシェロは、それ以外の沿岸部各地で着々と兵と装備、そして資金を集めることに成功し、巷では既に「ミェーチ軍団」と称されるほどの勢力となっており、両国のほぼ中間に位置するなだらかな湾岸地に、それなりの規模の砦を築くまでに、沿岸部におけるその存在感を強めていた。
    「(それでシェロよ、これからどうする?)」
    「(兵法に曰く、『攻め易きを攻めよ』です)」
    「(ひょうほう、……とは?)」
    「(簡単に言えば、戦い方の指南です)」
     シェロは本を片手に、とうとうと語る。
    「(まず自分たちで倒せる程度の弱い相手から消していき、強者に対しては真っ向から戦わず、分散させて別個に叩くか、あるいは多方向から引っ張り回して疲労させる。ソレを繰り返せば、いずれ我々が勝ち残る。……と言うワケです)」
    「(ふーむ、なるほど……。ところでシェロ、それは何だ?)」
     本を指差され、シェロはきょとんとする。
    「(ソレ? ……本のコトですか?)」
    「(ほん?)」
    「(人の話を紙に写してまとめたものです。まさかと思いますが、こちらには書物の類が無いんですか?)」
    「(初めて見る。かみと言うのが何なのかも分からん。それは何かの革なのか?)」
     しげしげと本を眺めるミェーチ将軍に、シェロは説明する。
    「(木や草で作られてます。細かい製法は俺も知りませんが)」
    「(人の話と言っていたが、それを開ければ話が聞こえると言うことか?)」
    「(文字に起こしてあるので、それを自分で読むんです)」
    「(これは随分ボロボロであるが、貴重な品では無いのか?)」
    「(俺たちの邦じゃ、ソコらの店先で売ってます。まあ、安いものでは無いですけど)」
    「(ふむ)」
     ミェーチ将軍は本を手に取り、目を細めて表紙を眺める。
    「(……さっぱり読めん)」
    「(こっちの言葉じゃないですからね)」
    「(何と書いてあるのだ?)」
    「(『戦闘対策論基礎編 ゼロ・タイムズ』です)」
    「(ゼロ・タイムズと言うのは確か、シェロの邦の王であったな。……ふむ)」
     神妙な顔をするミェーチ将軍に、シェロは首をかしげる。
    「(何か?)」
    「(いや、そちらの邦の王は変わっておるなと思うてな)」
    「(変わってる? ドコがですか?)」
    「(王と言うものは、自分の絶対的優位を保たねばならぬものだ。それは富によってであったり、力によってであったりするのだが、知識、知恵と言うものもそれに並ぶものであろう。他人が知り得ぬ知識を持っていれば、いかなる時でも優位に立てるのだからな。しからば知識を秘匿し、己のみのものとしておくのが常道であろう。
     しかるにタイムズ王がやっていることは、まるで己の金庫から巨万の富をバラ撒いているようだと思ってな)」
    「(はあ……? そんなもんですかね)」
     と、そこへリディアが、スープの入ったカップを3つ、盆に乗せて持って来た。
    「(二人とも、お話は一旦休憩にしませんか?)」
    「(うん? ……そうだな、ちと休むか)」
     ミェーチ将軍はカップを取り、ぐび、と飲む。シェロも同じように飲もうと口を付けるが――。
    「……っぢゃ、あぢちちっ!?」
    「(あっ、……あの、熱いので気を付けて、……って、言おうとしたんですが)」
    「(ちと遅かったな。我らは慣れておるが、お主にはちと熱かろう)」
    「あちち、……はは、へへへ」
     何故か気恥ずかしくなり、シェロは笑ってごまかした。

     シェロの進言に沿う形で、ミェーチ将軍は軍団をノルド王の住まう王国首都、ネザメルレスへと向けることにした。
    「(吾輩を信じ集まってきてくれた諸君らよ、いよいよ戦いの時は来た! かつて我が君であったノルド王を討ち、我らが正義を示す覇業の第一歩とするのだ!)
     大仰な壮行演説に扇動された兵士たちは、一斉に鬨の声を挙げる。
    「(では……、全軍、進めッ!)」
    「(おうッ!)」
     ミェーチ将軍に指揮され、兵士たちは荒々しい靴音を響かせ、進行を開始し――ようとした。
     が、そこへ数名、ミェーチ軍団の者より明らかに上等な戦闘服を着た者たちが正面から現れ、先導していたミェーチ将軍の前で立ち止まった。

    琥珀暁・奸智伝 1

    2018.12.23.[Edit]
    神様たちの話、第199話。ミェーチ軍団。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -1. グリーンプールでは冷たい扱いを受けたものの、ミェーチ将軍とシェロは、それ以外の沿岸部各地で着々と兵と装備、そして資金を集めることに成功し、巷では既に「ミェーチ軍団」と称されるほどの勢力となっており、両国のほぼ中間に位置するなだらかな湾岸地に、それなりの規模の砦を築くまでに、沿岸部におけるその存在感を強めていた。「(そ...

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    神様たちの話、第200話。
    最悪の事態。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     彼らと出会った瞬間、ミェーチ将軍は青ざめた。
    「(う……うっ)」
    「(どうしたんです? 彼らは一体……?)」
     シェロが尋ねるが、ミェーチ将軍は何も答えず、困り果てた表情でシェロと、相手とを交互に見ているばかりである。
    「(エリコ・ミェーチ将軍だな?)」
     と、相手が威圧的な態度で声を掛けてくる。その瞬間、シェロも今、自分たちが非常にまずい状況に置かれたことを察知した。
    (やべっ、帝国兵かコイツら!?)
     シェロの予想を裏付けるように、彼らはミェーチ将軍を詰問し始めた。
    「(現在、ノルド王国で取り沙汰されている諸問題に貴様が関わっていると聞き、こうして足を運んでやったのだ。
     いつまでも間抜けな面を浮かべていないで、何か言ったらどうだ?)」
    「(う、……そ、その、それはだな、何から話せば良いか、その)」
     しどろもどろに答えつつ、ミェーチ将軍はシェロをチラチラと横目で見てくる。
    (え、……助けろって? 今? 俺が? ……勘弁してくれよぉ)
     辟易するが、ここで適当にやり過ごさなければ、自分にも面倒が降り掛かってくるのは明白である。
    (コイツらに下手なコト言わせて、あの強襲事件が俺たちの嘘だったってバレたら、とんでもないコトになっちまうぜ。何しろアレを『ノルド王が帝国に日和って仕掛けた狂言』って言いふらして正義を騙って、こんだけ仲間集めしたんだからな。
     もしバレたりなんかしたら、俺たちがその仲間に殺されちまう)
     シェロは仕方無く、口を開く。
    「(その諸問題と言うのは、何のことでしょうか)」
    「(貴様には聞いていない。下がれ)」
     突っぱねられるが、シェロは食い下がる。
    「(答えて下さい)」
    「(下がれと言っただろう! 貴様の如き僻地の一兵卒が、我々に口を利けると思うのか!?)」
     相手が高圧的な態度に出たところで、シェロは打開策を閃く。
    「(……みんな!)」
     シェロはくるっと振り返り、背後にいた兵士たちに号令をかける。
    「(帝国が事実の隠蔽に乗り出したぞ! 今回の件に関わってる証拠だ! 袋叩きにしろ!)」
    「(お、……おうッ!)」
     シェロに従い、軍団の兵士たちが一斉に、帝国兵に向かって駆け出す。
    「(な、……なんだ!? な、何をする貴様ら……)」
     反撃する機も与えず、軍団兵たちは帝国兵を囲む。
    「(オラぁ!)」
    「(なめんなよ!)」
    「(死ね、死ねっ、死ねえッ!)」
     殺気立ち、帝国兵らに得物を振り下ろす軍団兵を見て、シェロは慌てて止めようとする。
    「あっ、ま、待て! 殺すな……」
     だが止める間も無く、軍団兵は寄ってたかって、帝国兵たちを嬲り殺しにしてしまった。
    「あ、ああ……、なんてコトすんだ……」
    「(よ、……よし! こ、これで、……これで、万事、問題無く、……なったので、……あるな、シェロ?)」
    「……」
     恐る恐る尋ねたミェーチ将軍に、シェロは答えることができなかった。
    (問題、大有り、……だ)



     この事件を受け、ミェーチ軍団はノルド王国への侵攻を中止し、帝国軍への対策を講じることとなった。
     いや、「対策を講じる」とはほとんど言い訳、口実に過ぎず――。
    「(どうする、シェロ?)」
    「(どうするったって……)」
     やってきた帝国兵は――態度こそ高圧的であったとは言え――あくまで調査に来た者たちである。それをろくに応対もせず、一方的に囲んで殺してしまったとあっては、ただでさえ冷酷な帝国軍が許すはずも、ましてやシェロたちの弁解に応じるはずも無い。
     このまま放っておけば、やがて帝国軍は事実を把握し、ミェーチ軍団に向けて大量の兵を放ってくるのは明白である。かと言って、辛うじてノルド王国に対抗可能な程度の軍勢しか集まっていない上、参謀役がシェロ一人しかいないようなミェーチ軍団が、帝国軍が動く前に機先を制して襲撃するなどと言う離れ業を成功させられるわけも無い。
     稚拙な判断により早々に打つ手が無くなり、シェロも、ミェーチ将軍も、互いに互いを困った目で見つめながら、固まっていることしかできないでいた。

     と――二人のところに、リディアが慌てた顔で飛び込んできた。
    「(あ、あのっ)」
    「(どうした!? もう帝国が……!?)」
     強張った顔で尋ねたミェーチ将軍に、リディアはぷるぷると首を横に振り、こう返す。
    「(あ、いえ、そうじゃなくて、……えっと、シェロ。あなたに会いたいと言う人が来てます)」
    「(俺に?)」
     思いもよらない話に、シェロは面食らった。

    琥珀暁・奸智伝 2

    2018.12.24.[Edit]
    神様たちの話、第200話。最悪の事態。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -2. 彼らと出会った瞬間、ミェーチ将軍は青ざめた。「(う……うっ)」「(どうしたんです? 彼らは一体……?)」 シェロが尋ねるが、ミェーチ将軍は何も答えず、困り果てた表情でシェロと、相手とを交互に見ているばかりである。「(エリコ・ミェーチ将軍だな?)」 と、相手が威圧的な態度で声を掛けてくる。その瞬間、シェロも今、自分たちが非常...

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    神様たちの話、第201話。
    「狐」につままれるシェロ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     リディアに手を引かれるまま、急ごしらえの応接室にやって来たシェロに、彼女が「元気そやな」と声をかけてきた。
    「……エリザ先生!?」
     驚くシェロを見て、エリザはニヤニヤ笑っている。
    「何や、えらい仲良しさんやないの。もしかしてもう結婚したんか?」
     そう言われて、シェロは慌ててリディアから手を離す。
    「い、いや、まだそんなんじゃ」
    「『まだ』かー。ほんなら近いうちやな。……いや、そんな話は今するコトとちゃうな。急ぎの話をせなアカンねん」
     エリザは立ち上がり、シェロのすぐ側に寄って耳打ちする。
    「アンタ、今めちゃめちゃ困っとるやろ」
    「うっ、……な、何でそう思うんスか?」
    「そら分かるで、アタシの予想通りってヤツやからな。せやからロウくんとマリアちゃんお供に付けて、こっちまでわざわざ足運んだったんやからな」
     ここでようやく、シェロはエリザの後ろに立っていたマリアが、自分をにらみつけていたことに気付く。
    「あ……ども」
    「ども、じゃないでしょ」
     会釈するも、マリアは依然として冷たく当たってくる。
    「尉官やあたしたちにあんだけ迷惑かけといて、よくもあんた、そんな風に女の子とイチャついてられるね?」
    「あ、……その、ソレは」
     弁解しかけたところで、エリザがぐに、とシェロの鼻をつまむ。
    「ふぎゃ!?」
    「せやから今はそんな話しとる場合とちゃうやろ? 先にアタシの話聞きよし」
    「は、はひ」
    「確認するで。アンタら、ノルド王国に攻め込む直前やったか? もう誰か、けしかけた後か? あーっと、『やるつもり無い』とか『そんな気ありまへん』とか、しょうもないごまかしはいらんで。やろうとしとるコトはよお把握しとるからな」
    「ひょ、ひょふへんへふ」
    「あ、ゴメンな」
     エリザがそこでようやく、シェロの鼻から手を離す。
    「あいててて……」
    「やった後か?」
    「まだっス」
    「ほんならええ。第二、アンタら帝国軍と接触したか?」
    「し、……しました」
    「どう言う対応した? 協力する感じか? 敵対するて言うてしもたか?」
    「言ってはいないんスけど、その……」
    「ボッコボコにしたか? 殺したとかか?」
    「……は、はい」
    「はっきり答え」
    「こっ、……殺しました。いや、殺すつもり無かったんスけど、その、部下って言うか、仲間って言うか、ソイツらが勝手に……」
    「アホやなアンタ。まあええわ、やってしもたもんはしゃあない。ほんなら授ける策はこうなるな」
     そう前置きし、エリザはテーブルの上に地図を置く。
    「まだノルド王国とやり合う前で良かったな。もしソコまでしてしもてたら、見捨てるしか無かったしな。なんぼなんでも、友好国を攻撃するようなヤツらは助けられへんし」
    「えっ……」
    「まだ多少は助けてやれへんコトも無い、っちゅうコトや」
     エリザは地図上の、砦のある位置を右人差し指で示しつつ、左手を東から西方向へ動かす。
    「ええか、アンタらはこのままこの砦で待機し、西進してくる帝国兵を迎え撃つ態勢でいとき。ソレからな、この作戦行動時だけでも、ノルド王国とクラム王国は友軍っちゅうコトにするんや」
    「ゆ、友軍ですって?」
    「そう言う約束やないと、助けようが無いからな。ソレともアンタ、あくまでアタシらと事を構えようっちゅうつもりか? どんだけアタシらが救いの手を伸べても全部いらんっちゅうて跳ね除けるつもりか?」
    「い、いや、そんなコトは」
    「せ・や・ろ?」
     エリザが一瞬語気を荒げたが、すぐにいつものやんわりした口調に戻り、続いて砦の周囲をちょん、ちょんと指し示す。
    「ほんならこの後、アンタらを助けに両国から『友軍』が来るさかいな、皆で協力して帝国軍を迎撃するんやで。そん時やけど、絶対、ノルド王国軍にも、クラム王国軍にも、勿論遠征隊にも、一切攻撃なんかしたらアカンで」
    「は、はいっ」
    「絶対やで? 絶対に、沿岸部両国のどっちに対しても、攻撃さすなよ。ソレだけはアンタが体張ってでも、絶対止めるんやで。もしうっかりでもついでも魔が差してでも個人的な恨みがうんぬんかんぬんとかやれそれとかなんやかんやとかアレやコレやとかどんな理由があったとしても、絶対、攻撃すなよ? 絶対の絶対に絶対やからな?」
    「りょ、了解っス!」
    「もし破ったら、その時はホンマに命が無いもんと思うときや。アンタとミェーチ将軍の命もやし、ソコにおるリディアちゃんの命もやで」
     再びエリザに凄まれ、シェロは思わず、自分を心配そうに見つめるリディアに顔を向ける。
    「シェロ……」
    「……だ、大丈夫。マジで、お前の命は守る。俺の命に代えても。約束する。
     分かりました、エリザ先生。今から厳命して、徹底させます」
    「任したで。ほなな」
     そう返し、エリザはロウとマリアを伴って、そそくさとその場を出て行った。

    琥珀暁・奸智伝 3

    2018.12.26.[Edit]
    神様たちの話、第201話。「狐」につままれるシェロ。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3. リディアに手を引かれるまま、急ごしらえの応接室にやって来たシェロに、彼女が「元気そやな」と声をかけてきた。「……エリザ先生!?」 驚くシェロを見て、エリザはニヤニヤ笑っている。「何や、えらい仲良しさんやないの。もしかしてもう結婚したんか?」 そう言われて、シェロは慌ててリディアから手を離す。「い、いや、まだ...

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    神様たちの話、第202話。
    ころころ号令。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     エリザに徹底的に念を押されたシェロは、大急ぎで軍団の全兵士を集め、周知した。
    「(みっ、……皆を混乱させるコトになるが、……現状、その、ノルド王国およびクラム王国は、俺たちと友好関係を結ぶコトになった)」
     つい1時間前に、ミェーチ将軍からノルド王国を攻略すると命じられたばかりであり、当然皆は困惑する。
    「(……は?)」
    「(いや、待てって。なんだそれ?)」
    「(さっきと言ってることが違うだろ!?)」
     それをどうにかなだめようと、シェロは口から出任せとばかり、言葉をあれこれと並べる。
    「(そ、その、えーと、……あっ、そうだ、真犯人! 真犯人が分かった! 先程、クラム王国からエリザ・ゴールドマン女史が我々の元を訪ねられて、えーと、ノルド王国に不信を抱く端緒となったあの事件の、アレだ、詳細が分かったと伝えられた! ソレによれば、やはり事件は帝国の仕業であり、かつ、沿岸部の人間同士に不信感を抱かせて結託しないよう、あの、ノルド王が主犯であると言う偽のうわさを流した、との、コトだ! で、えーと、先生の入念な調査によりその事実が判明したため、だからその、……あ、我々の攻撃目標は、帝国軍! 帝国軍となった! いいか、帝国軍だぞ!)」
     まくし立てたシェロに、軍団兵の半分がぽかんとした顔をし、残り半分が胡散臭そうな目を向ける。
    「(本当かよ……?)」
    「(言うことコロコロ変わるよな、アイツ)」
    「(本当にそれ、本当?)」
     シェロは冷や汗をダラダラと垂らしながらも、周知を続ける。
    「(そう言うワケだから、コレから帝国軍が俺たちのところに攻め込んでくる! あの、ほら、俺たち結託してるからな! そ、ソレにアレだ、さっき帝国兵を殺っちまったし! だからこっちに攻めてくるんだ! だが、さっきエリザ先生と約束して、その、ノルド王国とクラム王国から援軍が来るコトになった! だから彼らを攻撃したりせず、帝国軍のみを相手にするように! 絶対友軍を攻撃するなよ! 絶対だぞ! 分かったか!? 絶対の絶対に絶対だからな!? 以上だッ!)」
     言うだけ言って、シェロは皆の前からそそくさと去ってしまった。
    「(あいつ、なんかうろたえて無かったか……?)」
    「(うんうん、ビクビクしてたねー)」
    「(いつものペラペラした薄っぺらいしゃべりじゃなかったな。……マジっぽかった)」
     残された皆は口々に、シェロがもたらした情報の真偽を探り合う。
    「(だけど変だよなぁ。仮にあいつの話が本当だとしてもさ、なんで今更向こうと仲良くするんだ?)」
    「(だよねぇ。アレだけ敵だ敵だって言ってたクセしてさ)」
    「(……でも俺、エリザ先生? だっけ、それっぽい人が砦に来たの見たぜ)」
    「(エリザ先生って、あの金髪でちょっと赤毛入った、耳がでっかくて尖っててさらさらっとした毛並みの、すんげえ美人だろ?)」
    「(あ、僕も見た。狐の女将さん!)」
     が、エリザの話が出てきた途端、場の空気が変わる。
    「(正直、ナイトマンは信用できないけど、あの女将さんは信用しちゃうなー、俺)」
    「(うんうん、分かる分かる)」
    「(あの人来た途端にアイツの態度がコロっと変わったし、マジでマジなんじゃないか?)」
    「(……かも)」

     結局、シェロの話――と言うよりもエリザからの伝言だと言うこと――を信用した軍団兵は、帝国への迎撃態勢を採ることとなった。
    「後は先生が言っていた通りに、皆さんに動いてもらえれば、ですね」
     砦の守りを固める軍団兵を眼下に見ながら、リディアが心配そうにつぶやく。その隣りにいたシェロも、同じようにうなずく。
    「ああ、そうだな。……ってかさ」
     一転、シェロは頭を抱え、ため息をつく。
    「なんか俺、すげえマヌケなヤツって気がしてきた」
    「と言うと?」
    「エリザ先生に言われるままって感じがさ、何て言うか、ガキの使いみたいだなって言うか、母親に叱られてる子供って言うか」
    「そうかも知れませんね、……クス」

    琥珀暁・奸智伝 4

    2018.12.27.[Edit]
    神様たちの話、第202話。ころころ号令。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -4. エリザに徹底的に念を押されたシェロは、大急ぎで軍団の全兵士を集め、周知した。「(みっ、……皆を混乱させるコトになるが、……現状、その、ノルド王国およびクラム王国は、俺たちと友好関係を結ぶコトになった)」 つい1時間前に、ミェーチ将軍からノルド王国を攻略すると命じられたばかりであり、当然皆は困惑する。「(……は?)」「(いや...

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    神様たちの話、第203話。
    軍団の開戦。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     エリザとの密約から2日が経ち、完全な迎撃態勢が整ったところで、ミェーチ将軍の元に連絡が入った。
    「(帝国軍が接近しております! どうやら先刻の件が伝わっているらしく、大軍が向かっております!)」
     伝令の言葉に、ミェーチ将軍は「(うむ)」と大仰にうなずき、命令を伝えた。
    「(全軍に伝えろ! 全軍前進し、敵軍と接触次第、攻撃するのだ!)」
    「(了解!)」
     伝令が散ったところで、シェロがミェーチ将軍に声を掛ける。
    「(あの、一つよろしいですか?)」
    「(どうした?)」
    「(その……、早すぎると思いませんか?)」
    「(何を言うのだ? 相手が攻めて来ようと言うのだ、対応は早ければ早い方が……)」
    「(いえ、こちらの対応ではなく、相手の方がです)」
    「(と言うと?)」
     首をかしげるミェーチ将軍に、シェロが続ける。
    「(帝国軍の沿岸方面監視基地は、ココから2日くらいかかる距離でしょう? 俺たちが使いの人間を殺してまだ、2日です。もしあの出来事を目撃したヤツが都合良く居合わせて、ソコから逃げ出して報告に向かったとしても、ソイツが基地に着くまでに2日です。ソコから帝国軍が攻めてくるのなら、さらに2日かかるはずですが……)」
    「(う……うん? ここから2日、向こうから2日、……うむむむむ?)」
     指折り数えるうちに顔を真っ赤にするミェーチ将軍を見て、シェロは話を諦める。
    「(……いえ、もういいです)」
     が、娘のリディアの方は父親と違って聡明らしく、まともに回答した。
    「(シェロは、本来ならどんなに急いでも4日かかるのに、2日で攻めて来るのは時間的におかしい、と言ってるんです)」
    「(ふ、ふむ? ……ふーむ、細かいことは吾輩にはピンと来ないが、シェロもお前もおかしいと言うのであれば、やはりおかしいのだろう。だが今、その思索はあまり役立ちはしないのではないか?)」
    「(……ええ、そうですね。いくら理屈が合わないって言っても、現実に帝国軍が来てるワケですからね)」
     と、リディアが恐る恐ると言った口ぶりでつぶやく。
    「(まさかシェロとお父様が謀ったように、これも偽装だったりするのでは?)」
    「(……ま、まさかぁ)」

     不安をよそに――実際に、帝国軍はミェーチ軍団のすぐ近くまで迫っていることが確認され、それを受けてシェロとミェーチ将軍も本営に臨場した。
    「(状況はどうなっておる?)」
     尋ねたミェーチ将軍に、部下たちが異口同音に答える。
    「(既に会敵し、戦闘が始まっております)」
    「(現状では帝国軍側が優勢の模様です)」
    「(帝国との衝突など当初から想定していたものではなく、兵士たちは明らかに混乱しております)」
    「(それに加え、帝国に直接反旗を翻すような行為をしていることもあり、怯えている者が多数見られます)」
    「(全面的に押される形勢となっており、前線は既に壊滅寸前です! 早急に立て直す策をご提示下さい!)」
     詰め寄られ、ミェーチ将軍はシェロに目を向ける。
    「(何か策はあるのか?)」
    「(え、……えーと)」
     シェロも口ごもるばかりで指示が出せず、互いに困った目を向け合うばかりである。
     と――伝令が2名、慌てて本営に飛び込んで来る。
    「(南よりクラム王国からの友軍が合流しました! 現在、帝国軍の左翼方向から攻撃を加えており、帝国側は退却を始めています!)」
    「(な、なんと!?)」
    「(北からもノルド王国からの友軍が到着! こちらは右翼方向から攻撃中です!)」
    「(シェロ、これは一体……!?)」
     目を白黒させつつ尋ねてきたミェーチ将軍に、シェロはどうにか声色を作って答える。
    「(こ、……これはですね、俺とエリザ先生が2日前に相談を行い、こうするようにと言う作戦だったんです、多分、……いえ、間違い無くそう言う作戦です)」
    「(おお、そうであったか! いや、やはりお前は素晴らしい策士であるな!)」
     ミェーチ将軍が笑いながら、バンバンとシェロの肩を叩く。
    「(まっ、まあ、……こ、こんなもんですよ、あは、あははは、……はは)」
     自分でも今、何が起こっているのか全く把握できないでいたが――ともかくシェロは、自信有りげな風を装い、うそぶいておいた。



     ミェーチ軍団と帝国軍との戦闘は、軍団を狙って西へ直進していた帝国軍が、その両翼からクラム王国軍とノルド王国軍による挟撃を受けた結果、呆気無く壊滅した。
     その後、散り散りに逃げた帝国軍の残党もほとんどが各個撃破され、日が暮れる頃には、この戦いは軍団・両王国による連合軍の完全勝利と言う形で決着した。

    琥珀暁・奸智伝 5

    2018.12.28.[Edit]
    神様たちの話、第203話。軍団の開戦。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5. エリザとの密約から2日が経ち、完全な迎撃態勢が整ったところで、ミェーチ将軍の元に連絡が入った。「(帝国軍が接近しております! どうやら先刻の件が伝わっているらしく、大軍が向かっております!)」 伝令の言葉に、ミェーチ将軍は「(うむ)」と大仰にうなずき、命令を伝えた。「(全軍に伝えろ! 全軍前進し、敵軍と接触次第、攻撃す...

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    神様たちの話、第204話。
    エリザの予測。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     戦闘後、赤い満月が真上に昇る頃になって、エリザとロウ、そしてマリアの3人が、砦を訪ねてきた。
    「ちゃんとアタシの言い付け守ったみたいやな。おつかれさん」
    「ど、ども」
     シェロはエリザに深々と頭を下げ、それから恐る恐る尋ねた。
    「先生も戦いに参加されてたんですか?」
    「せえへん、せえへん。安全なトコで状況報告聞いとったんや。今回、こっちの戦いで指揮官やっとったからな。
     実際に戦っとったんは後ろのロウくんとマリアちゃんや。いや、ごっつ戦果挙げてくれたんよ。なー?」
    「えへへ……」「へへっ」
     揃って笑顔を見せるロウとマリアを眺めながら、シェロは相槌を打つ。
    「あ、そうなんスか。……ん?」
     と、エリザの言葉が引っかかり、聞き返す。
    「指揮官って? 尉官はこっちにいないんですか?」
    「別の作戦を担当してもろてるからな。もうじき、そっちからの報告が来るやろ」
    「ど、どう言うコトっスか? 別の作戦って……!?」
     初めて聞かされた情報に、シェロは当惑する。
    「簡単なこっちゃ」
     そう言って、エリザはにやあっと、悪辣な笑みを浮かべてきた。
    「アンタを利用した。ソレだけのコトや」



     半月前、どうにかハンに降って湧いた悪評を払拭し、体制の立て直しが進みつつあった頃――。
    「ちょとお願いしたいコトあるねんけどええかな? もうボチボチみんな、ハンくんの言うコト聞いてくれるやろし」
    「なんです?」
    「言うたら、今まで『防戦』やったやん? 今から『攻撃』しよかっちゅう話やねん」
    「攻撃? 一体何をすると?」
     尋ねたハンに、エリザはニヤニヤ笑いながら説明し始めた。
    「ま、結論言う前にな、いっぺんコレまでに起こったコト、整理しとこか。
     まず第一にな、帝国兵さんらがウチらの方に攻め込もうとしてはったトコからや。ま、この出来事自体は今更、特に語るコトもあらへんのやけど、問題になるんは『数』や」
    「数と言うと?」
     何を指すのか分からず、ハンは首をかしげる。
    「兵力や。あん時、相手さんは何人くらいやった?」
    「150名程度だったとの報告がありましたね」
    「せやね。で、コレが敵さん……、こっちに駐屯してはる帝国軍の全軍やと思うか?」
    「それは有り得ないでしょう。仮に全軍を突撃させておいて、それを俺たちが撃破してしまったら、帝国の打つ手が無くなりますからね。大多数を温存させるでしょう」
     ハンの回答にうんうんとうなずきつつ、エリザは話を続ける。
    「そう、駐屯してはる基地の方にはまだ兵隊さんがおるはずや。で、ハンくん。この基地には何人くらいおると思う?」
     エリザの問いに、ハンは思案しつつ答える。
    「そうですね……、こちらに向かわせた数の3倍か、4倍と言うところでしょうか」
    「大体そんなトコやろけど、もいっこ、判断材料があるんよ」
    「判断材料?」
    「ハンくんらが勝ってからずっと、向こうさん何もせえへんかったやろ? 何でやと思う?」
    「戦意を喪失したか、あるいは勝ち目がかなり低いと踏み、警戒したんでしょう」
    「多分後者やね。前者としたら、アレからもう何ヶ月も経っとんのに未だにヘコんどんのかいっちゅう話になるし、兵士やっちゅう人間が、ソコまで臆病者だらけのワケが無いからな。
     後者の可能性が高いとしたら、何を警戒しとんのやろな」
    「俺たちの魔術、いや、相手にとっては『良く分からない戦闘技術』にでしょう」
    「ソレもあるやろな。でももっと目に見えるもんがあるやないの。つまりコレも『数』の問題や」
    「兵力、……そうか、遠征隊600名とクラム王国軍400名、この兵力の合計が、帝国軍よりはるかに多い、と言うことですね?」
     答えたハンに、エリザは満足げにうなずく。
    「そう言うコトや。ソレもうかつに手出しでけへんくらいの差、多分2倍くらいになっとったんやろ」
    「2倍となると……」
    「相手さん、おおよそ500っちゅうトコやろな。このくらいやったらクラム王国の前身、ユーグ王国におった兵力よりも、ミェーチ将軍が引き抜く前のノルド王国の兵力よりも多いし、帝国が圧力かけたろと思えば十分な数や。万が一反乱が起こって全面対決せなアカンとなったとしても、500対400で帝国が全滅する危険は少ないやろしな。
     ところがアタシらがブイブイ言わしてからは500対1000や。こらまともに当たったら全滅も有り得る。その上ノルド王国と友好条約まで結んでしもて、もし両方相手する羽目になったら、ノルド王国の400とも戦わなアカンくなる。500対1400なんてもう、負け戦が目に見えとるからな。
     せやから、今の今まで動くに動けへんかったんや」

    琥珀暁・奸智伝 6

    2018.12.29.[Edit]
    神様たちの話、第204話。エリザの予測。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -6. 戦闘後、赤い満月が真上に昇る頃になって、エリザとロウ、そしてマリアの3人が、砦を訪ねてきた。「ちゃんとアタシの言い付け守ったみたいやな。おつかれさん」「ど、ども」 シェロはエリザに深々と頭を下げ、それから恐る恐る尋ねた。「先生も戦いに参加されてたんですか?」「せえへん、せえへん。安全なトコで状況報告聞いとったんや。今...

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    神様たちの話、第205話。
    "Knight" fall into "Night"。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
    「今の今まで、……と言うことは、帝国軍がここで行動に出ると?」
     ハンの問いに、エリザは「ソレや」とうなずく。
    「丁度今、向こうにとったら都合良く混乱しとるトコやないか。クラム王国を牛耳っとる強敵の遠征隊は内輪揉めの真っ最中やし、一方のノルド王国では、有力者のミェーチ将軍が離反して兵隊集めしとるし、や。加えて、さっきの『数』の予測通りに判断・行動しとるとするなら、帝国さんは――沿岸部のみんなと違て――ソレなりに情報の収集・分析能力があると見てええやろう。こっちの揉め事も十分把握しとるやろし、各勢力の兵力も割り出しとるはずや。
     ただ、クラム王国を叩くにも、ノルド王国を叩くにも、まだ予断の許さへん状況ではある。クラム王国はまだ1000引くいくらか残っとると見るやろし、ノルド王国かて、攻めとる最中にアタシらが、友好条約を口実にして助けに来たら、一巻の終わりや。
     ま、何やかや言うても、こう言う時は一番ちっこい敵から叩いていくんが常道や。しかもその敵は、クラム王国からもノルド王国からも白い目で見られとるヤツや。助けや援護なんか、絶対来るわけ無いっちゅうようなヤツなら、こっちが好き勝手に追い込んで叩きのめせるやろ、……と考えはるやろな。
     ちゅうワケで狙いは、ミェーチ将軍とシェロくんらの方になるやろな」
    「本当に……?」
    「アタシの見通しが信じられへんか?」
     いたずらっぽい目つきでそう尋ね返すエリザに、ハンは苦笑した。
    「信じますよ」



    「ちゅうワケでな、アンタらを『囮』、エサに使わせてもろたんよ。帝国軍が尻尾振って飛び付いてくるような、アタシらにとってめっちゃ都合ええエサにな」
    「な……」
     共通の敵である帝国をも手玉に取り、さらには間接的に、自分たちに危害を加えたことを仄めかすエリザの冷徹非道な言葉に、シェロは凍り付く。が、そんなシェロに構う様子も無く、エリザはこう続ける。
    「おかげで帝国さん、基地の防衛はスッカスカや。アンタらの軍勢200か300かを叩くために送った兵は、確実にソレを超える。基地内の半分以上の数や。となれば基地に残っとるヤツは半分以下っちゅう計算になる。
     その200いくらかを殲滅するために送ったんは、遠征隊のほぼ全員、600。今頃はもう、基地なんか影も形もあらへんやろな」
    「じゃ、……じゃあ、まさか、もしかして」
     シェロは額に汗を浮かべながら、恐る恐る尋ねる。
    「こっちに、異様に早く、帝国軍が来たのは……」
    「お、気付いとったか? せや、アタシらがうわさ流して仕掛けさせたんや。『軍団が使いの人間ボコボコにして監禁しよったで』ってな。ま、殺しとったんはちょと予想外やったけど」
    「なんてコトを……! 俺たちを、嵌(は)めたんですか!?」
     嘆くシェロに、エリザが「はっ」と笑い飛ばす。
    「アンタもアタシらを、いや、ハンくんを嵌めたやないの。お返しやん」
    「う……」
     と、そこでエリザが「ちょい待ってな」と断り、魔術頭巾を被る。
    「『リプライ』、……あーはいはい、ビートくんやね。聞こえとるよ。どないや? ……うん、……うん、……おぉ、よー頑張ったな。おつかれさん。ほな気ぃ付けて帰りや」
    「沿岸基地から、ですか」
     尋ねたシェロに、エリザは「せや」とうなずく。
    「作戦終了した言うてたわ。完全勝利やて」
    「そ、そうです、か」
     完全に手玉に取られていたことを悟り、シェロはもう、エリザを直視することができなくなっていた。
     と、エリザが立ち上がり、シェロのあごに手をやって、半ば無理矢理に顔を上げさせる。
    「コレでよお分かったやろ」
    「な……なにが、ですか?」
    「アタシを敵に回したらどうなるかが、や。
     今度また、アタシやハンくん、遠征隊の皆を傷付けるようなコトしてみいや。そん時は本気でオシオキしたるからな?」
    「あ……う……」
     底知れぬ恐怖を感じ、シェロはごくりと固唾を呑む。
    「あ、ソレからな」
     シェロのあごをつかんだまま、エリザは話を続ける。
    「アンタ、除隊な」
    「えっ、あ……え?」
    「アンタが自分の意志で勝手に抜けたのどうの言うても、ゼロさんトコでそんな言い訳、一切通用せえへんからな。アンタの扱いは『不名誉除隊』、はっきり言うたらクビ、懲戒免職や。
     よって今後一生、ゼロさんの管轄する土地には一歩たりとも足を踏み入れるコトは禁止や。ソレから遠征隊の管轄、つまりクラム王国も全域やし、ノルド王国との友好条約ん中にも犯罪者引き渡しの協定入れとるから、そっちも入れへんで。もしどっちかに踏み入っったら、問答無用で敵か賊やと見なす。アンタもう、首をはねられてもしゃあない前科者やでっちゅうコトや。
     せやからな」
     エリザはようやくシェロから手を放し、ニコニコと微笑みつつ、こう言い捨てて出て行った。
    「二度とアタシらの前に顔見せるんやないで。ええな?」
     後を追う形で、ロウも、マリアも出て行き、部屋にはシェロ一人が残された。
    「……は……はは……不名誉除隊か……俺がかよ……」
     シェロはそのばにうずくまり、頭を抱え、ついには慟哭した。
    「うぐ……ぐっ……くそ……くそっ……くそおっ……!」



     この日以降――シェロ・ナイトマンは、「ゼロの世界」における一切の名誉を失った。

    琥珀暁・奸智伝 終

    琥珀暁・奸智伝 7

    2018.12.30.[Edit]
    神様たちの話、第205話。"Knight" fall into "Night"。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -7.「今の今まで、……と言うことは、帝国軍がここで行動に出ると?」 ハンの問いに、エリザは「ソレや」とうなずく。「丁度今、向こうにとったら都合良く混乱しとるトコやないか。クラム王国を牛耳っとる強敵の遠征隊は内輪揉めの真っ最中やし、一方のノルド王国では、有力者のミェーチ将軍が離反して兵隊集めしとるし、や。加えて、...

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    神様たちの話、第206話。
    シェロの措置。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     帝国の沿岸方面軍が壊滅したことで、事実上、沿岸部全域が帝国から解放され、クラム王国とノルド王国の実効支配地域となった。
    「以上のことから、沿岸部における帝国の影響および脅威は無くなったと見ていいでしょう。今後はノルド王国以北、西山間部との交流を標榜に入れ、活動を行う予定です」
     ハンとエリザはその経緯を、「頭巾」でゼロに報告していた。
    《ありがとう。状況は分かった。でも非常に残念だね》
     対するゼロの声には、少なからず落胆した色が混じっている。
    《セザの息子が、まさか反乱を企てるだなんて。正直、信じられないと言う気持ちで一杯だよ》
    「申し訳ありません。私の監督不行き届きです」
     謝るハンに、ゼロは《いや》と返す。
    《私にしても、父親の犠牲と貢献を、必要以上にシェロに重大視させてしまったんだろう。それがきっと、彼にとっては重荷だったはずだ。
     彼の反乱は、私にも責任がある。不名誉除隊にしたと言ったが、彼がもし管轄内に踏み込んだとしても、処分しないようにしてくれないだろうか。そこまでしてしまっては、いくら何でも彼が不憫すぎる》
    「しかし陛下、原則として不名誉除隊処分となった者は、厳罰に処すべきであると……」
    《いいんだ。彼に関しては、セザが私に貢献してくれた分だけ処罰を軽くする、としておいてくれ。これは――あまりこう言う言い方は好きじゃないけど――私の命令だ》
    「承知しました。シェロ・ナイトマンに関しては、そのように処置いたします」
    《うん、よろしく。……しかし》
     一瞬間を置いて、ゼロの憂鬱そうな声が続く。
    《最初は出来る限り友好的に、と思っていたんだけど、帝国軍を撃破しちゃったかー……》
    「しゃあないですな」
     その憂う声に、エリザが答える。
    「アタシらとしては最大限、親しくしようと努めとりますし、実際、アタシの管轄――商売関係は良好な関係をあっちこっちで築いとります。その方面においては、十二分に友好関係を結べていると言うてええでしょう。
     国家間の友好関係っちゅう話でも、国民全員の支持を得た上でクラム王国が建ち、ノルド王国とも友好条約を締結したワケですから、こちらの面でも、非友好的やっちゅうような評価をされる謂れはありまへんわ」
    《うん……うん、まあ、そうだね。それは確かだろう。どことの関係が悪くなったかと言えば、最初から強い敵対姿勢を見せていた帝国だけだものね。確かに君たちは、十分によくやってくれている。ありがとう。本当に、ありがたく思っている。今後も引き続き、現地での活動を行ってくれ。
     ……っと、それで、ハン、エリザ。確認したいことがあるんだけど》
    「何でしょうか?」
    《現時点で、一度故郷に帰りたいと言うような人間はいるかな》
    「いえ、特には……」「チラホラいてますな」
     否定しかけたハンをさえぎり、エリザが答える。
    「そらまあ、そう言う話は隊長や副隊長には、面と向かってよお言えんっちゅうところはありますからな。その点、アタシは直接聞かんでも、間接的に聞く方法はいくらでもありますさかい」
    《う、うん。そう言う点、とても良く助かるよ。……えっと、そうか、うん、やっぱりいるよね、半年以上も滞在してると。じゃあ、希望する人たちに順次、長期休暇を与えてやって欲しい。無論、一時帰還の許可も与える。
     あと、ハン。君も多少は休むようにね。クーから聞いたけど、半年以上、一度も休み無しって言うのは、ちょっと、どうかと思うんだ》
    「色々と忙しいものですから」
    《忙しいからこそ、定期的に休みは取るようにね。君が倒れたら、遠征隊全員が困るんだから》
    「留意しておきます」
    《……エリザ。ハンの休日に関しては、君に裁量を任せるよ。君の方から、いついつが休みと決めておいてくれ。多分、現地にいる君から命令しないと、彼、休みそうに無いし》
    「そうしますわ」

    琥珀暁・平岸伝 1

    2019.01.03.[Edit]
    神様たちの話、第206話。シェロの措置。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -1. 帝国の沿岸方面軍が壊滅したことで、事実上、沿岸部全域が帝国から解放され、クラム王国とノルド王国の実効支配地域となった。「以上のことから、沿岸部における帝国の影響および脅威は無くなったと見ていいでしょう。今後はノルド王国以北、西山間部との交流を標榜に入れ、活動を行う予定です」 ハンとエリザはその経緯を、「頭巾」でゼロに...

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    神様たちの話、第207話。
    ワーカホリックの休日。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
    「と言うわけで今日は休みだ」
    「あら、珍しい」
     ゼロへの報告の直後、エリザから「ほな明日休みな」と命じられ、ハンは半年ぶりの休日を取った。
     とは言え、いつも仕事漬けのハンである。
    「それで何故、わたくしのところに?」
     尋ねたクーに、ハンは肩をすくめて返す。
    「特にやることも無いし、誰かに会う用事も無い。とりあえず思い付いたのが、君だっただけだ」
    「まあ、嬉しい。……とは申しましても、そのご回答は悲しすぎますわ。21歳の若い男性が、『やることが無い』だなんて。これがマリアなら、『ご飯食べに行きましょーよ☆』などと仰られるでしょうに」
    「ホンマやわ」
     と、クーの部屋の扉の、その向こうから声が飛んで来る。
    「エリザさん?」
    「アタシも自分の予想が当たって、こんな悲しいとは思わへんかったわ」
     そうこぼしつつ、エリザも部屋の中に入って来た。
    「アンタのコトやから、ヒマ持て余してあっちこっちウロウロしつつ部下の子らとか兵士さんとからに『何か手伝うことは無いか?』って尋ねて回って『あ、いえ、特には』とか『大丈夫です』とか断られて手持ち無沙汰になって鍛錬でもしとこかなーて修練場行ったら人いっぱいいててよっしゃ一緒に素振りでもしよか思て近付いたら『今日もこちらに?』やの『休日にもですか』やの遠回しに邪魔者扱いされてちょとヘコんでそのまま王宮までとんぼ帰りしてソレやったらマリアちゃんとかビートくんとかイサコくんとかと話しよかて探したけど三人とも外に出とるん思い出していよいよ何もやるコト無くなって途方に暮れかけたトコでよーやくクーちゃんも今日お休みやったっちゅうコト思い出してそんなら声でもかけとこか、……っちゅうトコやろ?」
    「もしかして、ずっと見てたんですか?」
     苦い顔をするハンに、エリザは「そんなヒマなコトするかいな」と返す。
    「アンタのやるコトなんて、リンダやジニーちゃんらと遊ぶ時より予想付くっちゅうねん。ま、午前中はソレで潰れるやろなと思て、時間見計らってこの辺りで待ち伏せしとったんよ」
    「結局暇人じゃないですか。エリザさん、今日は休日じゃないでしょう?」
     呆れた目を向けながら、ハンは首をかしげる。
    「俺に何か用が? それともクーに?」
    「特には無いで。お話しよう思て来ただけや」
     そう返して、エリザは手に提げていた籠を、テーブルの上に置く。
    「はい、コレお茶とお菓子な」
    「お茶?」
     クーがきょとんとした顔で、ポットの中を覗き見る。
    「こちらの邦でお茶をいただいた記憶が、と言うよりも茶葉自体を拝見した記憶がございませんけれど、茶葉をお持ちでしたの?」
    「こっちで作った新商品や。ちょと離れた村でキレイな花畑見つけてな、近くの村の人らに聞いたら食用やて聞いたから、乾燥させたり煎ってみたり色々やってみたら、ええ感じのお茶が出せたんよ。村の人も『その発想は無かった』言うて喜んではったわ」
    「まあ、素敵ですわね」
     二人が楽しそうに茶器や皿をテーブルに並べている間、ハンはぼんやり突っ立っていた。それを見たエリザが、声を掛ける。
    「ボーッとしてんと、こっち手伝い。ほら、お菓子出し」
    「あ、はい」
     席の用意が整い、エリザが座る。
    「ほな、何話そかな」
    「ではわたくしから、質問したいことが一つ」
     クーも座り、こう続ける。
    「この前お父様と話した際に、シェロの暴走は『セザの遺恨』に一因があると仰っていたのですが、わたくしが尋ねても、『昔の話だから』と仰るばかりで」
    「あー、まあ、シェロくんのコトはついこないだやし、セザさんのコトも、ゼロさんにはあんまり思い出したない話やからな」
    「と申しますと?」
    「ゼロさんにとったら、その話は『自分のせいで友達が犠牲になった話』やからな」
    「まあ」
     クーは口元を押さえ、申し訳無さそうな顔をする。
    「聞いてはいけない話でしたのね」
    「ゼロさんにとったらな。ちゅうても、アンタが聞きたかったら教えるけど。どないする?」
     そう問われ、クーは困った顔をしたが――結局、好奇心が勝ったらしく――おずおずとした様子で応じた。
    「では、その、……お伺いします」

    琥珀暁・平岸伝 2

    2019.01.04.[Edit]
    神様たちの話、第207話。ワーカホリックの休日。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -2.「と言うわけで今日は休みだ」「あら、珍しい」 ゼロへの報告の直後、エリザから「ほな明日休みな」と命じられ、ハンは半年ぶりの休日を取った。 とは言え、いつも仕事漬けのハンである。「それで何故、わたくしのところに?」 尋ねたクーに、ハンは肩をすくめて返す。「特にやることも無いし、誰かに会う用事も無い。とりあえず思い...

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    神様たちの話、第208話。
    第5次サウスフィールド戦。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     双月暦3年9月6日、午前2時頃――クロスセントラル南の村、サウスフィールド郊外にて。

    「ゼロだ。全隊、報告を頼む」
     まだもうもうと土煙が上がっている中、ゼロが頭巾を巻いて、討伐隊全員に状況を尋ねる。
    《アンドレス班、周囲に異常は確認できず! とりあえずバケモノは、全部吹っ飛ばしたぜ!》
    《シモン班、こっちも終わった。負傷者無し、待機中》
    《ヤク班、軽傷2名。戦線より離脱中》
    《ハロン班……》
     各班から報告を受け、順次ゼロが応答する。
    「ゼロだ。各班状況、把握した。死亡者がいないようでほっとしたよ。じゃ、とりあえず皆、僕のところに集合して」
    《了解》
     各班班長から口々に応答を受け、ゼロはふう、とため息をついた。
    「どうしたんですか、陛下?」
    「安心したからね。今回もみんな生きて帰れそうだって。それよりセザ」
     ゼロは苦い顔をして、隣りにいた自分の班員、セザに釘を刺す。
    「『陛下』は勘弁して欲しいんだってば。そりゃ王様のことはそう呼ぶんだって教えたのは僕なんだけども、自分がそんな風に呼ばれるのは、どうもね」
    「そう仰られても」
     セザも同じように、苦い顔を返してくる。
    「私の陛下への敬愛を示すものですから」
    「皆と同じように話しかけて欲しいんだけどなぁ」
     他愛もない話をしているうちに、他の班の者たちがぞろぞろと戻って来る。
    「おつかれさん、ゼロ」
     その先頭に立つゲートが、手を振りつつ近付いて来る。
    「おつかれ、ゲート。今回もどうにかなって良かった」
    「そうだな。しかしさ」
     一転、ゲートは神妙な顔をする。
    「もういい加減、お前が現場に来るのはやめにした方がいいんじゃないか? お前に何かあったらどうすんだって、いっつも言ってるよな?」
    「その話は何度もしたじゃないか」
     ゼロは肩をすくめ、ゲートの提案を断った。
    「誰かに危険な仕事を丸投げして、自分は遠い安全なところでふんぞり返ってるなんて、僕の気が気じゃないんだよ。
     それにさ、みんなもうノウハウと言うか、ある程度慣れてきた感じもあるから、そうそう危険な目に遭うなんてことも無いだろうし」
    「まーたお前は呑気なことを」
     ゲートはふう、と不満げな息を吐きつつ、辺りを見回す。
    「みんなボチボチ戻ってきてるな。この後は?」
    「見張りを付かせて、この辺りで日の出まで休もう」
    「おう」
     やがて隊の全員が無事な姿で戻り、ゼロが呼びかける。
    「みんな、おつかれさま。今晩はとりあえず、ここで休もう。先にアンドレス班とスレイ班、それからムース班とエリア班、後は僕の班とシモン班の順で見張りを行い、残りの者はここで……」
     と――その時だった。
    「ゼロ! 待て!」
     フレンが顔をこわばらせ、ゼロの側に寄る。
    「な、なに? どうしたの?」
    「何か……妙だ。異様な視線を感じる。空気もさえぎられたような感じだ。まるで、周りがいきなり壁で囲まれたような……」
     そう答えたフレンに、ゼロももう一度、周囲を見渡す。
    「……確かに。変な雰囲気だ。みんな、周囲に投光!」
     命じられ、全員が魔術で周囲を照らす。
     次の瞬間――ゼロを含め、討伐隊の全員が戦慄した。
    「な、……なんだ、あの数!?」
    「周り中……埋まってる」
    「何で今更、こんな数が……!?」
    「全部倒したはずじゃ……」

     これはまだ、ゼロが「三つのプロトコル」をはっきり見定める以前の話である。
     バケモノを退治した後に、さらに大挙して押し寄せてくると言うような状況は想定しておらず――と言うよりも、既にこの地に現れた分を、襲撃した勢力のすべてであると誤認していたため、その算定でしか軍事物資を用意しておらず、さらにそれも、この時点でほぼ使い切ってしまっていた。
     結果、ゼロたちは満足に魔杖も盾も無い状況で、おびただしい数のバケモノを相手に、夜戦を強いられることとなった。

    琥珀暁・平岸伝 3

    2019.01.05.[Edit]
    神様たちの話、第208話。第5次サウスフィールド戦。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3. 双月暦3年9月6日、午前2時頃――クロスセントラル南の村、サウスフィールド郊外にて。「ゼロだ。全隊、報告を頼む」 まだもうもうと土煙が上がっている中、ゼロが頭巾を巻いて、討伐隊全員に状況を尋ねる。《アンドレス班、周囲に異常は確認できず! とりあえずバケモノは、全部吹っ飛ばしたぜ!》《シモン班、こっちも終わっ...

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    神様たちの話、第209話。
    多大な犠牲の、教訓と報恩。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
    「はあ……はあ……」
     長い夜を過ごし、ようやく東の崖の向こう、水平線からうっすらと光が差した頃になって、状況は沈静化した。
    「ゼロだ。全隊、状況報告を」
     どうにか息を整えながら、血まみれになったゼロが、状況を確認する。
    《アンドレス班、2名死亡。残ったのは俺とギルだけだ。どっちもケガしてる》
    《エリア班、1名死亡。班長死亡につき、ウーゴが伝えています》
    《シモン班だ。何とか生き残ったが、マウロが腕を食い千切られて重体。止血はしたが、クロスセントラルまで持つかどうか……》
     各班から状況が伝えられるが、どこからも全員無事だと言う報告は無い。
    「分かった。ありがとう。全員、僕のところに集合。今から光球を飛ばすから、そこに集まってくれ」
     空に向かって光の球を打ち上げたところで、ゼロはその場にうずくまった。
    「……ひどいな」
     血が固まり、赤茶けた色に染まったひげを撫でながら、ゼロは周囲を見渡す。
    「ダニー、ヘス、……それから、セザも。僕のところは、全滅か……」
     ゼロの周囲には、その3人の無残な死体が散らばっていた。

     この戦いから奇跡的に生還したゼロは、周囲の強い説得を受け、以後の臨場を行わないと宣言した。また、戦死した者たちの家族については、ゼロが生涯厚遇することを約束した。
     勿論、この戦いにより死亡したセザについても、死の直前までゼロを守り抜いたその忠義に敬意を評し、ゼロ直々に「ナイトマン(Knightman)」の姓を贈ると共に、その息子であるシェロについても、後に創設される軍において比較的優先・優遇されるように取り図られた。



    「ま、そんなトコやね。言うたらハンくんの班に入れられたんも、将来の出世を約束するって言うたようなもんやし。……何やな?」
     ハンが渋い顔をしているのに気付き、エリザがいぶかしげな目を向ける。
    「俺自身は特に優遇したとか、ひいきしたと言う認識はありませんよ」
    「ソレ、本気で言うてる?」
     ハンの言葉を聞くなり、エリザは一転してニヤリと笑みを返し、皮肉を添える。
    「しょっちゅうゼロさんやらゲートとかの将軍やらと親密にオハナシする機会あって、『自分らは優遇なんかされてまへんで』て? 他の子らが聞いたらどんな顔しはるやろな」
    「む……」
     ばつの悪そうな顔をするハンを見据えたまま、エリザは話を続ける。
    「アタシな、今回のコトも、ソコにいっこ原因あるんちゃうか思とるんよ」
    「と言うと?」
    「言うたら、ちっちゃい頃から人生決まってしもてたようなもんやん? ゼロさんに目ぇかけられとって、軍の偉いさんと話そう思たらいつでも話せる立ち位置で。その上遠征っちゅう特殊任務にも、アンタと並んで一番に声掛けられたワケやし。
     こら『自分で人生切り開いたる』って意気込んどる若い子にとったら、一から十までうっとうしくてたまらんやろ?」
    「確かに……そう言えるかも知れませんね」
    「しかもちょっとでも自分のやりたいコトしようもんなら、やいやい文句言われて殴られるしな。アンタやったらどうやねんな? 自分のやりたいコトちっともやらしてもらえず、『俺の命令聞け』て殴られて懲罰房やで? どう思う?」
    「本当に、その件は、反省してますから」
     顔をしかめさせたハンからクーへと視線を移し、エリザはニヤニヤと笑みを向ける。
    「ま、この子がそう言うアホやらかしそうになった時は、ちゃんと止めたり、じっくりお話したりしいや」
    「ええ、承知しておりますわ」
    「なんでクーに……」
     つぶやくハンに、エリザがもう一度目を向ける。
    「ソレも分からんか?」
    「どうせ彼女が将来的に、俺の側に付くものと思ってるんでしょう?」
    「ならへん未来は無いやろ。なー、クーちゃん?」
    「ええ、それ以外の未来はございませんわね」
     笑い合う二人に、ハンは殊更苦い顔をする。
    「たった今、人生観を云々したばかりでしょう。俺は俺の相手くらい、自分で探しますよ」
    「さがす?」
     エリザとクーが同時にそう返し、また揃って笑い出した。
    「休みの日に訪ねて来たんはドコやねんな」
    「この未来は変更不可能ですわよ」
    「くっ……」
     ハンはそれ以上、何も言わなくなった。

    琥珀暁・平岸伝 4

    2019.01.06.[Edit]
    神様たちの話、第209話。多大な犠牲の、教訓と報恩。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -4.「はあ……はあ……」 長い夜を過ごし、ようやく東の崖の向こう、水平線からうっすらと光が差した頃になって、状況は沈静化した。「ゼロだ。全隊、状況報告を」 どうにか息を整えながら、血まみれになったゼロが、状況を確認する。《アンドレス班、2名死亡。残ったのは俺とギルだけだ。どっちもケガしてる》《エリア班、1名死亡。班...

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    神様たちの話、第210話。
    沿岸部平定。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     沿岸部における帝国の勢力が一掃され、この地を分割統治しているクラム王国とノルド王国の両国は、互いの立場と協力関係を改めて確認すべく、協議を行うこととなった。
    「(帝国との関係は事実上、解消された。向こうの了承を得ない形でな。故に今後、帝国からの報復が懸念されるが……)」
     そう切り出したノルド王に、エリザが応じる。
    「(襲って来た際には協力してくれるか、っちゅうコトですな?)」
    「(うむ)」
    「(勿論、放っておくようなコトはしませんわ。仮にそうしてノルド王国さんらが滅亡したら、その後に重大な悪影響が及ぶやろうコトを想像に難くありませんからな。
     とは言えタダで、無条件で、とは言えませんけども)」
    「(承知しておる。ある程度は補償・補填できるよう、取り図ろう。とは言え我が国は豊かでは無い故、満額の補償はしかねるが)」
    「(帝国さんとの関係解消したっちゅうコトは、そっちへ貢いどったカネも今後、払わんでええっちゅうコトになりますな。となれば減税もでけますやろ)」
    「(ふむ、確かに)」
    「(税金安うすれば商売も活発になりますし、王様も皆から好かれるでしょうから、ソレなりに豊かになると思いますで。アタシの方でも商売の方、指導したりますさかい)」
    「(誠に痛み入る)」
     その他、色々と話し合いを重ね、両国の関係が明確化・明文化された。
    「(ああ、そうだ。これも伝えておかねばな)」
     と、ノルド王が話題を切り替える。
    「(ミェーチ軍団の一件であるが、こちらでの処分が決定した)」
    「(あら)」
    「(慰留はしたのだが、『此度の混乱で殿には尋常ならざる恥と迷惑をお掛けいたした。これ以上吾輩が城に留まっておっては、さらなる大禍を招きかねぬ』と言うて、結局我が元を去った。
     うわさに聞くところによれば、彼らはここよりさらに北、西山間部へ向かったそうだ)」
    「(山間部……西ですか?)」
     尋ねたクーに、ノルド王の側近らが説明してくれた。
    「(我が邦が沿岸部と山間部に二分されていることは、殿下はご承知のことと存じますが、山間部はさらに、東西に分かれておるのです)」
    「(山間部の中央にゼルカノゼロと言う土地があり、そこから東西に二分されております)」
    「(ゼルカノゼロには巨大な塩湖があり、この周辺はイスタス王国の領土です)」
    「(そこと我がノルド王国との間にも小国がいくつかあり、恐らくミェーチ元将軍はそのどこかに食客、あるいは新たな将として落ち延びるものではないかと)」
    「(さようですか)」

     そのミェーチ軍団は、沿岸部の北にある峠を上っていた。
    「(詳しく聞いてませんでしたが、これからドコに?)」
     尋ねたシェロに、ミェーチ将軍が説明する。
    「(うむ……、西山間部のレイス王国に知り合いがおる。まずはそこを訪ね、新たな拠点を築く足がかりにしようと考えておる)」
    「(新たな拠点?)」
    「(吾輩を慕って集まってくれた者たちを、吾輩の都合で放逐などできるはずも無い。どこかで態勢を整え、確かな戦力として地位を確立すれば、養うこともできよう)」
    「(しかし、沿岸部における我々の醜聞は、西山間部にも既に届いているのではないでしょうか? 我々のコトをまともな軍事勢力と考えて接してくれるかどうか……)」
     消極的な言葉を漏らすシェロを、ミェーチ将軍が叱咤する。
    「(やってみなければ分かるまい? 実情はどうあれ、我々も帝国に反旗を翻し、そして――助力があったとは言え――その軍勢を退けた実績もあるのだ。醜聞より実績を重視する者があれば、きっと我々もまた、返り咲くこともできよう)」
    「(そうでしょうか……)」
     暗い表情を見せるシェロの肩を、ミェーチ将軍はばしっと叩く。
    「(自信を持て、シェロ。お前は一人で沿岸部に旋風を巻き起こした男ではないか。きっと山間部でも、巷間を騒がすような活躍ができよう。吾輩はお前に、並々ならぬ期待を抱いておるのだ。
     よろしく頼んだぞ、婿殿)」
    「(ええ、……む、婿? って?)」
     目を丸くするシェロに、リディアが背後から抱きついて来た。
    「(山間部で落ち着いたら、是非わたしと結婚しましょう。それとも、わたしとはお嫌ですか?)」
    「(い、嫌じゃないけど、でも、何で俺なんかと?)」
     そう尋ねたシェロに、リディアははっきりと、シェロの故郷の言葉で答えた。
    「あなただからいいんです」
    「……そ、そう、っスか」



     こうして半年間に渡る、沿岸部一帯をめぐる一連の戦いは終息した。
     戦いの舞台はさらに北、山間部へと移って行く。

    琥珀暁・平岸伝 終

    琥珀暁・平岸伝 5

    2019.01.07.[Edit]
    神様たちの話、第210話。沿岸部平定。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5. 沿岸部における帝国の勢力が一掃され、この地を分割統治しているクラム王国とノルド王国の両国は、互いの立場と協力関係を改めて確認すべく、協議を行うこととなった。「(帝国との関係は事実上、解消された。向こうの了承を得ない形でな。故に今後、帝国からの報復が懸念されるが……)」 そう切り出したノルド王に、エリザが応じる。「(襲って...

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