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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・囲陸記 1

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    フォコの話、355話目。
    聖地襲撃。

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    1.
     これまで、何度も論じてきたことであるが――央北は、「天帝と政治の世界」である。

     政治の世界、とそう呼ばれる所以は、容易に想像が付くであろう。
     言うまでも無く、世界政治の中枢であり、世界全域の舵取りを担う、途方もなく強い権力を持つ組織――中央大陸全域の統治府、通称「中央政府」が、この地を本拠としているからである。
     では一方で、天帝の世界とも呼ばれるのは、何故か? これもこの世界に住まう人間であれば、想像は容易なことだ。
     中央政府と同様に、天帝一族もまた、この地を本拠としているからである。

     天帝一族がこの地を本拠とする、その代表例の一つは、前述の通り、中央政府の存在である。天帝がすべての権力と責務を負い、その頂点に君臨しているのだ。
     ちょっとした弾みや、ほんの気紛れででも――比喩ではなく――世界の命運を大きく揺さぶり、変えてしまうほどの権力と、実行力を持つ。だからこそ現人神と言う、いささか胡散臭い触れ込みが与える印象以上の畏敬の念を持って、民衆から崇め奉られているのだ。
     だがもう一つ、この地を「天帝の世界」と言わしめる所以がある。そちらは中央政府ほどの存在感は無いが、それでも央北天帝教信者にとっては、二つとない聖地として崇められているものだ。
     それが、代々の天帝を祀る大霊殿――天帝廟(てんていびょう)である。



     日々、権謀術数が渦巻く首都、クロスセントラルとは違い、この地は概ね、平和だった。
     央北圏内に、天帝一族の墓を暴こうなどと言う不届き者はまず、いないからである。
    「ふあ、あ……、東側正門、異常ありません」
    「同じく、北側本殿前、異常なしっス」
    「南側広場、異常なーし」
     天帝の墓と言うことで、こちらも一応、中央軍の警備管内ではある。しかし前述の通り、ここを襲おうと言う不敬な人間は、少なくとも央北地域内にはいない。
     廟の警備に就く兵士は皆、緊張感の欠片もなかった。
    「……?」
     が、その日は何かがおかしかった。
    「西側、祭祀(さいし)港の担当は?」
    「あれ?」
    「いないっスね」
    「寝てるのかな」
     普段から平和なだけに、こんな会話も飛び出してしまうのだが、それでもやはり、不安視する者もいなくはない。
    「何かあったかもしれないっスね?」
    「何かって何だよ? 泥棒でも入ったか?」
    「んなわけ、……まあ、無いとは思うが」
    「一応、見に行きましょうか」
     いつまで経っても現れない見回り担当をいぶかしんだ他の兵士たちは、その担当場所、天帝廟の西側にある祭祀港へ向かうことにした。

     祭祀港とは、天帝廟における儀式や祭事で使用される、小さめの港である。そのため、本来は一般的な港のように、船の出入りは無い。
     ところがその日は、沖から侵入した黒い船が一隻、港に泊まっていた。
    「むぐ、ぐ……っ」
     その船のマストに、ここの巡回を行っていたた兵士たちが縄と猿ぐつわで縛られ、固められていた。
    「むぐ、むぐっ」
     そのうちの一名が、もごもごと何かをわめき出したため、船の縁に腰かけていた、黒ずくめの長耳が顔を向けた。
    「何だ?」
     猿ぐつわを外してやると、途端にその兵士は怒鳴り付けてきた。
    「こんなことをして、ただでは済まんぞ! こんな、こんなっ……、こんな畏れ多いことを!」
    「……知るか」
     その長耳は、ちゃら、と何かを兵士の前に差し出した。
    「なんだ、それは……?」
    「九つの金属板で造られたロタのお守り、『ロタ・デラ・フォルティッサ』だ。まあ、央北天帝教が唯一の信仰だと信じて疑わないお前らには、何のことか分かるまいが」
    「ろ……、た?」
     きょとんとした兵士に、長耳は「ああ」と声を上げた。
    「こっちじゃロータス(lotus)、蓮のことだ。『向こう』では、ロタ(lota)って言うらしい。
     まだ俺たちは、あっちに帰依してから日が浅いが、向こうは良くしてくれる。決して、『信仰と供物を寄越せ寄越せ』なんてゴリ押しなんかしない」
    「あっち? 向こう? ……何のことなんだ?」
     相手の反応を見た長耳は肩をすくめ、そのまま背を向けた。
    「おい、答えろよ! お前ら一体、どこの、誰なんだよ!?」
    「分からない、なんてのは傲慢だな、つくづく」
     長耳はチラ、と顔を向け、忌々しげにつぶやいた。
    「お前らの上にいる現人神様が認めようとしない、存在すら許そうとしない。
     俺たちはそんな神様の使いだよ」
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