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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・黒蓮記 2

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    フォコの話、361話目。
    ランドの扇動演説。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     イーストフィールドを出発した2万余の軍――ランドが「央中の黒い蓮」と名付けた大部隊は、何の妨害も受けることなく、中央政府の首都、クロスセントラルを目前にしていた。
    「こんなにすんなり進めるとは、驚きましたわ」
     そうつぶやいたフォコに、隣に立つランドはニコニコと笑みを向ける。
    「恐らくだけど、非常に時期が良かったんだと思う。
     元々、港町や山岳地帯へ兵が向けられ、内部の守りが緩くなった時を狙う作戦だったけど、最もいいタイミングをつかめたんだろうね」
    「最もいい、っちゅうと?」
    「どの派兵も丁度、目的地に到着する前後くらい、かな。
     首都からは遠く離れてしまい、戻ろうにも数日を要する。これがもうちょっと早ければ、僕たちはとっくに引き返してきた軍に襲撃されてただろうし、もうちょっと遅かったら、企みを看破される恐れもあった。
     それにもう一つ、僕たちにとって有利に働いたことがある」
     ランドは単眼鏡で首都の様子を伺いつつ、話を続ける。
    「コーネリアス卿の試算によれば、今現在、クロスセントラルに駐留している兵士の数は、1万を切ってるそうだよ」
    「そんなに少ないんですか?」
    「コーネリアス卿の部下、……いや、元部下からの報告によれば、泡を食った天帝が、何としてでも央北内に侵入させないために、各都市への派兵をかなり多めにするよう命じたらしい。
     でも、兵士の数は有限だ。別のところに寄せた分、内部はかなりスカスカになってしまった。そのために、2万対1万なんて言う、非常に有利な展開に持って行くことができた」
    「でもランド」
     と、この行軍に加わっていたイールが手を挙げる。
    「コレから行くの、敵の本拠地なのよ? 流石に守りを固めてると思うんだけど……」
    「そうさ。確かに守りを固めてる。
     だけどそれは、ノースポートやウォールロック峠と言った玄関口、外との境界に限ってのことさ。『外』からの侵入を許さないために、中央軍の外堀は非常に深く、広い。だけど彼らは、『中』からの反発を想定してはいなかった。
     確かにこの300年、央北の人々は天帝のやることに異議を唱えなかったし、反抗もしなかった。『神に逆らうことなど、決してあってはならぬ』と、徹底的に教え込まれていたからさ。
     だから、『中』の守りはそれほど堅いものでは無い。この央北において、自分に牙をむいてくるような人間はいない――と、彼らもまた、信じていたからさ」
     ランドは単眼鏡をしまい、「黒い蓮」たちに命じた。
    「砲兵部隊、前へ! 目標、東大外門!」
    「了解!」
     ゴトゴトと音を立て、大砲がゆっくりと、しかし威圧感を持って、門の方へと向きを変える。
    「構え! ……そのまま、待機!」
     ランドの指示に、兵士たちは忠実に従う。右手に燐寸を、左手に大砲へとつながる導火線を持ったまま、ピタリと静止する。
    「……みんな」
     と、ランドが全軍の方へ振り向き、彼らを静かに見据えた。
    「この戦いには、2つの意義がある。
     一つは、世界に戦火を広げようとする中央政府の横暴を、もう一つは、絶対的教義であると、唯一信仰すべしと教え込まれた央北天帝教の横暴を、それぞれ、懲らしめるためだ。
     だけど、……しかし、同時にそれは、この世界を揺るがす、あるいは、破壊することにもなる。この300年、この二つの月に見守られた世界、『双月の世界』の進歩と調和は、中央政府と天帝教の力によるものだったからだ。
     ……だけども、……みんな」
     ランドは眼鏡を外し、裸眼になった顔を向ける。
    「どんなものにも、老いはやってくるものだ。
     使い慣れた剣も、やがては折れる。座り心地のいい椅子も、いつかは壊れる。そしてどんな名君、素晴らしき都も、いつかは死に、滅び去るものだ。
     かつて世界の中心、僕たちの指導者となってきたあの真っ白な城、ドミニオン城は、もはや見た目通りの、白亜の城じゃなくなった。あの中はもう、絶え間なく続く権力闘争で手垢が付いて黒ずみ、その上に愚君の出現によって、いよいよ最悪の局面へと進もうとしている。
     このまま腐りゆき、毒をまき散らす彼らに対し、僕たちはもはや、追従することはできない。信用も信頼も、できはしない。……だから」
     ランドはもう一度門を向き、眼鏡をかけ、諸手を挙げて号令を発した。
    「これ以上の災禍が起きる前に、僕たちが引導を渡し、終わらせなくちゃならないんだッ! それは正に、今、ここでだ!
     砲兵部隊、全員点火ッ! 目標に向け、全力で攻撃せよッ!」
     号令と共に、部隊の全前面からぢりぢりとした音が聞こえてくる。
    「撃てえええぇーッ!」
     ランドの怒声が一瞬響き渡り、そしてそれは、いくつもの炸裂音によってかき消された。
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