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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・猫討記 3

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    フォコの話、373話目。
    心乱れるイール。

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    3.
     314年、9月。
     央北より強制退去を命じられたイールは、そのままフォコたちとも別れ、北方へと戻ってきた。



    「……なるほど。……では、ジーン王国に対して、今回の軍事行動による報酬は、支払われないようだな」
    「申し訳ございません、陛下」
     頭を下げたイールに、国王クラウスは小さく首を振った。
    「いや、いい。こちらの人的被害は、負傷者が数名のみであるし、軍艦を出した費用についても、軍事演習であったと割り切るつもりだ。
     こうしてサンドラ将軍、貴君も無事な身で戻ってきてくれたし」
    「……お言葉ですが、陛下」
     イールは顔を挙げる。
     それと同時に、彼女の足元にぽた、と涙が落ちた。
    「一名だけ、ここへ戻って来られなかった者がおります」
    「……存じている。……そうだったな、失言であった。
     サンドラ将軍、……しばらく、休暇を命じる。此度の戦い、誠に心身を削ったものであろう。ゆっくり静養し、心と体を癒せ」
    「……ありがたきお言葉、痛み入ります」

     ジーン王国首都、フェルタイルの小さな私邸に戻ったイールは、フォコと連絡を取った。
    《ええ、とりあえず僕の身に関しては、政治的には自由になりましたからな。溜まっとる仕事をちゃっちゃと整理して、来年くらいには、結婚式を挙げる予定をしとります》
    「そう、おめでと。……ねえ、ホコウ」
    《なんでしょ?》
    「あなたは、ランドが死んだと思う?」
    《……事実として、既に四ヶ月も経っているのに、ランドさんの消息はどこからも伝わってきてませんからな。
     僕が南海の奴隷島から脱出でけたように、ランドさんくらいの知恵者であれば、逆境やら災難やらから、いくらでも脱出でけるはずです。
     そんな話は世界中のどこからも、聞いてません。……となれば、実質的には》
    「……そう」
     イールはフォコの返答に、落胆せざるを得なかった。
    「希望は、無いのね」
    《イールさん?》
    「ホコウ。あたしは、あいつだと思ってるの」
    《あいつ、って?》
    「分からない? ランドがいなくなって、あいつが王様になったのよ。
     ずっとずっと、ランドの後ろでボーっと突っ立ってたのは、このためだったのよ!」
    《イールさん? どないしたんですか、落ち着いて下さい》
     語調を荒げ始めたイールをなだめようと、フォコはやんわりとした声をかける。
    「落ち着いて? 落ち着いて、ですって!? どうして、落ち着いてなんかいられるって言うのよ!?
     ランドが、あいつに殺されたのよ!? そしてあいつが、ランドが座るべきだった椅子を奪い去って、今ものうのうと座ってるのよ!?
     それを、落ち着けですって!? できると思ってるの!?」
    《その、イールさん、冷静になってくださいて。タイカさんが殺したっちゅう証拠、有るんですか?》
    「……無いわよ。でも、状況証拠なら十分じゃない。少なくとも、あたしにとっては十分よ」
    《早まったらあきませんで、イールさん。もっと冷静に……》「さよなら。お幸せにね」
     落ち着かせようとするフォコの通信を、イールは無理矢理に切り上げた。

     イールは窓を閉め切った私邸で一人、薄暗い燭台の灯りを頼りに、昼夜を問わず何日も、ガリガリと白紙の書にペンを走らせていた。
    (あいつには……、普通じゃ勝ち目はない。生半可な魔術じゃ、傷も付けられない。
     でも一度、あいつがピクリとも動けないくらいの致命傷を負ったことがある。そう、あの工場での戦い。モールさんに後で聞いたら、あの時ホコウと戦ってた奴から二太刀受けて、死にかけてたって。
     それが気にかかるのよ――あいつの強さは尋常じゃない。とても、真正面から向かって斬れるような相手じゃない。なのに、ホコウにあしらわれるようなハゲオヤジからの攻撃を、まともに食らったって言うの?
     よっぽど油断してたとしか思えない。……そう、そう考えると、あの時見た『アレ』は、辻褄が合うのよ。
     そう、溶鉱炉に落ちた刀の柄、ミスリル化珪素まみれの、二太刀食らったタイカ。全部つなぎ合わせれば、答えは一つ。……あいつは過信したのよ、自分の力を。
     あのハゲオヤジが持ってた剣は、なんかの魔法陣がゴテゴテと付けられてた。それを気にも留めず、『自分には絶対効くワケが無い』と信じて、自分の方から真正面に飛び込んだんでしょうね。
     そしてハゲオヤジに返り討ちに遭い、溶鉱炉に突き落された。……それが多分、あの時起こったコトの真相。……なら、あたしが執る作戦は、一つしかない)
     イールは何ページも、何十ページもにも渡り、ひたすら呪文を書き綴った。

     と――イールはその途中、背後で立った物音に気付く。
    「……誰?」
     振り返った先には、7年前に死んだはずの、あのフードの男が立っていた。
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