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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・猫討記 7

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    フォコの話、377話目。
    猫姫と悪魔。

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    7.
     丘の上に立った人影を見て、イールは思わず叫んだ。
    「タイカ! アンタね!?」
    「それは何についての質問だ?」
     応じた大火に、イールは苛立たしげに拳を震わせ、近寄ろうとする。
    「サンドラ卿! 危険です!」
    「罠があるかも……」
     止めようとした周囲の者を振り切り、イールは質問を重ねる。
    「ランドよ! ランドを殺したのは、アンタ!?」
    「殺した、と言う表現は適切ではない。代価を払った、と言うのが的確な……」「グチャグチャごまかしてんじゃないわよ! いいわ、あたしは確信した! アンタが犯人だってね!」
     イールは後ろを振り向き、皆にこう告げた。
    「あたしは、あいつと戦ってくる。それであたしが戻ってくれば、あたしの、反乱軍の勝ちよ。
     でももし、あたしが戻らず、代わりに中央軍がゾロゾロやって来るようなコトがあったら、……あたしの負けだと思って。そのまま、逃げていいから」
    「サンドラ卿……」
    「……じゃあ、行ってくる」
     イールは鞭を手に取り、丘の上へと向かった。

     丘の頂上まで登ったところで、大火が声をかけてきた。
    「イール。率直に言うぞ。これ以上、俺の邪魔をするな」
    「邪魔って、何? アンタを殺そうと付け狙ってるコト? そりゃあ、邪魔でしょうね」
    「分かっていないようだな」
     そう返した大火に、イールは自分でも不気味に思うほどの苛立ちを覚え、口からその感情を噴き出させた。
    「分からなくていい。どうせもう、あたしにとってはこんな世界、どうなったっていいんだもの。そう、アイツのいない世界なんて」
    「あいつ?」
    「ランドよ。アンタみたいなのには分かんないかも知れないけど、あたしはずっと、アイツのコトが好きだったのよ。
     そりゃ、何度あっちこっち誘ってデートしてもズレたコトばっか言うし、何度告白しても気付いてもらえなかったし、何やったってあたしに振り向いてくれなかったけど、……でも、……でも! 大好きだったのよ!
     だからタイカ、アイツを殺したアンタは生かしておけない! アンタさえ殺せれば、あたしはどうなったって構わないッ!」
     叫び切り、イールは腰に付けていたサイドパックから魔術書を取り出した。
    「ふむ」
    「消えろ、消えろッ、消えろおおおおーッ! 『ライデン』!」
     イールが呪文を唱えた瞬間、周囲の空気が一変した。

     始めに大火が気付いたのは、周囲のパチパチとした、気泡のような炸裂音だった。
    「これは……」
     術の発動と同時に、イールが持っていた魔術書は、ブスブスと煙を上げ始める。
     そしてイール自身も、髪や服の表面に、わずかながら煙が立っている。
    (周囲の電荷量が異様に増大している……。『雷』の術であるのは明白だが、……これほど急激に、広範囲にわたって膨れ上がるのは……)
     異状を察知し、大火はその場から離れようとする。
     だが、いち早くイールが鞭を使い、大火の腕をからめ捕る。
    「む……」
    「ドコ行こうって言うのよ、タイカ? 言ったでしょ、生かしておけないって?
     うふふ……、まさかあたしがこんなにすごい術を使うなんて、思っても見なかったでしょうね? アンタ、自分以外はみんな弱っちいヤツと決め付けてるから、こんなコトになるのよ。
     ……にしても、思った以上にひどいコトになりそうね、この分だと」
     パチパチと鳴っていた炸裂音は、やがてバチ、バチッと激しく、甲高く音を変える。
    「この術は一回発動したら、もう止められないわ。周囲は限界一杯まで帯電し、ちょっと動くだけでも……」
     そう言って、イールはぐい、と鞭を引く。すると途端にパン、と火花を立て、鞭は焼き切れた。
     だが、大火は動かない。
    「あら、もう逃げないの?」
    「もう間に合うまい。逃げた瞬間、俺に蓄積された静電気が静電誘導を起こして放電し、俺は一瞬で黒焦げになるだろうから、な」
    「んー……、まだ何言ってるのか分かんないけど、分かってはくれたみたいね。
     そうよ、もう何したって、無駄」
     イールの長い緑髪も、大火の濡羽のような癖のある黒髪も、蓄電によりごわごわとうねっている。
     そしてその先からなお、パチパチとした音が鳴りやまないでいた。
    「でも、もう一度言うわ。
     あたしはどうなったって構わないのよ。そう、黒焦げになったって、構やしないの。ソレでアイツのところに逝けるなら、何だってするわ」
    「……イール。お前は勘違いしている」
     大火は彼女に向かって、ある事実を伝えた。
    「……は?」
     それを聞いたイールは、責めるような視線を大火に向けてくる。
    「何言ってんの? アンタが殺したって……」
    「あの鉄クズからそう聞いたのか? それはあいつが、実際に見たと言ったのか? そしてお前も、実際に見たと?」
    「……言って、ないけど。でも、状況的には……」
    「物的証拠なしに自分で思い込み、挙句に勝手な判断で暴走、か。リーダーの器とは思えんな」
    「……じゃあ。……じゃあ! 逆に証拠はあるの!? あいつが……」
    「耐え切れれば、見せてやろう」
     大火はす、と一歩引く。
    「この状態から自然に放電するのを待っていては、数時間を要する。
     その間ずっと中央軍、もしくはお前の率いた反乱軍は待つだろうか? いや、いずれはここへ進入し、そうなれば地獄絵図と化すだろう。
     お前はそれを望んでいるのか? 少なくとも、俺にとっては望ましい光景ではない」
    「……どうすれば、いいの? どうしたら、皆を巻き込まずに済むの?」
    「もう一度言うぞ。耐え切れ」
     大火は刀を抜き、術を唱えた。
    「……とは言え俺も耐えられるか、流石に自信は無いが、な」
     大火は刀を掲げ、術を発動する。
     次の瞬間、辺りは眩い光に包まれた。
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