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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・大渉記 4

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    フォコの話、389話目。
    田舎者大公への教唆。

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    4.
     仰々しい馬車で街道を南下しながら、ランフィールド卿をはじめとする閣僚たちはなお、サウスボックスで行われる央中名代との交渉において、自分たちが主導権を握る方法を模索していた。
    「場は勝手に立てられはしたものの、『まだ』、なのだ。まだ、正式な協議は始まっていない。
     となれば、いくらカツミ氏が裏で話を整えていようと、それは正式決定ではない、正式決定にはなり得ない、と言うことだ」
    「理屈はその通りですが、しかしいずれは協議の場で、その整えた話を正式に、通されることになるのでしょう?」
    「ああ、このまま放っておけば、……の話だ。
     しかし央中名代、カール・バイエル大公自身については、我々がその運命を直に握っているようなものだ。彼は、と言うよりも彼の家、バイエル家は、前中央政府の成立からずっと、央北との交易で栄えてきた。それも中央政府の優遇措置を、十二分に受けて、だ。
     その甘露のような利権を、たかだかこんな一交渉で手放す羽目になれば、それはあまりにも勿体ない話だろう?」
    「なるほど……、その利権を楯に、我々の言うことを聞かせよう、と言うわけですね」
    「そう言うことだ。恐らくカツミ氏は、バイエル氏との交渉を秘密裏に進め、央中の独立を促すような案をまとめているだろう。それならバイエル氏も央中人なのだし、うなずきもしているはずだ。
     だが我々との交流により財を蓄えてきたバイエル家が、この交渉で我々に背を向け、その後のうのうと交流を続けることなど、できはしないし、させるつもりも無い。圧力をかけ、カツミ氏との取り決めをすべて反故にするよう、強く指示するのだ。
     早速バイエル氏と連絡を取り、この件を伝えるのだ」

     大臣たちは「魔術頭巾」を使い、バイエル大公と交信した。
    「……と言うわけです。バイエル卿、今こそ失地回復の好機ですぞ。散々軽んじられてきた地位を復権する、またとない機会ではありませんか。
     今こそ我々のために、立ち上がってはいただけませんか……?」
    《え、ええ。まあ、協力ばその、したかと思っちょるとですが、ええと》
    「何を迷う必要があるのです? いいですかバイエル卿、今後のことを考えていただきたい」
     ランフィールド卿は声を荒げ、バイエル大公を叱咤した。
    「ここで卿がご立派にも、央中全体の利益のことを鑑み、央中の独立を要求したとします。なるほど央中の人間は、挙ってあなたを称賛することでしょうな。
     だがそれが、何になると言うのです? せいぜい、褒められておだてられて、それで終わりではないですか? 金になるわけではないでしょう?」
    《仰っとることはよお分かっとるとですけども、あの……》
    「それよりも。何だかんだとうまくはぐらかして、これまで通り央中全土を我々の属州とすれば、あなた方一族がこれまで享受してきた権益、利益は、これからも続くわけです。
     1クラムにもならぬ名声と、年間数千万クラムに及ぶ利権。どちらが卿にとって重要か、十分に考えていただきたい」
     数秒の間が空き、やがて大公から返事が返ってきた。
    《……あ、あの。わしは自分の利益のために、最大限、善処するつもりです。それは、約束するとです、はい、神に誓って》
    「ええ。では会議の場では、……よしなに」
     通信が切れたところで、馬車の中に歓喜が溢れ出した。
    「やった……! これでようやく、カツミ氏に一泡吹かせられる! 我々の利益確保も達成できるぞ!」
    「まったく、一時はどうなることかと……」
     と、緩みそうになった空気を、ランフィールド卿が引き締める。
    「待て、待て。重ねて言うが、まだ交渉の場は開かれていない。
     それまでに、いつまたバイエル卿が臆病風に吹かれ、意見を翻すか分からん。今後も交渉開始まで、入念に声をかけ続けておかなくてはな」
    「そうですね。バイエル卿も何と言うか、しどろもどろでしたし。
     ……閣下。それで少し、気になる点があるのですが」
     尋ねてきた官僚に、ランフィールド卿は怪訝な顔を向ける。
    「うん?」
    「我々も『頭巾』を使い、彼との会話を傍聴していましたが、バイエル卿は妙なことを言っていましたね」
    「と言うと?」
    「央中の人間である彼が、『神に誓って約束する』と。……あ、いえ。考え過ぎでしょうね。恐らく、言葉の綾と言うものでしょう」
    「そうか」
     その後、大臣たちは改めて、交渉の場で話し合われるであろう内容について、検討を重ねることにした。



    「……こ、これでよろしかですかね?」
    「ええ、上々ですわ」
     会話を終えたバイエル大公は、隣で一部始終を見守っていた男に、不安げな顔を向けた。
    「本当にあん約束ば、果たしてもらえるとですか」
    「勿論。商売ごとに関して、嘘はつきまへん。商人ですから」
    「……では、あの、……よろしくお願いします」
    「お任せください、卿」
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