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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・大渉記 5

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    フォコの話、390話目。
    大交渉の場へ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     閣僚一行は央北の地方都市、サウスボックスに到着した。
     ここは初代天帝降臨の頃より栄えた商業都市であり、央北内の主要都市では最も南に位置している。
     そのため南にそびえるウォールロック山脈を越えてやってくる異邦人も多く、その点においては他地域との交渉に最適な場と言えた。
    「しかし何故、カツミ氏はここを選んだのでしょうね?」
     官僚の一人が発した言葉に、ランフィールド卿は首をかしげる。
    「と言うと?」
    「前回の、央南との交渉の際は、わざわざ向こう側、ハクケイにまで赴きましたが、今回はこちら側の街です。何か意図があってのことだろうか、と」
    「ふむ」
     疑問を投げかけられ、ランフィールド卿は不安げな顔になったが、考える前に別の官僚がその答えを出した。
    「カツミ氏によれば、『前回は両陣営の見届け人を必要とする場であったが、今回は向こうの代表者とその側近らで、十分に事は足りる。何度も長旅で国費や時間を浪費しては、示しがつかんだろうから、な』とのことです」
    「ああ、なるほど。自分は国のために動いていると見せつける、いわゆる『ポーズ』と言うわけか。……奴め、仏頂面に似合わず、道化のように振る舞ってくるな」
    「何しろ『悪魔』ですからね。惑わすのは得意、と言うことでしょう」
    「……ふん」

     交渉の場となる市庁舎の議事堂に到着したところで、閣僚一行は先に到着していた大火を見つけた。
    「遅くなりました、カツミ様。何しろ我々は、あなた様と違って『陸路』でトボトボと歩いてきたものでして」
    「構わん」
     皮肉を一言で切り捨てられ、ランフィールド卿のカイゼルひげが、ぴくんと神経質に動く。
     大火はそれも無視して、自分の話を伝えた。
    「向こうも到着にはまだ、もう少々かかるそうだ。その前に、事前の意見調整をしておこう」
    「意見調整ですと?」
    「しないのか? 用心深いお前たちが、俺をそのまま交渉の場に出すつもりだった、と?」
    「あ、いや、仰る通りです。準備は入念に立てておかねばなりますまい」
    「では、場所を変えよう」
     大火を筆頭にし、一行は宿へと向かう。
    「カツミ様」
    「うん?」
     その途中で、ランフィールド卿は大火の肚(はら)を探ろうと、いくつか質問をぶつけてみた。
    「央中側が遅れている、と言うのは、何か不都合が?」
    「天候不良のため、だそうだ。ウォールロック山脈を越える途上で、雷雨に見舞われたらしい」
    「ふむ、なるほど。確かにそんな季節でしたな。それらしい理由です」
    「天候によっては、もう数日の遅れが発生する可能性もある、とのことだ。とは言え、そう急ぐような話でもない。来られると言うまで、待っていればいいだけの話だ」
    「仰る通り。結果は決まっているようなものですからな」
    「ほう? どうなると?」
    「バイエル卿と我々との間に存在する利権や取り決めのことを考えれば、バイエル卿がこちらに有利な条件を提示し、その利権を存続させようと画策することは明白。
     恐らく我々にとって、好ましい結果に終わるものと」
    「俺はそう思わんが、な」
    「それは何故に?」
    「バイエル氏も己の利益のみを考えていればいい、と言う立場ではない。
     央北との関係を重視するあまり、近隣の有力者層をないがしろにするような決定を下せば、それに対する報復は、生半可なものではすまんだろうから、な」
    「なるほど、一理ありますな。ではカツミ様、今回の交渉は央中勝利で終わる、と?」
    「それは分からんな。どちらの都合もあるし、黒か白か、きっぱり決められるような性質のものではないだろう?」
    「私個人としては、きっぱりしてほしいものでして」
    「理想と現実は、乖離するのが世の常と言うものだ」
    「ははは……」
     その後もランフィールド卿はあれこれと質問を重ねたものの、結局、大火からそれらしい反応――央中側が有利になるよう働きかけていた、と言うような素振りを見ることは、全くできなかった。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    まさか、ですね。それはありません。
    次話、むしろ中央側がそれをやろうとしますが。

    NoTitle 

    交渉団皆殺しですか? まさかとは思いますが。

    もしそうだとしたら、判断としては、ううむ、であると思います。

    「十年の圧政は一晩の無政府状態に勝る」(アラブのことわざ)
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