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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・大渉記 7

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    フォコの話、392話目。
    暗殺者。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
     ようやく息を整えたランフィールド卿は、「暗殺者」に指示を与えた。
    「今回、君に狙ってほしい人物は、交渉相手の央中名代、カール・バイエル大公だ。『狙う』と言っても、すぐ殺してほしい、と言うわけではない」
    「と言うと?」
    「これはあくまで、『脅し』の話なのだ。
     今回の交渉には、中央政府の威信がかかっている。相手の要求を一割、いや、五分でも認めることになれば、それだけで我々の権威は揺らぐこととなる。これまで一度として、相手の要求を呑むようなことはしてこなかったのだからな」
    「ふむ」
    「そこで何としてでも我々の要求を全面的に通すため、君には会期中、バイエル卿をいつでも殺せるように狙ってもらい、『もし我々に不都合な要求をしようものなら、その命は無いぞ』と……」
    「なるほど。脅迫、と言うことですか」
    「う、いや、そんなつもりでは……」
    「では、どう言うおつもりです? 『言うことを聞かなければ殺す』、これは脅迫や恐喝なのでは?」
     相手の問いに、ランフィールド卿は顔をしかめ、うなるしかなかった。
    「……む、う。……そうだな、そうなる。
     私の自覚が甘かった。すまん、混乱させたな」
    「いえ、問題ありません。
     では、内容を確認させていただきます。央中名代、カール・バイエル大公を会期中ずっと、いつでも暗殺可能な状態で狙え、と言うことですね?」
    「そうだ。できるか?」
    「可能です」
     「暗殺者」は静かに、うなずいて見せた。



     2日後――。
    「いや、雨のひどかけん、わしも随行員の彼も、何日も足止めを食らっちょりまして、本当にすまんことと……」
     バイエル大公のひどい訛りに、ランフィールド卿は何度も首をかしげつつ、労いの言葉をかけた。
    「まあ、無事なようで何よりですな。……お疲れのようですし、時間も既に宵の口です。
     交渉は明日から、と言うことでいかがでしょうか?」
    「助かります」
     大公はそう応え、ぺこりと頭を下げる。
     隣に立っていた、フードを深くかぶった随行員も、同様に頭を下げた。
    「では明日、朝の10時より行います。よろしくお願いします」
    「よろしくお願いします」
     再び頭を下げ、大公らはくる、と踵を返し、宿へと入っていった。
    「うん……?」
     随行員の後ろ姿を見たランフィールド卿は、その尻尾に、引っかかるものを感じた。
    「あの『狐』の毛並み、どこかで……?」
    「ええ、私も見覚えが。はて……?」
     記憶を探ってみたが、その時は誰も、思い出せる者がいなかった。

     その二人の後を、あの「暗殺者」がそっとつけていた。
    (ふむ……。あの太鼓腹で丸眼鏡の、頼りなさ気な狐獣人の男が、バイエル卿だな。隣の随行員らしき者も、尻尾の形からして、どうやら『狐』らしい。
     ……しかし)
     その尻尾に、「暗殺者」は既視感を覚えていた。
    (ずっと昔……、初めて暗殺任務に就いた時か。
     俺が殺したのは、あんな毛並みの狐獣人と、短耳の夫妻だったな、確か。……あれ以来、俺はずっと、汚れ仕事ばかりだ。
     恐らく呪われたのだろうな――あの夫婦に)
     彼は何とも言えない思いを胸に抱えながら、二人の監視を続けた。
     と――二人が部屋に入るなり、随行員がばさ、とフードを脱いだ。
    「流石に暑いですな、この季節にこの格好は」
    「はは……。見る度わしゃぁ、卿がおハゲにならんか心配しようとよ」
    「勘弁してくださいて」
    (……あの金と赤の髪!? 間違いない、あれは――ニコル・フォコ・ゴールドマン総帥だ!
     何故彼が、ここに……!?)
     冷静に気配を消してきた「暗殺者」も、予期していない人間の登場に、一瞬、注意を削がれる。

     そしてそれが、さらに予想せざる事態を招くこととなった。
    「そこか」
    「……!?」
     隠れていた茂みから無理矢理に引きずり出され、「暗殺者」は宙に放り投げられた。
    「お、お前は……っ!?」
    「俺の名前か? 聞くまでもないだろう?」
     彼を引きずり出したのは、大火だった。
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