fc2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・尽火記 3

     ←火紅狐・尽火記 2 →火紅狐・尽火記 4
    フォコの話、412話目。
    フォコとランニャ、最後の冒険。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     フォコの予想した通り、総帥を引退して以降、屋敷内における彼の扱いは、ひどく冷えたものとなった。
     フォコと彼の妻、ランニャは屋敷の離れに移され、事実上の軟禁生活を強いられたのだ。
    「外、出てもええか?」
    「あ、……と。すみませんが、今日は生憎、天気が……」
    「晴れとるように見えるけど」
    「そうですか?」
     離れの前に立っていた使用人は、雲一つない青空を眺め、こう返してきた。
    「あまりいいようには感じられません、大旦那様」
    「……そうか」
    「ご心配なく。何か御必要なものがあれば、すぐにでもお持ちいたしますので」
    「……まあ、頼んだで」

     仕方なく部屋の中に戻ると、安楽椅子に座るランニャと目が合った。
    「今日も、ダメか?」
    「あかんなぁ。……トーナとは思わへんけども、誰かの差し金やろな。彼女が総帥交替で忙しくしとるうちに、私らをしれっと、ボケさせてしまおうとしとるんやろう。
     いわゆる『院政』をさせへんように、っちゅうことやろな」
    「難儀だねぇ」
     二人そろってため息をついたところで、ランニャが茶を差し出す。
    「飲むかい?」
    「ありがとさん」
     茶をすすりながら、フォコはぼそ、とランニャにこうささやいた。
    「……昨日の話なんやけどな」
    「ん?」
     フォコから耳打ちされ、ランニャは目を丸くした。
    「本当か?」
    「ホンマ、ホンマ。さっき試しに話してみたら、バッチリ通じたんや」
    「そりゃいい」
    「……せやからね」
     フォコは玄関にチラ、と目を向け、ランニャに振り返って笑顔を見せた。
    「夜までに、準備しよか」
    「ああ、分かった」

     夜になり、フォコは数十年ぶりに、その道具をランニャに見せた。
    「よくそんなの、まだ持ってたなぁ」
    「偶然や、偶然。こっちに追いやられた時、私の荷物も無造作に、ごちゃごちゃーっと持って来はってな。それで、ぽろっと出てきよったんよ」
    「はっは、そりゃいいな。……じゃあ、呼んで」
    「あいあい。……『トランスワード』:タイカ・カツミ」
     半ば黄ばみ、虫食い穴がぽつぽつと空いていたが、それでもその「魔術頭巾」は、彼へのコンタクトを取り次いでくれた。
    《火紅か?》
    「はい、どうもです」
    《準備は、整ったか?》
    「ええ、バッチリ」
    《では、そちらに向かう》
     次の瞬間、小さな蝋燭でぼんやりと照らされていた室内に、懐かしい顔が現れた。
    「……タイカさん、ホンマに、お久しぶりです」
    「ああ。……老けたな」
     大火は40年前と全く変わらない、若々しい姿のままだった。
    「タイカさんの方は、まったくお変わりないみたいで」
    「そうだな」
     大火はフォコ夫妻を一瞥し、手を差し伸べた。
    「早速、向かうぞ」
    「ええ、お願いします」
     旅行鞄を手にした二人は、大火の手を握った。

     翌日――金火狐財団は、前総帥フォコとその妻ランニャが病気のため共に死亡したと、声明を発表した。
     しかし「葬儀は既に行い、遺体は故人の遺言により火葬した」とする財団広報らの説明と、「葬儀が行われた事実は確認していない。遺体の処置についても、故人から何ら伝えられていない」とする第11代総帥トーナ自らの声明とのズレがあり、この件は一時、市井の物議をかもした。
     そしてそれが「大交渉」や「ミッドランド造成」と共に、後世の歴史学者たちを大いに悩ませる、彼の遺した最後の謎となった。



    「ここ、ドコ?」
    「どこやと思う?」
     二人は柑橘類の香りが漂う、ひなびた島の上にいた。
    「うーん……?」
    「ヒント。一回だけ、君と一緒に来たことがある。ルピアさんも一緒やった」
    「母さんも?」
     ランニャはきょろきょろと辺りを見回し、首をひねる。
    「んー……、ヒント、もう一個!」
    「ええよ。ここは南海や」
    「……あ、分かった! ナラン島だ! ナラン島だろ、ここ!」
     ランニャの答えに、フォコはにこっと笑って見せた。
    「正解。
     ……タイカさん、ホンマにありがとうございます。助かりました」
    「なに、お前の頼みであれば、こんなことくらいはお安い御用だ。あと、頼まれた通りのものも、ここに持ってきている」
     そう言って大火は、じゃら、と金袋を地面に置いた。
    「え、ちょ、ソレって泥棒……」
    「元々は私の、……ふふ、僕の金や」
    「『僕』ぅ? ……うっわ、30年ぶりくらいに聞いたなぁ」
    「もう総帥でも何でもあらへんのやし、自分のことを僕っちゅうても、ええやろ?」
    「違いないや、あはは……」
    「ふっふふふ……」
     笑い合う二人に、大火はこう声をかけ、その場から消えた。
    「また何かあれば、気軽に呼んでくれて構わん。……まあ、あるいはこれが、最後の願いなのかも分からんが、な。
     では、失礼する。良い旅を」

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2015.09.28 修正
    関連記事


    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【火紅狐・尽火記 2】へ
    • 【火紅狐・尽火記 4】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【火紅狐・尽火記 2】へ
    • 【火紅狐・尽火記 4】へ