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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第3部

    白猫夢・追走抄 1

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    麒麟を巡る話、第115話。
    新型車輌。

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    1.
    「どう言うわけでこの私を叩き起こしたか、是非とも納得の行く説明をしていただきたいものだな、ハーミット卿」
     現在は夜の3時を回っている。普通の人間であれば、ぐっすり眠っている時間である。
     王立技術研究所、運輸開発局の局長である彼――短耳のカール・スタッガート博士も当然、この時間には夢の中にいたのだが、それを多数の兵士によって無理矢理に、現実の世界に引き戻されたため、あからさまに不機嫌な目をハーミット卿に向けていた。
    「では簡潔に。巷で評判になっているならず者、トッドレール一味が私の屋敷を襲撃し、娘をさらって機関車にて逃亡しました。
     彼は恐らく王国にとって非常に不利益となる内容の要求を送って来るでしょう。そしてそれを拒否できる手段は私にはありません。
     そのため早急に、彼らを追跡できる車が欲しいのですが」
    「なんだ、そんなことでか! 君らも機関車を使えば良かろう!」
    「トッドレール一味が線路を破壊しました。短時間で修復することは不可能です」
    「ふむ、……なるほど」
     依然として不機嫌な顔のまま、スタッガート博士は口ヒゲに手を当て、ぶつぶつとつぶやき始めた。
    「となると君らに貸与しているガソリン車、G50M2では追いつけまい。現在汎用化されている蒸気機関車、S1280T6の25分の1程度の出力しか持たんからな。
     仮に追いつける程度の出力を出そうものなら、即座にエンジンが爆発、炎上するだろう。なら無理だ。諦めるんだな」「何故です?」
     にべもなく追い返そうとした博士に、卿が突っかかる。
    「手段が無ければ諦めますが、あるからこそお願いしているわけです」
    「……2G230E0のことか」
    「それです」
    「君も強情な奴だな」
     博士はさらに苦い顔を返し、こう述べた。
    「確かにあれの性能であれば、S1280T6には2時間、3時間のタイムラグがあろうと、十分に追いつける速度は出せる。
     しかし、あれはまだ実験段階だ。まだ3台しか製造しておらん、研究所の最高機密だぞ」
    「なら走行限界距離の実験をしましょうか。最高速度がどれだけ出るかも併せて見てみましょう」
    「ふざけてもらっては困る、卿。まだそんな段階ではないのだ」
    「ほう」
     と、今度は卿が強気に出る。
    「以前、博士は2G230E0について『最高の発明だ。現時点でも、今すぐに王国を一周できる』と吹聴し、その早期実用化のために、予算増額のお願いをされていたと思いますが」
    「ただ一周するだけなら猿にだってできるわい! 私が言いたいのは、軍の乱暴で粗雑な奴ら共には指一本触れさせたくない、と言うことだ!」
    「その点であれば心配はご無用です。こちらも軍の中で最も優秀な運転ができる者に任せますので」
    「それは誰だ。名を言ってみろ」
     ハーミット卿は手帳をチラ、と見て、名前を挙げる。
    「アルピナ・レデル少佐。ルネ・グレン少佐。パスコ・プロスト中佐。イベル・テリエ中佐。アリゼー・ベルトン中佐。以上の5名を待機させています。
     この5名は研究所にて何度かテスト走行も行っていますから、博士もご存知と思いますが」
    「ふむ、……おい待て、卿。こっちには3台しか無いのだ。5人も来られても困る」
    「おや、貸していただけるのですか?」
    「う、……まあいい、その5人ならよく知っている。しかしだ、3台全部は貸せんぞ。1台だけだ」
    「ありがとうございます」
     ハーミット卿はぺこりと頭を下げ、博士の手をぎゅっと握った。
    「……?」
     ほんの一瞬怪訝な顔をした博士に背を向け、ハーミット卿は周りの兵士らに命じる。
    「運転はテリエ中佐とベルトン中佐にお願いしよう。交代で行うよう伝えてくれ。
     それから精鋭部隊8名と十分な燃料、そして銃器など装備が乗せられるよう、リヤカーを取り付け、および調整しておいてくれ。
     恐らくそろそろ、精鋭部隊の選抜も終わると……」
     言いかけたところで、城からの伝令がやって来るのに気付く。
    「終わったようだ。後は準備の方、よろしく頼む。僕は城に戻って、政治面の準備を進めるから」
     ハーミット卿は急ぎ足で、城の方へと戻っていった。



     研究所の倉庫に向かう途中、スタッガート博士は首を傾げつつ、ハーミット卿から密かに渡されたメモを確認していた。
    (『もう一台 密かに義理の娘君へ貸与されたし 代わりに研究費 前年比12%増を約束する 王室政府総理大臣 N・ハーミット』……、なんだこりゃ)
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