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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    鴉の籠 4

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    引き続き(略

    小鈴のひいおばあちゃん。




    4.
     数日後、中央大陸南部、通称「央南」の観光地、コゲツ。
     大火は市街の外れにある定食屋に入った。
    「いらっしゃ……、い」
     厨房にいた中年の猫獣人の店主と目があったが、彼は目を見開き、一瞬言葉に詰まった。
    「……おっ、お客さん、何か御用で?」
    「その様子だと、俺の素性も知っているようだな」
     大火はカウンターに座り、普通に注文する。
    「茶をくれ」
    「へ、へい。ただいまお持ちします」
     店主は多少おどおどしながらも、大火に茶を運ぶ。
    「どうぞ」
    「ありがとう。ああ、それともう一つ」
    「な、何でしょう?」
    「こちらは情報も扱っていると聞いている。少し頼まれてくれるか?」
    「はあ……、確かに扱っておりやすが。何がご入用で?」
    「ゼルー・トラインと言う宗教家のことを調べてくれるか?」
     店主は素早くメモを取り、コクコクとうなずいた。
    「ただいまお調べいたしやす。……あ、お茶請けはいかがいたしやしょ?」
    「悪いが甘いものは好まん。塩辛いものを頼む」
    「かしこまりやした」
     店主はそそくさと奥に消える。そして米菓子を数点盆の上に載せて、大火のところまで運んできた。
    「堅く焼いた煎餅でございやす。お口に合うとよろしいのですが……」
    「ふむ、いただこう。調べものの方は、どれくらいかかる?」
    「一通りの著名人はそろえておりやす。20、いや10分待っていただければ」
    「よろしく頼む」
     大火はゆっくりと茶を飲みながら、店主の報告を待った。

     大火が煎餅を食べ終わる頃になって、店主が分厚い本を持って戻ってきた。
    「お待たせしやした。えーと、トライン導師でしたっけ。2年くらい前に、南海で新興宗教を興した長耳ですね、はい」
    「それまでは何をしていた?」
    「え? えー、えーと。ちょっと情報が無いです……」「トラインって言ったら、元は盗賊団と違ったかな?」
     店の奥から女の声がする。
    「お、お義母さん。聞いてないでくださいよ」
     店主は顔を赤くして声の主に反論するが、その女は引き続き説明してくれた。
    「確か16、7年くらい前まで『砂霊』って盗賊団があったはずだけど、確かその首領格がトラインって姓だったよーな」
    「ほう。現在はどうなっている?」
     大火は店の奥に向かって尋ねてみる。
    「レヴィア王国の治安部隊が一掃して、とっくの昔に潰されてるわ」
    「そうか。ゼルー・トラインと言う者のことは?」
    「んー? ちょっと待ってて。……あれ? ねー、風見(カザミ)さん、人名録そっちに持っていった?」
    「あ、はい」
    「んじゃ、そっち行くわ」
     やや間を置いて、歳を取った赤毛の虎獣人が杖をつきながら現れる。顔つきから見て、央中の者らしい。
    「ん? 何、この真っ黒なお客さん」
    「ちょっと、お義母さん……」
     店主が顔を真っ青にするが、その「虎」は意に介さない。
    「ふーん。刀持ち、全身肌まで真っ黒、背ぇ高い、んで、そのめちゃめちゃ黒い瞳――アンタ、克さん?」
    「そうだ」
    「おーおー、長生きするもんねー。黒炎の神様に会えるとは思わなかったわ、ホント」
     その「虎」はニコニコ笑いながら、握手を求めてきた。
    「あたしはベレッタ・グレース=橘と言います。よろしゅー」



     ベレッタ氏は元々、央中出身の虎獣人だった。山を隔てた隣国、央南に昔からあこがれていて、22の時思い切って旅行に行ってみたのだそうだ。
     帰国後央南の話を周りに聞かせたところ、思ったよりも周囲の興味を引いた。中にはわざわざ金を出して聞きに来る者もおり、彼女は央南の話を集めて商売にすることを思いついた。
     その後何度か渡航するうちに現地の者と恋に落ち、結婚。央南に帰化した後も、引き続き央中・央南間での情報交換を商売にした。長年続けるうちに商売規模は拡大し、今では世界中の情報を取り扱う有名な情報屋一家、橘一族を築いた。
    「えーっと、ゼルー・トラインねぇ。……あーあー、思い出した思い出した。最近、克を倒したってうそぶいてた長耳ね。でもこうして本人が生きてるんだから、相当マヌケね」
    「しかし、腕は確かだ。この俺が、あっさり撃ち落とされたからな」
    「でもあれ、2ヶ月前の話だったよーな……? でも、めちゃめちゃピンピンしてんじゃん、克さん」
    「一度や二度海に叩きつけられたくらいで死んだりするほど、俺はもろくない」
    「さっすがー」
     大火の横に座ったベレッタは上機嫌で、大火の肩をポンポン叩く。婿養子の風見は顔を青くして、厨房からチラチラと覗き見ている。
    「なーに見てんのっ、仕事しなさい仕事っ」
    「は、はいっ」
    「それでベレッタ、トラインについて他に何か、情報はあるか?」
    「他って言うと、何が知りたいの?」
    「そうだな……。奴の魔術師としての力量や使用する術の傾向。それと現在何をしているか、何を求めているか、だな」
    「ふむふむ……」
     ベレッタはあごに指を当て、考え込む仕草を見せる。
    「んー。そーね、1週間くらい時間もらえる?」
    「分かった。では1週間後、またこちらに来させてもらう。それから俺が来たと言うことは、当面秘密にしておいてくれ」
     そう言って大火は席を立つ。ベレッタも席を立ち、ぺこりと頭を下げる。
    「はいー、分かりました。それじゃまた、1週間後」
    「ああ、よろしく頼む」
     大火は軽く手を挙げ、店から出た。
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