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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    鴉の籠 6

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    スピンオフ、残り2話。

    形勢逆転。




    6.
     大火が橘一家に依頼してから、3ヵ月後。
     ゼルーは央中に渡航していた。彼女が今、内緒で習得しようとしている雷の魔術について研究している人物がいると聞いたからだ。
    (アイツ、段々でかい顔してくるし、アタシを『駒』扱いするし……。これ以上アイツがいると多分、利用されてハイおしまい、ってコトになりかねない。
     邪魔者は今のうち、消しておかなきゃ)
     央中への道中ずっと、ゼルーはアリを暗殺することを考えていた。方法自体はすぐ、雷を使って殺すと決めていた。と言うのも、アリ自身が一度、「雷の術を使う者に苦しめられた」と言っていたからである。アリを襲った者が誰なのかは聞かなかったが、ともかく暗殺すると決めた時、真っ先にゼルーは雷の術を思い立った。
    (……て言うか、雷以外で倒せる気がしないやね。アイツ、普段から全身鉄仮面やら篭手で防護してんだから。
     正直、素顔すら――15年以上一緒にいるってのに――見たコトないって、ココまで来るとアイツが本当に人間なのか、それすら疑っちまうねぇ)
     事実、ゼルーは一度暗殺しようとしたことがある。
     試みたのは大火と戦っていた、丁度その時。わざわざ島3つ及びその近海一帯に、島が1つ跡形も無く吹き飛び、小国が2つ3つ経済麻痺を起こすほどの損害を与えたのは、近くで戦いを見守っていたアリを巻き添えにするためだった。
     ところが――。
    (アリがいた島を焼き尽くして帰ってみたら、怪我一つせず『上出来だな』だもんねぇ。本当に悪魔か何かじゃないかしらねぇ……?)
     その時の光景を思い出すと、今でも寒気が背中を這い回る。
    (……冗談じゃない、冗談じゃないよ! もし本当に悪魔だったりなんかしたら、アタシゃ死ぬまでアイツに付きまとわれなきゃなんないじゃないのさ!?
     そんなコト、あってたまるもんか……! 何が何でも、アタシは雷の術を習得してアリを殺す! 殺さなきゃならないんだよッ!)
     心の中でアリへの恐れと怒り、殺意がぐるぐると巡る。
     その葛藤を消化しきれないまま、ゼルーは央中に到着した。

     ゼルーが探す魔術師は央中東部の廃村で、ひっそりと暮らしていると言う。非常に高齢だが腕は確かで、雷だけではなく、風や氷、土、水、さらには火と、ありとあらゆる術を自在に操れるのだそうだ。
    (もしそれが本当なら、アタシなんかよりよっぽどすごい魔術師じゃないか。普通、そんなに幅広く魔術は使えないはずだよ? 術の属性には、相性ってもんがあるからね。
     一体どんな奴なのか、この目で見るだけでもその価値はあるってもんさね)
     ゼルーは難なくその村に到着できた。が、そこに着いた彼女は目を疑った。
    「……廃村って言うか、『村』じゃないじゃないのさ」
     元は農村らしかったが、今は田も畑も無く、かつては豊かな森であっただろう荒地には雑草が生い茂っている。そして、人の姿はまったくない。
     そこは既に村としての機能を失った廃墟だった。
    「本当に、ここにその魔術師がいるってのかい?」
     ゼルーは非常に心配になったが、ここまで来て引き返す気にはなれない。とりあえず人の住んでいそうな場所を周ってみることにした。
    「ここ、は……、いない」
     目ぼしい家屋は柱のほとんどが腐り、壁にはひびが入って、一様に崩れている。とても雨露はしのげそうに無い。
    「こっちは、……っとと、無理だわね」
     元は畑であっただろう荒地の側にあった小屋は辛うじて原形をとどめていたが、中に入ろうとドアを押し開いた途端、押した方向に倒れた。
    「他に、人がいそうな場所は……」
     辺りを見回してみるが、もう人が住めそうな建物は見当たらなかった。
    (なんだい、まるっきり廃墟じゃないかい。もう潰れて10年、いや20、……50年以上は経ってるんじゃないか? こんなところに人なんか、住めるわけがないよ。
     大体、あんまりにも殺伐としすぎてる。まるで古戦場のような……)
     そう思った瞬間、ゼルーに怖気が走った。
    (……! そうだ、前にも似たようなところで戦ったコトがある。そこもこんな雰囲気だった。あの時は半ば、タイカを誘うようにしてダマスク島まで引っ張ってきたけど、この感じはまるで、逆にアタシが引きずり込まれたような……!?)
    「来たか、ゼルー」
     ゼルーの背後から声がした。彼女はその声に、口から心臓が飛び出すかと思うほど驚いた。なぜならその声は数ヶ月前、彼女が自分の手で南海に沈めたはずの男のものだったからだ。
    「た、タイカ!?」
     ゼルーが振り向いた先には、不敵に微笑む大火がいた。
    「そうだ。俺が雷も、氷も火も扱える魔術師だ。高齢と言うのも間違ってはいない。俺は数百年生きているからな」
     そう言って大火は、クックッと笑った。その笑い方は、まるで鴉のようである。
    「アンタ、生きてたの……!?」
    「あれしきの攻撃で、俺が死ぬと思うのか?」
    「……チッ」
     ゼルーは舌打ちし、魔杖を構えて大火と対峙した。だが、大火は腰の刀に手をかけない。
    「クク、ここでようやく攻撃態勢に入るのか? 遅すぎるぜ……」
    「あ……?」
    「既にお前は籠の中だ。この廃村全域が、罠と化している」
     その言葉に、ゼルーは顔を引きつらせた。
    「なっ……」
     大火は道化じみた仕草で、うやうやしく会釈する。
    「『鴉の籠』にようこそ、ゼルー・トライン導師。貴様には最高のもてなしの場に招待してやろう――もちろん俺が主賓でお前が料理だが、な」
     そこで大火は、刀に手をかけた。

     ゼルーは大火に対して、3つのアドバンテージがあった。一つは大火が得意とする火の魔術を打ち消せる、風の魔術。
    「『エアブラスト』!」
     ゼルーの胸の前に空気の弾が作られ、大火を目がけて飛んで行く。
    「阻め、『ホールドピラー』」
     だが、大火は風の魔術に対して優勢となる土の魔術を唱える。大火の前に何本もの石柱が伸び、空気弾はその柱に当たって四散する。辛うじてすり抜けた弾も、勢いを失ってただのそよ風となってしまった。
    「チッ……、切り裂け、『ハルバードウィング』!」
    「『グレイブファング』」
     ゼルーの生み出した風の槍と大火が作り出した石の槍が飛び交うが、これも大火が押し切ってしまう。
    「お前の使う術も熟知している。風の術はこうして防ぐことができるし、もう一つ得意としている水の術も、近くに水が無ければ使えない」
    「く……」
     ゼルーは一瞬どこかに水源は無いかと考えたが、廃墟に水が無いのは分かりきっているし、必死に辺りを見回して探すまでも無い。
     だが、それでもゼルーは諦めない。
    「……フン、なめんじゃないよタイカ! 土の術だって大地から離れりゃ、使いようが無いんだ! 空から反撃のしようがないくらい爆撃してやる! ……『エアリアル』!」
     この術の熟練度も、ゼルーが大火に対して持っているアドバンテージの一つである。だが飛び上がった瞬間、ゼルーは大気の異常に気付いた。
    「あ……!? と、飛ばされ……ッ!?」
    「何故、この村が廃墟になったか分かるか?」
     空中で静止できず、フラフラとよろめくゼルーを見上げ、大火はまたクックッと笑う。
    「かつては農林業でそこそこにぎわっていたが、調子に乗って森林伐採を続けた末に、空気の様子が激変してな。山地からの突風を防ぐものが無くなり、折角の苗や種が植える度に飛んで行ってしまい、とても農業ができる状態ではなくなったのだ。
     そして今も、この土地は強風が吹きつけている。いくら風の術を得意としていると言っても、南海の温暖な空気を操るのとはわけが違う」
    「くそ……ッ!」
     ゼルーは術を解き、もう一度地面に降り立った。
    「……空気が荒れてるってんなら、好都合さ。アタシが最大出力で『ハリケーン』を放てば、その空気と相まって威力は二倍、三倍になる!」
    「だろうな」
     アドバンテージ、最後の一つはゼルーが放つ魔術の出力である。その瞬間出力量は大火のそれを上回っており、まともにぶつかれば、また大火が力負けするのは明らかだった。
    「まあ、その力を使えればの話だが。
     既に言っただろう、『罠の中』だと。その力、ここでも存分に使えると思っているのか?」
    「な、何だって……?」
     ゼルーの視線が一瞬、握っていた魔杖の水晶部分に流れた。
    「やはり、魔力の源はそれか」
     瞬間、大火はゼルーとの間合いを詰める。
    「……ッ!」
     ゼルーがしまったと思った時には既に、大火の刀がその水晶を真っ二つに斬っていた。ゼルーの体に満ち満ちていた魔力が、途端に抜けていく。
    「あ……、ああ……」
    「長所は立場を換えれば、途端に短所となる。得意とする術も、莫大な魔力源も、弱みに付け込み断ち切れば、いとも簡単に使い物にならなくなる。
     本拠地を離れ、不慣れな場所に一人で、不用意にノコノコやってきたのがお前の敗因だ」
    「敗因……。負け……、か、アタシの」
     ゼルーは絶望に満ちた顔で、その場に崩れ落ちた。
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