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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・闘凪録 1

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    晴奈の話、第261話。
    晴奈の変化。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     大会8日目(5月28日)、朝。
     闘技場を後にし、宿へと戻る途中の楢崎の顔を見て、道行く人が通り過ぎる度に皆、ぎょっとしている。
    (うーん、まだ顔が腫れてるみたいだ)
     痛みは夕べより引いたのだが、いまだ突っ張った感じが抜けない。触ってみると、まだじんわりと熱を帯びている。
    (これは出かけない方が良さそうだなぁ。今日、明日はゆっくり、宿で休むかな)
     楢崎は足を速め、宿への道を急いだ。
    「あ、ナラサキさん、……でしたっけ」
     と、背後から声をかけられる。
    「うん?」
     ところが振り向いた途端、呼び止めてきた女の子に悲鳴を上げられてしまった。
    「きゃっ!?」
    「お、おぅ?」
    「あっ……、失礼いたしました。あの、わたくしセイナの友人で、フォルナと申します」
     その狐獣人の女の子、フォルナは慌てて頭を下げる。楢崎もつられて、ぺこりと頭を下げた。
    「あ、これはどうもご丁寧に」
    「いえ、そんな……。あの、お顔がその、ひどく、あ、いえ……」
    「ああ、うん。大体分かってるよ。昨日の対戦が激しくって」
    「まあ、そうなのですか」
     あまりに痛々しく見えるのだろう、フォルナは眉をひそめて尋ねてきた。
    「どなたと対戦されたのですか?」
    「ロウくん……、ウィアードくんだ。いやぁ、激しい戦いだった」
     楢崎は昨日のことを思い出しながら、頭をポリポリかいている。
    「そんなにひどいかな、僕の顔?」
    「ええ、何と言えばいいのか……、失敗してしまった揚げ物みたいな顔をされてらっしゃいますわ」
    「そんなにかぁ。そりゃ皆驚くわけだな、はは……は」
     楢崎は笑いかけて、自分の頬に手を当てる。笑おうとして口を開けたところ、思っていたより痛かったのだ。
    「大丈夫ですか?」
     それを察したフォルナが、心配そうな目を向けてくる。楢崎はもう一方の手でぱたぱたと手を振る。
    「ああ、いやいや、大丈夫。心配かけて、すまないね」
    「いえ、そんな。……あの、ごゆっくりお休みなさいませ」
    「うん、そうさせてもらうよ。それじゃ、黄くんによろしく」
     楢崎は軽く手を挙げ、フォルナに別れを告げて立ち去った。
    「……大変ですのね、皆さん」
     フォルナは遠ざかる楢崎の背中を眺めながら、ぽつりとつぶやいた。

    「そうか、揚げ物のできそこないのような顔か」
     フォルナから楢崎の話を聞いた晴奈は、クスクスと笑っている。
    「それはひどいな、はは」
    「ええ、ひどい膨れ方でしたわ」
    「あ、いや、そこでは無く……」
    「え?」
    「いや、何でも無い。そうか、聞く限りではまだ、試合の疲労は濃そうだな」
    「ええ、そのように見受けられました」
    「後で見舞いに行くとしよう。ちょっと厨房、借りようかな」
    「お弁当でも?」
    「ああ、そのつもりだ」
     立ち上がり、壁にかけてある割烹着を手に取った晴奈に、フォルナも続いた。
    「朱海殿。厨房と食材、お借りします」
     晴奈は割烹着を着ながら、廊下で一服していた朱海に断りを入れる。朱海は煙草の煙をふーっと吐きながら、手を軽く挙げて応えた。
    「ん、いーよ。食材は後で買い足してきてくれ」
    「かたじけない」
     晴奈とフォルナは厨房に立ち、調理を始めた。
    「それじゃまずは、根菜でも煮るとするか。聞いた様子だと、口の中を切っているだろうからな。なるべく刺激が無く、噛みやすいものがいいだろう」
    「ではわたくしは、つみれでも」
    「頼んだ」
     二人は手際よく、食材を調理していく。
     廊下でその様子を眺めていた朱海は、その様子をじっくりと見ていた。
    (ふーん……。ウチに来たばっかりの時は何つーか、堅くてつっけんどんですぐ怒る、正直めんどくさいヤツだと思ってたけど、最近は変わったなぁ。
     初めの頃は絶対、あんな楽しそうに料理なんかしたりしなかったのに)
     ロウがこの街に来て善人になったように、晴奈もこの街に来て色々な変化が起きていた。
    (手際も格段に良くなった。刀とかで刃物に慣れてるからかな、包丁も随分うまく使ってる。そう言や、着たばっかりの頃は客にすぐキレそうになってヒヤヒヤしてたけど、最近じゃすげー愛想もいいもんな。
     最近の晴奈は、ムダなトゲが無くなったな。前は星かウニみたいに、トゲトゲだらけだったのに。今は何つーか、前よりずっと感じのいい子になってる)
     朱海が温かく眺めている間に、弁当の調理が終わる。
    「さて、後はこれを弁当箱に詰めて、と」
    「完成ですわね。セイナ、さっそく届けてらしては?」
    「そうしよう。朱海殿、少し外出してきます。1時間ほどで戻ってきますので」
    「ん、ああ」
     朱海は我に返り、煙草を近くの灰皿に捨てる。
    「ま、今日はそんなに忙しくないだろうし、そんなに慌てなくていーよ。ナラサキさん、アンタの先輩だろ? 色々話もあるだろうし、ゆっくり戻ってくればいーから」
    「かたじけない」
     晴奈はぺこりと頭を下げ、三角巾と割烹着を脱いで店を出た。
    「……でも、話し方だけは変わらないなぁ」
     朱海はクスクス笑いながら、新しい煙草に火を点けた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2016.06.23 修正
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