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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・混戦録 3

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    晴奈の話、第268話。
    同門対決、決着。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     刀に火が灯ったのを見て、観客席がどよめいた。
    「も、燃えてる!?」
    「火ぃ点いてるよ!? 大丈夫なの!?」
    「あれが『燃える剣術』か……! 初めて見た」
    「流石に同門だと、どっちも本気にならざるを得ないか」
     晴奈と楢崎の温度が上がるにつれ、リングも観客席も熱くなる。それに呼応するように、二人の戦いも激しさを増していく。
    「はあッ!」「そりゃあッ!」
     二振りの刀が紅い軌跡を描き、ぶつかり合っていく。周りの雨は気化し、リングの上にはうっすら湯気がたなびく。
     いや、リングの上だけでは無い。二人の体からも、まるで互いの気合いを具現化したかのように、もうもうと湯気が立ちのぼる。
    「りゃーッ!」「なんのッ!」
     晴奈は本気で立ち向かっている。楢崎も、隙あらば仕留めようと言う気配を漂わせている。
     凄絶な試合の展開に、観客たちも司会者も――その横に座っている婦人も、息を呑んでいた。

    「これはなかなか、見ごたえありますなぁ」
     狐獣人の婦人はリングを見下ろし、左手で口に扇子を当てる。
    「えと……、女の方は名前、何と言いましたやろ?」
    「コウ選手です。セイナ・コウ」
     司会者はリングに目を向けたまま、小声で答える。
    「ああ、そうそう。セイナちゃんでしたな。一回殴り飛ばされよったのに、案外タフやねぇ」
    「ええ。あの一撃、『キング』でものびてしまいますよ、きっと」
    「そやろねぇ。一回戦でも秒殺でしたもんなぁ」
     婦人は横に置いていたポーチから手帳を取り出し、ペラペラとめくる。
    「……ああ、そうそう、そうでした」
    「どうかされましたか、ヘレン様?」
     ヘレンと呼ばれた婦人は手帳を眺めたまま、司会者に応える。
    「ん、何でもありません。ちょと前にジュリアちゃん……、部下さんからセイナちゃんのお名前、聞いたコトがありましてな」
    「ほう?」
    「ジュリアちゃんの部下さんの、えー、……ちょとお名前失念してしもたんやけど、猫獣人の方から『強くてかっこええ選手がおる』と聞いてました。
     ……うんうん、なるほどなぁ。確かにかっこええ子や。ナラサキさんのファンでしたけど、こっちも応援したなりますわ」
     ヘレンは口に扇子を当てたまま、ニコニコと笑っていた。

     試合開始から既に10分以上が経過し、晴奈は肩で息をしていた。
    「はーっ、はーっ……」
     一方楢崎は、髪やあごから滴り落ちるほど汗をかいてはいるが、余裕の表情を見せている。
    「どうかな、黄くん。まだ、いけるかい?」
    「ぜー、はー、……勿論ですとも」
     口では強がるが、初手からかなりのダメージを負い、全力で打ち合わされた晴奈の体は、一瞬でも気を抜けば倒れ込んでしまいそうなくらいに疲労していた。
    (大きな岩に向かって木刀を打ち付けている気分だ……! いくら打ち込んでも、まるで手ごたえが無い)
    「よし、それじゃ行くぞ!」
     楢崎は袖で汗を拭い、また向かってきた。
    「やあッ!」
     晴奈も気力を振り絞って応戦する。だが、最初の打撃から立ち直った直後よりもずっと、動きが悪い。
    「それッ!」
     晴奈の疲労を見抜いた楢崎は一層刀に力を込め、ぐいぐいと晴奈を圧す。
    「くう、う……っ」
     鍔迫り合いの形で楢崎に圧されるまま、晴奈の体はずるずると後ろに下がっていく。楢崎は劣勢の晴奈に向かって、檄を飛ばした。
    「どうした、黄くん! こんなものか、君の力はッ!」
    「……ッ!」
     この時晴奈の中に何か、形容しがたいイラつきが生じた。
    (……こんなもの、だと? まさか!)
    「名にし負う央南の女傑、黄晴奈の実力は、こんな中年に押し潰されるようなものなのかッ!?」
     挑発するかのような楢崎の檄に、晴奈のイラつきは倍加する。
    (ふざけるな……ッ!)
     晴奈の頭に血が上る。そのせいで収まったはずのめまいがまたぶり返したが、晴奈の心はそれを意に介さない。
    「……~ッ!」
     どんどん後ろに圧されていた晴奈の足が止まった。

    「……?」
     楢崎が刀越しに感じていた晴奈の重みが、急に増した。
    「……むっ?」
     重さはじわじわと増し、やがて晴奈の体が完全に止まる。いや、それどころか抑えがたい重さが伝わり、逆に楢崎の足が下がり始めた。
    「何だって……!?」
    「ふ、ざ……」
     晴奈が震える声で何かをつぶやく。
    「ける、なッ、……負けて、たまるかッ」
    「黄くん……!」
     楢崎は混乱と高揚を同時に感じながら、全力を込めて晴奈を押し返そうとする。
    「う、おお、おおおお……!」
     だが、先ほどまでひょいと持ち上げられそうなくらい軽かった晴奈の体が、まるで鉛か鉄のように重たい。
    「……ふっ、飛べ、えぇぇぇぇ!」
     急に晴奈の力が強くなる。次の瞬間、楢崎はどさっと尻餅をついて倒れた。
    「な……っ!?」
    「うりゃああああッ!」
     晴奈は激情に任せ、刀を振り下ろした。
    「……ッ!」
     楢崎は慌てて刀を構え、防ごうとする。だが――。
    「ぐは……ッ!?」
     クラウンの馬鹿力でもビクともしなかった楢崎の刀は、それより格段に弱いはずの晴奈の力でぐにゃりと曲がり、楢崎の額を割った。

     5回戦終了後、医務室にて。
    「すみません、楢崎殿!」
     晴奈がしきりにぺこぺこしている。額に包帯を巻いた楢崎は、ニコニコ笑いながら手と首を振った。
    「いやいや、気にしないでくれ黄くん。刀も長い間使っていたし、そろそろ換え時だと思っていたから。
     ……しかし、不思議だな。なぜだか急に、君が重たくなったように感じたんだ」
    「は……? 私が、ですか?」
    「えっと、失礼かも知れないけど、君は今、体重いくつくらいなのかな」
    「え? えーと、確か55か、56キロだったかと」
     そう答えた晴奈の体を見て、楢崎はいぶかしげな表情になる。
    「あれ? やっぱり、そのくらいか。
     ……一瞬、本当に300か、400キロくらいに思えたんだ。僕の体重は92キロあるんだけど、その僕が弾かれるくらいの力を出してたんだよ、君」
    「はは、まさか」
    「いやいや、本当だよ。でなきゃ、僕が力負けするなんて」
     楢崎は腕を組み考えていたが、やがて苦笑しつつ顔を上げた。
    「……いくら考えても分からないな、ははは」
     その後、改めて腕相撲を試してみたりしたものの、やはり力の面では晴奈が負けていた。



     なお、翌日の赤虎亭では「うー……」と言う低いうなり声が、ずっと寝室から聞こえていた。珍しく筋肉痛になった晴奈が身動きできず、うめいていた声である。

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    2016.06.23 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    楢崎さん、実は身長も196センチあり、かなりでっかいです。
    晴奈やシリンでも、ちょっと見上げるくらいのデカさ。
    この体躯で襲いかかられたら、一般人ならそれだけで腰が抜けるでしょうね。

    NoTitle 

    92キロ!!・・・となると文章で見るより相当大柄ですね。
    身長との兼ね合いもありますけど。
    物理的なことを言っても、体格差は結構大きいですからね。特に格闘戦では。
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