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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・闘由録 2

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    晴奈の話、第275話。
    なぐさめ。

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    2.
    「グスッ、グスッ、うええん……」
     大会23日目(6月13日)、夜。
     シリンは昼からずっと赤虎亭に入り浸り、酔い潰れている。
    「シリン、もうやめとけって、な?」
    「いやや、もう一杯……」
     カウンターに突っ伏し、コップを片手に沈んだままのシリンを見かね、朱海が何度も声をかけるが、シリンは応じない。
    「……うえええん」
     今大会で4位が確定し、シリンは泣いては呑み、呑んではまた泣くと言う状態を繰り返していた。
     見かねた晴奈が、朱海に小声で尋ねる。
    「そろそろ、無理矢理にでも止めた方がよろしいのでは? 本来ならもう、閉店時間ですし」
    「まー、そろそろ頃合だろうなぁ」
    「うあーん、うう……」
     泣きっぱなしのシリンのせいで、今日の赤虎亭は閑古鳥が鳴いていた。そのため、朱海は途中から店を臨時休業にし、ずっとシリンをなぐさめていた。
    「ほら、顔上げろって」
    「うぐ、えぐっ……」
     朱海はシリンの顔をおしぼりで拭いてやり、優しく声をかける。
    「ま、今回はさ、晴奈とか色々、強いヤツが集まっちまったからな。運が悪かったってコトで、また次回頑張りゃいーじゃないか」
    「うぐっ、うん……」
    「まあ、悲しいのはすっげー分かる。前回はホントにいいとこまで行ったんだからなぁ。今回だけ、残念だったってコトで、さ。
     またトレーニングして、次回につなげよう、な?」
    「うん……、うん……」
     シリンはおしぼりをぐしゃぐしゃにしつつ、朱海の声に耳を傾ける。
    「じゃ、もう今日はこのくらいにしよう、な?」
    「うん……」
    「ま、今日は泊まってけ。一人じゃ帰れないだろ、その分じゃ」
    「うん……」
     シリンは朱海に促されるまま、店の奥に入っていった。
     厨房に残った晴奈は、涙と酒でびちょびちょになったカウンターに目をやり、ため息をついた。
    「はあ……。世話の焼ける」
     晴奈はカウンターに回り、後片付けを始めた。
     と、そこで店の戸を叩く者がいる。
    「あのー、すいませーん」
    「うん?」
     晴奈は戸越しに声をかける。
    「すみません、今日はもう閉店しておりまして」
    「あ、コウ先生っスか? オレです、フェリオっス」
    「フェリオ? どうした、こんな夜中に?」
    「こっちに、あの、シリンって来てないっスか?」
    「少し待て。今開ける」
     晴奈は戸を開け、フェリオを招き入れる。
    「どもっス」
    「シリンなら奥にいる。開店からずっと、泣きっぱなしだった」
    「やっぱり。……ちょこっと、気になったもんで。もう寝ちゃいましたかね?」
    「どうだろう? まあ、一緒に行こうか」
     晴奈とフェリオは店の奥に入り、シリンの様子を伺う。
    「うげ、げー」
    「……っと、失敬」「ありゃりゃりゃ……」
     呑みすぎたためか、シリンはトイレの戸を開けたまま嘔吐していた。
    「……ひどいっスねぇ」
    「まったくだ」
     晴奈とフェリオは揃って、呆れた顔になる。
     と、そこへ朱海が水を持ってやって来た。
    「お? フェリオじゃん。どした、いきなり」
    「いや、シリンの様子を見に来たんスけどね」
    「ふーん。そりゃ、ご苦労さんなコトで」
     朱海は火の付いていない煙草をくわえたまま、ニヤニヤしている。その内心を察したらしく、フェリオはパタパタと手を振った。
    「いやいやいやいや、違うっスよ? オレはただ、心配になっただけで」
    「あーあー、うんうん。分かってる分かってる、心配なんだな、うん」
     ニヤニヤしたまま、朱海はシリンに声をかける。
    「おーい、シリン。落ち着いたか?」
    「う、うん……」
    「彼氏サンが迎えに来たぜ、ケケケ」
    「かれしぃ?」
    「ちち、違いますってば」
     顔を真っ赤にしているフェリオをチラと見ながら、朱海はシリンに水を差し出した。
    「ほれ、水飲んどけ。ちっとは楽になる」
    「あ、あーい」
    「どーする? フェリオに連れて帰ってもらうか? それとも一緒に泊まるか?」
    「うー、動きたない……」
    「じゃ、泊まってけ」
     朱海はフェリオに向き直り、ニヤニヤしたまま口で煙草を動かし、家の奥を指し示す。
    「寝室はあっちだ。雑魚寝だけど、我慢してくれ。晴奈と一緒に、布団敷いといてくれ」
    「え、オレ、泊まるって言ってないっスよ」
    「ほーお? こんだけフラッフラになった女の子を放っておいて、自分だけささっと帰っちゃうヤツなんだ、フェリオ君は」
    「……分かりましたよ。んじゃコウ先生、行きましょ」
     フェリオは多少憮然とした顔をしながらも、朱海に従った。



     夜中、晴奈はふっと目を覚ました。
    (うん……?)
     背中を向けた方――フェリオとシリンがいる方から、ボソボソと話し声がする。
    「うんうん、大丈夫」
    「せやろか……」
    「シリンなら次、優勝できるって」
    「ホンマ?」
    「オレは信じてるよー、できる子だもん」
    「うん……。頑張るわ、ウチ」
     二人の声はくぐもって聞こえ、妙に甘ったるい語感がある。晴奈は振り返ろうと思ったが、何か怖く感じ、それはできなかった。
    (人の家で何を睦みあっているのか、破廉恥なっ)
     しばらくして話し声はやんだ。どうやら眠りに就いたようだが、晴奈は悶々としてしまい、なかなか寝付けなかった。



     翌朝。
    「ホンマ、夕べはすんませんでした」
     昨日の泣き崩れようが嘘のように、シリンはけろっとした顔で朱海に謝っていた。
    「いーよ、元気になってくれりゃ」
    「本当に、ご迷惑おかけしましたっス」
     シリンに並んで、フェリオも頭を下げた。
    「何でお前も一緒に謝るんだ?」
    「え、いや、まー」
    「ま、いーけどさ。じゃ、次頑張れよ」
    「はいっ!」
     シリンは満面の笑顔で、朱海に応えた。

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    2016.06.30 修正
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