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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第2部

    緑綺星・友逅譚 3

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    シュウの話、第57話。
    央北政治の闇。

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    3.
     頑丈な装甲車で20分ほど運ばれた後、エヴァはシュウたちが拠点にしているセーフエリアに到着した。
    (高さ3メートルを超えるコンクリート製防壁がエリア全体を囲み、出入口のゲートも、厚さ30ミリはあるだろう鋼鉄製。その前後に、アサルトライフルで武装した王国軍の兵士が数名。流石にここは守りが堅いか。もし突破でもされれば、王国の威信に関わるからだろうな)
     そのまま入ろうと試みれば当然止められ、拘束されるのは明白だったが――。
    「エクスプローラ社のカニート・サムソンだ。記者特権で彼女の保護を求めたい」
     兵士詰所を訪ねるなり、そう言って腕章を指し示したカニートに、兵士たちは敬礼で返した。
    「本営に許可を求めます。ここでお待ち下さい」
     拒否する様子も見せず、あっさり詰所の奥へ下がる兵士を眺めながら、エヴァはカニートに耳打ちした。
    「一体どうして……? いち記者がそんな権力を持っているはず無いだろう? あんた、まさか実はトラス王族だとか言うんじゃないだろうな」
    「まさか! 逆だよ、逆。そんな権力を行使できる会社が寄越した記者だから、言うこと聞くのさ。そもそも難民特区に取材へ行ける権利のある出版社ってのが、トラス王国には3社しか無い。ビクトリア社とプローブ社、そして我がエクスプローラ社だけなんだ。と言うのも――こんなことを自分で言ってしまうのもなんだが――いずれもトラス王国のみならず、大陸全域でもトップ10に入る巨大メディアグループなんだ。当然、政治経済に及ぼす影響もかなりデカい。王室政府も俺たちに対しては、『柔軟に』対応しなきゃマズいってわけさ」
     その後もエヴァに対する措置は上着を脱ぐ程度の簡単な身体検査だけで終わり、身元確認もされることなく、あっさり保護が認められた。
    「正直驚いている。心から、二人に会えて良かったと思ってるよ」
    「そりゃどうも。……で、エヴァンジェリン・アドラーさん」
     シュウたちが使っている部屋に通されたところで、カニートがスマホを向けてくる。
    「君が騎士団に入団していた2年間、どんな生活を送ってきたか。じっくり聞かせてもらいたい。無論、プライバシーに関わる部分は極力聞かないよう努めるし、君が不利益を被るようなことも聞かないつもりだ。可能な範囲で構わないから……」「すべて話す」
     やんわりとした口調で推し量ろうとしていたカニートに対し、エヴァははっきりと答えた。
    「私が騎士団に入って、何をしてきたのか。騎士団は何をしていたのか。私が知っていることはすべて話すと約束する」

     3時間かけてエヴァから騎士団の実情と悪行を聞き終え、シュウとカニートは顔を見合わせていた。
    「つまりコレって、言うなれば難民の積極的排除、……って感じの話になりますよね」
    「そうなるな。相当悪質な行為だ。いや、悪質なんて言葉じゃ不足だろう。はっきり言って、これは戦争犯罪も同然、難民保護国際条約の違反になる。この条約を結んでる国は、難民が来た場合には原則として受け入れなきゃならない決まりだからな。それを拒絶するどころか、白猫党領に無断で潜入してまで排除・殺害に向かうなんて、条約に批准してる先進国のやることじゃないぞ。
     これが露見すれば、リモード共和国が国際的批判にさらされるのは確実だ。共和国は内陸国で貿易ルートに乏しく、領土も狭いから国全体の生産力も低い。この件で周辺国・友好国から非難され、経済制裁でも受ければ、共和国にとっては経済危機レベルの、相当な痛手を被るだろうな。相当デカいネタになるし、何としても裏を取りたいところだが……」
    「まさか白猫党領に行くワケにも行きませんよねー」
    「その通りだ。向こうは戦争中だし、情勢は不安定極まりない。国外からの報道関係者も、全く受け付けてない。真正面から頼み込んでも、確実に無視されるだろう。かと言って無断で忍び込んだりしたら、それこそ国際問題だ。発覚すればどこぞのスパイ映画みたく、会社や国からは『一切関知しない』って縁を切られて、そのまま白猫党領で処刑されちまうだろう。
     と言うかそもそも、俺たちは文化系の雑誌記者であって政治社会誌担当じゃない。難民特区を取材しに来たのだって、政治批判が目的じゃないからな。このネタを扱うのは、荷が重すぎる。本腰入れて扱おうとしたら、会社内でかなりの離れ業を決めなきゃならん。現状でできることは、アドラーさんを王国に連れ帰るくらいだ」
    「まあ……そうですよねぇ」
     あまり期待した回答は得られなかったものの、それでも自身の身の安全が保証され、エヴァは内心ほっとしていた。
    「トラス王国なら、防衛も対応もしっかりしているだろう。街中で騎士団の刺客に襲撃されるようなことはあるまい」
    「あったとしたら確実に、共和国を非難する材料にするだろうさ。今、王国の立場はかなり難しいことになってるからな」
    「難しい……?」
     おうむ返しに尋ねたエヴァに、シュウが答える。
    「難民の扱いとか経済摩擦とか、国際問題いっぱい抱えてるからねー。国内外から批判が上がってて、話題逸らすのに必死みたい」
    「……どいつもこいつも、だな」
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