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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第4部

    緑綺星・聖怨譚 9

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    シュウの話、第138話。
    覚えてもらえなかった男の逆襲。

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    9.
    《僕のことを覚えてないんだ、カズセちゃんは。そっか、やっぱりそうだよね。僕なんかのことは、あなたみたいなすごい人にとってはいないも同然の人間なんだろうな》
    「うっとーしーコト言ってねーで、素直に名前名乗れよ」
     水を向けるが、相手は応じない。
    《これは率直な疑問、と言うか確認だけど、もしカズセちゃんが今、本気でそこにいる兵士たちと戦ったら――何でもアリとしてさ――10秒もかからないよね、全員殺すのに》
     棒立ちのままの兵士に目をやりつつ、一聖は「ああ」と答える。
    「初手で魔術使えば1秒もかかんねーよ」
    《でも殺してないよね。それは何故?》
    「んなコトてめーにわざわざ説明する気はねーな」
    《じゃ、僕が当ててあげるよ。カズセちゃんが教えてるトラス王族に、迷惑がかからないようにって配慮してるんだよね。『人殺しにモノを教わってる』なんて悪評を立てられないようにさ》
    「さーな」
     口ではとぼけてみせたが、相手は見抜いているらしかった。
    《だからこうなったら、あなたは、いや、『猫』血統は、とっても困る》
     次の瞬間――ビルの外から、ドン、と爆発音が轟いた。
    「……今のはなんだ?」
    《警視庁からだよ。首相にこっそり仕掛けてた爆弾を起動させた》
    「なん……っ!?」
     思いもよらない話に、一聖は声を荒げていた。
    「ふざけてんのか!?」
    《大真面目さ。今度のは質問じゃなくて、出題だけど――今日、メディアの真ん前でカズセちゃんにこき下ろされてた相手がこうして殺されたとしたら、世間は一体誰が犯人だと思うかな?》
     どこか愉快そうな声色の相手に、一聖は怒りを覚える。
    「てめー、イカれてんのか!? ソレでオレを犯人に仕立て上げようってのか? どーやって証拠でっち上げるつもりだ?」
    《証拠なんかいらない。粉微塵に爆発したんだから、そもそも証拠なんか残ってないだろう。必要なのは、世間の勝手なうわさだよ。世間はきっと、あなたが犯人だと思うだろう。『政敵を暗殺したんだ』って。あなたに教えを受けてきた『猫』血統には悪評が立つ。僕は世論に乗る形で彼らを批難し、信用と信頼を得る。名実ともに、僕がこの国の王になるんだ》
    「……てめー……メルキンだな」
     一聖の問いに、相手は嬉しそうに答えた。
    《やっと分かった? この国一番の頭脳も案外ニブいんだね。……いや、首相だって大したことなかったんだから、推して知るべしってことなのかな。首相は狙撃とその暗殺部隊であなたを仕留められる、あなたさえいなければ後の世論をどうとでもできると豪語してたけど、僕はそうは思わなかった。あなたほどの魔女が、銃や袋叩きくらいで死ぬとは思えなかったもの。
     だからあなたには、社会的に死んでもらうことにしたんだ》
    「マクファーソンはお前さんを利用するつもりだったんだろうが、結局は逆に、お前さんに利用されてたって話か。どーせすぐ捕まってみせたのも、お前さんから『後で恩赦でもなんでもして助けてやるから』って約束されてたからか。ソレともこーなるコトを覚悟の上か。……ま、どっちにしたって、オレから言わせてもらえばずいぶんお粗末な計画だがな」
    《じゃあ打開策があるの? 王国民全員に、いや、ニュースを見聞きした全員に、今日のことを忘れさせる秘術があったりする? それとも死んだ人間を生き返らせたりできるの?》
    「……」
     一聖は答えず、黙り込む。
    《ないだろうね。一旦起こったことはもう覆らないし、人の口に戸は立てられないのが世の常だもの。うわさはうわさを呼ぶ。一つのうわさを完璧に消したとしても、その時にはもう、次のうわさが世の中にあふれてる。下手に誤魔化したって逆効果だろうし。最善策はあなたが今すぐ、この国から出て行くことしかない。何も言わずに。何もせずに》
    「……」
     一聖は無線機を兵士に返し、彼らに背を向ける。
    「一言だけ言っておくぞ」
     そして――こう言い残し、どこかへ去っていった。
    「オレを侮辱しやがったコト、末代まで後悔させてやるからな」



     首相暗殺の翌日、改めて王室政府から、メルキンが王位を継承することが発表された。しかし彼を推挙した首相が犯罪に手を染めていたこと、そもそもメルキンの国家元首、指導者としての資質が疑問視されたことからこの決定に異を唱える者が続出し、正式な王位継承にはいつになっても至らなかった。一方、彼に代わる王として別方面から推挙された「猫」血統の王族、カールも――メルキンの狙い通り――黒いうわさが湧いた一聖との関係性を指摘され、国民全員の信頼を得るには至らなかった。
     この「狼」と「猫」、両血統双方が決め手を欠く状況で、メルキンはまたも、何の性懲りもなく暗躍を続けた。その結果、両血統の関係は次第に険悪になっていき、事態はついに戦争へと発展してしまった。

     だがメルキンの思い通りになることはついになく、この両血統による内戦――後に「狼猫戦争」と呼ばれることになるこの戦いは翌年の635年まで続いた挙句、東西二国に分裂すると言う、破滅的な結末を迎えてしまった。
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