fc2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第4部

    緑綺星・国謀譚 2

     ←緑綺星・国謀譚 1 →緑綺星・国謀譚 3
    シュウの話、第141話。
    水仙狼当主ロマーノ卿の応対。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
    「誤解ですと?」
     尋ねたトラス王国外務省の役人に、ロマーノは眼鏡の位置をちょん、ちょんと整えながら、どこか斜に構えた様子で説明した。
    「まずその1。テンコちゃんが我々の庇護下にあるのではなく、テンコちゃんが我々を庇護している立場にあると言うことです。故にその2、私の意見はテンコちゃんが必ずしも聞き入れるべき強制力を有しないと言うことでもあります。さらにその3」
     よほど眼鏡のすわりが悪かったのか、ロマーノは眼鏡を外し、それに視線を落としながら話を続けた。
    「テンコちゃんが現在進めているいずれの計画も、特に秘密にしていると言う事実はないものと伺っております。無論、私が知る限りの範囲での話ではありますがね。しかしあなた方はトラス王国から来られたと仰っておられたから、ご要件は石油のことでしょう? それなら存じておりますし、そしてそれは秘密ではありませんな。公然と進行しているところです」
    「そんなことはどうでもよろしい! 重要なのはこの国にいるカツミ女史が、即ち王国と何の関わりもなければ、何の権利も有していない人間が、王国の領土内でこの計画を進めていることです。これは明らかに領土侵害です。故に介入すべきではないと警告します」
    「警告? ふむ」
     ロマーノは依然として彼らと目を合わせず、眼鏡の曇りを丁寧に拭き取り始めた。
    「つまりテンコちゃんの石油会社計画があなた方の思惑に反しているから、絶対に掘らないでくれと?」
    「それだけでは……いや、そもそもですが、彼女は明らかに我々の権利を害しているのです。明るみに出れば国際社会からの批難は避けられませんぞ。庇護して、ああいや、庇護されているあなた方も、決して無事では済まないでしょう」
    「権利を害している、と」
     ほこりを吹き飛ばしたのか、それとも笑い飛ばしたのか――ロマーノは口からふっと息を吐き、眼鏡を掛け直した。
    「ふーむ……スプリングが緩いな。どうしても傾く。掛けない方が見やすいくらいだ。……ええと、そう、権利と申しましたな。なるほどなるほど、テンコちゃんが言及していました。あなた方がこうして接触してきた場合、きっとそのことについて触れるだろうと」
    「なんですって? つまりカツミ女史は権利侵害を把握していたと言うことですか?」
    「そりゃ把握しているでしょう。権利関係のうるさいこのご時世だ、商売をやろうとなれば、どこの誰が何の権利を有しているかなどと言うことは、真っ先に調べておかねばならない話ですからな」
     再度眼鏡を外し、執事に渡したところで、ロマーノは裸眼で役人たちを見すえた。
    「前置きしておきますがね、お二人さん。あなた方こそ、ここがどこなのか。そして誰がどんな権利・権限を有しているかを、丸っきりお分かりでないようだ。相手のことを前もって調べておくのは、交渉事においては常識でしょう? だと言うのにろくに調べもせず、テンコちゃんやレイリンさんにではなく、いきなり私に訴えかけてくるとは。
     色々と教えておきましょう。ここはミッドランド市国、テンコちゃんの本拠地です。この国には彼女の教えが隅から隅まで行き届いている。と言ってもその教えは、突き詰めればこの一つに尽きる――『契約は公平にして対等の理(ことわり)である』と」
    「は、はあ……?」
     けげんな顔を並べる役人たちに、ロマーノは畳み掛ける。
    「我々はフェアプレイかつフェアトレードの精神で他者と接することを心がけている、と言うことですよ。無知なあなた方に何の事前告知もなしでいきなり攻撃するのはフェアとは言えません。そんなことをすれば、テンコちゃんに叱られるでしょう。ですから丁寧にご説明差し上げるのです。
     権利、権利と仰っておりましたが、本当にその権利、即ちトラス王国ニューフィールド自由自治特区の土地とその開発権は、あなた方が保有しているものなのか? それすら理解、いや、把握なさっておられないようですな」
    「う、うん……?」
    「それは、どう言う……」
     尋ねかけたその時、応接間にノックの音が響いた。
    「オレだ。ロマーノ、こっちにいんのか?」
    「ああ、テンコちゃん!」
     ここまでしかめっ面で通していたロマーノが、途端にぴょこんと狼耳を立て、嬉しそうな声を上げる。
    「ええ、ここにおります! トラス王国のお役人さん方も、こちらに」
    「そっか。入るぜ」
     音もなくドアを開け、天狐と、アタッシェケースを手にした黒毛の狼獣人が応接間に入って来る。
    「そいつらか。ま、オレのコトは知ってるかもだろうが、自己紹介しとくぜ。オレが克天狐だ」
    「こ、これはご丁寧に」
     立ち上がり、挨拶しかけた役人たちに、天狐は「そのまま座ってろ」と冷たく言い放つ。
    「話は5分で終わる。大方お前さんらは、オレに権利がねーだの土地は王国のもんだだのゴネてるトコだと思うが、先に結論言っとくぜ。
     お前らに権利なんかねーぞ」
    関連記事




    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【緑綺星・国謀譚 1】へ
    • 【緑綺星・国謀譚 3】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【緑綺星・国謀譚 1】へ
    • 【緑綺星・国謀譚 3】へ