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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第4部

    緑綺星・国謀譚 3

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    シュウの話、第142話。
    国債償還の裏ワザ。

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    3.
     天狐の言葉に、役人たちは目を丸くする。
    「なんですと?」
    「い、いやいや、あるでしょう。あの土地はトラス王国の領土です」
    「14年前まではな」
     そう返し、天狐は傍らの狼獣人に声をかけた。
    「エヴァ」
    「はい」
     彼女は机の上にケースを置き、中身を役人たちに見せる。
    「この書類が何だか分かるよな? コピーだから持ってっていーぜ」
    「え……っと」
     書類を手に取りつつ、役人たちは顔を見合わせていた。
    「土地台帳? ……うん?」
    「これ、王国じゃなくてブロンコ共和国の……隣国のですよね? でも……」
    「『699年にトラス王国より購入 本国領土に編入』!?」
    「こっちは……売買契約書? うちの……王国のですね」
    「『706年にモンデオ共和国へ売却 1500億エルの債権放棄が承認されたことにより 売買成立とする』」
    「……ま、まさか? ち、地図持ってるか? スマホ見せてくれ」
     内輪でこそこそと話し合っている役人たちの前に、天狐が紙の地図を差し出した。
    「実際に描いてみな。ドコの土地が今、他所に渡ってるかをな」
    「ど、どうも、ご丁寧に。……ここだろ? それと、ここと……」
    「ここですよね。……それからここ、……ここも。……ここも!?」
     書類上、譲渡が成立している難民特区の土地を、渡された地図に書き込んでいき――そして難民特区のほとんどすべての土地が他国に渡っている事実を、役人たちは文字通り見せつけられてしまった。
    「経緯はこうだ」
     呆然としている役人たちに、天狐が説明し始めた。
    「696年に半世紀ぶりの統一を果たし、国際的に面目躍如したかに思えたトラス王国だが、お得意としてきた重工業・化学工業の世界的需要は年々右肩下がりで、王国経済もソレに引っ張られる形で落ち込み続け、統一時には既に赤字国債の発行もやむなしの状況だった。だが赤字国債ってのはもっぺん借金する以外に返すアテがねーただの問題先送り策、借金地獄の定番コースだ。当然この赤字国債も10年、20年経って償還しなきゃならなくなったが、借金地獄から抜け出したかった王国は、とんでもねー裏ワザを繰り出した。
     ソレが難民特区の売却――自国資産として持ってはいたものの、壁の向こうの無法地帯にゃもう関わりたくねーってんでほっときっぱなしになってたこの土地を、『将来的に再開発すれば地価が高騰するはず』とか『再開発の目処は立っているから絶対に得する取引だ』とか何とか適当なコト言ってめちゃくちゃな値段付けて、債権者に無理矢理売りつけて国債を償還したのさ。そしてその債権者ってのが、新央北の配下国ってワケだ。もちろん特区再開発の予定なんかコレっぽっちもねーし、事実、四半世紀経っても廃墟だらけさ。押し付けられた配下国はたまったもんじゃねー。長年、憤慨してたってワケだ。
     このクズ土地押し売りを繰り返した結果、赤字国債は9割方解消してはいる。その代わり王国は、難民特区のほとんどを配下国に売却・譲渡しちまった。当然、現在石油が湧いてる土地も、14年前には譲渡が完了してる。当時はそんなもんが出るなんて、売った側も買わされた側も、誰一人として思ってなかったんだから、な」
    「し、しかしそれならやはり、所有者はあなたでは……」「あのな」
     抗弁しかけた役人に、天狐は心底呆れた目を向けた。
    「話は最後まで聞けっつーの。そのクズ土地持て余してた配下国に打診して、オレが全部買い取ったんだよ。マジに石油が出る前の、去年のうちにな」
    「か……買った!? 譲渡された難民特区の全土地を!?」
    「クズ土地の割に、バカみてーに高い買い物だったぜ。とは言えオレ名義の現金預金だけじゃ足りなくて、購入額の3分の2が設立予定の石油会社、つまり現ラコッカ石油の株式って形にはなったけどな。ま、そんな事情もあるからよ、とにかく難民特区はオレの土地だ。正当な取引の結果によって、な。
     もしこの取引が不当だ、土地はまだ王国のものだと言い張ろうってんなら、王国はまだ債務を抱えてるコトになる。償還期限をとっくに過ぎてる国債を、だ。つまり王国財政がデフォルトしてるコトになるワケだが――王国の財政破綻を認めてまで石油利権を獲得したいなんて、まさか言わねーよなぁ?」
    「うぬぬぬ……」
     反論の材料を失い、役人たちは顔を青くして黙り込む。
    「話はコレで終わりだ。さっさと帰れ」
     天狐はあごでくい、と応接間のドアを指し示した。
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