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    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第4部

    緑綺星・国謀譚 5

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    シュウの話、第144話。
    偽りの緊急出動。

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    5.
     ミッドランドへ送った密使が天狐に追い返された、その数時間後――。
    「首相からの極秘命令が下った。この件は決して口外しないように」
    「は……承知いたしました」
     王国軍の難民特区方面司令が、本営の一室に部下である将校数名を集めていた。
    「先般より我が国緊急の課題であった特区内の油田掌握計画だが、政治面からのアプローチに失敗したと、外務省より連絡があったそうだ。詳しい経緯は伝えられていないが、外交による平和的解決は期待できないと言うことだろう。
     そこで首相より、実力行使による油田制圧が命じられた。軍を派遣し、油田とその周辺一帯の制圧に向かってくれとのことだ。しかし現在、世論の反対意見が強く、うかつな出動はできない。ましてや直接的・即時的には国民の利益とならない油田奪取を世論が許す可能性は、極めて低い。通常体制では軍を動かすことは不可能と言っていいだろう」
    「では、どうやって制圧を?」
     尋ねた将校に、司令は顔をしかめさせる。
    「繰り返すが、通常体制では我々は動けない。しかし緊急体制であれば、我々のすべての軍事行動は原則として無条件で容認されることもまた、国民の総意によって認められている」
    「緊急体制?」
    「ああ……まあ……例えば『例の組織』が我が国領土を侵犯した場合などがそれに当たる」
     司令の言葉に、将校たちも同様に顔をしかめさせた。
    「例のと言うと……西の?」
    「しかし彼らが都合良く――語弊はありますが――このタイミングで攻め込んでくるとは、あまり考えられない事態では」
    「動機は十分ある」
     司令は全員に背を向けながらも、話を続ける。
    「かねてより油田を狙って動いていた形跡もある。こうして実際に石油が出て、なおかつ、数日中にも採掘が始まろうと言うなら、むしろ絶好のタイミングと言える。現れてもおかしくないと、十分考えられる。
     そこで……まあ……そう……言ってしまえば、その不確定な状況を、我々が極秘裏に確定させてしまえば、世論がどうあろうとも緊急体制に入れるはずだと、首相や内閣御一同は、そうお考えのようだ」
    「閣下、つまりそれは……」
     将校が尋ねかけたところで、司令が申し訳なさそうな目を向けてきた。
    「私の口からは言えない。君たちに任せる。緊急体制に入っても誰にも文句が出ないような、いや、出せないような状況を作るのだ。私からは以上だ。速やかに計画し、一両日中に行動してくれ」
    「……承知いたしました」
     明らかに責任逃れを企てる司令に、将校たちは敬礼を向けた。

     この将校たちの中に、ラコッカファミリーを駆逐するために部隊を差し向けたあの狼獣人も参加していた。
    「……クソどもめ。とうとう欺瞞作戦にまで出るのか。軍人としての誇りは、……いや、……言ったところで、か」
     自室に戻り、席についてぶつぶつと愚痴を吐いていたが、それも途切れ、やがて黙り込む。
    「そもそも異を唱えない時点で、俺も黙認したと言うことだ。認めたなら、仕方ない……か」
     ついにあきらめに満ちたため息を吐いて、部下に電話をかけようとした。と――そこで逆にスマホが着信音を鳴らし、彼を呼んだ。
    「……俺だ」
     感情を押し殺し、電話に出ると、部下の困惑した声が伝わってきた。
    《ちゅ、中佐、失礼します、あの、確認させて下さい》
    「なんだ? 落ち着け」
    《今、動画で、あの、メイスンリポートって、……い、いえ、単刀直入に。本当に軍は今、難民特区に兵を送ろうとしているのですか?》
    「なに!? どこから通達された!?」
    《……! 本当なんですか!?》
    「今から指示を送ろうとしていたところだ。だがまだ極秘の……」《見損ないました》
     ぶつっ、と電話が切れ、将校は唖然とした。
    「みそ、……え? な、なんだ? ……動画? メイスンとか言っていたな」
     困惑を抑えながら、将校はスマホで聞きかじった単語を検索し、それらしい動画を見つけた。
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