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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第4部

    緑綺星・建国譚 3

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    シュウの話、第159話。
    斜陽の王国。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     一方、トラス王国は本格的に斜陽を迎えようとしていた。
     カプリ共和国建国以降も兵士たちのストライキは続いており、そればかりか、いつ本格的にクーデターが勃発してもおかしくない、緊迫した状況が続いていた。
    「……ふー……」
     そんな状況では軍本営にいることもできず、かつて特区への部隊派遣を指揮していたあの狼獣人の将校は自宅にこもり、やつれた顔でスマホに目を通していた。
    (今日も罵詈雑言のバルーンの嵐、か)
     短文投稿サイト「ルーモルーン」のタイムラインをぼんやり眺めていたが、そこに並んでいるのは王室政府と王国軍に対する、猛烈な批難と中傷ばかりだった。
    (こんなものいつまでも見てたら、……正直、何もかも嫌になってくる)
     とうとうスマホをベッドに放り投げ、彼は頭を抱えて机に突っ伏した。
    (正直、ここまで規律がめちゃめちゃになってしまったら、もう元に戻すのは困難だろう。と言うか、どうやって戻せって言うんだ? 現時点で兵士の誰も、上層部からの再三の復隊要請に応じてないって話だし。……そりゃそうだよな。国を守るために頑張ろうって、真面目にそのために働いてた奴が、実はお偉いさんのカネのために働かされてたって聞かされたら、そりゃやってられるかってなる。そこにもう一度『お偉いさんの財布のために頑張ってくれ』なんて言って復隊要請したって、誰だって断るだろう? 俺だってきっと、いや、絶対断る。……あー、正直俺も辞めたい。上からは無能だのグズだのとこき下ろされるし、下からは恥知らずと罵られるし。
     本気で転職考えるか……)
     放り出したスマホを拾い、彼は転職サイトを調べ始めた。と、サイトのトップに表示された文字に目を引かれ、彼は喜びかける。
    (『軍関係者歓迎』? 渡りに船だな)
     が、募集元を確認したところで、一転、彼は憤慨した。
    (『カプリ共和国防衛軍』だと!? ふざけてるのか……!? 人が真面目に職探ししてるのに、こんなたちの悪い冗談なんか……)
     しかし詳細を確認していくうち、本当にその募集元が、今はれっきとした隣国となったカプリ共和国であることが分かった。
    (連絡用の電話番号は、かつて使われていた向こうの局番。面接会場はニューフィールド市内。……マジで特区が、いや、カプリ共和国が募集してるのか? いやしかし、壁の向こうになんてどうやって、……あ、そうか。軍が機能してない以上、国境に兵士はいない。通り放題なわけだ。
     ……ん? 応募倍率が上がっている。……しかも結構上がり方速いぞ!? 人気なのか? あ、いや、そうか。王国軍に見切りを付けた奴が――俺を含めて――どんどん応募していってるんだ。……じゃ、俺も応募しよう。王国軍に義理も未練もないしな)

     翌日、彼は数年ぶりに軍服ではないスーツ姿で、兵士のいない国境をくぐっていた。
    「……マジで素通りできてしまった」
     思わずつぶやいたその言葉に、「ですよね」と声が続く。
    「ん? ……あっ」
     そこにいたのは先日、電話で自分に欺瞞作戦の存在を確認した、あの兵士だった。
    「どうも。……上官どのもこっちの応募に?」
    「そうだ。だから現時点で俺はもう、上官のつもりじゃない。前みたいにボスフォードでいいよ。新兵の頃みたく、ビートさんでもいいぞ」
    「じゃあ俺のこともターナー上等兵じゃなく、ルイスでいいですよ。配属された時みたいに」
    「……ふっ」
    「へへ」
     相好を崩し、互いに肩をすくめて、揃って今通ってきた国境を見上げる。
    「もう戻る気はないんですか?」
    「ないな。俺も欺瞞作戦のことを聞かされて、やってられなくなったクチだ。王国に未練はないし、住めるようならこのままこっちに住むよ」
    「俺は家族がいますから、通えたら通うつもりです」
    「どっちも上手く行くといいな」
    「そうですね」
     二人は肩を並べて、共和国の荒れた道を進んでいった。



     カプリ共和国が新設した防衛軍の人員募集には元王国軍兵士の7割近くが応募し、ほとんどがそのまま採用された。
     一方の王国は内閣総辞職を行うとともに、軍幹部陣のほとんどが罷免・更迭され、体制が完全に一新されたことでようやくストライキが解かれた。既に兵員は3割に減っていたため、こちらも大規模な募集を行ったが、信用を失った王国軍の離職率はその後も長年に渡って高止まりが続いた上に、ストが慣習化。大量離職と大量雇用が繰り返された上、度重なるスト解決のため、いたずらに人件費が防衛費に上乗せされていったことで財政が圧迫され――元々の不景気や震災の影響、赤字国債の際限ない増発、その他諸々の要因も合わさった結果――王国は数年後に財政破綻した。
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