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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・剣姫録 6

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    晴奈の話、第356話。
    敵陣へ。

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    6.
    「あー……、そうか、あれって廃坑だったのか」
     晴奈から話を聞いたカモフは、納得したようにうなずいた。
    「お主も知らなかったのか」
    「ああ、ずっと移動法陣で出入りしてたからな、外がどんな様子なのかなんて誰も知らなかっただろうな。
     つーか、アジトから外に出ようとすると、でけぇクレバスに阻まれるんだよな。……ま、それが廃坑になった原因かも知れんが。
     話からするとモエ……、いや、トモエはそこから移動法陣無しで出たっぽいが、どうやって越えたんだろうな?」
    「ま、常識的に考えたら無いはずないんだよね、徒歩で出られる通路って」
     その疑問に対し、モールが杖を磨きながら答える。
    「元々が鉱山なんだし、空気取りのための穴があるはずだね。それに落盤なんかで入口が崩落した場合を想定した、緊急脱出路もあるだろうしね。恐らくその仮面女、そこら辺から脱出したんだろうね。
     逆に言えば、そこから入れるってコトだ」
     晴奈たちの話をじっと聞いていたジュリアが、そこで顔を上げた。
    「何にせよ、行かない手は無いわね。すぐ準備しましょう」
    「そうだな。今度こそ、ヤツらの中核に踏み込める。……だけど」
     バートが煙草をもみ消しながら、不安そうにつぶやく。
    「やっぱり、援護は無いのな」
    「仕方無いでしょう、財団は軍隊なんて持ってないんだし。武器と馬車を手配してくれるだけでも、ありがたいと思わなきゃ」
    「だよな。……ふー」
     また、バートは新しい煙草に火を点ける。それを眺めていたシリンが、呆れたように声をかけた。
    「バート、もうその辺にしときいや。吸殻、山盛りやん」
    「そうよ、空気も濁るし」
     ジュリアにも諭され、バートは苦笑いする。
    「あ、悪い悪い。んじゃ、これが最後で」
     そう言ったところで、バートは黙り込む。
    「どうしたの?」
    「……やっぱ、やめとくわ。『最後』とか、縁起でもねー」
     バートは口にくわえた煙草を吸うことなく、もみ消した。

     フォルナは話の輪から離れ、このところずっと商館内にこもっているフェリオ――巴景が襲ってきた時も、彼は外に出てこなかった――を訪ねていた。
    「おう、フォルナちゃん。さっき騒がしかったみたいだけど、何かあったの?」
     ぱっと見る限りでは健康そうに見えないことは無いが、フォルナに声をかけているこの時も、フェリオは椅子から立ち上がろうとしない。それに、左手を見せないようにしているのか、やや体を傾け、ひざ掛けを左腕全体を覆うようにかけて座っている。
     依然、病状は進行しているようだった。
    「ええ、実は『バイオレット』が単騎でいらっしゃいまして。セイナに以前、ひどい目に遭わされた記憶が戻ったとか」
    「へぇ……」
     フォルナから勝負の決着や、巴景が殺刹峰アジトの場所を報せたことなどを聞き、フェリオは目を丸くした。
    「それじゃ、いよいよってわけか」
    「ええ、もしかしたら、あなたの治療薬も見つかるかも知れませんわね」
    「だといいなぁ。……フォルナちゃん、ちょっと聞いていいか?」
    「はい?」
     ここでようやく、フェリオはこれまで見せないようにしていた左腕を見せた。
    「……」
     青く変色した部分が、以前にも増して左腕全体に広がっている。
    「君はグラーナ王国のお姫様だと言ってたけど、帰る予定なんてのは……、ある?」
    「ございませんわ。ヘレン様に口添えをしていただいて、一応のけじめは付けておこうかと考えておりますけれど」
    「そっか。……じゃあさ、もしもだけど」
     フェリオは寂しげな、そして悲しげな表情を浮かべてぽつりとこぼした。
    「オレが……、その……、その、ゴールドコーストに帰って、その後、……その、もし、いなくなるようなコトがあったら、……多分、シリンは悲しむと思うんだ。
     だからさ、シリンを元気付けてやって欲しいんだ。オレがいなくなった、その後」
    「……」
    「……フォルナちゃん」
    「はい」
     フェリオはまた左腕を隠し、右手で顔を覆った。
    「治療薬、無きゃ困るよ。オレ、まだ死にたくねえもん。こんな頼みごと、したくねえよぉ……」
    「……そうですわね。見つかると、わたくしも祈っておりますわ」



     偶然と衝突、思索と執念の入り混じった紆余曲折の末に、公安と晴奈たちはようやく敵のすぐ足元へと近付いた。
     長年、大義の名の下に、あるいは一人の妄執のために、人を食い物にし、大陸の陰でじわじわと成長、増殖を続けてきた組織と今、正面衝突する。

    蒼天剣・剣姫録 終

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    2016.08.13 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    「死を想え」という言葉もありますからね。
    その時に備えて準備することは、非常に大切と思います。
    誰だって死にたくない。それは間違いないことですが、それを受け止めることはまた、別のこと。

    NoTitle 

    誰だって死にたくはないんですけどね。
    しかし、死ぬかもしれないと思うと頼みごとはしたくなりますよね。私が死んだら・・・はまあ、一応考えておりますし家族にも伝えてありますけどね。・・・ってまだ20代ですけど。介護という仕事柄、死はいつも考えることですからね。
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