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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・想起録 4

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    晴奈の話、第369話。
    久々のエランと、けものみち。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
    「あー……、もう来ないのかと心配でしたよぉ」
     数ヶ月ぶりに再会したエランは、げっそりと痩せていた。さらに――。
    「……エラン、アンタ顔変わったわねー」
    「え? ……ええ、髭剃りも与えてくれませんでしたから」
     エランの口元とあごには無精ひげが生えており、そのせいでひげの無かった時に比べると、ずっと大人びて見える。
    「そっちの方がさ、男前じゃん?」
    「そ、そうですか? ……帰ったら、剃り落とさずに整えてみようかなぁ」
     小鈴とエランが話している間に、楢崎がエランの装備を持ってきてくれた。
    「これで全部かな?」
    「あ、はい。ありがとうございます。
     ……うーん。警棒は問題ないですけど、銃は使えそうに無いですね。弾、全部抜かれてます」
     エランはたどたどしく装備を付けながら、いくつか質問する。
    「……それで、今侵入してる真っ最中なんですよね?」
    「ああ」
    「フォルナは、いるんですか?」
    「いや、危険だからね。安全なところで待機しているよ」
    「他の皆さんは?」
    「別の道を探索している。僕たちもこの辺りの探索が終わったら、そちらに合流するつもりだ」
    「じゃあ、僕も手伝います」
     エランの発言に、小鈴が口をとがらせる。
    「そりゃ当たり前でしょ。アンタ、そのために央北まで来たんだし。……あーあ、中身は前のまんまかー」
    「え、あ、……すみません」

     エランを伴い、小鈴と楢崎は牢屋周辺を探索したが、特にこれと言って目ぼしいものは無かった。
    「……じゃ、もう一方の道も見て回りましょ」
     小鈴たちは来た道を引き返し、柵が設けられていた分岐点まで戻ってきた。先程と同様に楢崎が柵を壊し、三人は奥へと進む。
    「……ん?」
    「どしたの? ……あ」
     三人の鼻腔に、思わず眉をしかめてしまうような刺激臭が広がる。
    「獣脂の臭い、かな」
    「そーね、そんな感じ。……こんな地下にも動物が、ってワケでもなさそーね」
    「モンスター、ですかねぇ」
    「……やれやれ、だ」
     三人は武器を構え、用心深く進んでいく。進めば進むほど、その吐き気を催す臭いは強くなってくる。
    「うえ……」
     エランが鼻をつまむ。
    「ゲホ、……きつー」
     小鈴が口にハンカチを当てる。楢崎も顔色を悪くしている。
    「橘くん……、魔術でどうにかならないかい?」
    「……できそーになーいー」
    「……戻りません?」
    「そーしたいのは山々だけどさー、確認しなきゃ……」
     小鈴が反論しかけた、その時だった。
    「グルルルル……」
     何かのうなる声が、通路の先から響いてきた。
    「……なに?」
    「なにって、それは、たぶん」
    「モンスター、だろう、ね」
     楢崎の言葉に、小鈴とエランはゴクリとつばを飲んだ。その瞬間、またうなり声が響いてくる。その音は、明らかに先程よりも大きい――近付いているのだ。
    「……逃げろッ!」
     三人はとてつもない殺気を感じ、一斉に来た道を駆け戻った。



     その後を、ネイビーがヨタヨタと歩いてくる。さらにその後ろには、鎖につながれたモンスターたちがゾロゾロと引っ張られている。
    「ふ、ふふ、ふふっふふふ」
     ネイビーの顔に、今までのような穏やかさも、余裕も、何一つ感じられない。感じられるのは――。
    「終われば……、これが終われば……、この『作業』が終わりさえすれば……」
     己の「親」を殺したと言う深い後悔と絶望感、そして狂気じみた混乱だった。
    「これさえ終われば……、僕を責める者はいなくなる……」

     かつて、あの「魔剣」篠原も、今のネイビーと同じ考えに至った。
     己が罪を犯し続けることに耐え切れず、逃げた先、救いを求めた先は「誰からも責められない」「誰にも叱咤されない」ような状況を創り上げること――即ち、己に反発するもの、反対するものをことごとく葬り去ることで、安心を得ようとしたのだ。
     そしてその意思から出た行動は、紅蓮塞での謀反と旧友の惨殺、そして天原家騒乱と言った悲劇を生んだ。
     もはや、この道――己の利益、保身、安心をひたすらに求め、犠牲の上に犠牲を重ねる「利己」「独善」の行動は、無限の損失しか生み出さなくなる。
     それが、「修羅」へ至る道の一つなのだ。

     ネイビーはフローラとウィッチの甘言に乗ったことを、今さらながら後悔していた。
    「……ふ、ふふっふふ」
     だが、もう止まらない。止められない。
    「逃げるな……、狗ども……、早く楽になれ……」
     ネイビーの心は、既に直せないほどに歪み、崩れていた。
    「早く……、楽にさせてくれよ……ッ!」
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