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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    黒エルフの騎士団 14

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    スピンオフ、14話目。
    一旦離して、もう一度つかむ。




    14.
     時間は前日早朝に戻る。
     ヘックスたちは黒マント――やはり、ハッシュが証拠隠滅のために手配した「掃除屋」だった――を捕まえ、ミューズとサダトにそのことを伝えた。
    「よし。……そのまま戻って監視しつつ、仕事をさせてやれ」
    「へ?」
    「いいの?」
     驚くシグマ兄妹に、ミューズは説明した。
    「恐らくそいつらをハッシュ卿と引き合わせて糾弾しても、効果は無い。部下としては末端だろうし、簡単に尻尾切りされて終わりだ。
     それよりも、素直に報告させればいい。仕事は終わったと」
    「ふむ。しかし実際には掃除をさせず、安心しきって城に入ったところで証拠を突きつける、と言うわけだな」
     そう見込んだサダトに対し、ミューズは首を横に振る。
    「いいや。掃除はきっちりやってもらう。塵一つ残らないように、な」
    「な、何故だ?」
    「恐らくこの麻薬の備蓄からも、ハッシュとの関係を示す証拠は出ない。それを見せ付けても、のらりくらりとかわされるだけだろうな。
     だったらいっそ、奴の狙い通りに事を運ばせ、万事うまく行かせてやる」
    「どうして?」
    「……例えばお前たち」
     ミューズは掌に載せた金貨をころ、と見せる。
    「道を歩いていて、目の前に金貨があったら、拾うか? 拾わないか?」
    「まあ、拾うやろな」
    「少し歩いたところに、もう一枚あったら?」
    「拾うでしょうね」
    「さらにもう一枚」
    「……そーなると拾いたないなぁ」「怪しいわね、あからさまに」
    「明確な利益がそこにあるのに、怪しすぎてつかむ気にならない。
     疑心暗鬼――怪しいと疑う心のせいで、最善であるはずの行動が取れなくなる。人間とはそう言うものだ」



     ハッシュは混乱していた。
    (何故だ……?
     あの女、妙に自信があるようだが。サダト王も、何やら策を講じている気配がある。しかし、頼んでいた掃除は終わっている。大麻の臭いなど、まったくしない。
     恐らく3階に放っていたラシム王の遺体も、処理しているだろう。今のところ何も、騒ぎが起きていないからな。
     それなら何故、あの女は私に挑戦的な態度を見せる? 何故、サダト王も水を向けてくるのだ? ここに来て、私が麻薬を蓄えている隠し部屋を暴いて見せ付ける、とでも言うのか? 馬鹿な。こんなところでうかつにボロを出す私ではない。
     そもそも、その隠し部屋もこの地下2階にあるのだ。私が見付けたと言わなければ、絶対に分かるはずはない)
     それでも見つからないようにと、ハッシュは隠し部屋に通じる壁の前をうろうろし、他の者が捜索しないようにごまかしていた。
     何度か中を確かめたいと言う気持ちが沸いてくるが、ハッシュはそれを抑えつける。
    (……ここも、掃除されているはずだ。証拠など、何もないはず。……だから、そっと中を確かめて、この部屋の存在がばれたとしても、私に害は無いはずだ。としても、怪しまれる行動は慎まなければ)
     心の中で何度も論理的に整理し、自分の安全を確信する。だがその一方で、言いようの無い不安感が渦巻いていく。
    (……だが、あの二人の口ぶりが怪しい。アジム王の時のように、密かに証拠を捏造し、『見付けた』と嘘をつく可能性もある。
     ……! まさかそのために、ここに私をおびき寄せ、どこか別の、私に密接な関係のある場所に罠を仕掛けたのか? となるとどこだ? 新しい方の宮殿に? ……まさか?)
     一人きりになり、ウロウロと歩き回るうち、ハッシュの焦りは加速していく。
    (いかん! 戻らなければ、……ああ、いやいやいやいや! ここで私がいきなり抜け出したりすれば、それこそ怪しすぎる。
     冷静になれ……、そうだ。ここを掃除した時のように、部下へ密かに連絡を取って、処理させてしまおう)
     ハッシュは周りに人がいないことを確かめ、懐から布を取り出す。遠隔地にいる魔術師同士が使う、通信用の魔方陣が描かれた布だ。
    「(ハッシュだ、応答しろ)」
    《(……はい)》
     すぐに、返事が返ってくる。
    「(私の執務室や私邸に今すぐ向かい、麻薬がないかどうか確かめ、あれば処分しろ)」
    《(ほう、麻薬を?)》
    「(そうだ。サダト王やアドラー女史が罠を仕組んでいるかも知れない。さっさと行け!)」
    《(お断りします)》
     思ってもいない返答に、ハッシュは怒鳴り出す。
    「(何……!? ふざけている場合か、貴様! さっさと行かんかッ!)」
     と、応じていた声が急に変わった。
    《いやや言うてはるやろが、おっさん。何でオレらがそんなことせなあかんねや、あ?》
     その声を聞き、ハッシュは愕然とした。
    「(……な、だ、誰だお前は?)」
    《央北語か央中語で話してくれへんかなー、オレ南海語さっぱりやねん。
     あ、おっさん。1階の方、来てくれへんかなー。みんな待っとるし、早よ来てやー》
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