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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第3部

    火紅狐・合従記 6

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    フォコの話、108話目。
    千里眼鏡の夜討ち。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     双月暦307年、暮れ。
     反乱軍が密かに、ミラーフィールドに集結しつつあった。
    「ねえ、ランド」
     それを指揮するイールが、ランドに尋ねた。
    「集めるのはできたけど……、ここからどうすんの? いくらイスタス砦の中が混乱してるからって、そう簡単に破れるような門じゃないわよ」
    「門は破らないさ。向こうから開けてもらう」
    「え?」
    「イール、皆が集まったら、数名ほど中に忍び込ませて、獄舎に拘束されている兵士たちを解放してやってほしいんだ。
     ……そっちには、僕も一緒に付いていく」
    「え? あんたが?」
     ランドは額にじんわりと浮かぶ汗を拭き、小さくうなずいた。
    「そうしなきゃ、この作戦の成功は無いから」



     監査に抗い拘束された兵士たちは皆、獄舎の中で押し黙っていた。
    「……」
    「……」
     誰の顔にも、不満が見て取れる。
    「ふざけてるよな」
     と、兵士の一人が口を開く。
    「……ああ」
     誰ともなく、それに同意する。
    「なんで俺たちが悪者なんだよ、なぁ?」
    「その通りだ!」
    「俺たちゃ中将閣下のために、汗水垂らして働いてたんだぜ? それが何だよ、こうして反逆者扱いだ! やってられっかよ、全く!」
     一人が不満をぶちまけたところで、他の者もそれに同調する。
    「そうだそうだ!」
    「もううんざりだ!」
    「こうなりゃ本格的に反乱起こしてやる!」
     獄舎で騒ぎ立てるうち、一人がふと気付いた。
    「……あれ?」
    「どうした?」
    「誰も……、来ないな」
    「……そう言えば」
     兵士たちは牢から首を出し、辺りの様子を伺う。
     だが、騒げば止めに入ってくるはずの牢番が、一人もやって来ないのだ。
    「何かあったのか……?」
     不気味な静寂に、兵士たちはまた、押し黙った。

     と、牢の外から声がかけられた。
    「君たち、ちょっと」
    「……?」
     兵士たちは、声のした方へ一斉に振り返った。
     そこには、緊張で顔を蒼くしたランドの姿があった。
    「だ、誰だお前は!?」
    「一言で言うと、侵入者だ。その……、最近話題の、反乱軍の者なんだけど」
    「何……!?」
     にらみつけてくる兵士たちに辟易しつつ、ランドは話を続ける。
    「ま、ま、ちょっと話だけでも。
     今さ、君たち、『こうなりゃ反乱してやる』って言ったよね」
    「……ああ、まあ、そう言った、けど」
    「手伝ってくれるなら、そこから出してあげるよ」
    「手伝うって……」
     ランドは一歩、牢に近付き、声を潜めて話す。
    「このイスタス砦、僕たち反乱軍が乗っ取ろうと思ってるんだ。『キルシュ王国』建国のために」
    「キルシュ? ……商政大臣のキルシュ卿のことか!?」
     牢の中の兵士たちは、一様にざわめいた。
    「まさか反乱軍って……」
    「ま、ま。その議論は後にしてほしいんだ」
     ランドは自分の考え――ノルド王国を離れ、自分たちで別個に国を作る計画を兵士たちに伝えた。
    「……考えもしなかったな」
    「まさか、ノルド王国を捨てて、新たな国を建国するとは。……でも確かに」
    「ああ。悪くない。……じゃあアンタは、その足掛かりに」
     兵士たちに向かって、ランドは深くうなずく。
    「そうなんだ。まずはイスタス砦とその周辺、つまりロドン中将の所有地を奪って、僕たちの国にしようかと」
    「……協力してくれ、と言ったな」
     兵士の一人が、ランドに手を差し出した。
    「俺は協力する。『ノルド離反』と『中将一派追い出し』、おまけに『国作り』なんて、ワクワクさせてくれるじゃねーか……!」
    「お、俺も!」
    「同じく! 同じく!」
     一人、また一人と牢の中から手を伸ばし、全員がランドに協力する姿勢を示した。

    「大変です!」
     さらに時間は進み、深夜過ぎ。
     ロドン将軍の寝室に、側近たちが駆け込んできた。
    「むにゃ……うう、む……なんだ、騒々しい」
    「謀反です! 拘束していた兵士たちが反乱軍と共謀し、我が砦を襲撃しています!」
    「……む、むにゃっ!?」
     この報せに、夢うつつだったロドン将軍は飛び起きた。
    「げ、現状はどうなっている!?」
    「現在正門と西門が破られ、……と言うか、中から開放され、続々と反乱軍が押し寄せてきております!
     さらに下級の兵士たちが次々に反旗を翻し、反乱軍に合流! 既に南・西兵舎と全ての倉庫が制圧されております!」
    「な……」
     ロドン将軍は慌てて軍服を羽織りつつ、怒鳴りつけた。
    「兵の残りは!? わしに従う意思のある兵士はどれだけいる!?」
    「お、……恐らく、……100に満たないかと」
    「……バカな……っ」
     ロドン将軍は舌打ちし、兵士たちをなじる。
    「何故わしに刃を向けるのだ、愚か者どもめがッ!
     このわしが、散々世話をしてきてやったでは、……っ!」
     そこまで口にしたところで、将軍は自分がこの数か月の間兵士たちに向けてきた、辛辣な態度を思い出した。
    「……く、そっ! 何と間の悪い……っ!
     まさかこんな、……こんな、兵士の心が冷え込んでいた丁度その時に、攻め込んでくるとは……!」
     自分の失態と敵のタイミングの良さを呪ったところで――開け放たれたままだった寝室のドアから、多数の兵士がなだれ込んできた。

     こうして襲撃から一晩のうちに、難攻不落のはずだったイスタス砦は陥落。ロドン将軍とその側近たちは放逐された。
     これが後の世に伝わる、「千里眼鏡の夜討ち」である。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    お楽しみ中だとか、普段は堅牢だけど隙のある時に攻めてしまうと、
    「寝込みを襲った」などと誹謗・中傷を受けますからね。
    相手に明らかな非がありありと見えている時に攻めてこそ、
    「大義があったため、攻めるべくして攻めた」と、
    堂々と吹聴できますしね。

    NoTitle 

    将軍がお楽しみ中じゃないときに攻めるとかよく見えた眼鏡だv-392
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