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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第4部

    火紅狐・炸略記 3

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    フォコの話、155話目。
    敵方丸ごと買い叩き。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     アバントが帰った日の夜、散々に怒鳴られた番頭は、店から商品の油を持ち出した。
    「……もう嫌だ……」
     彼の懐には、マッチが納められている。
    「……売れないのに……どうやっても売れないのに……」
     泣きながら歩き、そのまま島の端、海岸に出る。
    「……売れなんて……しかも売れなかったら鉱山で飼い殺しなんて……」
     彼は海岸に腰掛け、油の入った壷を持ち上げる。
    「……もう駄目だ……生きてられないよぉ……」
     そのまま頭から油を被ろうとし――。
    「あのー」
     そこで、背後から声を掛けられた。

    「……ひぇ?」
     え、と言おうとしたつもりだったが、涙混じりのため、間の抜けた声になる。
    「あなた、バジル南商店の番頭さん、……で合ってますよね?」
    「は、はい」
     番頭は慌てて油壷を下ろし、立ち上がった。
    「ちょっと、お話を聞いてもらっていいですか?」
    「話、ですか?」
     番頭の前に現れたのは、フォコである。
     フォコは警戒されないよう、にっこりと笑って話を続ける。
    「ええ。いわゆるヘッドハンティングって言うか、買収ですね」
    「もしかして、……わ、私を?」
    「はい」
     フォコの言葉に、番頭は泡を食う。
    「い、いや、そんな。私なんて、そんな、だって、売り上げも悪くなる一方ですし、経営能力なんて、無いも同然、……あ、もしかして、丁稚として、ですか? それならまだ……」「いいえ?」
     フォコは何を言うのか、と言いたげな声色を出し、畳み掛ける。
    「番頭格で、ですよ? 勿論あのお店ごと、買うつもりしとるんですけど。店ごと、あなたを買います」
    「は、はい? ……いやいやいや、無理です! 上役が、納得しないです」
    「ええやないですか、そんなもん放っといて」
     ここで放たれたフォコの言葉が、番頭の胸に響いた。
    「あっちも切る切る言うとるんです。せやったら逆に、こっちから切ってやったらええやないですか。どうせ契約しとったって、売り上げのほとんどを吸い取られるだけでしょ?」
    「う……」
     そして次の言葉が、彼の心を開いた。
    「あなたは自分で思ってるよりすごい経営能力を持ってます。
     ちゃんと市場分析ができるし、売れない原因も、単なる販売力の欠如ではなく、自分たちの扱う製品の質と金額に問題があると分かってる。商人として、確かな目を持ってます。
     その力、僕らのとこでなら十分、いいえ、十二分に活かせますよ。どうですか、自分の力を目一杯、発揮してみませんか?」
    「自分の……力を」
    「ええ。来てみはりません?」

     2日後、バジル南商店の正式な店名は、「スパス産業 日用品取引部門 バジル島南商店」から、こう変わった。
    「ロクシルム(Rocks=Silm:ロックス―シルム)商業連合 バジル島南商店」



     同様のことがバジル島だけではなく、南海の各地で起こっていた。
     スパス産業の、南海での売り上げが激減した本当の原因――それは、スパス産業よりも安価で、質が良く、しかもマージンをスパス産業よりもずっと低く下げたこの商会が、各地で勢力を拡大し、売り上げを伸ばしたからである。
     言うまでもなくこの商会は、フォコがファンとアミルとを引き合わせて作ったものである。レヴィア王国やスパス産業と言った、組織立った敵に対抗するために、フォコも現地で組織を築き上げたのだ。

     アバントがこの動きに気付いたのは、もっと後になってからだった。彼は残念なことに、自分の支配下の各商店の責任者を無意味にいびって搾り取ることしか、頭に無かったのだ。
     言うまでもなく、アバントに商才は無い。ただ単に、ケネスが「旨みのある傀儡」に仕立て上げるために、商会主の地位を与えていただけなのだ。
     フォコはその脆弱性を突いた。商才の無い彼が経営管理を任され、しかも普段は遠く離れた西方に籠りっきりであり、たまに視察をしても、せいぜい小言を浴びせて金をせびるだけと言う放蕩・放漫経営であることを知り、彼にいびり倒されて落ち込み、反発心を抱いていた番頭・小商会主と次々に手を組み、乗っ取っていった。
     普通ならば――まともな商会主が頭に据えられ、その目が行き届くところで商売が行われ、適切・適度な管理が行われていれば――商店が次々寝返っていくことなどすぐに気付き、対策を打って然るべきだったが、今回の場合は、その要素は一つも無かった。
     そのため、フォコはやりたい放題に、スパス産業を叩きのめすことができたのだ。

     アバントは知らぬ間に、その権力基盤の半分近くを奪われることとなった。
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